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最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。  作者: 羽海汐遠
サカダイ編

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1363.真の武士

※加筆修正を行いました。

 『カヤ』はもう『黄雀(こうじゃく)』の『呪詛(じゅそ)』めいた言葉の『力』に回避を行えるだけの力は残されておらず、鉛のように身体が動かなくなってしまった事を自覚しながらも、目の前で妖魔が自分を殺傷を可能とする程の『魔力』が集約されていくのを感じ取るのであった。


(最後の一撃すら……、届きませんでした)


 自分の力量では敵わぬランクの妖魔だとは理解はしていた『カヤ』だが、それでもこれまで『ミスズ』に技量を認められて『予備群』から『妖魔退魔師衆』、更にそこから『特務』所属の生粋の『妖魔退魔師』へとトントン拍子に出世を果たしていき、今では高ランクの妖魔を相手に一人で立ちまわっても何とか出来るだろうという自信すら表れていた。


 しかし『カヤ』の思う高ランクの妖魔と、現実の高ランクの妖魔には大きな開きがあった――。


 単に『鬼人』のような皮膚の固い妖魔や、空の高度を活かして速度で攻めてくる『鳥類』の妖魔など脅威となる妖魔は居るが、それらのような妖魔は『妖魔退魔師』として普段の訓練や、実戦での経験で少しずつ慣れていくものであり、少しずつ『脅威』と思える妖魔が『脅威』ではなくなっていく感覚というモノを『カヤ』もここまでは感じる事が出来てきていた。


 一般的に高ランクと呼ばれる『鬼人』でさえ、何とか出来ると思っていたからこそ、この『黄雀(こうじゃく)』という高ランクであろう妖魔でも勝てずとも一太刀くらいは大きな怪我を負わせられると判断したのである。


 『特務』所属にして『総長シゲン』を除いた『妖魔退魔師』の全隊士を束ねる立場の『副総長ミスズ』。


 その彼女から直々にあらゆる『刀技』やその『刀技』のための『型』などを教え叩きこまれてきた彼女ならば、確かに高ランクとされる妖魔の数々も相手に出来るだけの強さを持っていると自他共に認められる。


 だが、あくまでそれは妖魔ランクが『7』未満の高ランクの妖魔が相手であればの話であった――。


 同じ高ランクとされる妖魔であっても、妖魔ランクが『7』からは明確に強さの質が変貌を遂げる。その事は『ミスズ』から伝えられてはいたことだったが、こうして実際に目の当たりにして手を合わせた事で、本当の意味での『高ランク』の『妖魔』の強さを実感したカヤであった。


(この妖魔がランク『7』なのかそれ以上の存在なのかは、今の私の力では推し量る事は出来ないけれど、たとえどんなに今の私が背伸びをしても、どれだけの好機が重なったとしても、あの妖魔には通用しないでしょうね。それだけの力の差というものが明確に理解が出来た。神通力のような不思議な『言霊』の力も侮れないとは思うけれど、それ以前に私の攻撃を全て見切られているのが何よりも大きい。唯一『幻朧(げんろう)』だけは、あの妖魔を驚かせられたみたいだけれど、結局躱されてしまった。アイツは偶然避けられたみたいな事をいっていたけれど、この領域帯の強さで『偶然』なんてのは有り得ない。いや、むしろそれがたとえ『偶然』なのだとしても、私がここまで死に物狂いで研鑽を積んできて放った一撃を初見で躱せたということは、少なくとも回避が出来るだけの技量を有していただけの事。それは確かに疑いようのない事実よね)


 ――死が近づいてきている事によって脳が彼女に齎す不可解な錯覚のようなモノなのだろうか。


 彼女はまるで止まった時の中に居るような感覚を味わいながら、今自分の中で思考だけが進んでいく錯覚を覚えていた。


(この結果は悔しいけど、当然の結果だった。ランク『7』以上の妖魔を相手にするには、私では時期尚早だった。単に力不足が招いた結果。私も妖魔退魔師である以上。惜しかったとか、もう少しで勝てたとか、そんな情けない事を考えてあの世に行きたくはない。とんでもなく強い『妖魔』と戦って、力不足だった私は敗北して殺された。これは認めてなきゃだめだ……!)


 そう考えた瞬間。彼女は殺される寸前だというのに、どこか清々しい表情になり、眼前で恐ろしい殺傷能力のありそうな『魔力』の塊を睨みつけるカヤであった――。


「死を前にしてそんな表情が出来るか。まだ若いというのに立派なものだ。最後に名を聞いておこうか、妖魔退魔師?」


「……」


 『黄雀(こうじゃく)』がそう口にすると、手や足は動けないままだが、どうやら『カヤ』は喋る事が出来るようになったようだ。


「私は『特務』所属の妖魔退魔師『カヤ』よ。私も最後に貴方の名前を伺ってもいいかしら?」


 どこか達観したような笑みを浮かべながら、カヤもまた『黄雀(こうじゃく)』に名を尋ねるのだった。


「俺は『黄雀(こうじゃく)』。妖魔山の山腹地点に縄張りを持って同胞を束ねていた者だ」


「そう……『黄雀(こうじゃく)』。貴方は強かった。最後に戦えてよかった」


「……」


 カヤの言葉を聴いた『黄雀(こうじゃく)』は眉を寄せて険しい表情を浮かべ始めた。


 ――どうやら『黄雀(こうじゃく)』は、カヤを()()()()()()()()()()、酷く悩んでいる様子であった。


(もったいない。優先すべきはもちろん『キクゾウ』ではあるが、あの『ヒュウガ』という人間を生かすくらいならば、この真の武士である『カヤ』という者を生かしたいところだ。非常に口惜しい。何故こういった人間が居る組織に『キクゾウ』が居なかったのかと心底思う。キクゾウがこやつらが居る『妖魔退魔師』という組織の一員であったならば、どれだけよかった事だろうか!)


 心の底から『黄雀(こうじゃく)』という妖魔はそう考える――。


 ――それはまさに何処か人間臭さのある考え方で、妖魔にしては珍しい思考の一途であった。

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