1169.内に秘める思い
※加筆修正を行いました。
「だ、旦那……!」
「念の為にと『旅籠町』に残した我の『魔力吸収の地』には何も反応はなかった。あの『魔法』を用いれば『魔力』を行使した者があの場で現れたのならば、その者の『魔力』を奪った上で使用した『魔法』などを掻き消した上で我の元に伝わる筈なのだが、一体どういう事なのだ……?」
スオウの報告に驚き話し掛けて来たセルバスにそう答えるソフィだったが、確かに『死の結界』に『魔力』の使用者の反応はなく、又その『結界』が消されたという感覚もない。今も『旅籠町』で『魔力吸収の地』が機能している事が分かる為に、理解が出来ないとばかりにそう呟くのだった。
「どうせ『理』を使わない『魔瞳』でも使われたんだろうよ。俺がてめぇの城の地下牢で使った時のようにな」
理解が出来ないというソフィの顔を見たヌーが近づいてきて、答え合わせを行うかのように解答を示すのだった。
ソフィの『魔王城』の地下の『特別牢』がある階層全域は、この世界の『旅籠町』に使用しているものと同じ『魔力吸収の地』が施されており、その場では『魔法』を使えないようにしているのである。
「確かにフルーフの奴も『発動羅列』を用いる『魔法』は使えぬにしても『金色の目』を自分に用いれば呪文も使えると言っておったな。お主がそれで『魔瞳』と自身に『呪縛の血』を使った連携で我の『魔瞳』で強引に喋らせようとしたのを防いだのであったな……」
「ああ……『魔瞳』を用いれば当然『呪文』も使えるだろうし、何よりこの世界の人間達の『魔瞳』は、それ単体でも非常に強力な効力を持っていやがる。あのエイジとかいう野郎の所為で俺にも十分理解が及んでいる。俺でさえ厄介だと思えるんだ。あの『予備群』の小娘とかの連中じゃあ、防ぐのは難しいだろうよ」
ヌーの言っている『予備群の小娘』とはシグレの事だろう。予備群も確かに信じられない程に強く、『大魔王最上位』階級に届き得る力を保有しているが、それでも『妖魔召士』の使う『魔瞳』は、ソフィでさえ『相殺』に『第三形態』を用いなければ対応が出来なかった。コウゾウやシグレ達、旅籠町の護衛隊の予備群達では『妖魔召士』の『魔瞳』は防ぐ事は適わなかったのだろう。
そしてちょうど先程まで副総長ミスズとこの話題を繰り広げていたばかりであり、コウゾウが『妖魔召士』の『魔瞳』に対しては、まだ対抗が出来ないという話をしたところなのである。
コウゾウから書簡を受け取った彼女は、ソフィが見ても分かる程に大喜びをする様子を見せていた。何が書簡に書かれていたかまでは分からぬが、彼女はコウゾウに対して決して悪くない感情を抱いていた筈であろう。それが書簡を受け取った矢先にこの報告を受けたのである。ソフィは悲しげな目を浮かべながら気落ちしているであろうミスズの方を一瞥するのだった。
ソフィの視線の先に居るミスズは、先程までソフィと会話をしていた時と変わらぬ表情をしていた。スオウ組長の報告を受けた時に少し、目を丸くして声を漏らした様子であったが現在はソフィから見て普段通りに見えた。
――だが、そう見えたのはソフィがまだそこまで、ミスズの事を理解していないからであった。
「ヒノエ組長、直ぐに事実確認を行いたいと思います。貴方は組の者達を纏めて直ぐに私と『旅籠町』へ……」
「それは待てミスズ。事実確認を行うというのであれば、まずはゲンロク殿の里からだろう? それに『ケイノト』の方に出しているキョウカ組長達の事も気に掛かる。 俺とお前はここを動かずに隊士達からの報告を待つべきだ。ヒノエ組長、悪いが旅籠町の調査はお前に任せ……」
「待ってくださいシゲン総長! 奴らがこんな強攻に出てる以上は何か裏がある筈です。 この私がこの目で襲撃が行われた旅籠町近辺を洗い、ヒノエ組長と協力の元で周囲一帯の調査を……」
「冷静になれといっているのだミスズ、今のお前は普段の冷静なお前じゃ……」
「……」
次の瞬間、副総長ミスズの身体から『瑠璃』の色をした『青』のオーラが漏れ始める。それを見たシゲンは途中から喋る口を閉ざして眉を寄せてミスズを見るのだった。
「ふ、副総長……?」
ソフィと戦っていた時と同じオーラを纏い始めた副総長ミスズに、心配そうにスオウ組長がミスズに声を掛けると、必死に堪えるように歯を食いしばっていたミスズだったが、やがて大きく息を吐くとそのオーラはゆっくりと消え去っていく。
「申し訳ありません、少し頭を冷やしてきます」
「ああ、後の事は任せておけ」
「お願いします、総長」
ミスズは総長シゲンに許可を取った後、心配そうに声を掛けてきてくれたスオウの肩に軽く手を置いて、泣き笑いの表情を見せながら、そのまま部屋を出て行くのであった。
それを見届けた後、シゲンが再びヒノエ達に指示を出し始める。
最高幹部達はシゲンに命令を受けた後、直ぐに行動を開始して各々の組の隊士達に連絡を取りに行くために、部屋を後にするのだった。
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