1158.納得せざるを得ない事実
※加筆修正を行いました。
『魔瞳』の対策案で相手より魔力が上でなければ相殺が出来ないと考えているソフィは、ミスズから前提条件が間違っていると告げられて代替案に悩んでいた。
そしてミスズもまたソフィが最初に出した答えである『相殺』について深く考えさせられてしまい、その思考の行き着く先でソフィの持つ魔力が『魔瞳』を用いる『妖魔召士』よりも上だからこそ、そういう答えになったのではないかと自問自答を繰り返して尚、思い詰めてしまうのだった。
「ソフィ殿『魔瞳』にコウゾウが今のままでは対抗が出来ない理由ですが、それは戦闘時にまだ目に頼って戦っているからなのです」
どうやらこのまま思案させていても自分の出して欲しい答えに辿り着かないと、そう判断したのかミスズは自ら答えを告げる為に口を開き始めた。
謎掛けを行う事でソフィという存在を推し量ろうと、そう考えていたミスズだったが、この謎掛けの所為で逆にどんどんと分からなくなっていってしまい、挙句の果てにはソフィ殿に対しては自分程度が測る事すら烏滸がましいのではと、他人に対してあまり考えた事が無い思考に行き着いてしまう始末であった。
ミスズは仕方なく自分の持っている答えを提示する事で、強引に自分の悩んでいるソフィという存在の謎を払拭させる事にしたようである。
「目に頼って戦う? それはどういう事であろうか?」
ミスズの言葉は抽象的過ぎて、一言では流石のソフィでも伝わり切らなかった。
「ソフィ殿は『妖魔召士』と戦った経験がお有りだと仰ってましたが『魔瞳』という力自体には、何処まで知識としてご存じですか?」
どうやら先程の説明では伝わらなかったとミスズにも理解が及んだようで、今度はしっかりと教えてくれるつもりなのだろう。ミスズの言葉からソフィの持っている『魔瞳』の知識を知ろうとする意思が伝わって来るソフィであった。
「『魔瞳』は我ら魔族にも備わっている力なのでな。お主達の世界で『妖魔召士』とやらが使っておる『魔瞳』とは少しばかり違うが、実際に戦って使うところを見るに発動条件や使い方に差異は無いと感じておる。つまりは相手が『魔瞳』を使った時に、その目に対して相殺するべくこちらも魔力を込めて相手にぶつける事で、相手側の『魔瞳』の効力を掻き消すというのが、基本的に対抗する術として知識を持っておるのだが……」
「成程、どうやら我々の知る『妖魔召士』達が扱う『魔瞳』と、貴方の世界に居る魔族という種族の方々が使う『魔瞳』には効力は多少は開きがあっても、条件等々は同一の物と考えてよさそうですね」
(つまり我々の世界の者達が使う『魔瞳』と、ソフィ殿の世界にある『魔瞳』。それ自体はそこまで遜色はないという事だ。ならばやはりその対策に違いがあるのは、それを扱う魔族という者達と人間である『妖魔召士』の使い手によるところが大きい。ソフィ殿の世界では、こちらの世界でいうところの『妖魔召士』と、同規模以上の魔力を有する者達が多く居て、その中で培われた戦略の一つに『魔瞳』の対抗策は相殺が基本方策。そしてそれを可能とする『魔力』がある事が必然であり、それ以外の手立ては表立っては出てこなかったという事かしら……?)
ソフィ達の世界の常識では、『魔瞳』に対しては『魔瞳』で相殺が定石である事は分かった。しかしミスズはその事に理解を示した上で、何故もっと単純な対抗策があるのにそれを使おうとしなかったのだろうかという疑問が芽生えるのだった。
「ソフィ殿、貴方や貴方の世界では『魔瞳』に対しては、更に強大な『魔力』を用いて、相手に対抗する事が常識なのだという事は理解しました。しかし我々の世界では『妖魔召士』と認められた者達に対して『魔力』で対抗するという発想は皆無と言っていい程にありません。何故ならこの世界の人間達には『妖魔召士』と認められた者達以外は『魔力』がないと思われているからです」
「どんなに少なかろうが、魔力を持っていない生物は存在せぬ筈だ。 『魔力』が乏しく魔法使いになる事を諦めた者達であっても、辛抱強く消費魔力の少ない魔法を使い続ける事で、ある程度は魔力というものは上がってい……く……の、だが……?」
確かにソフィの言う通り、人間や魔族。その他の種族であっても、魔力そのものがないという存在は居ない。そしてどれだけ少なくても魔力を持っている以上、魔法を使い続ければ魔力は伸びる。
寿命が長ければ長い程、そして『魔』に携わりたいと考える者程、ゆっくりとではあるが、才がなくてもある程度までは魔力を高める事が可能と言えよう。
――しかしそれは『理』が存在して『魔法』というモノが実在する世界に限られた話である。
このノックスという世界には、現在『理』というモノが存在していない所為で『魔法』という概念がない世界となのである。つまりこの世界に生まれた時点で『妖魔召士』と認められる程の魔力を有していない限り『妖魔召士』相手に魔力で追いつく事は、まず不可能な事として認めなければならない。
この世界には『魔法』がないという事を失念していたソフィは、魔力を伸ばしていけば、誰でも『魔』に関する技法を扱う事も可能だと言いかけて、まるで見当違いな事を告げようとしていると気づくのであった。
「お気づきになられましたか? 貴方が訓練場で見せたような『魔法』は、この世界には当然ありません。たとえ微々たる『魔力』を持っていたとしてもその魔力自体を伸ばす方法がない以上は幼少期の頃に『妖魔召士』と認められなければ、それはもう『魔力』を持っていないのと同義です。我々のように『魔力』に関しては一般人と同程度であってもそれ以外の部分に資質がある者はまだ、妖魔と戦う事が可能となりますし、こうして魔力以外の部分を伸ばす事で『妖魔退魔師』として選ばれたりもします。ですが『妖魔退魔師』であっても、魔力は『妖魔召士』に適う通りがありませんので、ソフィ殿の仰った『相殺』という選択肢は、僅かであっても考えられない事なのです」
ソフィが理解した一部分にミスズの言葉がすっと入り込んできて、徐々にその理解部分の幅を脳内で広げられていくようにソフィは感じられた。
生まれた時から魔力がないと判断された上に、魔力を伸ばす手立てがない以上は『魔瞳』に対して『相殺』という選択を選ぶ者が居る筈がないという事実は、確かにその通りだと納得せざるを得なくなったソフィであった。
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