1101.チアキの同情心
※加筆修正を行いました。
その場に居る者達は誰も目を背ける事なく『コウゾウ』と名乗っていた人間の最後を見届ける。
「さて、それではもう行きましょうか」
王連の恐ろしい怪力によって目を開けたまま跳ばされたコウゾウの首を見て、笑みを浮かべていたヒュウガだったが、やがてそれも飽きたのか、縛りが解けて動けるようになったキネツグとチアキを一瞥した後、何事も無かったかの如く、軽い声で屯所を出ようと声を掛けるのだった。
他の者達は呆けた表情でコウゾウの首を見つめていたが、ヒュウガのその言葉によって全員の視線がヒュウガに降り注がれた。
「そ、そうですね……! 早くこの場を離れないと『妖魔退魔師』達がこの場に来てしまいます」
「ええ、ひとまずはキクゾウと合流を果たしましょう。まずはキクゾウと連絡を取る為に『煌鴟梟』のアジト近くの山へ向かいますよ」
ヒュウガの言葉に他の者達は一様に頷くのだった。そして地上へと戻って来たヒュウガ達だったが、そこで屯所の玄関口近くで倒れ伏せているシグレ達を見たジンゼンがヒュウガに向けて口を開いた。
「他の『予備群』達は、このままにしておいて宜しいのでしょうか?」
「そうですねぇ、殺しておいても構わないのですが、コウゾウ殿と最後に交わした大事な大事な約束ですからね。男同士の約束ですから、生かしておいて差し上げましょうか」
『約束は守らないといけませんから』とばかりにヒュウガは、笑いながらジンゼンにそう言うとジンゼンは同意するように頷いた。
妖魔召士のチアキは『煌鴟梟』のアジトで戦ったシグレとは、同一人物とは思えない程に顔が腫れあがって顔中が傷だらけのシグレに、どこか同情するような視線を向けた。
(お前はあたしの手を飛ばしやがったし、気に入らねぇ奴だったがよ……。今後のてめぇの事を考えると、流石に同情するぜ……)
チアキはその場に立ち止まると『煌鴟梟』のアジト内での出来事を思い出していく。
あの時シグレが慕っていたコウゾウに手を掛けようとしたチアキに激昂し、なりふり構わず襲い掛かってきたシグレの気持ちを思い出したチアキは、この後に目を覚ました後にそのコウゾウのあんな姿を見たシグレを想像して、流石のチアキも辛そうな表情になるのだった。
(わりぃな、若いテメェが立ち直れるか分からねぇが、出来る事ならもう『予備群』なんざやめて、田舎に帰って親孝行でもしろよ……)
チアキはそう言ってシグレの元にしゃがみ込むと、自分の懐から決して少なくはない『金子』が入った巾着袋を意識のないシグレの手を掴んで開かせた後に持たせる。
「何をしてんだチアキ? おいて行くぞ」
前を歩いていたキネツグが後ろで突然座り込んだチアキに声を掛けると、シグレの顔を見ていたチアキは最後にシグレの前髪を優しく掻き分けた後、優しく額を撫でてその場から立ち上がった。
「ああ、分っている。すぐ行くよ」
後ろ髪を引かれる思いを抱きながら、チアキは自分の道を歩いて行くのだった。
…………
ヒュウガ達が屯所の地下に捕らえられていた『妖魔召士』『キネツグ』と『チアキ』を回収してこの場を去った後、静かに意識を失わされていたシグレは屯所の玄関口で目を覚ました。
「うっ……、痛ぁ……!」
目を覚ましたシグレは『王連』に殴られた箇所部分をさすりながら、何故ここで眠っていたのかを朧気ながらに考え始める。
そして自分の右手に持っていた身に覚えのない金子の入った巾着を見て、ぼやっとした表情で不思議そうにしていたシグレだったが、そこで少しずつ意識を失う前の事を覚醒していく。
「はっ!? そ、そうだ、確か『妖魔召士』達が攻めてきて……!」
ようやくヒュウガ達の襲撃やその中で天狗の妖魔『王連』にやられてしまい、自分は意識を失わされたのだというところまで思い出したシグレは、慌てて痛む頭を手で押さえながら立ち上がる。
「た、建物が無茶苦茶です……! それに他の連中に隊長は?」
シグレはそのままフラフラとした足取りで、一度屯所の外に出てみる。
「こ、これは『結界』!?」
いつからそこに張られていたのか、屯所の入り口付近にだけ『人除けの結界』が張られていた。
内側に居るシグレには結界の影響はないが、どうやら外側に居る一般の者達からは屯所内で何かが起きたとしてもそう言う物だと判断させるような、人(妖魔)除けタイプの結界で、本能に訴えかける捉術を得意とする『妖魔召士』が扱う『人除け』の類の『結界』のようであった。
「誰も居ない……。隊長たちは一体どこに?」
シグレが表に出た後に『結界』の外側へと出て隊長たちや『|妖魔召士《ようましょうし』達の姿を探すが、既に外にはその姿はなかった。
やがて屯所の中に戻ったシグレだったが、その屯所の中から慌てた様子で、部下の『予備群』がシグレの元へ現れるのだった。
「副隊長……! め、目を覚まされましたか。す、直ぐに、直ぐに地下へ来てください!!」
「そんなに慌てて、何があったのですか!」
「副隊長、こちらです……」
嫌な予感を感じながらも部下にそう告げるが、報告に来た部下はシグレに目を背けたかと思うと、地下の方へと駆けていく。訝し気に眉を寄せながらもシグレは、痛む頭を押さえながらも部下の後をついて行くのだった。
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