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最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。  作者: 羽海汐遠
サカダイ編

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1290.死を受け入れた武の士

※加筆修正を行いました。

『王連』の魔力が宿った『槍』と化した多くの木々は、 明確に彼女の命を奪うために迫ってくる。


 流石のキョウカであっても『王連』の神通力の秘密や、それに関連した情報なども得ていない状態では、動く事が叶わずに、迫りくるその木々の『槍』を見続けることしか出来なかった。


(……)


 先程までは自身の弱さを嘆いたり、仲間達との日々のことを考えていたキョウカだが、更に死が自分に近づいてきたのを感じると、彼女は信じられないことにもう何一つ感情を表さなかった。


 それはつまり『死』というモノを覚悟しようとしていた先程の状態から、明確に『死』というモノと向き合い受け入れる肚が決まったのであろう。


 ――『武の士』。


 それは読んで字のごとく『武士』。


 気骨、気概、気志。肚が決まればもう定まる前と定まった今とではまるで別人となる。


 今のキョウカは真の意味で武士となった。


 死を恐れるのではなく真っ向から受け入れたことによって恐怖心というものは取り除かれて、更には動く事が出来ない今の彼女は、迫りくる『槍』と化している木々しか視界に入らず、他に情報を得る事が出来ない状況下に於かれていることで、集中力はピーク時へと到達を果たしている。


 『武』の観点から省みて人間離れをしているこの世界に居る『妖魔退魔師』達だが、今の肚が決まった状態のキョウカはそんな妖魔退魔師から見てもさらに尋常ならざる集中力を得ていた。


 そんな彼女は耳から入る不要な情報を全て遮断されており、目に映る迫りくる『魔力の槍』となっている木々達はスローモーションに映り始めて行く。


 本来目に映る物が突然に速度が遅くなったりすれば、多少なりとも不可解な現象に焦り驚くが、今のキョウカはその現象をすんなりと受け入れられている。


 どうやら彼女の脳の伝達速度が人間の思考する限界の上限値に近づいたことで、彼女はこの世界の『真理』を明確に『解』したのだろう。


 これまでも万象を受け入れる態勢が整っていた妖魔退魔師キョウカだが、この『死』の境地に到達したことで完全に『叡智』の真理。その重心となる極限の位階を『踏破』してみせた瞬間である。


 彼女はこのまま木に貫かれて『死』ぬだろう。それは避けようのない事象である筈であったが、しかし何の悪戯か彼女の定められた運命を捻じ曲げるかの如き存在が、今の世界が遅く見えているキョウカの視界に入って来るのを認識するのだった。


 その存在こそは『魔力枯渇』によって強制的に意識を失い、ヒサトをこの森に運んできた後は『キョウカ』が現れても一度も意識を戻していなかった妖魔退魔師『一組』に所属している隊士『チジク』であった。


 彼はヒサトのように遠くまで王連によって殴り飛ばされて気を失っていたのではなく、この森にヒサトを運んできたところで途中で気を失って倒れていたのである。


 王連が逃げ延びようとして空を飛翔していき、その姿を追ってキョウカはこの場所まで辿り着いて来たのだ。そして何の因果か『チジク』が目を覚ました時、近くでキョウカの姿を見ることが出来たのであった。


 だが、チジクが喜んだのも束の間、何の冗談なのか『紫色』の光りが伴ったその木々が面妖なことに空をふわふわと浮いているのが見えた『チジク』は、訝しそうに眉を寄せて成り行きを見守っていたが、どうやらその木々は向きを変えて、木の根本の鋭く尖った部分がキョウカに向いていくようであった。


 彼はまさかと思いながらもやはり、この木々が自分の意思を持っているかのようにキョウカ組長に向かっていくのだろうと予想がついたのであった。


 しかし何故かキョウカ組長はその場から動こうとせずに、真面目な顔をしながら向きを変えて行く木々を睨みつけるように視線を向けていた。


(何故キョウカ組長はじっと見ているだけなんだ? あれはどうみてもキョウカ組長を狙って今すぐにでも飛んで行くように思えるが……?)


 やがてチジクが思った通りに空にふわふわと浮いていた全ての木々が、キョウカ組長を的にするかのように捉え始めていく。


「ま、まさか! キョウカ組長は動かないんじゃなくて、動けないんじゃ……!?」


 キョウカ組長ほどの妖魔退魔師であれば、間違っても妖魔召士達の『魔瞳』なんぞに囚われることはないだろうと頭ごなしに決めつけていたが、奴ら妖魔召士は一人ではなく複数居たことをチジクは思い出す。


 キョウカ組長が『魔瞳』で動きを止められたのだろうと判断は出来るには出来たが、それでもにわかには信じられないと考えているチジクだった。


 しかしそうは言っても現実にキョウカ組長が動かないのは間違いはない。


 そこまで考えたチジクは今すぐにでもキョウカ組長に向かっていきそうな様子の木々を前に、まだ万全な状態に戻っていないにも拘わらず、自分の組長を守るために得の刀を抜いて、その場から駆け出すのであった――。

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