1358.勝手な都合
※加筆修正を行いました。
「ふんっ。この先に居る『妖魔退魔師』達の対処を『王連』の奴を『式』にしている人間に任せたか。やはり俺はあの『ヒュウガ』という『妖魔召士』だけは好きにはなれんな」
『黄雀』は目の前で震えながら刀を構えている『妖魔退魔師』の方など完全に無視をして、組長格の『スオウ』達の居る場所に、新たに『ジンゼン』や『退魔組』に属する『特別退魔士』やその護衛が向かったのを察知をしたようで独り言ちるのだった。
妖魔である『黄雀』はかなり昔から『キクゾウ』と『式』になる契約を交わしており、どうやら一昔前の『妖魔召士』や『キクゾウ』の事は相当に気に入っているようだが、今の時代の『妖魔召士』の主だった者達である『ゲンロク』や『イダラマ』に『ヒュウガ』という『妖魔召士』の事は相当に嫌っていた。
彼の本音としてはさっさとヒュウガと縁を切って『はぐれ』の妖魔召士として、あの『サイヨウ』と呼ばれていた『妖魔召士』のように個人で活動をして欲しいと願っていた。
しかし『キクゾウ』がそんな『ヒュウガ』の片腕として仕えている以上は、契約をしている『黄雀』も仕方なく『ヒュウガ』と協力を取らざるを得ない状況なのであった。
そしてそんな『黄雀』を前にしている『カヤ』は妖魔退魔師の仲間をあっさりと葬られた事で、この『黄雀』を何とかして倒して敵討ちをしたいと思ってはいるのだが、どうやら本能で勝ち目はないと理解をしているようで、襲い掛かれずに震えながらその場に立っていた。
だが、それでも一目散に逃げずに『黄雀』に怯えながらも必死に睨みつけて刀を握る彼女はまだ立派であるといえるだろう。
しかしその中途半端に勇気を持ち合わせている事がまた、彼女を死期へと近づける要因となっているのであった。
彼女は『特務』としてミスズに直接鍛えられた隊士である。
つまりこのままでは遅かれ早かれ彼女は『蛮勇』に身を委ねて『黄雀』に向かっていく事になるだろう。
――『カヤ』は、震える刀を必死に握りしめて深呼吸を行い始めた。どうやら遂に肚を決めたのだろう。
ゆっくりとカヤの持つ刀に『瑠璃』のオーラが纏われ始めて行くと、全く見当違いの方向に視線を向けていた『黄雀』もカヤを無視出来なくなったのだろう。
視線をカヤに向け直して溜息を吐くのであった。
「若い妖魔退魔師の人間よ。俺は別にお前らを恨んでいるわけじゃない。少しの間だけ大人しくしていてくれるならば、殺さずにおいてやると約束しよう。俺は俺の認めた主の命令で仕方なく、お前達を足止めしているにすぎないのだ」
あっさりとカヤ以外の他の妖魔退魔師の命を奪っておいて、そんな事を宣う妖魔に『カヤ』は怯えよりも怒りが強くなっていくのであった。
「ふ、ふざけないで!! そ、それなら他の皆さんにも手を出さなければよかったじゃない! そ、それを……、い、今更……!!」
更に怒りをぶつけようと口を開きかけたカヤに被せるように『黄雀』は言葉を発した。
「馬鹿かお前は? 俺はこの場に現れた最初から今と変わらぬ言葉を言っていただろうが? だから俺はお前らを動けなくさせただけだった。それをお前らが勝手に俺の術を解いて動いてきたのではないか。俺は最初からお前らを殺すつもりはないと言わなかったか?」
「くっ……!!」
確かに目の前の妖魔は嘘を言っていない。
カヤ達が勝手に目の前の妖魔に見下された惨めさから動こうとしたのだから『黄雀』の言い分としては『お前達が勝手に死を選んだのだろう?』と告げたいようであった。
しかしそれは妖魔を討伐する事を生業としている『妖魔退魔師』であれば、動こうとするのも仕方の無い事であり、あの場面で動けるようになったにも拘わらず、動かずに静観している方が間違いであろう。
この場に一人生き残った『カヤ』だが、彼女ももう少し早く『黄雀』の術を解く事が出来ていれば、今頃は他の妖魔退魔師達のように既にこの世を去っていたに違いない。
カヤが他の妖魔退魔師よりも力がない事で生き残る事が出来たわけだが、カヤの表情はどうみても喜んではおらず、むしろ悔しそうに顔を歪めていた。
「まぁ別に死にたいというのであれば、いちいち止めはせぬ。殺されたいならさっさと向かってこい。俺は時間を稼げるならば、お前が自分から死ぬために向かってこようが、大人しくそこで指をくわえてみていようが、どちらでも一向に構わない。別にお前如きを殺すのは、先程のお前の周りに居た『妖魔退魔師』と同様に、大した労力もかからぬだろうしな」
どうやら『黄雀』のその言葉に誇張は一切含まれておらず、心底そう思っているのだろうという意思が、カヤにも伝わってくる程であった。
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