第五話
支部長に任務を受けた俺たちはすぐにオルーノの街へと出発することとなった。
ちなみに、レリルの扱いについては取りあえず新人シスターとして俺の部下になった、という設定になっている。
「……ラルフ」
外に出て馬車に乗り込もうとしたとき、ナナが服の袖を引っ張り上目遣いで俺を見つめてくる。何だこの生き物、かわいすぎないか?今すぐ結婚式の準備をしなければ……!
「どうした?何か忘れ物でもしたのか?」
興奮していることを隠し、なるべく冷静さを装う。
「……甘味屋は?」
……あっ!完全に忘れていた。まずい、このままだとナナの好感度が下がってしまう……!
それだけは何としても避けたい所だ。
「もちろん忘れてないよ。今から行こうとしていたところだよ」
もちろん噓である。
「……ホント?」
嘘である。が、まあここでバレるわけには絶対に行かない。俺は誤魔化すためにナナの頭を撫でる。
「何言ってるんですか、今は任務中ですよ?」
するとレリルがため息をつきながら俺達をたしなめる。
正論だ。が、別に少しくらい遅れても問題は無いだろう。どうせついたら夜だし。
「まあまあ、少しくらい寄り道しても罰は当たらんだろ。神様だってそれくらい許してくれるさ。そうだろう?それとも、君の上司はそんなに頭の固い人なのか?」
「ええ、とっても頭の固い人ですので間違いなく怒りますね」
天界の住人はなんて頭が固いんだ……。
「じゃあこんなかわいい女の子を泣かして良いって言うのか?」
神が駄目なら今度はナナをだしにしてみる。さっき泣かしてしまったんだ。きっとレリルの心は罪悪感で一杯に違いない。
その証拠に彼女の整った顔が少しゆがんでいる。いいぞ、これは効いてるに違いない。やったぞ、これでナナの好感度も上がる!後でレリルにも何かフォローしておくか……。
「ラルフさん、あなたってもしかしてロリコンって奴ですか……?」
顔をゆがめていたのは罪悪感じゃなくて嫌悪感だったか……。
「断じて違う!というか、ナナとは同い年だ!」
そう言うと、レリルは少し焦りながらナナの方を見る。ナナは顔を赤くしてフードを被りうつむいている。やっぱりまた泣いちゃったか……。
レリルに抗議の目線を送ると、ほんの少しこちらをみて申し訳無さそうに視線を送ってくる。これは、助けてってことか?
はぁ、仕方ない。
俺はため息をついた後、ナナに近づく。
「ナナ、大丈夫か?」
返事が無い。顔を近づけるとなにやらぼそぼそと呟いている。
「ラル……かわ…・・どうし……」
うーん、なにを言っているのか今一聞き取れない。
「おーい?」
仕方ないので肩に手を置いて軽く揺らすと、耳と尻尾がビクッと動いた。
「な、なに?どうかした?」
顔を上気させたナナがこちらを見る。
あれ、泣いてない……?
「聞こえてなかったのか?」
「……なにが?」
よかった、考え事してたのか。
俺は心底安心する。
「いや、何でも無いよ」
俺がそう言うと、ナナが首をかしげながらこちらを見つめてくる。
その仕草が可愛すぎて若干正気を失いそうになるが、すんでの所で耐える。
「……ラルフ、甘味は?」
ナナが物欲しそうに聞いてくる。が、レリルは首を振っている。残念ながら頭の固い天使様にはゆずる気配はなさそうだ。
「仕事中だと神様と天使様が怒るから終わるまで待とうな」
俺がそう言って頭を撫でると、ナナは頬を膨らませてむう、と抗議の声を上げる。
「……終わったら絶対ね?」
「ああ、絶対だ。何でも頼んで良いぞ」
そう言うとナナは満面の笑みで頷いた。なんとか機嫌を直してくれたみたいだ。若干財布に痛そうだが、まあ背に腹は変えられない。
ナナの機嫌も直ったので馬車にのろうとすると隣にレリルが近づいてきた。
「やっぱりロリコンですね」
俺にしか聞こえない小さな声でそう言うと、馬車の荷台に乗り込んでいった。
「だから違う!」
抗議の声を上げるが既にレリルには聞こえていないようである……。
この天使、もしかして性格悪い……?




