995.怒りを内包するヌー
※加筆修正を行いました。
アジトに張られていた結界を解除したソフィ達。
見事に結界を壊した立役者であるテアは、ヌーに褒めて貰えずにむくれていたが、その横でソフィが拍手をしてくれた為に、言葉は分からないテアも照れながらソフィに頭を下げるのだった。
そしてちょうど結界を壊し終えたところで、背後から追ってきていた『エイジ』や『コウゾウ』達もソフィ達の元へと合流を果たすのであった。
「ソフィ殿！ 突然我々を放っておいて、そこの男を追って先に向かうのは酷いではないか！」
コウゾウは自分達に説明をせずに勝手にセルバスを追いかけた事で、ソフィ達に憤慨をしている様子であった。
「むっ……、すまぬなコウゾウ殿。こやつを追いかけるにあたって、少々急がなければならぬ事情があったのだ」
ソフィは謝罪の言葉を掛けた後、セルバスは大魔王領域に到達している魔族であり『隠幕』を使われてしまえば追う事が難しくなる為、悠長に説明をしている暇がなかったという事をコウゾウ達に説明する。
「それならば誰か事情を説明出来る者を寄こすと……か」
そこで文句を言っていたコウゾウが、ちらりと一緒に居たテアとヌーを見るが、あっさりと捕らえた男達を燃やし尽くしたりして破天荒な事をするヌーや、そもそも言語が分からない女性のテアが残ったところでしっかりと事情を説明してもらえなかっただろうとコウゾウは理解した為に、言葉は尻すぼみになっていくのであった。
「まぁまぁ、こうして無事に合流出来たのだから少し落ち着いたらどうかな。コウゾウ殿」
「そうですよ隊長。エイジさんが居てくれたおかげで盆地地帯で、ソフィさん達を見失わずに済んだのですから、もうよしとしましょうよぉ」
コウゾウをエイジとほんわかした口調のシグレが宥めると、渋々とではあるがコウゾウも納得する表情を見せるのだった。
そして話が一段落した頃を見計らってヌーは、アジトの門扉の引き戸を蹴り飛ばした。バコンッという大きな音を立てた後、引き戸であった門扉が吹き飛んで行ってアジトの中庭が外から見えるようになった。
「てめぇら。もう話はその辺でいいだろう？ 中を見てみやがれ。俺達が入って来るのを今か今かと待っている連中が待っているようだ」
風通しの良くなったアジトの入り口から中を覗いて見ると、敷地内の中には多くの人間が、武器を持って侵入者のソフィ達を処理しようと中から出っ張ってきていた様子であった。
「てめぇら、ここがどこか分かって乗り込んで来てるんだろうなぁ？」
中に居た『煌鴟梟』の組員が、一歩前に出てドスの利いた声でそう言い放った。ヌーはその言葉に舌打ちをしながらゆっくりと足を前に出して、つかつかと敷地内へ入って行く。
そして敷地内の中庭の池の前に立っているその男の前まで辿り着くと、威嚇を行った男を上から見下ろす。
「て、てめぇ！！ 何だこの野郎！！」
流石に二メートル近く身長があるヌーに詰め寄られて圧力に耐えられなくなったのか、組員はヌーの胸倉を掴もうとした。
しかし男がヌーの身体に触れる前に、ヌーは思いきり足を前に蹴り出して、胸倉を掴もうとした男を吹っ飛ばす。前蹴りでそのまま吹っ飛んで行った男は、中庭にある池の中に頭から突っ込んでいった。
その場に居た者達が驚きながら池の中に落とされた男を見る。
ヌーに蹴り飛ばされた男は、微動だにせず池の中で意識を失っていた。
「てめぇら、さっさとここのボスとやらを出しやがれ。早くしねぇとてめぇらを皆殺しにするぞ」
ヌーは大きな声ではなく、更には声を荒げるような事もせず、淡々と冷静にいつもの声色でその場に居る全員に告げるのだった。
『煌鴟梟』の連中だけではなく、ソフィやエイジ。それにコウゾウ達も池に男を落としたヌーを注目していた。
誰も自分に注目していない事を確認したセルバスは、ゆっくりと前を向いたまま、アジトの外側から更に少しずつ距離をとる。
（いいぞ！ 俺から意識が逸れている今が好機だ。まずは『隠幕』を使い、そして一気に高速転移でこの場から離れる。数秒程の空を移動をしながらの魔力スタックを行い『概念跳躍』でまずはここから座標の近い世界へ移動だ。次元の狭間にさえ気をつければ、何処に跳んでもいい！）
アレルバレルの世界へ跳ぶにはしっかりと集中をして、座標を的確に合わせなければならない。
今の状況でそこまでの時間を掛ける余裕は無い。
まずはここから近い世界へ跳んで、落ち着いてから再び移動しようとセルバスは、このタイミングで逃げる事を決意するのであった。
しかしその決意をしたセルバスは、誰も見ていないと判断して笑みを浮かべていたのだが、そこでいつの間に移動していたのか、自分の背後から両肩を掴む存在が現れた。
「あら？ 一体どこへ行こうとしているのですかぁ？」
慌ててセルバスは後ろを振り返ると『妖魔退魔師』組織所属の『予備群』である『シグレ』がにこにこと笑いながら、この場を離れようとする『セルバス』の手をがっちりと掴むのであった。
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