1208.彼しか知り得ぬ情報
※加筆修正を行いました。
『煌鴟梟』のボスであるトウジと幹部のミヤジが『ケイノト』の町へ向かった後、ヒュウガ達もキクゾウ達の隠れている洞穴を目指して盆地地帯の山々から下って来ていた。そしてその道中でヒュウガ一派の幹部の一人で天狗の妖魔である『王連』を式にしている『ジンゼン』が、ヒュウガに口を開くのだった。
「しかしヒュウガ様『退魔組』の者達をこちらにつけたとして、その後はどうなさるおつもりなのでしょうか? 直ぐには我々の潜伏場所が見つからないにしても『妖魔退魔師』とゲンロク殿達の『妖魔召士』を敵に回しては色々と行動に不都合が生じると思うのですが」
言葉を選んで口にするジンゼンであったが、本音を言えば彼は相当に不安であった。このまま何処に向かったとしてもこの『ノックス』の世界の至る所に『妖魔退魔師』の下部組織である『予備群』達の護衛隊が町の警備を行っていて、何処に潜伏しようともいずれは必ず妖魔退魔師達に見つかるであろう。
そして彼ら自身が少し前まで所属していた『妖魔召士』組織にしても、ヒュウガ一派は相当な数の妖魔召士を引き抜く事には成功し、またイダラマ達も抜けた事で前時代に比べると遥かに戦力は低下した事は間違いない。
しかしそれでもゲンロクの妖魔召士組織は、まだまだ強大と呼べる組織である事には変わりがないのである。こちらも至る所に間諜を放っているのは間違いない。いくら退魔組の者達を味方に引き込んで新たな組織を立ち上げたのだとしても、『妖魔退魔師』と『妖魔召士』の両組織を敵にした時点で明るい未来が見えないのであった。
「そうですねぇ。確かにこのままではいくら上手く立ち回ったとしても、徐々に追い詰められてやがては共倒れになる未来しかないかもしれませんね」
どこか他人事のようにそうヒュウガが話す為に、ジンゼンは慌て始めるのであった。
「そ、そんな……!」
「まぁ落ち着きなさいジンゼン。流石に私も考えなしに勢いだけで里を出て来たわけではありませんよ。しかしどちらにせよ時間が必要な事には変わりはありませんからね。今はその機を窺いながら気長に待つとしましょう」
「そ、そうですか……。ま、まぁヒュウガ様がそう仰られるのならば……」
どこか釈然とはしないままではあったが、ヒュウガの落ち着きぶりを信用する他にないジンゼンは、渋々ながら自分をそう納得せざるを得ないのであった。何故ならもう『ヒュウガ』を信じてついて行く以外に退路は残されてはいないからである。
(ふふっ。『退魔組』の連中を味方につけても意味はないと考えているのでしょうねぇ? 貴方のその目を見ていれば不安で不安で仕方ないと考えているのが手を取るようにわかりますよジンゼン。だが、その『退魔組』を味方につける事が重要な事なのですけどね……。まぁ厳密には『退魔組』というより、彼一人を味方につける事なのですが……。しかしまだこの事は私だけが知っていればいい事です)
妖魔退魔師組織と袂を分かった後、ゲンロクが作り上げた『退魔組』。その退魔組に属している者達は『魔力』では確かに妖魔召士には届かないが、当然これまでの妖魔召士達が磨き上げてきた様々な技の数々や、使う事を禁止させられている『禁術』といった技法も受け継がれている。
この場に居るジンゼンを含めた『妖魔召士』達は、その事を当然理解しているがやはりどこかで自分達『妖魔召士』と比較するに値しない者達だと、心のどこかで考えている事だろう。
――所詮は『妖魔召士』の紛い物。見真似は出来ても本物には敵わないと。
しかしそこに別の因子が、隠されているとしたらどうであろうか……。
――例えばそれが『妖魔退魔師』達の使うオーラの技法を同じように使えるとしたら――。
ヒュウガが旅籠町の屯所内に捕縛されていた『煌鴟梟』の残党を、そのまま殺さずに連れてきた意味。その事が彼の口から明かされる時が、少しずつ近づいてきている様子であった。
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