1009.妖魔召士、チアキ
※加筆修正を行いました。
キネツグとエイジが言い争いを始めた頃、アジトの施設の前の入り口付近に居るソフィ達の元に、もう一人の『妖魔召士』である『チアキ』が空から降り立ってくるのだった。
「さて、ヒュウガ様から直々に殺すように指示された二人。ソフィとヌーと言ったかしら? 残念だけど、この場でこの世から消えてもらうわ」
チアキが笑いながらそう言うとソフィが口を開こうとするが、その前に隣に居た『妖魔退魔師』の組織に属する『予備群』である『コウゾウ』が声をあげた。
「あなた方を『妖魔召士』の方々とお見受けした上で言葉を出させてもらうが、この二人は俺達『予備群』の護衛隊がその身柄を預かっている立場だ。この人攫いの一件が終わるまでは、彼らに手を出すような真似は控えてもらいたい」
元々この一件は『煌鴟梟』のアジトへコウゾウ達を案内した時点でその契約は済んでいる為、コウゾウが今告げている事の真意は、彼らの命を守ろうとしての意であり、その発言なのであった。
「は? そんな事、知らないわね。元々私たちが先に『二人組』に目をつけていたのよ『予備群』だかなんだか知らないけどねぇ、邪魔をするならアンタも消し去るわよ?」
コウゾウは目を丸くしながら驚いた。先程までならいざ知らず、コウゾウが自分達を『予備群』と伝えた上で『妖魔召士』である彼女が、そんな発言をするとは思わなかったのだ。
『妖魔召士』と『妖魔退魔師』は組織の大きさは現在は同等程度。しかし今の『妖魔召士』側の組織の長であるゲンロクは正式な長ではなく、あくまで暫定の長である為、色々と『妖魔退魔師』に対して強く出られない状態である。
決して表に出る事はない、両組織の過去の利害に関わる取り決めや柵。各地の街々に今も続く、妖魔絡みの互いの組織の利権の問題などもある。
そう言った内情からも二つの組織は、表面上は『五分五分』の組織ではあるが、実際には『妖魔召士』組織側の旗色は悪い。
現在は直接的な組織同士の揉め事などは無い為、これまでこういった風に『妖魔退魔師』側が主張をすれば『妖魔召士』側は体裁を保ちながらも一歩退くというのが通例であった。
そしてそれは『妖魔退魔師』の下部組織という位置付けになる『予備群』であっても例外ではなく、条件をつけたりはあるだろうが『妖魔召士』側が退くだろうとコウゾウは睨んでおり、そう言う思いで口を出したのだが、まさか返ってきた言葉は彼の思っていた予想を大きく越える発言であった。
『予備群』である『コウゾウ』に『妖魔召士』側が手を出せば、当然その母体となる『妖魔退魔師』側も何もせずに黙って指をくわえて見ているわけにもいかない。
「俺は条件とまではいわないが、この一件が終わるまでは待って欲しいと告げたつもりだが、貴方はちゃんと理解して我々にまで手を出すと、そう言っているのか?」
彼女の発言をより明確に示す為、コウゾウは再び口を出した。
「ははは、回りくどい言い方をしても馬鹿そうなアンタには伝わらないのか。じゃあ仕方ないから馬鹿なアンタにもっと分かりやすく言ってあげるね?」
にこりと笑みを浮かべた後、チアキは目を見開きながら言葉を吐き出す。
「引っ込んでろよ、クソ雑魚! 『妖魔退魔師』でもない『予備群』風情が一丁前に『妖魔召士』様に上等コイてんじゃねぇ! あたしがそこの二人を狙うって言ったらさっさと身を引いて言う通りにしろよ! 悔しかったら保護者である『妖魔退魔師』にでも泣きつけよダサ坊。文句は『妖魔召士』側の長である『ゲンロク』が後で聞くって伝えな!」
――彼女は決定的な言葉を明確にした。
この『妖魔召士』はもう冗談で済ます事が出来ないところまで踏み込んだ。 『妖魔退魔師』側の『予備群』が『妖魔召士』側と揉めた際、しっかりと提案を提示したにも拘わらず、その提案を一方的に破棄し挙句の果てには、不服があるなら『ゲンロク』に伝えろとまで告げてきた。
一介の組織の人間がその組織のトップの名前を出したのである。物事の大きさを把握出来ない、年端の行かない者という事でもなく、役職的にも『退魔組』や『予備群』では無く『ゲンロク』を長とする『妖魔召士』の組織に属する、いち『妖魔召士』が問題を大きくさせてしまった。
「分かりました。物事の道理を無視した貴方がこちらの提案を無視した挙句、文句を直接『ゲンロク』様に言えと貴方は仰られましたね? この事は包み隠さず上に報告させて頂きますよ?」
表情から色を失くしたコウゾウが淡々とそう告げると相当に苛立っているのか、チアキと呼ばれた女性は額に青筋を浮かべ始めた。
「うるっせぇなぁ!! いちいちゴチャゴチャ、ゴチャゴチャよぉ! てめぇら雑魚は、あたしが告げた事に大人しく従っていたらいいんだよ! ヘラヘラ馬鹿みたいに笑顔浮かべて、媚でも売ってろよダサ坊が」
そう言った直後『チアキ』は目を青くさせながら『コウゾウ』の前まで歩いて行く。
「!?」
コウゾウは近づいてくるチアキに対して何も抵抗が出来なくなり、全く動かない手足に狼狽していたが、その直後に恐ろしい形相をした『チアキ』に思いきり股間を蹴り上げられた。
「あっ……、ひゅっ……!」
「た、たいちょう!!」
次の瞬間『コウゾウ』は悶絶するかと思える程の激痛に動くようになった手で、必死に股間を押さえて倒れ伏せた。
「ひゃははははっ!! アンタ今、すっごい情けない顔しちゃってるよぉ? あたしに逆らうから、そんな無様な姿を晒しちゃうんだよぉ!!」
股間を押さえながら涎を垂らして苦しむコウゾウの顔に足を乗せた後、ぐりぐりとその足でコウゾウの顔を踏みにじり、気分を昂揚させながら足元のコウゾウを見て大笑いを始めるチアキだった。
そしてシグレは無表情のまま俯いてチアキの言葉を耳に入れながら、地面に伏せながら苦しんでいるコウゾウを見て唇を噛みしめるのであった。
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