1270.真実と虚構
※加筆修正を行いました。
「それで妖魔団の乱とイツキって野郎がどう関わりがあったというんだ?」
旅籠町の屯所の中で捕縛されていた『サノスケ』から、ヒュウガ達の襲撃の事実確認を聴き取り終えたヒノエだったが、当初から考えていた通りヒュウガ一派は『退魔組』のある『ケイノト』へ向かったという事で間違いなさそうだった。
この事を本部に持ち帰ってヒュウガ一派への報復を行う為の部隊再編成を練ろうと考えていたヒノエだが、まだ話の続きがあり、ヒュウガ一派の本当の狙いを知っていると話す『ヒュウガ』から詳細を聞いているところであった。
「俺達は貴方達のように戦闘分野に長けているわけではないから詳しい事はよく分からないが、それでもこの時の事がキッカケでイツキ様が『妖魔召士』組織の『退魔組』でそれなりの地位につけられたのだと、イツキ様から直接聞いたとミヤジが言っていたから信憑性は高い話なんだが……」
物凄い早口で捲し立てるサノスケにヒノエは目を丸くしていたが、やがてそのヒノエは噴き出して笑い始めた。
「ぷっ、ククク……! 分かった、分かった。そんな必死にならなくてもお前が話し終わるまでしっかりと聞いてやるから、中身をサッサと話せって」
このままだとヒノエのご褒美の話がなくなるかもしれないと焦ったのだろう。サノスケは何とかしてヒノエの興味を引こうと必死に前置きを並べ立て始めたのだが、ヒノエは当然その事を理解して頷き、そして笑いながらちゃんと聞くからと宥めるように、興奮して話すサノスケに話の中身を促すのだった。
「イツキ様が『ケイノト』の町で過ごすようになった頃、件の妖魔団の乱が起きたんだ。数十を越えるありとあらゆる『妖魔』の種族が群れを成して、ケイノトの町に襲い掛かってきたらしい」
「ああ。あれは私の知る妖魔の襲撃の中でも凄惨で、特別酷いモノだったと今でも覚えている」
どうやらこのヒノエという女も『妖魔団の乱』の経験者らしく、その事をサノスケは改めて理解するのだった。
「普段はあまり山に下りて来る事をしない妖魔が、それぞれ異なる種族の主だった高ランクの者達が徒党を組んで『ケイノト』を襲ったのか、そこまでの詳しい事情は俺も分からないが、その襲撃が行われた時に『イツキ』様はその『ケイノト』で実際に妖魔団の一味と戦ったようなんだ。それもその妖魔の徒党集団『妖魔団』を束ねた妖魔の長と戦ったらしい」
「……ふんっ! その時点で嘘だな。お前、嘘を吐くならもう少し話を練ってからにしたらどうだ?」
真面目に話を聞こうとしていたヒノエではあったが、サノスケの口から語られ始めた第一声から、その気を失くすような荒唐無稽な話が飛び出した事で、ヒノエはサノスケの話に興味が薄れていってしまうのだった。
「う、嘘じゃない! お前とヤりたいと考えている俺が、お前にこんな分かりやすそうな嘘を吐く利点は何一つないだ……ろ!」
言っててサノスケは恥ずかしくなったのか、言葉の途中から尻すぼみになっていったが、それでも嘘ではないと証明をしたかった様子で最後まで言い切るのであった。
交渉事に関しては相当の自信があるヒノエは、言葉を言い終えた後のサノスケの態度までを真剣に観察をするが、どうにもサノスケが嘘を言っているようには見えなかった。
(これは演技じゃねぇな。これで嘘を言っていたり演技だとしたら、これまでのコイツの言動や態度は全て計算だったと全てを疑わなくてはならなくなる。流石にそこまでの野郎だったら私の手に負えねぇ。しかしだとしたら、退魔組の退魔士程度の野郎が力も開放してねぇ状態でランク『6』である筈の鬼人女王『紅羽』と戦ったというのを信じろというのかよ、それこそ有り得ねぇだろう?)
そう考えたヒノエはもう少し様子を見ようと、自分の記憶と史実を照らし合わせながら、一般人が知り得ない情報を上手く使ってボロを出させようと言葉を投げかけるのだった。
「ほう? だったら聞くがお前の言うイツキって野郎は、妖魔召士ですらない退魔士が『妖魔団の乱』で団を束ねた『鬼人女王』の『朱火』と戦って殺されずに生き延びたって言うんだな?」
実際に妖魔団を束ねた妖魔は確かに一般の人間達でも『鬼人女王』と知れ渡っているが、実際にその徒党の頭鬼人の名までは知れ渡ってはいない。更にイツキという男が現在退魔組に属している事からも『妖魔召士』ではないという事実を上手く取り入れて、論点をずらしながら『朱火』という実際に妖魔団に居た妖魔の名前を使い、真実と虚構を上手く織り交ぜながらヒノエは質問を投げかけるのだった。
――しかし。
「『朱火』? ミヤジから聞かされたイツキ様と戦った妖魔の名は『紅羽』と言っていたような……」
「!?」
間髪入れずに本当の鬼人女王の名を返してきた『サノスケ』に、ヒノエは目を丸くして驚くのであった――。
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