1327.大魔王ソフィが見せる圧倒的な力
※加筆修正を行いました。
イツキは『退魔組』に属する『上位退魔士』にして『頭領補佐』という肩書を持っている。
しかしその実態は『妖魔召士』の最上位に座する『ヒュウガ』に匹敵、いや潜在能力だけでいうのであれば『ヒュウガ』よりも上であるといえた。
そもそもヒュウガは『金色の体現者』ではない以上、今はヒュウガの方が秀でていたとしても、必ずこの先では体現者である『イツキ』に抜かれるのは自明の理であり、それだけに留まらず『彼』は一度相手が出した『技』を真似るだけでそれ以上の効力を示して見せたり、咄嗟の閃きで新たな『捉術』を創り出したりとあの『エルシス』を彷彿とさせるような天才の部分も内包しているのであった。
そんな彼は遂に『ソフィ』に対しても強者と判断させるに至り、そして不幸にも『ソフィ』自身に『死を届け得る存在』と認められてしまったのであった――。
首を掴む手に十分過ぎる程の『魔力』を集約させて『捉術』を放ったイツキは、この後に目を虚ろに変えながらそのまま二度と意識を戻すことなく、このよく分からない危険な存在は『死』を迎えるだろうと確信を持っていた。
「全くこいつは何だったんだ? ただものじゃないことは分かるが、妖魔退魔師の中にもこんな奴がいたというのか?」
「……」
そして遂に首を掴んでいた男の顔が項垂れるように俯いたのを見たイツキは、ソフィの首から手を離してその場から立ち上がろうとした――。
――しかし、その時であった。
既に息絶えて絶命を果たしたと思っていた『存在』が、突然イツキの前で顔を上げたのである。
「うぉあっ!! な、何だ? まだ生きているのか……?」
死んだと思っていたものが突然に動き始めたのだから、真下に居たイツキは当然驚いて声をあげるのだった。
「……」
しかしそれ以上は動く様子を見せないために、見間違えたかそれとも『動殺是決』で脳に衝撃を与えた影響が体内の臓器に何らかの影響を及ぼして、一時的な活性を促したことで生じた呼吸運動の一種の結果なのだろうかとイツキが考えた矢先のことであった。
――がくんっとソフィの身体が脈打った。
しかし今度は明確にソフィの身体が動いたかと思えば、その目が『金色』に輝きを放ち始めた。
……
……
……
「え?」
いきなり再起動を始めたソフィにイツキは、慌てて立ち上がって『オーラ』を纏い直すが、その場から離脱を果たす前にイツキの視界がグルリと回転して、目の前が逆さまの景色へと変貌を遂げた。
「!?」
何が起きたのか分からなかったイツキだが、視線の先の地面が上にきていた事と、地に足をつけていた感覚がなくなっていることから、今の自分は足を掴まれて宙ぶらりんに浮いている状態なのだと理解をする。
しかしその次の瞬間には、目の前が真っ暗になったかと思えば今度は鈍い痛みが体中を駆け巡った。
(な、何が起きているんだ……!?)
しっかりと目を開いている筈なのに、今イツキは目まぐるしく変わる視界の光景に何処か、現実感が薄れて何やら夢を見ている時のように、不自然な場面転換がいくつも起きているような状況におかれていた。
いまイツキに何が起きているのか――。
一体これはどういう現象で、両者の間に何が起きたのか。
それは先程のソフィが再起動を始めたところから順を追って説明をしなければならないだろう。
……
……
……
イツキの放った『動殺是決』は、確かにソフィに『死』を意識させる程の一撃に至っていたのである。
これはソフィが生きてきた長い歴史の中でも、最上位付近に位置する程の恐ろしき殺傷力を誇る程の素晴らしき一撃であった。
それはつまり『ソフィ』にとってイツキの放った『捉術』の一撃は、あの『エルシス』と戦った時よりも『代替身体』の『レキ』と戦った時よりも遥かに心が揺さぶられる程の一撃であったと断言が出来る程であり、これまで出していた『力』では、到底勝てないだろうとソフィは思わされたようである。
そこまでにソフィの考えが至った瞬間、このイツキという人間を『秀抜の存在』と認めた。
その瞬間――。
過去にソフィが思い抱きながらも諦めて放棄した『闘争心』というものが明確に蘇った。
これこそが『最強の大魔王』の根幹にある『自我』と呼べる部分。
――『至高の存在と全力で戦い、そして可能であれば最高到達領域に居る自分を破り去って欲しい』。
これまでの数千年間、彼が叶えられる事のなかった願望。
それを『秀逸の存在』と認めた『イツキ』という存在の前でソフィは体現したのである。
ソフィの目が『金色』に輝いた瞬間。静かにソフィは『詠唱』を行い『力の魔神』をこの場に呼び出して『魔神』に預けている『力』を全て返却をさせた。
魔神はかつての意識を失わされたソフィではなく、彼自身が抱いている魔神も重々承知している『自我』の部分。
その願望を叶える相手が現れたからこその『力』の返却なのだと理解した為、彼に預かっていた全ての『魔力』を返したのであった。
そして静かに大魔王ソフィは『イツキ』という『秀抜の存在』と戦うのに必要だと判断する『力』をこの場で開放した――。
【種族:魔族 名前:ソフィ第三形態(完全なる大魔王化)状態:『三色併用』
戦力値:1兆2825億 魔力値:1兆2487億5000万】。
ミスズと戦った時のソフィの『魔王形態』は『真なる大魔王』状態だったが、現在のソフィは願望を優先する状態となっていて、普段は内に眠る大魔王の部分が表に出てきている状態であり、つまりは『魔王形態』は『完全なる大魔王化』と呼べる状態であった。
もうこの状態となったソフィは、ふとした瞬間に自分の出せると考える想定の最大値の『力』を出してもおかしくはないというとても危険な状態であり、そんな状態のソフィが願望を優先して全力で戦ったならば、いつこの『ノックス』の世界に危機を察知したソフィの使役している『力の魔神』とは別にして、この世界の『魔神』が現れてもおかしくはない状態でもある。
――そしてどうやら、大魔王ソフィの強さの限界は、こんなモノではなかったらしい。
すでに今のソフィは、かつて自分が想定をしていた出せるであろうという『戦力値』の数値を大幅に上回っていた。彼が自分で思っている以上に、ソフィという魔族は強かったようであった――。
これまで全力で戦える相手に巡り会った事もなく、これまでもソフィにとっては全力でも何でもない想定の半分程の力を示せば『魔神』が直ぐに止めに入ってきたのだから、自分の力の限界を知る機会に恵まれなかった以上は仕方のない事でもあった。
今のこの戦力値が1兆を越えている状態でさえ、この世界に存在する妖魔の強さを推し量る『妖魔ランク』で数値化するならば『8』を記録する数値となっている。
しかしこの状態に至ったということは、戦う相手が『秀抜の存在』と認めた存在であるために、戦いの中で彼が出せると考える自身の想定値の最大値まで一気に『力』を開放する可能性があるために、この『1兆』という戦力値の表記はあってないようなモノであり、戦っていくにつれて此処から更に数倍の数値変動は当然にあり得るため、あくまでこれ以上の戦力値が下がる事はないだろうという判断の元で考えた上で、最低となる数値で妖魔ランクは『8』である。
もはやこのソフィと戦うということは、自身の命だけではなく『世界』そのモノの崩壊を意識した上で覚悟を決めて立ち会わなければならないだろう。
――それは世界を管理する神々である『魔神』が、待機状態に入っているのだから当然のことである。
この程度の規模の被害では調停を行う『魔神』の介入は有り得ないだろうが、多くの命が奪われるような事があれば直ぐにその姿を見せるであろう。
それだけの『力』を持っている大魔王がこうして既に姿を見せているのだから――。
そしてこの状態に陥らせた要因であり、ソフィに『秀抜の存在』と認められたイツキは、目の前の『自我』を優先している状態の『最強の大魔王』である『ソフィ』の『力』を向けられたことにより、彼自身の普段の戦い方は出来なくなるのであった。
――これこそがソフィの再起動を果たした後からの戦いで、イツキが不可解に感じていることでもあった。
ソフィの意識が戻る前までの戦いであれば、戦いの最中に突然に相手の動きが見えなくなったり、いつ殴られたのか分からない間に全身に激痛が走ったりといった不可解なことは感じなかったのだが、今の目を覚ましたあとのソフィとの戦いでは、同じ世界の同じ空間内で戦っている筈なのに、まるで違う時間軸に居て自分だけが相手の前で無抵抗にされるがままされて、相手の攻撃を受けてからそれを自覚出来るようになっているような感覚をイツキは味わっているのであった。
(な、何が起きているか分からないが、このままだとまずい!)
イツキはそう考えてこの一方的な流れを止めようと『妖魔退魔師』達を一斉に動けなくさせた『捉術』を使おうとする。
通用するかしないかではなく、このままでは何もすることも出来ずにやられるだけだと考えて、流れを変えるために一石を投じようという試みであった。
――しかしその試みすらも『大魔王ソフィ』には通じなかった。
イツキが殴られながらも『捉術』を使おうと自身の右手に『魔力』を集約していくが、この高速で行われている連続攻撃の最中に、しっかりとその一連のイツキの行動を読み取っていた。
そしてソフィはこれまでイツキのやろうとしてきた事を全て封じていたように、その『捉術』を使おうとする『魔力』に照準を合わせて、彼の持つ『特異』を再び行使する――。
「!?」
イツキは『魔力』を込め終わって使おうとしていた『捉術』を放とうとした瞬間に、再び自分の『魔力』が練り直す状態に戻ったのを悟り焦り始めるのだった。
そしてこれこそが、大魔王ソフィの持つ『金色の体現者』としての特異。
――その効力とは、自身と相対する存在の『魔力』の『スタック』を最初に巻き直させる事であった。
(※スタックとは『魔力回路』から『魔力』が放出された、その瞬間の状態である。この世界であれば『捉術』を放つ直前の状態となるが、他の『理』が存在する世界であれば『発動羅列』を刻む事で発動する魔法陣が待機状態で出現している時の状態を指す)。
(な、何!? た、確かに俺は『捉術』を使うための『魔力』を十分に用意出来ていた筈だ! 後は放つだけだったというのに、今もまだ『捉術』が発動出来ていない! な、何故? 何が起きているというんだよ!?)
そして更にこの形態のソフィは『時魔法』である『空間除外』を無意識に自身の攻撃の瞬間に行い、彼の持つ特異と合わせる形で使用している。
相手が完全に防御を取る行動の瞬間に、特異と『空間除外』を合わせて攻撃を放ち、相手の防御の瞬間がずれたと同時に『時魔法』を解除して、行おうとしていた攻撃をそのまま行うために、相手は防御を取ったつもりが無抵抗の状態に戻されてしまい、まともにソフィの攻撃が確実に当てられているのであった。
今回は『空間除外』と『特異』を組み合わせた攻撃を行っているソフィだが、別に『特異』と合わせるのが『空間除外』に限っているわけではない。
相手が『捉術』という技法を使う存在だと大魔王ソフィが本能で認知した事で、今回は『空間除外』を併用させているだけであり、相手が大魔王ソフィを殺傷可能なレベルの『力』で押し通すような暴力的な物理攻撃力を持つ存在であれば、この大魔王ソフィが持つありとあらゆる『力』を行使しながら『特異』を組み合わせて、強敵と認める相手と戦う為に最適な行動を取る事だろう。
――そもそも彼の本質は魔法使いである。
本来はこんな物理的な戦い方ではなく『魔法』と『特異』を展開させながら次々と『固有』の魔法である『終焉』や『転覆』など『魔神域』の『魔法』を複数同時に発動させて、相手を叩き潰す事を得意とするのが大魔王ソフィという魔法使いの戦い方の筈なのである。
だが、魔法使いであるソフィに固有魔法を使わせて死闘を行わせられる存在が、これまで現れていないのが実情であり、仕方なくこれまでのような戦い方を強いられているソフィであった。
――最早、この大魔王ソフィの本能というべき『自我』が出ている以上は、戦術の定石やパターン化などは通用しない。
この高速で次から次に行われる大魔王ソフィとの戦闘中に、そのソフィの攻撃速度に思考速度をしっかりと合わせて、柔軟に適正にして的確な行動をその都度行い戦わざるを得ない為に、まず最低でも妖魔ランクが今のソフィと同じく『8』を上回る事が出来る存在が、この今の大魔王ソフィと戦える最低条件となる。
(※但しその最低条件のランク『8』に到達していたとしても、ソフィの繰り出している攻撃の一部は、そのランク『8』程度では抑えられる上限を越えているために、ランク『8』では直ぐに死に直結する事はないが『瀕死』及び『致命傷』になる確率は非常に高く、その最低条件となるランク『8』ではソフィと対峙は出来るが、対抗が出来るという事と同義ではない)。
――もしこのイツキが『瑠璃』にまで『青』のオーラが昇華しておらず『金色の体現者』にして併用のオーラを使っていない状態であれば、すでに今頃は息絶えているだろう。
このどうしようもない戦力差に見えている戦闘でさえ、他の大魔王がこの状況を見る事があれば『あのソフィと戦って無事に生きている』と感嘆の声を向けていることであろう。
最強の大魔王がその気になって戦っている以上は、ソフィと戦いにならないのは当然のことであり、ここまで攻撃を受け続けて生き延びられているだけでも凄い事なのである。
「うっ――……!」
そして混乱が生じているイツキの顔を掴んだソフィは、そのまま顔を掴んだまま一気に投げ捨てると、イツキは物凄い速度で空き家の長屋の壁に激突したかと思えば、そのまま壁を突き破ったままの勢いが止まらず、まだ吹き飛ばされていく。
一方向からの『力』だったというのにイツキが壁を突き破った瞬間に、余波が建物全体に伝わったかと思うと、その空き家と連なる長屋はグラグラと揺れ始めたかと思えば、順々に全ての建物に亀裂が入っていき、やがて連なる長屋は倒壊して崩れてしまうのだった。
壁に激突した衝撃で意識が朦朧とする中、そんなイツキを追走するようにソフィが目の前から迫ってきて、そして更にイツキに跳び蹴りを浴びせてくるのだった。
最初に放り投げられた時から既に恐ろしい速度が出ていたというのに、追加で蹴られたことで勢いはさらに増していき、そのままコンマ数秒で『ケイノト』の町から外へそのまま『ヒサト』達が戦っていた門をあっという間に飛び越して、キョウカや王連が戦っていた南の森の方面へと勢いそのままに吹き飛ばされていくのであった。
吹き飛ばされている空中でイツキは、身体をビクッ、ビクッと震わせている。
どうやら加速する速度の中で彼は痙攣しているようであったが、森に届く前にイツキは意識を取り戻す。
どうやら吹っ飛ばされている間に意識を失わされたようだが、同じく飛ばされている間に意識が戻ったようであった。
(だ、だめだこりゃ……! じょ、冗談抜きで殺される! 妖魔召士とか妖魔退魔師とかそんな次元の話じゃなく、あれは『生物』がどうにかできる相手じゃない)
意識を取り戻したイツキが頭の中でそう考えていると、耳傍で言葉が聴こえてくる――。
「クックック! 意識を取り戻したようだな? そろそろ実力を見せてくれぬか? 我もこんな程度ではなく、自分が出せる『力』の本当の限界を試してみたいのだ!!」
恐ろしい速度でとばされていたイツキは、真上から現れたソフィに再び顔を掴まれて、そのまま地面に激突させられる。
まるでイツキを地面を掘削する道具のように使いながら、次々と森の地面を掘り進んでいく。
再び意識が遠のきかけているイツキが、うっすらと目を開けると邪悪な化け物がイツキに、早く強さを見せろとばかりに笑いかけてきていた。
これまで出会った事がない程の脅威。どう対処を行っていいのか『最上位妖魔召士』程の『魔力』を有している『天才』である彼であっても、抵抗をするための対処法が一つも思いつかない――。
――『どうしようもない、化け物』。
その言葉が最後に頭に浮かんだ瞬間、イツキは再び意識を失うのだった。
……
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