1148.ソフィの魔瞳
※加筆修正を行いました。
「あ、ああ……？ し、シグレ殿……？」
『煌鴟梟』のアジトで『コウゾウ』という男が『チアキ』に辱められそうになった時、必死に守ろうと動いたり『旅籠町』で他者の為に献身的に行動を取ってくれていた『予備群』のシグレに思いを寄せるセルバスは、今の目の前の彼女の変わり果てた姿に、信じられないとばかりに驚きの声をあげるのだった。
「離せぇっ！ 離せぇっ！ 私にそいつらを殺させろぉっ！！」
怒鳴る様に怨嗟の声をまき散らしながら、動かせない手の代わりに足をバタつかせ、唇から血が出るのもお構いなしにシグレは咆哮をあげ続けるのだった。
「くっ……！ こ、この……！！ 副総長！ こいつの意識飛ばしていいですか！？」
手の関節を極めながら大人しくさせる為にシグレを組み伏せていたヒノエだったが、このままだとどうやら手の骨が折れるのもお構いなしに動こうとする『予備群』シグレの様子に、ヒノエは強引に意識を落として大人しくさせていいかと、唖然とした様子でシグレを観察し続けていたミスズに訊ねるのだった。
「あ……？ え、っと……」
「構わん、ヒノエ組長。そのままその隊士を絞め落とせ」
どうやら普段のシグレを知っているのは、セルバスのようにミスズも同じだったようで、この変わり果てたシグレに対してミスズが珍しく悩んだ様子を見せていると、そのミスズの様子を見た総長シゲンが、速やかに指示を出し始めるのだった。
「わ、わかりました！」
総長シゲンからの許可を得たヒノエ組長は、シグレの掴んでいた手を離した後にそのまま首元に手を持っていき、シグレの頸動脈を締めようとする。
『妖魔召士』のように魔力を使って、強制的に不随運動を起こさせるような真似をせずに『妖魔退魔師』のヒノエ組長は、頸動脈の血流を遮断させて意識を失わせるなど、これまでの経験でどこまで自分の力を他者に踏み込めばいいのか、それを熟知している為に意識を遮断させるならば頸動脈を狙う方が良いと理解している。
そしてそのヒノエの技術であれば、死なせる事はないだろうとシゲンも理解していた為、あっさりと手を加える事に許可を出すのであった。
「待つのだ。何もそのような危険な真似をせずともよい」
ヒノエが本気でシグレを気絶させようと首の横の頸動脈を締め始めた時、その苦痛に耐えるようなシグレの顔を見ていたソフィは、思わず言葉を挟んだかと思うといつの間にかシグレとヒノエの元に立っていた。
そしてキィイインという音と共に、ソフィの目が金色に光ったかと思うと次の瞬間には暴れていたシグレの身体が脱力していき大人しくなった。
「は……？」
暴れるシグレに一苦労していたヒノエ組長は、突然腕の中に居るシグレが大人しくなった為に驚きの声をあげるのだった。
「シグレ殿を数時間は目を覚まさぬように脳を操った。すまぬが彼女を横になれる場所まで連れて行き、休ませてやってくれぬだろうか？」
「「え……？」」
先程とはまた別の種類の驚きを見せたミスズとヒノエは茫然とソフィを見ていたが、突然のソフィが話す言葉に疑問の声をあげたまま数秒程固まるのだった。
「ねぇサシャ。ソフィ殿の声が聴こえたよね？ ヌー殿が寝ていた部屋にシグレ隊士を運ぶ。すまないんだが、キミも手伝ってくれないかい？」
「はっ、はい！ わ、分かりました！」
単純に驚き固まっているヒノエとは違い、ミスズはソフィが何者かという事にまでその思考を巡らせていて止まっていたようでその様子を見ていたスオウ組長が、代わりにシグレを休ませる為にサシャに命令を出すのだった。
慌ててサシャは虚空を見つめていたシグレの元へ駆け寄り、手でゆっくりと目を瞑らせて楽にさせた後にスオウと協力して、ゆっくりとした足取りでシグレを隣の部屋へと運んで行くのだった。
茫然とただソフィを見ていただけのミスズとヒノエとは違い、ソフィという存在を意識づけるように、総長シゲンは目を細めてソフィを観察するのだった。
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