1359.死の覚悟をした人間に敬意を持って戦う妖魔
※加筆修正を行いました。
カヤの視線の先に居るランク『8』の『黄雀』はカヤを見ていた。
どうやら先程の言葉通りに向かってくるのならば機械的に処理を行い、向かってくる様子がないのであればこのまま時間が過ぎるのを待とうと考えているのであろう。
本来『妖魔退魔師』組織の教えでは、勝ち目が薄かろうとも『任務』の遂行のためには『妖魔』が目の前にいるのならばその職務を遂行することが優先されるが、同じ妖魔退魔師組織の中でも『特務』の長である『ミスズ』の教えでは、勝ち目がないと判断した場合は無駄死にするくらいならば、一度身を引いて機を窺うのも一つの手だとも教わっている。
(い、今の私では何をしようとこの妖魔に勝ち目はない。ミスズ様の教えを守り、ここは無駄死にするのを避ける以外に選択肢はないのでしょう……)
カヤはそう考えたが、視線の先にいる『黄雀』の見下す視線が目に入り、悔しそうに唇をかみ始めた。
どうやら彼女は、妖魔を討伐する『妖魔退魔師』の自分が、ここまで舐められているという事を自覚したようである。
(た、確かに斬りかかったところで私の技量では勝てないにしても……。そ、それでもやっぱりこのまま仲間をやられてじっと機を窺い待つなんて、私にはできそうにない! たとえ勝ち目がなくても私は『特務』の前に『妖魔退魔師』の隊士なんだ! 勝ち目がどうとかそんな事はどうでもいい。たとえやられるにしても私のやるべき事は、この妖魔から逃げずに戦うことだ。私の全霊を込めてこの妖魔に手痛い一撃を見舞ってやる)
この高ランクの妖魔を相手に妖魔退魔師として立派に最後まで戦った証として、大きな傷を負わせてやろうと彼女は考えるのだった。
――つまりそれは明確に、彼女が生き残る考えを捨てたという事でもあった。
彼女は深呼吸をすると先程までとは違い、今度はやぶれかぶれではなく、立派に戦って死ぬのだという気概を持って『青』のオーラを得の刀に纏い始めるのだった。
「むっ?」
そしてそんな『カヤ』の心情の変化に気づいたように『黄雀』の目が細められた。
今の目の前にいる妖魔退魔師は、先程までのあまり命のやり取りをするような戦場になれていないヒヨッコではなく、これまでに自分という妖魔に挑んで戦死していった勇敢なる『妖魔退魔師』と同じ目をした事を理解したのであった。
(面白い。死の覚悟をしっかりとした上で俺と戦おうとしている。こうなった人間たちは非常に手強く面白いのだ。あの気に入らぬ天狗ではないが、確かに人間というのはおかしな生き物で、我々妖魔や他の生き物とは違って、思いの強さでこれまで怯えていた者が、唐突に人が変わったかのように強気になったりする。小狡い現代の『妖魔召士』達とは違って、今この目の前にいるような『妖魔退魔師』は、古くからいる者たちと変わらぬ意思の強さを感じられる。誇りを持って戦う者は俺は好きだ。ここまでの覚悟を持った者を前にして手加減などをすることは、彼らの思いを踏みにじるようなモノだ。ここは俺も全力を持ってこの人間を仕留めなければならぬだろう)
ランク『5』や『6』の妖魔達であれば『妖魔召士』や『妖魔退魔師』が現れると生き残る事に必死で戦うが、これがランクが『6.5』や『7』になってくると、ある程度そんな『妖魔召士』や『妖魔退魔師』達を前にしても少なからず余裕を持って戦うことを可能としてくる。
――そしてこの『黄雀』や、あの大天狗の『王連』程までの『ランク』帯になると、そんな『妖魔退魔師』や『妖魔召士』の大半の相手を返り討ちにする事が当然のようになってくる。
とくにランク『8』である『黄雀』は、これまで何百年も生き続けてきた『妖魔』であり、それこそ過去に討伐を生業とする人間達に幾度となく狙われ続けてきたが、それでも未だにこうして討伐をされずに生き残ってきている程の歴戦の強さを持つ妖魔なのである。
そんな彼にとっては、こういった殺意を向けてくる妖魔退魔師にも慣れたもので、怖さなどは一切感じずにむしろ死を覚悟して討伐を行おうとする妖魔退魔師に対して、敬意をもって葬ろうという考えすら持っていたのであった。
『ブックマークの登録』や『いいね』また、ページの一番下から『評価点』を付けていただけると作者のモチベーションが上がります。宜しければお願いします!




