1160.妖魔召士の扱う、魔瞳を紐解く鍵
※加筆修正を行いました。
ミスズの話を聞いていたソフィだが、どうやらミスズや『妖魔退魔師』達は『妖魔召士』の扱う『魔瞳』に対して、発動を行う数秒のタイムラグを逆手取って回避を行う事は容易く行える事だと口にする。
ソフィは『魔瞳』に対して魔力を込めて発動する時に生じるタイムラグ、その云々に対策を考えた事は無かった。
確かに相手の『魔瞳』の発動が行われる前に対策が取れるというのであれば、一番効果的なのかもしれないが、発動の瞬間に意識したことがないソフィにとっては、発動までの猶予にどれだけの時間が許されているか等も分からなかった。
そもそもソフィは使われる前に勝負を決めようと思った事さえなく、相手の『魔瞳』に対しては基本的に相手の魔力を上回る魔力を用いて『相殺』を行って相手の『魔瞳』を打ち消す事を優先してきた。そうする事で相手の魔力量をある程度ではあるが把握する事も可能であるし、何より一つの指標として『魔力』を捉える事が出来る為に、どれ程の強者であるかを確かめる事が出来るからである。
至高の相手と全力で戦う事に楽しみを見出しているソフィにとっては、その『魔瞳』に対する対抗策として『相殺』という選択肢をとるのは必然だったのかもしれない。
だからこそ先程のミスズの出して来た謎掛けとその解答に対しては、その考え自体を否定するつもりはないのだが、いまいち理解が及んでいなかった。だがその後の説明を聞いた今は相手の『魔瞳』を封殺するという意味では確かにそれが合っているように感じられるし、被害云々を考えるのであれば最善だろう。
――但しそれは本当にミスズが告げた通り、発動自体のタイミングが分かればの話である。
もし本当にミスズの言う通り『魔瞳』の発動の瞬間が分かった上で、その効力の発生までのタイムラグ間に対策が取れるというのであれば、そして何よりその対策案が『妖魔召士』の扱う『魔瞳』だけではなく、ソフィ達のような魔族が扱う『魔瞳』に対しても有効なのであった場合、これまでのソフィが経験してきた『魔瞳』の世界観が一新されるという事である。
魔族の扱う『魔瞳』の最も代表的なモノはやはり『金色の目』だろう。この世界の人間達『妖魔召士』と呼ばれる者達が使う『魔瞳』は『青い目』と呼ばれるが『青い目』は発動の瞬間に込められた魔力が全面的に押し出されて、相手に波のように襲い掛かって来る印象である。この魔力圧に圧し潰される事がつまり、相手の術中にはまってしまうと同義なのだろう。
『相殺』という選択肢をこれまで行ってきたソフィにとっては、この魔力圧に対しても自分自身の魔力をぶつける事で押し退けて来た。ケイノトの町の路地裏でゲインにその『青い目』を受けた時が、初めてのこの世界の『魔瞳』であったが、ソフィは瞬時にこれは『魔瞳』の類だと看破し、自身の『金色の目』で初見で相手の『青い目』に相殺を見事に成功させて見せた。
しかし『煌鴟梟』のアジト内で生粋の『妖魔召士』であるチアキという女性の『青い目』は、第二形態時のソフィの魔力では『相殺』が出来ずにその身に浴びてしまった。その時の受けた感覚を思い出し始めたソフィだが、確かにチアキの『魔瞳』を受けた後にオーラを発動させたり高めたりする事は可能ではあったが、ソフィ自身の体を動かす事は出来なかった。
相手の『魔瞳』に込められた魔力に及ばなかった場合『青い目』を強引に解除する手立てがなければ『青い目』を仕掛けた術者自身が解かなければ、そのままずっと動けなくさせられるという効力があるのだろう。
もしかすると他にもソフィの知らない効力があるのかもしれないが、身体が動けなくさせられるのが『青い目』の代表的な効果なのだとしたら、ソフィ達が扱う『金色の目』と比べればまだ比較的マシな部類であるといえる。
何故なら『金色の目』は強制的に相手を支配するからである。それもソフィ程の魔力を有する者であれば、半永久的ともいえる期間であっても可能だろう。
魔族達が扱う『金色の目』と『妖魔召士』と呼ばれる人間達が扱う『青い目』。
実際に影響を受けた事があるのは『青い目』だけではあるのだが、魔族の『金色の目』を向けられたこと事態はある。そしてソフィが実際に二つの『魔瞳』を比較してみた感想だが、確かに同じ『魔瞳』でも相手に与える影響と発動が行われた瞬間の感覚。それは両方の『魔瞳』の違いを明確に違いが生じているのは確かである。
つまりミスズの言っている『魔瞳』の対策案が『妖魔召士』達に対する『魔瞳』に限定されている可能性もあるという事も考えられるが、もしもミスズが言う『魔瞳』の対策案が魔族の使う『金色の目』にも、十分に効果的だと判断すれば、是非その方法を体得したいと考えるのであった。
「一つ聞かせて欲しいのだが『ミスズ』殿の『魔瞳』の対策案の事だが『妖魔召士』の『魔瞳』の発動のタイムラグとは、具体的にはあの『魔瞳』に込められた魔力。その魔力圧が襲い向かってくる時の事を指しておるのだろうか?」
「そうですね。発動が行われた後では僅か数秒でその魔力圧に押し込まれて『予備群』はおろかその上に立つ『妖魔退魔師衆』や、我ら『妖魔退魔師』であっても『魔瞳』の効力が出た後では抵抗はおろか、身動き一つ取れなくなるのは間違いありません」
『妖魔退魔師』の総長だと言っていたシゲン殿でさえ、ここに戻って来る前に襲ってきたあの『妖魔召士』の『魔瞳』を受けて数秒程は動きを止められていたのを思い出す。それを踏まえてミスズの言葉に偽りはないとソフィは判断して頷く。
(む? 何か違和感がある……が、まぁ今は構わぬか。ミスズ殿の話が優先だ)
ふと何か言語化出来ない違和を感じたソフィだったが、それは後回しにする事に決める。
(成程……。人間達の使う『魔瞳』。その放たれた波が自身を覆うまでの時間をミスズ殿は、『魔瞳』の発動に於ける発動に生じるタイムラグと表していたわけか)
そもそも『魔瞳』の魔力を可視出来ない者からすれば、その『魔瞳』の発動から効力が発揮される間の僅かなタイムラグにさえ気づかないだろう。
あの勢いで襲ってくる魔力圧に抵抗する時間など本当に限られているであろうし、咄嗟に放たれてしまえばいくらその魔力の波に気づける者であっても抵抗は難しい。
我のように最初から『相殺』を行うつもりでその場で動かずに待ち受けているならば、まだ抵抗する時間は潤沢にあるといえるが『相殺』ではなく『回避』を行う為には、相当に相手の目に意識をして……、いなけ……れば?)
――そこまでソフィの思考が進んだところで、先程以上の違和感がソフィを襲う。
(待て……。先程ミスズ殿は『相手の目を見なければ効果を及ぼさない』と言ったか? それはおかしい。確かに我ら魔族の使う『魔瞳』であれば話は別だが『妖魔召士』の使う『魔瞳』は、相手の目を見ていなくとも魔力圧が襲ってくる為にその魔力圧に囚われてしまえば動けなくなるのではないのか?)
ソフィは思考の果てにその結論に至り、ふと顔を上げてミスズを見るが、そこでミスズはようやく気付きましたかとそう言わんばかりにソフィに頷いて見せた。
「『魔瞳』に対する我ら『妖魔退魔師』の対策は、その『魔瞳』を放つ『妖魔召士』自体の魔力圧に謎を解く鍵が隠されていたのです」
「そう言う事か。確かにお主の言う通り相手の目を見なくても、相手が自分から居る場所を知らせるように魔力を放って来る以上、効力を及ぼすまでの時間をお主らに委ねているのと、そう言いたいのだなミスズ殿? 確かにそれならば相手の魔力圧さえ受けなければ、相手の『魔瞳』を受ける心配はないと断言出来る。
「ご名答です、ソフィ殿。相殺を出来る魔力を我々は持ってはおりませんが、我々『妖魔退魔師』は『妖魔召士』の放つ魔力圧程度の速度はあっさりと回避が出来る」
特務の訓練場でナギリやミスズの戦闘時の移動速度を知っているソフィは、魔力圧を避けるという明確な意思を持っていれば、確かに問題なく回避が出来るだろうなとそう判断するに至るのであった。
特に今ソフィの目の前でにこりと笑って見せているミスズに至っては、大賢者エルシスが生み出した『理』を用いた神聖魔法『妖精の施翼』の効力が掛かっている状態と、まるで遜色がない程の速度をソフィとの戦闘で出していた。あれ程の速度で動けるのであれば、安易に『妖魔召士』達が『魔瞳』を使う事で、逆に自ら不利を招く結果に終わってしまうであろう。
ソフィの思う『魔瞳』の対策案とは違っていたが、人間達の『魔瞳』である『青い目』に対しては『相殺』ではなく『回避』という選択肢は十分に選べるとソフィは理解を示すのであった。
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