1349.キクゾウの決断
※加筆修正を行いました。
森の先頭に居るスオウ達はヒュウガ達の潜伏している場所を探り当てる為に前進を始めた頃。その背後では何度も奇襲を仕掛けてくるヒュウガ一派の『妖魔召士』達の術式を潜り抜けながら『特務』と『二組』の幹部の混合編成部隊は襲撃してくる『式』達を見事に撃退していく。
スオウが言葉にした通り、この『特務』の混合部隊を相手にしている『妖魔召士』達は、前に居る『スオウ』達の足を止めてこのままこちらに誘導しようとしていたが、どうやら彼らの作戦を読まれたようで、こちらに戻って来る気配はなく、そのままヒュウガ達やジンゼン達の潜伏する奥側の洞穴に、どんどんと足を進めて行くのを観察していた『キクゾウ』は苦虫を噛み潰したかのような表情を浮かべていた。
(やはり『妖魔退魔師』の『組長格』は一筋縄ではいかぬか。派手に戦闘を行えば味方を守ろうと足を止めてくるだろうと睨み、あわよくば術式で一網打尽にしようと思ったが見事に読まれたようだ)
キクゾウに指示を出された『妖魔召士』達は、つかず離れずの凡その位置を保持し続けながら『妖魔退魔師』の混合編成の『カヤ』達と自身の使役している『式』と戦わせている。
しかし前時代までの『妖魔退魔師』達ならば、十分に勝ち筋が見える程のランクの妖魔を『上位妖魔召士』達が使役しているのにも拘わらず、組長格でもないただの隊士達に斬り伏せられてその数を減らされ続けていた。
元々この妖魔召士達の狙いは彼らの足止めであったことから、たとえここで自分達の使役する『式』がある程度減らされたとしても痛くもかゆくもないのだが、それでも先頭グループの『スオウ』達に、そのまま『ヒュウガ』や『ジンゼン』の洞穴を探り当てられてしまえば、この足止めが無駄になってしまうために、彼らはこのまま直接接近をせずに遠目から『式』を嗾けるだけでいいのだろうと疑問を抱き始めるのだった。
その指揮官である『キクゾウ』は、現在も空の上から『鳥類』の妖魔で戦局を観察していたかと思えば、カヤ達と戦う『妖魔召士』に何かを指示をするでもなく、突然前方の方を向き始めて何か思案を続けているようであった。
「キクゾウ様もヒュウガ様も打つ手がないと判断なされて、このままどう動こうか悩んでおられるのだろうか? 確かにキクゾウ様の『黄雀』は絶大な力を誇る。当代の『妖魔召士』では最高ランクに肩を並べる程ではあるが、この森に居る妖魔退魔師は、そのほぼ全員が幹部クラス。その上『組長格』や『副総長』ランクまでこの森に出張ってきているのだから、慎重になるのも仕方がないのか……? こ、このまま黙って私達の『式』がやられるのを見ていれば、更に状況は悪化していくだけかもしれぬな。仕方あるまい……」
このままでは『カヤ』達の勢いに嗾けた『式』達は全滅させられてしまうと考えた『妖魔召士』達は、このままやられるのを指をくわえてみているわけにもいかず、キクゾウの指示がない事を確認して仕方なく、自分達がイチかバチか前に出て奴らの動きを封じようと決断を始めるのだった。
その決断を行った妖魔召士を見た周囲に同じように潜伏している仲間の妖魔召士達も心の中では同じ思いを抱いていたのだろう。
このまま『式』に任せっきりではなく、やられる覚悟でもやぶれかぶれでも何でもいいから、前に出るべきだと考え始めていた。
そして一番最初に決断をした妖魔召士が、仲間達を一瞥して頷くと他の妖魔召士も同意を示すようにして頷き合う。
――どうやら彼らの肚は決まったようで、一気に茂みから勢いよく飛び出て彼らの『式』と戦う『カヤ』達の元へと駆け出していくのであった。
「ん……? あいつら私の指示を聞いていただろうに。焦ったか?」
キクゾウは視野を広げてこの後にどう作戦を展開しようかと思案していたが、そこに仲間である妖魔召士達が動き出したのを察して溜息を吐くのであった。
「こうなればまだ少し早いところではあるが『黄雀』を出して、一気にカタをつけるしかないか。組長格やミスズ殿との連戦も考えれば、もう少し彼奴を呼び出すのを温存しておきたかったが、こうなった以上は仕方あるまい。動かせる駒が減るのに比べれば、少しの魔力の浪費くらいは安いものだと考えるべきだな」
キクゾウは空の上でそう独り言ちると、出来ればもう少し『妖魔退魔師』側の者達の体力を浪費させておきたいと考えて戦局をじっくりと観察を続けていたが、彼は仕方なく圧倒的な力を持つ『式』。妖魔ランク『8』の『黄雀』をこの戦闘の場に放り込む覚悟をするのであった――。
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