前編
世界観に疑問あったらよければ質問してください。正直自分でもなにがなんだか。
皆さんこんにちは。私は吉野優花、名門吉野家の長女であり、跡取り娘、のはずでございます。みなさん一体どういう状況かわからないというお顔をしてらっしゃいますね?それでは、もしよかったら私がご説明いたします。少々長くなりますがよろしいですか?え?私は全然大丈夫です。むしろ誰かに少し聞いてほしいと思っておりました。
さて、まずどこから説明しましょうか。そうですね、まずは私のことについてお話しましょう。私は吉野優花、現在花園学院高等部3年生なのは先程も述べたとおりでございますが、そもそも吉野のお話をするには昔に遡って説明する必要がありますね。そもそも今の日本には、旧華族や皇家の分家筋など、大きな力を持つ家系がいくつか存在しております。そのうちの一つが吉野家。吉野も分に漏れず、昔天皇が政治をしていらしたころに、要職で働いていた血筋でございます。また、吉野のものは皆管弦に優れていた、雅な人が多かったと伝えられています。そのためか今は吉野家とその分家筋で楽器生産とその販売を行っておりまして、そのシェアは国内では多くを占めています。さて、私はそんな家に生まれたわけですが、私には2歳下の妹がいます。妹の名前は花乃。私は綺麗、美人と評されるのに比べ妹は可愛いと言われることが多いようです。前話が少し長くなってしまいましたが、今から話したいのは主に花乃の我が儘で起こってしまった出来事です。
また説明になってしまうのですが、そもそもなぜ私が跡取り娘と決まっているかというと、それも生まれたときの話なのです。この国では、娘が主人となり、婿入りした男とともに家を継ぐのが習わしです。そして、跡取り娘には、名前に「花」あるいは花に関連する漢字を当てて名付けるという決まりがありました。古い家柄とはいっても全員が花の名前を持つわけではありませんが、私のときは私が長女として生まれたときにお祖母様が名付けてくださいました。幼い頃のことなので記憶にはございませんが、アルバムを見ると、跡取り娘と定められたためか私は厳しいしつけがあったみたいですが、両親祖父母との関係も良好で、どうやら愛されて育ったようです。ところが私が二歳になったとき、妹が生まれました。その時、今まで順調であったはずの我が家に激震が走ったそうです。そもそももうすでに私という跡取り娘がいたわけですから、妹には、妹が結婚するまでは私の補佐をさせるつもりで祖母は当然花の名前を付けるつもりはなかったそうです。ところが、生まれてきた妹を見て目の色を変えたのは母。一応吉野の主人は母ということになっておりますが、形式だけで、家のすべてを祖母が取り仕切っておりまして、私の命名さえ祖母の言うままにしたのに、突然妹を「花乃」と名付けたのです。娘可愛さにかわいい名前を考えて与えただけだったら祖母や周りの人もなにも言わなかったと思います。ところが、花の名前を付けてしまったら別問題です。国に出生届けを出すときに、花の名前を付けることで、国にも「とくに問題が起こらなければこの子が跡取り娘である」と知らせるようなものであります。ですから我が家本家筋、子会社を取り仕切る分家筋だけでなく、経済界の重鎮や資金提供をしてくださる後見人までも巻き込んだ大騒動が沸き上がりました。今更跡継ぎ問題?と思うかもしれませんが、吉野の場合は、昔跡継ぎ争いがおこったことがあるので、慎重になっていました。そこで、娘二人に相応の教育をさせながらもその問題について実に一年近く話し合った結果、跡取りは私決まったそうです。理由は予想つくと思いますが、娘それぞれのバックの問題です。私を跡取りにと望むのは祖母、妹を跡取りにと望むのは母ですから、当然現在権力を握っているのは祖母で、結局は周りもそれにしたがって祖母についたということです。なお、祖母はそれなりに年を取っていますが、まったく老いた様子もなく若々しい姿のまま毎日働いております。特に敵対している相手もいないわけですから、当然の結果ですね。さて、そこで、母がなぜ急にそんなに妹肩入れするようになったと思いますか?それにはまた母の複雑な事情があります。
母の名は菜々美。花は菜の花です。菜の花が本当に花なのか意見が別れるところですが、祖母はその不確かさに深い意味を持たせたのでしょう。なぜなら母はもともと跡取り娘ではなかったからです。母のもとの名は七海。もともとの跡取り娘は母の双子の姉で、菜月といいました。菜月さんは、教育のおかげもあってか、それはそれは優秀だったそうです。中学の頃にはすでに祖母の仕事を手伝っていたらしく、「菜の花は雑草に近い花ではあるけれど、月のようにキラキラ輝いている、名前負けしていない」と言われていたそうです。また、菜月さんは才女と評判も高かったので、可愛らしい容姿と相まって周りからも人気が高く、はやくから婚約の打診もたくさんありました。そこで中学1年のときに婚約を結んだそうですが、相手は八重家の御長男、晃弘様。八重も吉野と同じく旧家で大きな力を持つ家でございますので、これとなく良い縁談でした。ところが、母七海は菜月さんほどの才能はなかった上に、跡取りと見られていなかったためか若干甘やかされていたのもあって、もう中学の頃には菜月さんと七海は月とすっぽん。そのことわざのとおり、似ているのは顔だけでした。それから5年がたって、二人が高三のとき、問題が起こりました。菜月さんが失踪したのです。吉野の権力をもってすれば行き先くらいは絶対に調べがつきそうなものですが、その時祖母は見つからなかったそうです。何か理由があって菜月さんが意図して隠れたのか、そこで祖母は菜月さんを見つけたのか見つけられなかったのか。祖母はその時のことを詳しく教えてくれないのでわかりませんが、とにかくそれから跡取りは母になりました。そこで祖母は母の名を菜々美と変えました。しかし、母の名について世間では「雑草に近い菜の花に近いような品位のなさで、菜の花がお似合いだ」と言われていましたし、母も、姉のお下がりなかんじがする名前でとても嫌だったそうです。しかもそこでさらに吉野にとって不幸だったことは、相手側から婚約解消をされたことです。菜月さんじゃないと嫌だ、という理由で、失踪後すぐに解消され、祖母は慌てて他の相手を探しましたが良い相手が見つからず。母自身も恋愛はしていたみたいですが婚約までは至らなかったようで、結局、分家筋から相手を選び、祖母が母の婚約者に指名しました。さすがに菜月さんの失踪を表だって母の仕業だと言う人はいませんでしたが、菜月さんの失踪で得をするのはだれかということを考えると皆自然に疑いの目を向けるわけで、その空気のなか流石に婚約者のことまで祖母にさからえなかったようです。
それで、本当だったら結婚成人を待って、家の主人や実権は全て菜月さんに移動するところが移動せず、未だに祖母が握っているということです。
母にもいろいろ思うことはあったのでしょうが、優秀な姉菜月さんと常に比べられたこと、おそらく恋をしていた八重様まで奪われたことや、今現在まで祖母に牛耳られている現状に恨み、妬み、不満などが重なったと思います。そこに私と妹の出生。自分でいうのもなんですが、私は少し習えばすぐに出来てしまう質のようで、菜月さんに似ているタイプの私を見ることは、心の底ではとても嫌だったのでしょう。どこか自分に雰囲気の似ている、ふわふわし雰囲気の花乃をみて虜になったのではないでしょうか。まるで私と菜月さん、母と花乃を重ね合わせるように。
大分説明が長くなってしまいましたが、ようやく本題に入れます。花乃を溺愛し、私をないがしろにするようになった母は、目に見えるようにあからさまに花乃を贔屓するようになりました。跡継ぎ問題に関して物議をかもしていたときは、花乃も私の後を追うように厳しい教育があったのですが、それは母によって全て辞めさせられました。幼い子にそんなに詰め込むものではない。その言い分は一般人にこそ通るものだと思うのに、そうして花乃は大分甘やかされて育ちました。なお、そのとき、祖母は、跡継ぎである私はしっかり教育を受けているし、どうせ外に出しちゃう子だからと言う考えで母と花乃を放っておいたそうです。
そのあとは、同じ家にいるにも関わらず、私は祖母に、花乃は母に育てられ、ほとんど関わることがありませんでした。ですから、花乃の異常に初めて気づいたのは私が初等部二年のときでした。いえ、異常というのは違うかもしれませんね。名家の子にしては、です。一般の家庭の子だったら普通なのかもしれません。
前に何度か述べているように、私は教育と称し、多くの習い事をしておりました。そして、ある程度のところまで行ったら別のものに切り替える。それができたのも、私がやれば何でもそこそここなすという質のおかげでしょう。母は、花乃を私より優秀に育てようとしたのか、最初は同じように習い事をさせていたのですが、勝手に私と花乃を比べ、私より上達が遅く、時間がかかることで劣等感が苛まれたのでしょうか。すぐに全てを辞めさせました。ところが、私が二年のときに始めたピアノだけはわけが違ったのです。ピアノのレッスンを自宅でしていたときに音が聞こえていたのでしょうか。私がレッスンを受けたその日の夜、物心ついたときにはほとんど直接話したことがない私に向かってピアノを辞めるように言ったのです。最初は理由を尋ねましたが、とにかく、の言葉で教えようとはしませんでした。しかし、おそらくは花乃がやりたいと言ったのだろう。そして、同じことをして比較をされたくない。そう思ったのでしょう。一番私を意識して比較しているのは周りではなく自分だというのに。自分でも、ピアノは自分にあっているのではないかと思っていたのですが、そこまで逆らうほどのことでもなかったので了解して辞めました。
ところが、間違っていたかもしれない、と思ったのはそのあとでした。私と花乃が関わることがない、とは言いましたが、ほとんど話すことはない、というだけで普通にすれ違ったりはしますから、そこで会話をすることは十分可能です。母も祖母もいないときに花乃は話しかけてきて、
「ピアノあっさり辞めたんだ?」
と言いました。
「どういう意味?」
と聞くと、花乃は可愛い顔に似合う曇りのない笑顔でこう言ったのです。
「私ね、何でももっているお姉ちゃんが羨ましかったからお姉ちゃんから奪おうと思ったの。」
欲しかったら自分で努力すればいい話なのに、考えが歪でした。しかもそれを悪いと思っていない。花乃にピアノを譲ったのはすぐに間違いだったと悟りました。私はそのあとすぐにヴァイオリンを始め、もともと音楽はなんでも自分にあっていたのか、ヴァイオリンをずっと続けることになりました。それから、私は私の大切なものが奪われないように花乃と話すことはなくなり、疎遠になりました。
ところで、私と花乃が通っている学校は花園学院。幼稚部から大学部まであるエスカレーター式のお金持ち学校です。ここには、お金もそうなのですが、家の格式も判断されています。我が家のように旧家や、代々政治家を出す家系であったり。そういう家の集まりなので、品位のない子はとても少ないです。女性は、将来主人となるための勉強、男性も将来のために勉強するとともに、家と家の繋がりを深くするために何処に嫁ぐのかよく見極める場所になりますから、とても必死です。なんなら、ここでどのような縁を結ぶかが、将来の事業に関わります。家を栄えさせるのも衰えさせるのも、成人してからではなくすでに始まっているということです。そのような場所ですが、中等部高等部になりますと、男女お互いに気になる年頃です。先ほどは相手を見極めると言いましたが、もちろん能力を見ての結婚だけでなく恋愛結婚もあります。なので、この頃には恋仲になったり、婚約をする人が周りに増えてきます。我が家では菜月さんの例がありますので婚約をせず、なるべく自分で相手を決めるということになってはいますが、これも昔からの慣習で、未だに婚約申し込みなどは幸いなことに来ているようです。私は中等部で生徒会副会長をしておりましたので、その結果良い噂が広がっているのでしょう。また、菜月さんの再来か、と巷では言われているようです。しかし、生徒会は他意がなく引き受けたわけではなくて、本当は婚約者候補の相手の見極めのためでした。私に、生徒会会長の天宮将輝様が婚約を申し込んできたそうなのです。天宮様から生徒会副会長の指名があったのは祖母にそれを聞かされたときでしたので、初等部のときは自身の研鑽に忙しいという理由で断りましたが、これ幸いと引き受けることにしました。しかし、天宮様はそれで私が婚約を受けたとでも思ったのでしょうか。もともとそれなりに優秀で、自分に自信がある性格ではありましたが、我が物顔で私に指図をしてくるので気にくわないと思っておりました。
「天宮会長がが花乃さんを気にしだして、高等部の生徒会に引き入れようか迷っているようですよ。まだ高等部で生徒会長になると決まったわけではないのに。」
「というより、高等部に入った直後は一年だから生徒会メンバーにはなれても会長にはなれませんよね?二年後ならわかるけど、まさかそんなことも忘れて来年組閣するつもりでしょうか?」
こう報告してくれたのは私の友人の小田原由紀様と一条百合佳様です。私の友人方は情報収集が上手い方が多いのでとても助けられています。百合佳様は特に家が週間総合誌の出版を行っているということもあって、情報に目ざといです。そのような友達を、と意図して作ったわけではないのですが、皆さんこのように教えてくださいます。一応ここで言っておきますが、この学校には家柄、個人の能力、あるいは両方優れた方しかいらっしゃいませんが、私は特に家柄で友達を選ぶようなことはしておりません。家柄が良い方と繋がることは家の利益に繋がることが多いですが、中には没落ぎみの家もございますし、金銭目的で繋がろうとする家もあります。もちろんそれはそれですが、我が家は幸いに、事業は上手くいっていてお金にも困っていないので、家柄をすごく重視するわけではなく、どちらかといえば個人の能力で付き合う相手を選びたいところです。友達付き合いならなおさらです。結婚相手でしたら、能力あっても我が家とあまりにも家柄で釣り合いがとれなければそのかたに養子に入って頂くとかになるのだと思います。
さて、生徒会長と花乃のお話ですね。ここで生徒会長がどのように動くかでしょう。私は生徒会長には関心を抱いておりませんので、おそらく生徒会の繋がりがなくなれば関係がきれると思います。また、例えばその能力と生徒からの人気で高等部で生徒会長になったとしても、私的な興味で花乃を引き入れたら見下げたものです。花乃ははっきり言うととても評判が悪いです。取り巻きは吉野の家柄にたかってきた没落ぎみの家系の女子か、顔の可愛さで惹かれた、はっきり言うと無能な男性です。母のせいで甘やかされて育ったのもあって我が儘だし、本来この学院の生徒なら必ず持っているべき特技も一つもありません。所謂、家柄だけよくて能力がない部類に入ります。天宮様は少なくとも中等部までは有能だと評判高かったのですが今後はどうでしょうか。天宮様は陰陽師の家系で、自身はスポーツに優れてらっしゃいます。勉強のほうもそこそこできるようで、文武両道で顔よし、俺様ではあるけど実力が伴っているので皆から人気がありました。ですから、花乃と関わって天宮様自身のレベルが下がらないことを期待するのみでした。
そしてとうとう高等部。外部生も入ってきますが、全然接しないということはありません。むしろ、外部生は有名な家の出である内部生とコネを繋ごうとしますし、内部生は将来自分の家で働くことになる優秀な人をスカウトしたいからです。場合によっては結婚することもあります。そんなわけで、普段は友好的なはずなのですが、毎年、そこに水をさすようなことをする人がいまして、内部生が家の権力を使って外部生によい成績をとらないように脅したり、パシリのようなことをさせます。そして、私の代ではその中心に花乃がいました。初等部、中等部のときは、私を僻んでか、なにかいたずらや企みをしていたようですが全て情報部が潰したようですが、今回は花乃だけではなく花乃を中心にしたグループなので情報部も骨が折れるかもしれないと思い、外部生には私の名前を使ってよいと言いました。すると、花乃たちは最初はしつこく続けていても無視されていると気づいたのか、辞めざるを得なくなったようです。 なお、これは毎年のことなので上級生の受け売りなのですし、どうせそういう行動をする人たちは所詮家では爪弾きにされているので権力を使うことなどほとんどが不可能なのですが。実質そのグループで本当に権力を使えるのは花乃だけでした。しかし、花乃も情報部による裏操作で辞めたようです。
情報部とは、学内の情報を集め効果的に利用するグループです。要するに、行いがよく、本当に必要と判断される人には情報を渡し、逆に行いが悪い人には弱味を握って脅すのです。なお、情報部に誰が所属しているかは秘密となっていますが、とても大きな権力を握っています。日本国内の三権分立に例えるならば司法の役割です。そしておそらく、私に情報をくれる友達のなかに情報部所属がいるのではないかと読んでいます。私はほしいと思ったときにだいたい情報が得られているので、きっと情報部のお目にかなっているのだと思います。
さて、そんな騒動が収まったと思ったら、今度は花乃は男性方にすりよりはじめました。そう聞くと聞こえが悪いかもしれませんが、確かに花乃は悪評故に結婚申し込みはありませんし、自分で相手を探して世帯を分けるなり、嫁ぐなり家に残るなり様々な選択肢はありますが、いずれにせよ結婚するのは当然なことですので、相手が見つからなければ祖母に大したことない相手を当てられてしまいます。そんなわけで相手を探すこと自体は悪いことではありません。しかしよく考えてみてください。高校にもなって、思う相手が定まっていないことはありますでしょうか。いえ、それはあっても、どの家と関係を結びたいか、という利益不利益の面で全く考えていないことはありますか?この学校では当然ございません。外部生は入学当初から自分が働きたい家にアピールを始めますし、内部生は遅くとももう中等部の頃から見極めているはずです。花乃ももちろん中等部くらいから気になる男性にアピールはしていたみたいですが、まずは手っ取り早く落ちやすそうな男性から落としては捨て、或いは下僕にしてということをやって満足していたみたいです。ところが、それでは満足できなかったのでしょう。自分の結婚相手にぴったりな有能でかっこいい男性を、と高望みしたのです。つぎつぎとアタックしていたみたいですが、当然男性方もなびきません。そもそも悪評があって我が儘でただでさえ浮いている子に家の事業の資金援助以外に関わろうとするでしょうか。普通しませんよね。そこで、今回はわたしが口を出さなくても大丈夫かなと思ったのです。ところが異変が出たのは二年のとき。最初は嫌々相手にしていたはずの男性方が明らかに心変わりしているのです。大丈夫だと思って少し目をはなしたら気づいたら顔もよく家柄もそこそこよい男性がはべっていました。そのなかにすでに恋人がいる人もいたので、その女子にどうしたのと聞いてみると、ふられたというのです。これは、複数の男性の心を奪ったということなのでしょうか?ただ、陰謀で奪ったのならば情報部が脅しますから、正攻法で奪ったとしか考えられません。はべらすのはよくないことですが、度が過ぎたら祖母も何か対処するだろうと放っておきました。なお、二年の夏に件の生徒会長が生徒会を組閣しましたが、花乃をメンバーに入れるということだったので断らせていただきました。このときの生徒会長も含めた生徒会メンバーが花乃取り巻きです。中等部とは違う顔ぶれですが、誰も有名な方ばかりでした。副会長が花乃、書記が比嘉翔也様、会計が上田和樹様、そして、生徒会を信任したのが情報部所属の新島拓海様です。
比嘉様は、家は銀行経営をしてらっしゃいます。幼い頃には数学の国内コンクールで入賞したみたいですが、今は全く名前を聞くことがありません。今も数学は得意なのでしょうか?上田様は博物館を所有しており、家族はみな考古学や歴史面の研究者で、その道では皆有名な方たちと聞いています。上田様自身も一応はその方向に進むために文系で学んではいるようですが、運動神経がいいのでスポーツにかまけていて、家からは放置されていると聞いています。新島様は主に衣類の貿易をしている家系で、本人は美術に才能がありましたが、自分の絵が売れるほどではなくまだまだ研鑽重ねていかなければいけないはすです。ところで、そもそも信任にあたって個人名を出すことが異例です。例年は情報部から生徒会に信任するという文書が発行されるのですが、今年は新島様が名乗り出たようです。情報部では結構地位の高い場所にいるようで、情報部全体の賛同は得られていないけども、独断でもなんでも一回信任してしまえば覆ることはほぼないので文書をさっさと出してしまったのでしょう。皆、顔や家柄はよく人気があるので生徒からの不信任はありませんでした。
しかし、始めは人気の高い生徒会でしたが、当然長くは続きませんでした。学校の特性上、生徒会はかなり優れているメンバーの集まりであり、日本政界・経済界の縮図と言えるべき社会の頂点にいるのです。だからこそ生徒会は例外もなく内部生から、それも家の力が強い跡継ぎ候補が選ばれるのです。だから、生徒会に入るだけですごいと評価されますが、その生徒会のメンバーが一年で何をしたかでその人の能力が測られます。要するに、ただの学校生活をする以上に実績を上げるチャンスでもありピンチでもあるというわけです。しかし、この方たちは何も理解をしていませんでした。何か新しく企画を立てなければ評価されないというのにやることは去年のをなぞっているだけ。今まではそれを修正する優秀な補佐がいたからよかったもので、いないなかで誰もやりません。花乃にはべっては愛を囁き、花乃の我が儘を叶える。この方たちがはべるようになってから、私は花乃の持ち物に見覚えのないものがみるみるうちに増えていくのを見ていました。最初は髪飾りや筆記用具など、値段的に可愛らしいものでしたが、だんだんとブランドもののバッグやネックレスなどのアクセサリーに変わっていき、花乃はそれを積極的につけて周りの人に自慢しているようでした。まあ一番自慢したい相手は私だったのかもしれません。そんなことをしているわけですので、生徒会の評判日に日に悪くなっていき、半年後の二年冬にはおそらく不信任投票あったら不信任されているのではないか、というくらいに落ち込みました。
実際は、生徒会メンバーは顔だけはもともと人気あったので、アイドルを信仰するようなかんじで一定数の狂信者はいらっしゃいましたが、ふつうの生徒は徐々に生徒会に期待するのをやめていきました。
おそらく後編は前編の予想を裏切りません。妹がこの優秀な姉に一糸報いる瞬間あるのかな?妹は甘ったれでかなり馬鹿という設定で書いたつもりです。