1335.有能な者は更なる有能者に惹かれる
※加筆修正を行いました。
「お主はどうやら相当に仲間想いの人間なのだな?」
「はっ……? はぁ!?」
ソフィの冷酷な目を見て言葉を失っていたイツキだったが、思いもよらない言葉を掛けられたことで素っ頓狂な声をあげるのだった。
「自分の仲間を利用された挙句に殺められた事を知って、怒ってやれるお主が仲間想いだと言ったのだ。そしてお主のその気持ちはお主と同じ経験を抱いた事のある我ならば理解をしてやれる」
「……」
イツキはソフィを見て本当かどうか確かめるような視線を送るのだった。
今、彼の胸中で暴れる『殺意』から来る感情は、到底他人には理解されるようなものではないだろう。ソフィが言うように全く同じ経験をした者にしか分からない怒りである。
こんな辛い気持ちを本当に口だけで喋っていないのかどうか、それをイツキはソフィを見て確かめていたのであった。
しかしどうやらイツキの見るソフィは、これっぽっちも嘘や演技で言っているようには見えない。
確かに今のイツキと似たような境遇、似たような感情を抱いたというソフィの話に、どうやら本当に嘘はなさそうだとイツキは理解するのだった。
そしてそれならばとばかりに更に口を開いた。
「どうやら本当にアンタも今の俺と同じことを考えたことがあるみたいだが、それなら分かってくれるだろう? アイツは捕えられるような下手な真似をしたようだが、それでもまだ死ななくてよかった筈だ。トウジは俺が居たから利用されて殺されたんだ」
「その通りだな」
「え?」
否定をするような言葉を言われると思っていたイツキは、ソフィの思わぬ同意の言葉に顔を上げた。
「どうやらお主やお主の持つ理想は、他者から見れば余程の『驚異』に映っていたという事だろうな。図らずともお主には人が集まり、そしてお主を利用しようとする者が後を絶たないという状況だったのではないか? 『煌鴟梟』という組織から離れた最大の理由は、自分に対して向けられる『信望性』の高さに懸念を抱いたからなのだろう? 他者に与える影響が良くも悪くも大きくなりすぎてしまい、このままだと目指していた『影響』という『力』そのものに流されて『煌鴟梟』の看板に『力』が付く前に『利用』されて『潰れる』と考えたのだろう」
イツキは誰にも明かした事のない抱く懸念。その自分の胸中をまるで見透かされたかの如くいい当てられて驚くのだった。
「まだお主を利用しようとするものが断続的なものであったり、一度旨味を得る事が出来ればそれで善しと考える輩であったならば、そこまで大した事はなかったのだろうが、お主に『価値』という者を見出した者の中には、お主以外の組織の者には手に負えない存在が居たのだろう? そしてその中の一人がどうやら『ヒュウガ』殿であったという事じゃないのか?」
「どこまで『煌鴟梟』の内情を知っている? お前は単に『サノスケ』や『煌鴟梟』内の連中から事情を聞いたってだけじゃないだろ?」
先程まで驚きの表情を浮かべていたイツキだったが、今はソフィを脅威の存在と認識した上で、薄氷を履むが如しの心地で疑問を口にするのだった。
「先程も言っただろう? 我はお主と同じ感覚を抱いたことがあると。但し全てが一緒というわけではないがな。我ならば如何に相手が『大きな存在』であろうと、自分の組織の者達を全て守るという覚悟でいる以上は不利益を被ると判断した場合、手を出そうとしてきた輩は全て排除するからな。だが勘違いはするなよ? お主のように自ら身を引いて組織を守ろうとする行為も立派であり、逃げたと責めているわけではないのだ。あくまで我の場合は『組織』を守るために徹底して『攻』に転じる。そしてお主の場合は徹底して『守』に転じているだけの話であり、どちらも『組織』を守ろうとする意思に遜色はない」
あくまで取る手段の相違が『ソフィ』と『イツキ』で違っただけの話だと、ソフィは告げているのであった。
「だが、そうだな。お主が徹底して『守』に力を注ぐと判断したのならば、最後まで徹底すべきだったというのが我の結論だ。お主は『ヒュウガ』という存在の大きさに自ら屈して下ってしまった。確かに『妖魔召士』組織、いや『退魔組』の屋台船の柱として用意された立ち場であれば『煌鴟梟』は束の間の安心感は得られるだろうが、それはもうお主の『力』ではなく『ヒュウガ』の『力』によって守られているだけの話になってしまう。自分一人の力ではなく、他人の力に頼る以上は、今回のようにお主を利用とする『ヒュウガ』にお主の組員達を利用されるという懸念までもを持つべきであった。何処かでお主は直接的に関わらなければ大丈夫などと楽観していたのではないか? 残念だがこの世は不条理の連続で成り立っているのだ。一度でもお主が関わってしまったならば、縁が切れるまでは延々と相手との結びつきが解かれる事はないと知っておくべきだった。組織の長から離れるという決断を下したのならば、もう自分は何も関係がないと割り切ってなすがままにされるしかないという事を忘れるな。それが嫌ならば人の上に立つ立場を自ら手放すような事はあってはならぬ。それは『守』ではなく『逃』だ」
イツキはソフィの言葉を聴いて唇が震え始めた。
――そしてこの目の前の存在の『本当の恐ろしさ』をようやく理解する。
人の上に立っていたイツキだからこそ、今のソフィという存在の大元を理解出来たのである。
確かに『戦闘』でのソフィの強さも圧倒的で恐ろしいものがあったが、この世界の『条理』というモノの成り立ちをしっかりと理解して全体を捉える考え方こそが、このソフィという男の真に恐ろしいところであったのだ。
こんな風に何処までも先を見据えながら、行動している者を敵に回して勝てる筈がない。
全てを理解しながらにして、自分の思い通りに動かせる『力』をもっていて、何故こんなにも平然としていられるのだろうか。世界を自分のものにしようと思えばいつでもそれが可能だというのに、それを良しとせずに居られる理由がイツキには分からなかった。
――そしてソフィの言葉を聴いて物思いに耽ったのは、イツキだけではなかった。
『妖魔退魔師』組織の『三組組長』である『キョウカ』もまた、ソフィの言葉を耳に入れた事で思うところがあったようで、俯きながら思案を行っている様子であった――。
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