1029.惚れ込み、誓った忠誠心
※加筆修正を行いました。
イダラマはサカダイの町に足を踏み入れてから、あらゆる場所から自分に向けて視線を放たれている事を理解している。
自分が『妖魔召士』である事を示す正装をしている事も勿論関係している事なのであろうが、その視線の中には殺意めいたものまであるのだから改めてこの町は油断出来ないと『イダラマ』は気を引き締め直すのであった。
「あまりいい気分じゃないなぁ、この町はいつもこうなのかい?」
イダラマと共に行動をとっている青い髪の少年『エヴィ』がぽつりと言葉を零した。どうやらイダラマに向けられていた視線をそのまま横に居た事で『エヴィ』にも向けられたのだろう。好意的な視線と呼べる物では無かった為に、エヴィは不満そうであった。
「まぁそう言わんでくれ。ここは俺達の故郷でな? イダラマ様が『妖魔召士』だという事に拘わらず、余所者が入って来た時には最初は警戒心を強めているんだ。何もしなければ直ぐに警戒心は解かれるから少しの間は辛抱してくれ」
イダラマの護衛を務める予備群の大男『ウガマ』が初めてこの町に来たエヴィにそう説明をすると、大きなピアスをつけているもう一人のイダラマの護衛である『アコウ』が笑いながら口を開いた。
「カッカッカ、お前さん、もしかしてビビッているのか? 大物ってのはいちいち視線を向けられたぐらいでお前みたいな反応しねぇでドシッと構えているもんだぜ?」
「そりゃ悪かったね。元の世界じゃ僕にこんな視線向けて来るような奴なんていなかったもんだからさ」
アコウがエヴィを煽るようにそう告げたが、加護の森近くの洞穴に居た頃とは違い、アコウは別に悪意があって口を挟んできたのではなく、こういう風に絡む事で他者とコミュニケーションを図る人物だとエヴィも理解している様子であった。
「そうかい。ここはケイノトや『妖魔召士』の長が居た里のような甘い場所じゃないからな。絶対に暴れるような真似はよすんだぞ」
エヴィはアコウに忠告された後、いくつかの視線の先に居る者達を見る。
(見ただけで魔力は大した事が無いっていうのは分かるんだけど、どうやらこの世界の人間は魔力が大した事無くても侮れない奴らがいっぱいいるから揉める時は『特異』を用いて一瞬で黙らせないとまずそうだな)
アコウに揉めるなと言われて直ぐに、揉めた時の事を考えるエヴィであった。
「さて。とりあえずは、お前達の主の元に案内してくれるか?」
話が一段落したところを見計らってイダラマが元『予備群』の二人にそう告げると、アコウとウガマも同時に頷いて『妖魔退魔師』の長の居る場所へとイダラマを案内する為に歩き始めるのであった。
……
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イダラマ達がサカダイの町に入ってから、ここまで来るまでにいくつもの屯所が建っていた。流石は『妖魔退魔師』達の居る本拠地なだけがあり、町の造りからしても防衛に力を注いでいるのが分かる。
イダラマは今から向かう『妖魔退魔師』の元で、一世一代の決意で対談に望もうと考えている。
――彼はもう『妖魔召士』の組織に戻ることは出来ない。
暫定の長とはいっても、現状一番の組織のトップに近いゲンロクの里を襲い『妖魔召士』の長に代々伝わってきた『転置宝玉』を盗んでここに来ている。
『妖魔退魔師』の組織との交渉に失敗すれば彼はもう戻るところがない以上、今後は『妖魔召士』や『退魔組』を敵に回してひっそりと生きて行かなくてはならなくなる。
彼は後戻りが出来ないこの状況になって尚、自らの野望の大きさと秤にかけて何も間違った事はしていないと笑みさえ浮かべてこのサカダイの町を歩いていくのであった。
アコウとウガマは『妖魔召士』であった彼が『妖魔退魔師』の町を堂々とした態度で歩くのを見て、どこか誇らしそうにしながら胸を張って歩いている。
その様子を傍から見ながらエヴィは、自分が生涯忠誠を尽くすと決めた主の顔を思い浮かべて大事に持っている『金色のメダル』を両手に持ち直して握りしめるのであった。
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