1336.ヒュウガの誤算の中で
※加筆修正を行いました。
「お主の脇の甘さが招いた結果だとしても、お主も仲間を想って取った行動である事に変わりはない。そこは決して間違いではないが、それでもお主が後悔をするのは勝手だが、物に八つ当たりをするのは間違っているだろう?」
イツキは正論をぶつけられて何も言い返せずに俯くのだった。
「しかしだ。何よりお主を利用しようと目論んで行動を取った『ヒュウガ』殿は確かに気に食わぬな。それにコウゾウ殿の件もある。もしミスズ殿達があやつらを打ち損じたというのならば、協力関係を結んだ以上は我も手を貸そうと思っておる。その時までお主も大人しく待つというのはどうかな?」
――暗にソフィはその時がくればその手助けをしてやると告げているのであった。
「俺の取った行動は逃げでしかなかった……か。アンタの言う通り、この世界の二大組織である『妖魔召士』の最高幹部を相手に確かに俺は日和っていたのかもしれないな」
イツキは顔を上げたかと思うと、ソフィの目をじっと見ながらそう口にするのだった。
「取るべき行動を誤ったとはいっても、組織の仲間を守ろうとした方向性は間違っていたわけではない。しかし相手の存在の大きさを理解しながら見誤ってこれまで対策を取らずに放置しすぎたお主にも少しは非があるということは覚えておいた方が今後のためにもなるだろうな」
「いい教訓になったよ」
そう口にしたイツキだが、内心ではまだ自分のせいで『トウジ』という部下を利用されて殺された事で『ヒュウガ』に対しての抑えられない怒りや、先程ソフィに忠告された通りに、自分が身を引く事で自分以外の者達が『安全』になったと勘違いして、今回のことを招いた自分に対しても怒りを覚えていた。
そしてそれに腹を立てて八つ当たりをしていた事に対しても、自分に対して恥ずかしさを身に沁みて感じていたが、最終的に思考が行き着いた場所は、それを気づかせてくれた『同じ立場』に居たであろうと断言出来る存在『ソフィ』の存在感の大きさを植え付けられたイツキであった。
(成程。シゲン総長やミスズ副総長も悩んでいたこの『イツキ』という男を頼ってヒュウガ殿が『退魔組』に向かった理由は『煌鴟梟』のボスであった『イツキ』だからというだけではなく、この男の強さ自体を知っていたからこそ組織に迎え入れようとしていたわけだ。どうやら『紅羽』を倒したっていうのも先程のソフィ殿と戦い始めた時の『金色』を見ていたらよく分かった。こいつがランク『6』以下はあり得ない。しかしこいつはもうヒュウガ殿に部下を利用された事を知った以上は今後はヒュウガ殿に従う真似はしないだろう。ヒュウガ殿の目論みは完璧に外れたわけだ。このままミスズ副総長達に捕まって終わりだろうな)
一連の起きた出来事にようやく決着がつきそうだと、ヒノエは考えるのだった。
「後は『加護の森』に奴らを捕縛しに向かったミスズ副総長達が、ヒュウガ殿達を捕縛し終えるのを待つだけだが、どうする? このまま私達も森へ向かうか? それとも一旦こいつらの事を報告しに本部に戻るとするか?」
「ちょっと待ってヒノエ組長。貴方達だけじゃなくてミスズ副総長も来ていたの? それに奴らの本拠地が『加護の森』だという情報も得ているの?」
ヒノエはそう言えばまだキョウカ組長には何も事情を話していないのだったと気付いて、頭を掻きながらこれまでの事をキョウカ組長にも話を行った。
そしてそれを聞いて驚きながらもキョウカもまた事情を把握していきながらも、彼女自身も王連と戦ったことや、これまで南の森で起きた出来事をヒノエやソフィ達に話をして、互いにこれまでの経緯を擦り合わせて今後の行動を構築し直すのだった。
……
……
……
――『退魔組』の方の『イツキ』を巡る問題は、ソフィ達の手によって落着となった。
そしてミスズやスオウにヌー達が件の『加護の森』へ向かった頃、その『加護の森』を本拠地にして『退魔組』のイツキがこちらに合流するのを今か今かと待つ『ヒュウガ』は、この森に既に張ってある『退魔組』の結界の中に更に自身の『結界』を内部に張り直していた。
これは妖魔を近づけさせなくする『退魔組』が張っているような『広域結界』ではなく、彼らの行動する部分だけに狭めて張った『結界』であり、イダラマ達がゲンロク達『妖魔召士』に居場所を感知されないようにするための『結界』と同じ目的で張った『ヒュウガ』の『結界』であった。
(さて、これで準備は整いましたね。これで『ゲンロク』であっても我々の行動は読み取れない。それに『妖魔退魔師』の方も元々魔力を感知するような手立てはなく、我々の取る行動は『妖魔召士』達同様に読めないでしょう。あとはあの『イツキ』をこちら側に迎え入れる事が出来れば、後はもう何も怖いものはないでしょう)
すでに『ミスズ』を含めた『妖魔退魔師』の追手が、すでにこの森に迫って来ている事や、彼が頼りにしている『イツキ』にも見限られていることなど露知らず、それどころかその頼りにしている『イツキ』に怒りの矛先を向けられていることも知らず、今後の『ゲンロク』達に対する報復行動を視野に、ヒュウガは計画を立てながら一人ほくそ笑むのだった。
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