1199.挫折と新たな起点
※加筆修正を行いました。
「簡単な事です。貴方達には我々の代わりに『退魔組』に居る者達に伝言を頼みたいのです」
「た、退魔組に?」
「ええ、その通りです。確か貴方達は退魔組のサテツの補佐についているイツキとつながりがあった筈ですよね?」
「!」
確かに『妖魔召士』組織の下部組織と呼べる『退魔組』に居るイツキが元々『煌鴟梟』の初代のボスであった事は『妖魔召士』の上層に居る者達ならば知っていても何も可笑しい事ではない。むしろこのミヤジの目の前で命令してきた男は、周りに居る紅い狩衣を着た『妖魔召士』達から敬われている様子をみるに、相当に地位のある男なのだろうと予測もつく。
しかし『煌鴟梟』の二代目ボスとなった『トウジ』は別にしても、何故単なる煌鴟梟の組員である自分がイツキと繋がりがあると知られていたのか。それが分からない『ミヤジ』であった。
(この男はどこまで『煌鴟梟』内の事を知っているのだ? もしかしたらイツキ様の裏の顔も全て知っているのか? あのゲンロクとかいう『妖魔召士』組織の長も知らないところまで知っているのか?)
煌鴟梟内の事ならば何でも知っているミヤジだが、流石に『退魔組』の内情の事までは詳しい事は知らない。ミヤジが把握しているイツキの裏の顔と野望を知っているのは、ユウゲという『特別退魔士』ではあるが、この目の前の『妖魔召士』もイツキが煌鴟梟のボスであった事以上の詳しい事を理解している同志なのだとしたら、無下に断るわけにはいかない。
それを確かめるという意味でも、この男の言う通りに『ケイノト』の町に入り込んで『退魔組』に居るイツキ様の元へ向かうべきであろう。そう判断したミヤジは目の前に居るヒュウガの言葉に頷く事にするのであった。
「分かった、分かりましたよ。その依頼を引き受けてイツキ様の所へ向かいます。でも言っておきますけど、俺もトウジ……様も、予備群の護衛隊やら、妖魔退魔師の方々とは戦えませんよ?」
「ええ、何食わぬ顔で『ケイノト』の中へ入って頂いて『退魔組』のイツキとサテツに、我々が近くに来ているという事を伝えて頂けるだけで結構です。先程の我々の話を耳栓をしていなかった貴方達も聞かれていた事でしょう? 我々が『ケイノト』に入ろうとすれば、問答無用で襲われそうなのでね……」
困ったものですとばかりに苦笑いを浮かべて説明を行うヒュウガだが、その目の奥は笑ってはいない。煌鴟梟という長年犯罪を行ってきた組織の幹部であったミヤジでさえ、このヒュウガという男は危なく最低限の関わりを持つ以上には、決して踏み込んではいけないと本能で理解出来る程であった。
そしてしっかりと伝言の役割を果たすと、承諾をするようにミヤジが頷くのを見たヒュウガは更に笑みを深めた。
「ふふ、感謝しますよ。退魔組の連中に伝えて頂いた後は、もう貴方達の自由にして頂いて結構です。そのまま町を離れて新たな人生を歩んで頂いても構いませんし、我々の新たな組織に興味がお有りなら、色々と相談に乗らせて頂きます」
「そ、それは俺は断らせて頂く。そういう話は煌鴟梟のボスだったトウジ様と話をしてくれ」
「そうですか? 貴方はとても有能そうでしたので、是非今後もお付き合いをお願いしたいところだったのですがね」
即座に断りを入れたミヤジに残念そうにする『ヒュウガ』だった。
「我々は『ケイノト』の町に近い南の森の最初の洞穴で『結界』を張って潜伏していますから、サテツ達に伝える事が出来たら、そちらに来るように伝えて下さいね。日時は特に指定はしませんが、我々は厄介な連中に見張られていますから、出来るだけ早くお願いします」
そう言ってにこりと笑うヒュウガであった。
「……」
ミヤジ達の話を隣で聞いていた『トウジ』は、最後まで会話に参加せずに傍観に徹していたが『妖魔召士』である筈の紅い狩衣を着た変わった眼鏡をつけた男が『新たな組織』と言った事に興味を持つのであった。
(やり直すなら、ここが分岐点ではなかろうか)
どう見ても『妖魔召士』にしか見えないヒュウガ達だが、どうやら此処に居る『妖魔召士』の全員が、今の『妖魔召士』組織を離れてこの場に居るのだろう。つまり彼らは身なりだけを見れば『妖魔召士』だが、もう『妖魔召士』組織の人間ではないという事だ。
そしてこの世界の二大組織である『妖魔退魔師』組織の連中にも狙われている。旅籠町の護衛隊達の屯所を襲撃して、あれだけ暴れたのだからそれは当然の事だろう。
一見すればこの『ヒュウガ』という男や、それに付き従っている彼らは詰んでいる。 『妖魔退魔師』や『妖魔召士』という巨大な組織を全て敵に回しているのだから、この『ノックス』の世界で何処にも居場所は無いだろう。全員捕縛されるか、死ぬ以外に道は残されてはいないように見えるのは、誰であっても同じだろう。このヒュウガという男に気に入られた『ミヤジ』があっさりと断りを入れた事からも明白だろう。
しかしこれだけの向かい風の最中で、まるで諦めるという目をしていない『ヒュウガ』という逸材とこのまま関係を断つのは相当に惜しい。
莫大な儲けを生み出す秘訣とは、誰もが選ばない危険な道を選ぶ事。地雷原の先にある目的地に向かうには、遠回りをしていては間に合わない。一番を手にする為には地雷原を全力で走り抜く事が出来る者が、誰よりも早く目的地へ辿り着く事が出来るのだ。どうせ一度は諦めた命だ。この命を投資する先が出来た事を喜ぼう。
先程まで死んだ目をしていた男は、何かを決心したようにその目に光を宿しながら、意を決して口を開くのであった。彼の人生を懸けた最後のギャンブルを行う為に――。
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