1203.捨てた信頼と残された信用
※加筆修正を行いました。
退魔組の建物がある表通りから外れて、傾斜の厳しい坂道が印象的な場所の隅の方で腰を下ろしたトウジだが、傍から見れば歩き疲れて休憩をしているだけのように見える。そして後をついて来ていたミヤジがそのトウジの隣に腰を下ろすと、ようやくトウジが口を開くのであった。
「裏路地から退魔組の方を監視している連中が居たのは気づいたか?」
「ええ。どうやらあのヒュウガっていう妖魔召士達が、この町に用があって来るという事はバレているようでしたね。それでどうするんですか? 見張りが交代するのを見計らって待つつもりですか?」
この町は他の町とは違って『妖魔退魔師』の下部組織の『予備群』は居ない。何故なら普段この町の警備を担当しているのが『妖魔退魔師』組織ではなく『妖魔召士』の下部組織である『退魔組』が行っているからである。だからこそトウジは裏路地で監視している者達が『妖魔退魔師』なのだろうというアタリをつけられたようである。
「いや、流石に他の町よりも奴らの人数が少ないとはいっても、交代時に監視を外すような無様な真似をするような連中じゃないだろう。そんなヘマをするような者達であれば、俺達が捕まるような事はなかった筈だ」
「まぁ、そうっすね」
トウジの話の前者は確かにその通りだと理解出来たミヤジだったが、後半の話はお前の所為で捕まったようなもんだと考えているミヤジにとっては釈然としなかったようで、少しおざなりな言葉で返すミヤジであった。
結局どうするんだとばかりにトウジに視線を送るミヤジに、トウジは思いも寄らない言葉を口にするのだった。
「お前は俺より『イツキ』様と付き合いは長い筈だったな?」
「は? まぁ……」
「『イツキ』様は何を好んで食べる?」
トウジの言葉の意図が分からず、何を言っているのかと視線で問いかけるミヤジだった。
「知っているか? 別の町で稼業をやっている時に聞いた話だが、常連に限定される話ではあるらしいが、食べ物屋で普段から出る物に限るそうだが、予め時間帯を指定しておけばうちまで届けてくれる食事処があるらしい」
「あんた何を言っているんだ? 今の状況とそんな話に一体何の関係があると……」
最後まで言い終わる前にミヤジが、はっとした表情を浮かべるのだった。
「まさか、店の出前に扮して退魔組の中に入ろうというのか?」
その言葉にトウジはニヤリと笑った。どうやらその顔を見るに本当に行おうとしている様子であった。
「ま、待ってくれ! そもそもどうやって出前を行うつもりなんだ? そんな思い付きが上手く行く筈がないだろう!」
確かに東の方の町ではそういった出前文化がぽつぽつと出てきているようだが、まだこの『ケイノト』では出前は一般的ではない。
それに彼らは本当の商売人でもなければこの町の人間でもないのだ。ミヤジの言う通りにふと今思いついたようなトウジの案で、もうこれ以上身を滅ぼしたくはないとミヤジは考えるのであった。そうでなくとも旅籠町で捕縛されたのは、あのセルバスとかいう新人を重宝するように使い続けた事から捕縛への発端へと繋がっているのである。
今更『煌鴟梟』のボスの顔に戻ったとしても、ミヤジにはもうこの『トウジ』に対して少しも信頼をしていない様子であった。
「あの新人の事は本当に申し訳なかったと思っている。お前を含めて大事な仲間達を捕縛されてしまったのは確かに俺が原因だ。だが、本当にあの時の俺はどうかしていたようなのだ。今更あの時の事を許してくれとは言わない。だが他に案がない以上は、今の俺の事を少しだけ信じて欲しい」
急な坂道が続く道のその端に腰を下ろしていたトウジが立ち上がり、真面目な顔で横で座っているミヤジに手を差し出しながらそう告げた。
差し出された手を見ていたミヤジは、静かに見上げてトウジに口を開くのだった。
「いいか? 俺はイツキ様に再会した後はもうアンタじゃなくて、イツキ様についていくと決めたんだ。まだサノスケ達は旅籠町に取り残されている。イツキ様と協力して今度は俺達がアイツを助けに行くつもりだ……。だが、確かにアンタの案以外に『退魔組』に入る方法が思いつかない。だから今回はアンタを信用してやる」
――差し出されていたその手を掴んで、立ち上がるミヤジであった。
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