1350.意趣返し
※加筆修正を行いました。
キクゾウは自分の出している鳥の妖魔の『式』に地上へ向かうように指示を出した後、もう少しの間は『魔力』の温存を考えて使役を避けていたランク『8』の妖魔『黄雀』を出す覚悟を決めたのであった。
「私の魔力でもこの『戦場』で使えるのは『組長格』と他の妖魔退魔師達を抑えるところまでだろうな。後はジンゼンが『王連』を使役するための魔力を回復して戦場へ戻って来る事を願うばかりだが、まぁ最悪『ヒュウガ』が何とかして下さるだろう」
まるで自分を納得させるようにそう独り言ちた『キクゾウ』は、懐から式札を取り出す。
その『式札』には、彼の持ち得る『式神』の中で最もランクの高くこの『加護の森』という『戦場』では、なくてはならない存在が施されている。
キクゾウは意を決して『式札』を放り投げると、ひらひらとその札が舞っていく最中、ボンッという音と共に『黄雀』が姿を見せるのであった。
その瞬間にやはりというべきか、キクゾウは他の妖魔を使役した時とは比べ物にならない程の『魔力』が、自分の中から消失していくのを感じ取るのであった。
(全く慣れないものだな。この私ほどの魔力をもってしても、こんなにも信じられない程の速度で、ごっそりと『魔力』を奪われていくのだからな)
ジンゼンが『王連』を使役したときも同じ言葉を吐いていたが、本来『妖魔召士』の中でも更に上位に位置する彼らは、いくら連戦の最中であっても中位や下位の妖魔召士や、それこそ退魔組の退魔士ほどに『魔力枯渇』を引き起こすことなど、無縁とまでは言わないが、それでも滅多にない事なのである。
しかしランク『7』から上の高位の妖魔達を単なる人間が使役することは、相当に無茶な事なのであった。
それもこの『キクゾウ』の『黄雀』や『ジンゼン』の『王連』達は『妖魔山』の中でも相当な地位に居る妖魔達で間違いはない。
『王連』は高位の妖魔である『天狗』達から更に目される程の『大天狗』であり、今を生きる人間達が想像するのも億劫な程に古くから、この『ノックス』の世界で生きてきた『妖魔』であり、そして今から戦場へ投入する『黄雀』に至っては、そんな『王連』よりも更に年齢が上の『妖魔』であった――。
「……」
キクゾウに使役された『黄雀』は少しの間、辺りを見回していたがやがて口を開いた。
「加護の森か。どうやら作戦は上手く行ったようだな?」
「それはどうか分からないな。それに気付いているだろうが、私がお前を呼び出したという事は危機が差し迫っているからに他ならないという事だ」
「ヒュウガが話をしていた『退魔組』なる組織の人間は上手く引き込んだのだろう? 俺も直にあの稀有な人間を目の当たりにして気付いたが、ヒュウガの目論んだ通りにあの人間は相当に使えるようだ」
どうやらキクゾウの理解が出来ないところでだが、あの『イツキ』という人間は評価を得ているようだ。キクゾウにしてみれば『退魔組』は『妖魔召士』になれなかった落ちこぼれ達が抱く、中途半端に人よりも優れていると思い込みたがる哀れな自尊心を持つ半端者の集まりというイメージであった。
特に今回の我々と合流した『ジンゼン』と同じ洞穴に居た『特別退魔士』とやらは、そんな『退魔組』の上層と思われる連中だが、キクゾウは全く役に立たない連中だと見限っていた。
そんな『特別退魔士』にも劣る『イツキ』という『上位退魔士』のどこに魅力があるのだろうかとばかりに『黄雀』の話に耳を傾けていると、その『黄雀』はいきなり笑みを浮かべ始めた。
「ふふふっ。まぁあの人間は上手く隠しているようだから、お前が気付かないのも無理はないだろうよ」
遠回しに見下されたような気がしたキクゾウは、少しだけむっとした表情を浮かべたかと思うと口を開き始めた。
「どうやらお前もヒュウガ様もその『イツキ』という人間がお気に入りのようだがな。残念ながらそのイツキとやらはここにはまだ来ていないぞ? そもそも『退魔組』の連中は外で待機していた奴ら以外は誰一人としてここに来てはいないのだ」
『黄雀』が全てを分かっているような厭味な顔を浮かべていた為に、少し驚かせて顔を変えてやろうとばかりに、キクゾウは先程の意趣返しのつもりでそう告げるのだった。
「待て、お主なんて言った? あの人間には此処に来るように伝えた筈だっただろう?」
「ああ。お前が直接会いに行って伝えたのだから、私よりお前の方がよく分かっているだろう。しかし結局奴らはまだ我々の元に来ていないのだ。私としては居ても居なくても構わないと思っているような連中だが、そのイツキとかいう奴よりも十分に戦力として数えられるであろう『妖魔召士』の『サテツ』殿が姿を見せない事が残念だと思っているところだ」
どうやら『黄雀』を驚かせるという意趣返しは成功したようで少しだけ溜飲を下げたキクゾウだったが、話の最中に冷静になっていき、結局はそんな事で満足している場合ではないと考えながら、溜息交じりに現状を省みて『黄雀』に真相を伝えるのであった。
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