1135.予想だにしない幕切れ
※加筆修正を行いました。
「今度こそ貴方に、本気を出させて差し上げましょう」
そう告げると同時にミスズは前に出していた足に力を込めて、思いきり地を蹴ってソフィの元へ向かっていく。
「クックック、我に本気を見せろか。では是非我に『魔法』を使わざるを得ないと思わせてくれ」
先程までと同じように『紅』の創成具現で用いられた刃のオーラを右手に作り、自身には『浅葱色』ではなく『天色』の青のオーラを纏いながら大魔王ソフィは、迫って来るミスズに向けて笑みを見せながら待ち構える。
ただの人間とは思えない程の速度。それこそ『金色』を纏っているリディアよりも速く、ラルフが『妖精の施翼』の『魔法』を使っている時と同じくらいの速さであった。
『理』を用いられた魔法と同等以上の速度を何も使っていないミスズが出している。それだけで『アレルバレル』や『リラリオ』の世界の常識では信じられない事であるが、ソフィが第三形態で対峙している相手なのだから、副総長ミスズが生半可な実力ではないのは当然の事である。
まるで魔王達の使う高速転移と見紛う程の速度でミスズはソフィに肉薄し、あっさりと間合いに入り込む事に成功する。
「むっ」
まだまだソフィは『魔法』を使うつもりは無く、間合いにもミスズが入る事を予測していたが、意識するよりも速く入り込んできたミスズに少し虚を突かれたとばかりに声を漏らすのだった。
間合いに入り込まれた時に先に手を出そうと考えていたソフィだったが、ここまでミスズが速いとなれば『後の先』を狙うようにカウンター主体に手を変え始める。
そしてミスズにファーストアタックを譲ったソフィは、狙い通りにミスズが刺突の構えから重心を前に傾けながら左手を前に伸ばして来るのが見えた。
構えから見ても刀で突きの一撃をしてくるだろうとソフィが判断していた通り、そのまま素直に攻撃を繰り出されたミスズを見て、ソフィは思惑通りの反撃を行う為『天色』に包まれた右手の『紅』の創成具現の刃で弾いて左手の方のオーラの刃で横凪ぎに振り切ろうと目論む。
「幻朧」
そして狙い通りに右手で弾こうとソフィがミスズの刀に照準を合わせ始めると同時、ぼそりとミスズの呟きがソフィの耳に入ってくる。
(むっ……、これがあったか!)
先程の時のように目の前でミスズの手の先の方から握っている刀までが全て見えなくなると、ソフィは一度目のこの技を受けた感覚を頼りに、ミスズの身体の重心と先程の彼女の得の刃渡りを計算して、顔に来ると予測しながらその首を必死に捻ってミスズの目視出来ない刀を避ける。
「!?」
ひゅっという風を切る音が真横から聞こえると同時、ソフィは相手の攻撃を躱しきれたと判断したが、そこで手を止めるような真似をせずに、目論みを崩された事によってまだ創成具現を行っていた左手を固く握る。
英鬼の時よりも相手との距離がないこの一瞬での反撃であった為に、ソフィは仕方なくその場で顔を捻る動作と合わせるように、主軸である右足をぐりっと右に捻り、距離無き一打に威力を持たせる。
「気堅壁」
再び『ミスズ』の呟きを真近くで聞いたソフィだったが、おかまいなしにその場で固く握った一撃を態勢が前のめりになっていた『ミスズ』の身体の鳩尾に放たれた。
「……なっ、に?」
殴ったソフィの左手から感じたモノは柔らかい人間の皮膚ではなく、まるで加工された鋼の金属を殴ったような感触であった。
「ふっ!」
まるで長く潜っていた海の中から海面に顔を出した時のように思いきり息を吐いたかと思うと、一気に酸素を吸引しながらもミスズは、真近くで驚いた表情を浮かべているソフィに向けて、思いきり頭をソフィの鼻を目掛けて突き出してくる。
――ガンッという音と共に、ミスズが思いきりソフィの顔に頭突きをすると、ソフィは片目を閉じながら痛みから逃れるように身体をミスズから離す。
「いっ……、たぁっ!」
試合を見ていたスオウは至近距離から思いきりミスズに、頭突きをかまされたソフィを見て、まるで自分がされたかのように口を開いた。
ジンジンとする鼻を押さえようと左手を持っていったソフィを見て、ミスズは離れていったソフィと反対方向へと一歩下がった後、再び刀を両手でしっかりと握り、最初のように『霞の構え』を取ったかと思うとそのまま三歩分の距離の先で顔をおさえているソフィを目掛けて突進を開始する。
「くっ……!」
――超越魔法、『万物の爆発』。
「!」
ソフィに向けて刺突の一撃を行おうと真っすぐに突進してきていたミスズは、目の前に居る対象を中心に大爆発を起こしたかと思うと、そのまま直撃となる寸前に爆風を利用して一気に距離を取って離れる。
ソフィの放った超越の『魔法』は、ミスズにはその一撃が当たらず、むしろ放った側であるソフィの方がダメージを負う結果となった。しかしダメージを負ってはいるモノのソフィは、ミスズの刺突から身を守る事には成功するのだった。
ミスズはクルクルと器用に空中を回転しながら訓練所の端側に着地をすると、そのままミスズは、先程自分達が居た場所を睨みつける。
「こ、これが……。先程彼が言っていた『魔法』とやらなのかしら……」
『魔法』を使うつもりが無かった為に『結界』の事を軽視して『魔神』すら呼んで居なかったソフィだが、ソフィの脳内の片隅にあった加減という制限が咄嗟に働いてはいたようで、横には被害は広がらなかったが、その分地面を貫いて縦側の被害は甚大となり、中心地であった訓練所の地面は地が突き破られて大穴があいており、崖のようになって底が見えなくなってしまった。
「……」
「「!?」」
その場に居るセルバスを含めた全員が、出来てしまった崖の見えない底を見下ろしていた。
「こ、ここはもう使い物にはならなさそうね……」
「す、すまぬな……。つい」
「いえ、貴方に『魔法』とやらを使わせられたという事でひとまずは、ここで終わりにしたいと思うのですが。いかがでしょう?」
「か、構わぬ……。それでよい」
あまりにも規模が違いすぎる被害を目の当たりにして、戦いを行う事で色々と試すつもりだったが、その気分が無くなってしまったようで、ソフィの同意を得た後にミスズは大きく溜息を吐いて、やれやれと苦笑いを浮かべるのであった。
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