1131.ソフィの悩んだ末の結論
※加筆修正を行いました。
(確かにスオウ組長が言うように、今はあのソフィという男から殺気を感じられない。どうやら本当にナギリを試す事が目的で殺すつもりは無かったのかもしれないけれど。私が割って入る前は、確かに彼はナギリを殺すつもりのように感じられた。この私が育てたナギリを相手にあそこまで圧倒して見せた彼の本当の実力を知っておかねば、今後厄介な事になるかもしれない。それにあのスオウ組長のソフィ殿に対する、異常な肩入れ加減も気に掛かる……)
どうやら『妖魔退魔師』の副総長ミスズは、たった一回こうして見ただけで、危険だと懸念を抱いたようであった。そしてその懸念を抱かれた張本人であるソフィは、再び『三色併用』を纏い直してはいるのだが、何やら悩むような表情を浮かべ続けていた。
(このままの形態で戦っていたとしてもある程度までは耐えられるだろうが、あのミスズという者が相手では、いずれやられてしまうだろうな。しかしこれ以上の力を出すというのであれば、これまで以上に、気をつけなければならなくなる……のだが。第三形態は魔力コントロールで如何に抑えたとしても、要所要所に起きる力の余波までは、完全にコントロールはしきれまい)
今の状態でもソフィは既に『アレルバレル』では『魔神級』と呼ばれる領域である。彼のこれまで修めてきた『基本研鑽演義』をしっかりとこの場で出せたとしても次の形態になって、この形態時のようにオーラやその他の技法を使えば、そんな彼の張る『結界』では完全に抑えられるとは言えなくなるのである。
前回、第三形態になった時は、その相手の対象の『妖魔召士』が、第三形態時のソフィの相手ではなかった事に加えて、近くに『聖域結界』を張れる程の『力の魔神』が居たのが大きかった。
しかしソフィはまだミスズが、どれ程までに強いのかも分かっていない以上、必要以上の力を出してしまわなければならなくなるかもしれない。
『魔神級』と呼ばれる領域は、上限が明確に決められていない為、第二形態のこのソフィでも『魔神級』と呼んでも差し支えないレベルだが、次の形態は間違いなく、同じ『魔神級』であっても強さの桁が変わる――。
今ソフィが出そうかどうか悩んでいる力は、これまでのように世界の崩壊を考えずに、純粋に力比べを行えるような領域ではなく、世界の崩壊を懸念しなければならないのであった。
(ある程度気をつければ大丈夫だろうか。攻撃を行う一瞬だけ力をコントロールすれば被害は最小限で済む筈。それに途中で駄目だと思えばその時に『魔神』の奴を呼ぶなり考えればよいのだしな)
ソフィはひとまず懸念を頭の片隅に追いやり、そして思考を放棄する事でその先にある自分の欲求の源泉に飛び込むのであった。
「ミスズ殿とやらに伝えておきたい事があるのだがな……」
「……っ、な、何かしら?」
警戒を続けながらソフィを見ていたミスズは、突然自分に話し掛けられた事で少しだけ用心をするように刀を持つ手を揺らしたが直ぐに返答を行った。
「我はこの後の力を出す為に少々興奮状態に陥るかもしれぬのだが、やりすぎてしまう事が多々あってな……。何を言っているのかと思うかもしれぬが、これ以上は無理だと判断したならば即座に抵抗を止めて参ったと素直に申して欲しいのだ」
「はっ……?」
ずるりと眼鏡がズレ落ちていきそうになるのをミスズは、必死に左手で添えて素っ頓狂な声をあげながらソフィの言葉に耳を傾けるのであった。
「構わないだろうか? これはとても大事な事なのだが」
何の冗談だと思ったミスズだが、どうやらソフィが誇張行為を行っているようにも見えない。
「え、ええ、よ、よく分かりませんが、本気で訊ねられておられるようですので、こ、こちらも真摯にお答えしますが、分かりました。か、構いませんよ?」
こうまで他者の本心が理解出来ない事をそう経験をしたことがないミスズは、一体ソフィは何を狙ってそんな事を口にしているのか分からず、今度は先程とは違って直ぐに言葉を返さずに十分に間をとってから答えるのだった。
「それを聞いて安心した」
本当に心の底からそう言っているのだろうと思えるソフィの様子に、これから一体何が起きるのだろうかとミスズは、刀を持つ手に力を込め始めるのだった。
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