1332.退魔組の建物の中で
※加筆修正を行いました。
そしてソフィ達が『ケイノト』の町の裏路地から表通りに出てみると、どうやら町の喧騒もだいぶ収まっていて、普段通りとまではいかないが妖魔召士と妖魔退魔師が門で争っていた時に比べると、町は落ち着きを取り戻していた。
元々その頃にこの町に居たわけではないソフィやヒノエ達には、そこまで驚きはなかったが、ユウゲやミヤジは思ったより早く落ち着いたものだと考えていた。
「おい! 休んでねぇで、とっとと案内しろい! 仲間を庇おうとわざと遅らせてるわけじゃねぇよな?」
「そ、そんなつもりはねぇよ! お前がこいつらを運べっていうからだろうが!」
(全く……、でっかい乳しやがってよぉ! あんな服装でブルンブルン揺らしやがって! 目の毒だろうが!)
そう言いつつも何処か鼻の下を伸ばして、ヒノエの胸元を盗み見る『ミヤジ』であった。
そして表通りに一際大きな『退魔組』の屯所前までくると、ユウゲは屯所の戸を開け放つのだった。
「……」
ヒノエやキョウカは屯所の戸が開いた瞬間に得の刀を構え始めた。
『ヒュウガ』はもうここには居ないだろうということは予想しているが、それでも『式』の妖魔を待機させて、襲わせて来るかもしれないと用心したようだ。
「何もいねぇか」
ヒノエは刀を鞘に戻さずにそのまま柄の部分で『ユウゲ』の背を押して、お前が先に中へ入れと促す。
何かが出て来た時のためにまず『ユウゲ』を先頭においてその後にヒノエが反撃に出て、最後尾からキョウカがトドメを刺すという簡易的な布陣を組んだ様子だった。
中は薄暗く外からの日の光もあまり入ってこない造りのようで、屯所の中は確かに『ユウゲ』から前情報で知らされていた通りに、誰も居ないことを証明しているようだった。
「ん……?」
歩いていたヒノエの足に何かが当たり、ヒノエは目を凝らして床元を見ると物陰から足が出ていてそれに躓いたのだと悟る。
「足……か。誰か倒れてやがるな」
ヒノエは出ている足を引っ張って手前に出しながら、うつ伏せに倒れていた男を仰向けにさせた。
「あ? お前うちの連中じゃねぇか……。おい、生きてるか!」
退魔組の建物の中で意識を失って倒れていた男の顔には見覚えがあり、どうやらこの退魔組を見張るように命令していた『妖魔退魔師衆』の男だとヒノエは察して、男の顔を軽くぺちぺちと叩きながら声を掛けるのだった。
「うっ……!」
「目覚めたか?」
「ヒノエ組長? そ、そうだ俺は!」
見張りをしていた男は数秒もの間、ぼーっとしていたが、ヒノエの顔を見てようやく自分が何をしていたのかを思い出したらしく慌てて立ち上がった。
「とっ……ととっ!」
急に立ち上がった事で立ち眩みを起こしたのか、男はふらふらと再び倒れそうになる。
「おいおい、しっかりしろよ」
「す、すみません!」
ヒノエが慌てて倒れそうになった妖魔退魔師衆の男を支えるのだった。
「それでお前、ここで倒れていやがったが、一体何があったんだ?」
「そ、そうだ! 俺達は奴らを見張っていたんですが、奴らに動きがあったんです! 突然『退魔組』の頭領補佐の男が裏路地の方へ向かったかと思えば、次々と『退魔組』の連中が正門とは違う方向に一気に飛び出して行ったんです!」
「頭領補佐って野郎はこいつのことか?」
そう言ってヒノエは先程までソフィに抱き抱えられていて、今は『ユウゲ』に抱き抱えられている『イツキ』を指差して確認をするのだった。
「そ、そうです! というか、こ、こいつも『退魔組』の退魔士じゃないですか!」
今頃になってずっと隣に立っていた『退魔組』の退魔士の狩衣を着ている『ユウゲ』に気づく妖魔退魔師衆の隊士であった。
「ああ、もうこいつらは気にしなくていい。それでこいつらが裏路地へ行った後に何があったんだ?」
確かに逃げる素振りも見せずに、ヒノエ達に付き従うようにこの場に居るユウゲ達を見て、どうやらもう捕まえて話をつけた後なのだろうとアタリをつけた妖魔退魔師衆の男はその先を口にし始めるのだった。
「は、はい。どうやらこの頭領補佐達は囮だったようで、退魔組の組員達は一斉に東門の方へと逃げて行きました。他の退魔士衆達は、こいつらを追っていったんですが、俺は東門へ逃げた連中を捕縛しようとしていたところをあの頭領の『サテツ』にいきなり蹴り飛ばされて戦いになったんですが、情けなくも俺はやられちまったようです」
ヒノエは退魔士衆の男の話を聴いて、口元に手をやりながら考え始める。
そこへ奥の部屋を見に行っていたキョウカが戻って来て声を掛けてきた。
「奥には誰も居なかったわ。どうやら全員どこか違う場所へ移動したみたい」
ヒノエはキョウカの報告に頷きを見せた。
「正門じゃなくて全員が東門へ逃げた……か」
「つっ……」
そこでユウゲに抱き抱えられていた『イツキ』が目を覚ましたようだった。
「「イツキ様!」」
慌ててユウゲとミヤジが同時に声を上げる。
「お、俺は……、生きているのか? 一体何があったっ……! うわあああ!?」
意識を取り戻したイツキは自分の足で立つと、辺りを見回しながらユウゲに何があったかを聴こうとして、そこでソフィの姿が目に入って怯える声をあげるのだった。
「クックック! 目覚めたようで何よりだ」
ソフィがイツキに向かってそう告げると、ガタタタっと机を引きずりながら後退って、イツキはそのままソファーの上にひっくり返るのだった。
「「い、イツキ様!?」」
イツキは見開いた目をソフィに向けた後にグルンと白目を剥いて泡を吹いて、再び意識を失うのだった。
「アンタ一体何をしたんだよ……」
「……うむ」
ヒノエは考えていた内容が飛んでしまう程の光景を目の当たりにして、苦笑いを浮かべながらソフィに尋ねるのだった。
……
……
……
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