1003.存在の大きさ
※加筆修正を行いました。
「大丈夫か?」
ヌーはヒロキをこの世から消滅させた後、ヒロキに顔を思いきり殴られた事で脳を揺らされて、脳震盪を起こしているであろうテアの元へ向かい気遣う。
「――」(歩くのは大丈夫。でも戦闘は少し無理かも)
「そうか。野郎の拳を無防備に受けてやがったからな。ひとまずは休んでいる方が良いな、一度町へ戻るか」
「――」(私の事は気にしなくていいよ、少し休めば大丈夫だから)
「そうか……」
『煌鴟梟』の組員達は、ヒロキが負ける筈がないと考えていたのだろう。目の前で消滅させられて姿がなくなった事で茫然と立ち尽くしていた。
ヌーがテアと会話をしていると、背後からコウゾウの大きな声が聞こえてきた。
「シグレ! 全員取り押さえるぞ、急げ!」
「了解です、隊長!」
ヌーとヒロキの戦闘を見守っていたコウゾウだったが、今が好機だと考えたのだろう。決着がついたところを見計らい、コウゾウはシグレと共に中庭に居る組員達の捕縛に動き始める。
『予備群』の二人は刀を抜くと一瞬で組員達に肉薄していき、刀の柄の部分を使って、次々と気絶させていく。
どうやらこの場に居た連中は、ヒロキ以外は一般の人間だったようで、コウゾウとシグレは、敵と斬り合いをする事も無く、大勢居た『煌鴟梟』の組員達を組み伏せ、気絶させて制圧を果たしていく。
ソフィとエイジはその様子を少しの間見ていたが、やがてヌーとテアの元に向けて歩いて行く。
「いやはや、お主はまだそのような力を隠しておったか」
テアと会話をしていたヌーだったが、ゆっくりとエイジの方見た。
「別に隠していたわけじゃない。いつものように気に入らねぇ野郎を潰そうと、動いただけだったんだがな」
自分でも出そうと思って使った力ではないだけに、きっかけが何で先程のようなオーラが出せたのか、ヌー自身が理解していないと言った様子で、エイジにそう答えるのだった。
「元々お主は『金色のオーラ』の体現を果たしておった。そしてどうやら我の想像を越える程の研鑽を、お主は積んでおったのだろう。そして『三色併用』を体現出来るという領域まで来ていたお主は、後はキッカケ次第だったという事だな」
ソフィの言葉を頭で反芻させながら、ヌーは自分の両手を見る。
「あれは『三色併用』というのか。確かにこれまでとは違い、あの感覚の状態は何でも出来る気がした。一つの『理』のスタックで、これまでは極大魔法と閃光系の魔法の同時無詠唱は出来なかったが、あの感覚の中であれば問題なく使えたな」
ヌーは先程の状態を思い起こしながらそれを知る存在であるソフィの前で、自分の感覚の感想を説明していく。
どうやら同じ『三色併用』を纏う事が出来るであろうソフィから、未知の情報を仕入れようと無意識にしているのだろう。
ヌーは強くなったからといってそこで満足はしない。こういう純粋に強くなろうと考えるところは『魔』の探求者であるユファや、強くなろうと必死であったレアと同じなのだろう。
そういう存在を好ましく思うソフィは惜しみなく『三色併用』についてヌーに情報を提供していくのであった。
「それは魔力の基となる魔力回路に余裕が出来たからだな。例えばお主の『魔力回路』のMAXが10だとしよう。そして『普遍破壊』や『万物の爆発』といった極大魔法系であれば、必要数値『普遍破壊』が6『万物の爆発』が4といったところだ。そこに全く違う別種の『天候系』や『閃光系』魔法が加われば、必要数値は『天雷一閃』が同じく6。そして『天空の雷』が3くらいだ。つまりお主がこれまで自分自身の魔力を魔法発動の為に、魔力回路に詰め込んだ時、魔力回路の最大値が10であった為に『普遍破壊』と『天雷一閃』が使えなかったのだろうな」
「ああ成程……。ってことはお前の今言った理論だと、さっきのオーラを纏った時の俺の魔力や戦力値とはまた別で、魔力回路自体の幅が広くなった事で極大魔法と閃光魔法が同時に扱えたという事か?」
「そう言う事だ『三色併用』を扱えるようになった事で、色々とお主がこれまで出来なかった事が出来るようになったという事だ。他にもいろいろと出来るようになってはいるだろうが、それは後はお主自身が自分で調べるがよいぞ」
全ての知りたい答えを一気に教えないところがコイツらしいとヌーは考えて、歪んだ笑みを見せるのであった。
「しかしお主。この後コウゾウ殿にまた捕らえられるかもしれんぞ。あれだけ苦労して交換条件を提示してやったというのに、また元の木阿弥だな」
旅籠町の屯所の地下でコウゾウ達が捕らえた『煌鴟梟』の連中数人に対して、ヌーが処刑を行った事で彼はまた、捕らえられる事になるところを捜査に協力する事で、帳消しにしてもらおうとソフィは条件を出した。
しかしこの場でまた彼はコウゾウの言葉を無視してヒロキを消滅させた。その事でコウゾウは、またヌーに対して何か言ってくるかもしれない。
「その時はまたその時に考えればいいだろう。そもそも捜査の協力は、人攫いの連中達のアジトを突き止める事だろう? 人攫いを今後止められるようになれば奴らも護衛として問題は無い筈だ。俺達はここに奴を連れてきた時点でもう協力関係自体は終わっている」
確かにその通りだったが、ヌーはまだ納得はしてはいない様子で、ヒロキを消滅させるだけではなく『煌鴟梟』の他の連中にも手を出したそうな顔をしていた。
どうやらヌーはまだ『テア』を狙わせたであろう『ミヤジ』という男や、あの宿屋に居た男。そしてこの『煌鴟梟』のボスとやらを葬るつもりらしい。
余程、このヌーという男はテアを狙った事を許せない様子である。ここまで他者の為に動くヌーは、これまで見たことがない。どうやら本当にテアを家族のように思っているのだろうとソフィは、首を縦に振りながらそう考えるのであった。
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