1215.呆れた男
※加筆修正を行いました。
「おう、早いなイツキ」
朝一番に退魔組へと向かったイツキ達だったが、どうやらサテツはこの退魔組の屯所にある奥の部屋で一夜を明かしたらしく、既に起きて仕事を行っていた。
イツキが部屋に居るサテツに顔を見せると、直ぐに声を掛けてきたサテツだった。
「おはようございます、サテツ様。それにしてもその様子だと昨日も泊まりだったんですね……。最近家に帰れていないんじゃないんですか?」
「まぁな。最近は例の連中が町をウロウロしているおかげで『特別退魔士』達を監視に呼び寄せただろう? その所為で滞っている各所の連中らの任務やら『例の山』の見張りやらと仕事を滞らせちまっているからよ、俺が各所に直々に待ってもらうように文面にしてるんだよ」
どうやらサテツ言葉通り、昨日も徹夜で仕事をこなしていたようで彼の目の下には隈が出来ていた。『退魔組』の頭領であるサテツは乱暴な性格をしてはいるが、現場を任されるだけはあってやらなければならない事はしっかりと行う気難しくも厳格な男なのであった。
こうしてイツキと会話をしている間にもサテツはその仕事の続きを行っていて、視線はもうイツキには向いてはいなかった。
少し話を切りだすのは待った方が良いかと考えたイツキは、手前の部屋で待たせているミヤジの元へ向かおうと部屋の扉に手をやろうとしたが、その瞬間に再び視線をイツキに向けていたサテツが口を開いた。
「それで? 俺に言いたい事があってこんな朝早くに来たんだろう? 遠慮せずにさっさと言ったらどうだ?」
どうやら出直そうとしていたイツキの心情を理解していたらしく、さっさと言いたい事があるなら言えとばかりに告げるサテツであった。
「お見通しでしたか」
イツキは開こうとしていた扉から手を離すとサテツの居る机の前まで向かい、昨日ミヤジから伝えられたヒュウガの伝言の内容をそのままきっちりとサテツに話すイツキであった。
…………
「例の連中が毎日こっちを見張っていやがったのは、そういう理由だったのか」
例の連中とは『退魔組』を交代で見張っている妖魔退魔師組織の人間の事であろう。サテツ達が何かをした訳でもないのに、普段は居ない妖魔退魔師の者達がこの町でひっきりなしに監視をしていた事で、サテツ自身も何かあると察して、普段は各地に任務で出ている『特別退魔士』達を全員再びこの『退魔組』に集めさせたりと、妖魔退魔師達がこの『ケイノト』の町に出張ってきていた理由を独自に探ろうとしていたが、イツキから話を聞いたサテツは、ようやくストンと胸に落ちたようであった。
「しかし急に会って話がしたいと言われてもな……」
サテツは口元に手をやりながら悩む素振りを見せる。
「見張っているのが予備群達であれば、サテツ様でしたら何も問題はないでしょうけどね。流石にあちらさんの最高幹部の隊長格が居る以上はおいそれとは動けませんね」
「ん……? ああ、そっちは別にいいんだけどよ……」
イツキはサテツが悩んでいるのは、ケイノトの町近辺に居る妖魔退魔師の最高幹部である組長の女の事だと思っていた為に、そっちは気にしていないといった口にしたサテツを疑問に思い、細い目を少しだけ開きながら表情を窺うイツキであった。
「予てから聞いていた話とえらく変わっちまったと思ってよ。元々はヒュウガ様がゲンロク様の代わりに『妖魔召士』の組織の長になって、俺達を新たな新体制で幹部にしてくれるっていうから、俺とお前がゲンロク様を裏切ってここまで協力をしてきたってのによ、だいぶ話が違うじゃねぇかよ。なあ?」
どうやらサテツは『退魔組』を監視している周囲の妖魔退魔師の事ではなく、それ以前の問題を今更提起させて気にしている様子であった。
(ヒュウガ殿の息のかかった連中が『旅籠町』の護衛隊に手を出した時点でもう、ゲンロクの爺に全て明るみになってたんだ。それなのにこいつは今更そんな事を気にしていたのか……)
何処まで本気でサテツが口にしているのかまでは分からないが、すでにヒュウガ殿は妖魔退魔師や妖魔召士の組織からも狙われている状態である。こんな危うい状態のヒュウガから俺達に話があると伝言を持ってきている以上、話を聞く前から俺達に防波堤になれと告げていると察せられるだろうに、今更『妖魔召士』の次の長だの最高幹部だのと、まだ口にしている事にイツキはサテツに呆れるのだった。
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