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最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。  作者: 羽海汐遠
サカダイ編

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1069.零れ落ちそうな水

※加筆修正を行いました。

「えらく事情に詳しいんですねぇ、エイジ殿。エイジ殿は今の『妖魔召士(ようましょうし)』組織から、追放されたと聞かされていたけど、どうやらそれはただの噂だったって事かな」


 エイジの態度を見て真実を見定めようとスオウは煽るように告げるが、スオウに冷静な視線を向けながらエイジは再び口を開いた。


「事情に詳しいのは当然だ。小生も偶然その場に居合わせていたからな」


 『妖魔召士(ようましょうし)』の仲間が『妖魔退魔師(ようまたいまし)』側の『予備群(よびぐん)』を襲っていたところをその場に居合わせて見ていたと告げるエイジに、スオウはわけが分からないと言うような表情を浮かべるのだった。


「貴方はお連れの方をこの町まで、案内していただけなんですよね? どうしてそれで『予備群(よびぐん)』が、襲われる場所に居合わせたんですかね。本当は『予備群(よびぐん)』を襲わせようとしたのは貴方なんじゃないですか?」


 言葉ではそう告げるスオウだが、内心ではエイジが『予備群(よびぐん)』を襲わせたとは思えなかった。


「心にも無い言葉を言いなさるなスオウ殿。お主とて小生がそなたたちを襲うなどと、本気では考えてはいまい?」


「そうですね、失礼しました」


 素直に謝罪をする所を見るとエイジの言う通り、スオウは本音ではエイジがそんな真似をする筈が無いと分かっていたのだろう。


「引き留めて申し訳なかった。こちらの副総長にイダラマ殿に対して目を光らせておくようにと言われていたのに、恥ずかしい事に見失ってしまったものでね。その所為で少々気持ちが荒立っていたようだ」


 普段のスオウを知らないエイジだったが、確かに喋り方に一貫性が無く、敬語を使ったりそうでなかったり、まさに彼自身の言葉の通り、焦りがそうさせているのだろうなとエイジは目の前のスオウと言う少年を見てそう考えが過るのであった。


「しかし、イダラマの目的が分からぬな。組織の中心に居ない小生の言葉を信用しろとは言わないが『妖魔山(ようまざん)』の管理をそちらに移したいとは『妖魔召士(ようましょうし)』側は誰も思ってはおらぬ。イダラマが勝手にしようとしている事のようだ。あやつが一体何を考えているのか分からぬが、十分に注意をした方が良いであろうな」


「そうですね。御忠告感謝しますよ、エイジ殿」


 しっかりとエイジの顔を見ながら言葉を聞いていたスオウは、ゆっくりと首を縦に振って頷いた。


「……」


 そこで話は終わるだろうと考えていたエイジだったが、スオウはまだ何かあるようで、話そうかどうかと逡巡している様子を見せていたが、やがて意を決したかのように再び口を開いた。


「エイジ殿『妖魔召士(ようましょうし)』の組織を半ば抜けられている状態とはいえ、忠告だけはしておきますが、今回の一件は決して許される事ではない。今うちの総長と副総長達がそちらに話をしに向かっているが、そこでゲンロク殿がどのような返答をするかによっては、うちは本気で貴方がた『妖魔召士(ようましょうし)』と事を構える事になるでしょう。貴方はうちの先輩方や、前時代の方々とも付き合いがあったお方だが、命令が下されれば俺達は全員その命令に従って行動を開始する。そこには一切の私情は挟めないという事は十分に留意しておいて下さいね」


 『妖魔退魔師(ようまたいまし)』側と『妖魔召士(ようましょうし)』側の戦争が始まれば、如何に両組織の中に居る者達が懇意の間柄であっても『妖魔退魔師(ようまたいまし)』側は命令が最優先されるのだと、スオウは真顔で告げるのだった。


 見た目は少年のように若いスオウだが『妖魔退魔師(ようまたいまし)』の組織に所属している幹部なだけはあり、いま告げた言葉には説得力を感じさせる力が込められていた。


 それは決して見た目通りの少年では無く、筋の通った屈強な精神を持つ、()()()()()()()のようにエイジは感じた。


「それじゃ、失礼するね」


 やがて数秒程もの間、エイジの様子を見ていたスオウは、エイジに軽く頭を下げた後にそのままサカダイ方面へと駆けて行った。


 ヒュウガの下した命令から起こった今回の出来事は、今後両組織の溝がさらに深まるような、決して元に戻ることが無い亀裂が入ったのだという事をスオウの後ろ姿を見ながらエイジの頭に過るのだった。


 覆水盆に返らずという言葉があるが、今エイジはその水が零れ落ちようとしているところを、どうすることも出来ずに黙って見ているような感覚であった。


 やがてスオウの後ろ姿が見えなくなるまで見届けたエイジは、奥歯を噛みしめた後にケイノト方面へと再び歩を進めていった。


 その歩の向いた先は方向は同じでも、少しばかり行き先が変わった事はまだ、この時には誰にも分からない事であった。

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