1273.殺意の視線
※加筆修正を行いました。
王連との戦いで殺されかけたヒサトだったが、何とか現在も意識を失ったままではあるが、チジクという『一組』の彼の部下に背負われながら生存を果たしていた。
しかしそんなチジクもまた、既に魔力を枯渇している状態で必死に命を削りながら『魔力』を使用して『瑠璃』のオーラを使って南の森に向けて必死に駆けていた。
既に持つであろうと思われた数十秒は経っており、チジク自身もいつ自分が命がなくなるか分からない状況で王連達から逃げのびている。当然この状況では戦うどころではなく、見つかれば即座に殺されてしまうだろう。
「! こ、ここは?」
ヒサトは完全に覚醒した様子で慌てて周囲を見渡す。どうやらケイノトの門前で『王連』を相手に意識を失わされた事を思い出したようだ。
「き、気付かれましたか? ひ、ヒサト副組長!」
チジクはその場で足を止めたかと思うと、慌てて背後を振り返って『王連』達が迫って来ていないかを確認すると、その場にヒサトを背から降ろした。
「気を失った俺をここまで運んでくれたのか。すまなかったチジク」
「い、いえ……。俺が生きている内に、最後にヒサト副組長の声が聴けて良かったです。ど、どうやらもう俺はもう……。だ、駄目みたいです……ので、後は頼みま、す……」
どうやらヒサトが目を覚ましたことで安堵感から、チジクは身体から力が抜けて、見るからに脱力してしまったようで、そのまま地面に座り込んでしまった。
「お、おい! 何を言っているんだ。今度は俺がお前を守ってやるから、だからキョウカ組長が来るまでは生き延びろ! 彼女を悲しませたいのか!!」
そのヒサトの言葉に閉じかけられていた目が再び薄っすらと開いた。
「きょ、キョウカ様の大事な目を奪ってしまったのは……、お、俺のせいです。お、俺が軽率に行動を取ったせいで、俺の身代わりになってキョウカ様の大事な片目が……」
「知っている! だがお前はその後に必死に組の為に尽くしてきたじゃないか! そしてこれからも俺達は一緒にキョウカ組長を支えるんだ。それがお前の命を救ってくれたキョウカ組長へ出来る精一杯の恩返しだろう?」
「お、おんがえし……、お、俺はまだ……きょ、キョウカ……さまに、恩を返し、き、きれ……て、いない……」
「そ、その通りだ! もうすぐ組長を連れて他の連中も帰って来る。その時にお前の無事な姿を見せてキョウカ組長を安心させてやれ。まだ恩を返しきれていないと言うのならば、是が非でも生き延びて、これからの人生をかけてキョウカ組長の役に立て!」
「……は……、は……い。が……んばっり……ま……、す――」
そう言って彼は笑みを浮かべながら瞼を閉じるのだった。
「チジク?」
ヒサトは慌ててチジクの心臓に耳をあて脈をはかる。
「驚かせやがって!」
脈拍を確認したヒサトはチジクが心肺停止状態では無く、まだ心臓の循環機能が正常であることにほっとした顔を浮かべるのだった。
しかし安堵したのも束の間――。
ガサガサという音が聞こえて慌ててヒサトが振り返る。
「探したぞ、小童共がぁっ……!」
――そこには天狗の『王連』が残忍な笑みを浮かべて立っていたのであった。
「くっ……! 全く、最悪のタイミングだな」
忌々しそうにそう口にしたヒサトだったが、彼は『王連』が自分を見ていないことに気づいた。
その天狗の視線の先は、ヒサトが大事そうに抱えている『チジク』の方であったのだ。
(この天狗は何故直接戦った俺ではなく、意識を失っているチジクをそんな恨むような目で睨みつけているのだ?)
ヒサトがそう不審に思うのも無理はなかった。
彼が意識を失って目の前に居る『王連』に殺されそうになっていたところ、チジクが彼を救い出したのだが、その際に彼は『王連』の背中の羽を切り裂いてそのまま去ったのである。
どうやら『王連』にとって天狗の羽は自慢の物であったらしく、その大事な羽を小童と思っていた人間に無残にも切り裂かれてしまい、彼の自尊心を相当に傷つけたようであった。
たとえヒサトがその事情を聞かされたとしても、果たしてそこまで怒ることなのかと思ったかもしれないが、天狗の『王連』にしか分からない繊細な問題であるといえるだろう。
ひとまず分かっていることは、今の目の前に居る『王連』はすでにヒサトのことなど眼中になく、彼の腕の中で意識を失っている『チジク』に怨恨を抱き、殺意の視線を向けているのであった――。
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