1089.大出世と溜息
※加筆修正を行いました。
ケイノト方面に向かったキクゾウ達と別れたヒュウガは、数名の『妖魔召士』達を引き連れて数日前までソフィ達が居た『旅籠町』に向けて歩を進め始めるのだった。
その旅籠町の護衛を任されているコウゾウは、いつものように町の警備を終えた後にシグレの待つ屯所内へと戻る。
本来であれば夕暮れ時の外回りの警備は、シグレの担当時間だったが、もうすぐこの『旅籠』の護衛隊長を『予備群』のシグレに任せようと考えているコウゾウは、屯所内の仕事の引継ぎがてら、これまでコウゾウがやっていた仕事をシグレに任せ始めている為、外の警備はもっぱら隊長のコウゾウが担っていた。
どうやらコウゾウもこの旅籠町には思い入れがあるようで、その目にこの風景を焼きつけておこうと考えたのかもしれない。
元々コウゾウは『予備群』の中でも、上から数えた方が早い程のエリートであり、これまでの実績を踏まえれば十分に『妖魔退魔師』の総本山である『サカダイ』の護衛専門に就く事も出来ていたのであるが、本人たっての希望で別の町の護衛を買って出ていたのである。
本来はサカダイの上位の『妖魔退魔師』達が、一介の予備群の顔と名前を覚えている者は少ないのだが、コウゾウの事は各組長に副組長を含めた『妖魔退魔師』の最高幹部達もコウゾウの事を記憶しているのであった。
勿論戦闘に於いてコウゾウは『妖魔退魔師』や『妖魔退魔師衆』には届かないが、サカダイに居るエリートの『予備群』達が相手であれば誰にも負けない程の実力者なのである。
そんなコウゾウだからこそ本来は、シグレが隊長を務めていてもおかしくなかったこの旅籠の町で、直ぐに隊長がコウゾウへと替えられたのであった。
この旅籠の町に『妖魔退魔師』の護衛が就く前までは『ノックス』の世界の数ある旅籠町の間でも、この旅籠周辺は相当に治安が悪く、どうしようもない地域だった為、コウゾウは正義感に駆られてこの旅籠の治安を回復させようと思い、この場を志願して来たのであった。
その治安を乱していた原因の多くが『煌鴟梟』であったのが『煌鴟梟』も現在はコウゾウ達の手によって壊滅したと本部に伝えられており、その時の事が要因で『妖魔召士』達と別件で問題が生じる事態とはなったが、それはコウゾウや『煌鴟梟』の件とは別の事であり、コウゾウは勲章物の手柄をまた一つ手にして『サカダイ』の町へと戻る事になるだろう。
今回の一件でコウゾウは、本人の希望に関係なく昇進を決定づけられて、今後は本人が望もうが望まないが、本部付けの『予備群』筆頭の頭となるだろう。
更に言えば前述した一件で『妖魔召士』との話合いが上手く纏まれば、それこそキッカケを作ったコウゾウは『妖魔退魔師』衆を名乗る事を許される可能性もある。そうなればもうコウゾウは、立派に『妖魔退魔師』の仲間入りであった。
そしてコウゾウは『妖魔退魔師』の副総長ミスズからこれまで何度も『妖魔退魔師』本部付けの『特務専門』部署に推薦を受けている。
この部署の長もまた副総長のミスズが兼任しており、そのミスズが直接コウゾウを推薦しているという事はつまり、自分の直属の部下になれと暗に告げているのであった。
単なる戦闘要員であれば当然『予備群』のコウゾウよりも、本部付けの『妖魔退魔師』衆や『妖魔退魔師』と名乗れる力量の者も多く居るが、ミスズはコウゾウの戦い方に才を見出していて、この部署に居る他の者達と同じように自分が育てて強くしたいと考えているようである。
この特務専門部署は自身が戦うだけが全てではなく、各地に散らばる町の護衛を務める『予備群』達の実績などを見て、次の護衛先を決めたりする役割を担ったりもする場合もある。
ほとんどは総長や副総長が決める事であるのだが、その副総長の座に居る者がミスズであり『特務専門部署』の長の座に居るのもまたそのミスズである為に、ミスズに任せられた者が全国に居る者達に指示を出す立場となる。
つまりはこれまで指示を出されていた側だったコウゾウが、本部付けの数人しかいない特務専門部署に配置されるようになれば、今度は今のコウゾウの立場に居る各地の護衛の『予備群』達に指示を出す側の立場へと変わる事になるという事であった。
『特務専門』部署は序列的にも最高幹部の次に来るために『妖魔退魔師』組織の『予備群』が最後の経歴であるコウゾウであっても、これからは本部付けの『予備群』合わせて本部付けの『妖魔退魔師』衆よりも立場は上になる為に、出世という意味では過去の歴史上『妖魔退魔師』組織でこれ以上ない程の大出世になるわけである。
「身の丈にあっていない役に付くのは御免なのだがな。流石にいつまでも副総長のミスズ様の推薦を一方的に拒み続けているわけにもいかぬか……」
今後『旅籠町』を離れる事になった後の事を考えていたコウゾウは、この町の自分の屯所が見えてきた辺りで溜息を吐くと、旅籠の町を見渡しながら独り言ちるのであった。
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