第三話
その女性は、まさしく天使であった。
髪も瞳も黒く、我々のイメージする金髪碧眼ではないのだ。
ではないのだが、それでもなお彼女は天使である。
それほどまでに彼女は美しかった。天使を連想させる物は何一つ存在しないのにも関わらず、なおその美しさでもって威圧される。目をそらしたくなるような強烈な美しさであった。
「はじめまして。あなたが、私を護衛してくれる神父ですか?」
透き通るような綺麗な声で天使は俺にそう訪ねる。
いつまでも聞いていたくなるような誘惑に駆られるが、俺はなんとか正気を保つ。
「アルベルト・ラルフだ。よろしく頼む」
簡潔にそう答えると、天使は微笑みながら近づいてきた。
やばい、緊張で汗が……。
「ラルフさん、ですか。私はレリルです。よろしくお願いしますね」
そう言って手をこちらに差し出してくる。
俺は服の裾で手汗を軽く拭き取り、彼女の手を握った。すると彼女も笑顔で握り返してくる。
可愛い、可愛すぎるぞこの天使。ナナとは別のベクトルで可愛い。それになんだかとても良い匂いがする。もっと嗅ぎたいな、ちょっとくらいなら顔を近づけてもいいんじゃないか……?
「やはりレリル君はいつみても美しいな!」
俺が一瞬理性を失いかけていると支部長が自分の髭を触りながらそう言った。レリルが一瞬顔をしかめる。
「ありがとうございます、支部長さん」
が、すぐに元通りの笑顔に戻し支部長の方へ笑顔を向けお礼を言っていた。
その仕草に、若干彼女の本性が見えたような気もしたが、きっと気のせいだろう。そうに違いない。だって天使だぞ?性格が悪い訳が無い。
その証拠に俺がレリルに顔を向けると、また彼女が微笑みかけてくる。天使可愛い。
「いたっ!」
いきなり後ろから足を蹴りつけられた。何事かと振り向くと、かなり不機嫌そうなナナが後ろに立っている。
「……ニヤニヤしすぎ」
「後ろからじゃ見えないだろ」
「……雰囲気でわかる」
り、理不尽だ……。
「ふふふ、仲が良いんですね」
俺とナナのやりとりを見ていたレリルがそう言ってナナに近づいていく。
「はじめまして、あなたはラルフさんの……妹?」
地雷を踏んだ音がした。
「……妹じゃない。私はラルフと同い年」
ナナの尻尾の毛がかなり逆立っている。口調からも、何とか怒り出すのを我慢しているのが伝わってくる。
止めないとまずい……。
「そう、そうなんだよ。ナナは俺と同い年でかけがえのない仲間なんだ、な?」
俺はそう言ってナナの頭を撫でる。尻尾の毛が大分落ち着いてきた。
「同い年なんですか!?え、ラルフさんおいくつですか?」
レリルがかなり驚いた様子で聞いてくる。
「18だよ」
レリルはナナと俺を交互に見て、目を細める。
ナナはかなり若く見える、というか普通にしていれば12、3才くらいに見える見た目をしている。まあ、そこが可愛い所何だが……。ナナ自信はかなり気にしているようで、ナナに対して子供っぽいなんていうのはNGだ。どうなるのかというと……。
「ナナさんはだいぶ、その……若く見えますね!」
レリルが若干言葉を選んでそう言った。もちろん、顔には微笑みが張り付いている。
……まずい。
「……ナナ?」
ナナの方を向くと、もう手遅れであった。
まぶたに涙をにじませ、体は小刻みに震えている。今にも泣き出してしまうだろう……。
そう、ナナは体型が子供っぽい事を指摘されると泣き出してしまうのだ。……可愛い。
俺は膝を突いてナナと視線を合わせて抱きしめる……。
肩がナナの涙でじわじわと濡れていく。
「あの、えっと……ごめんなさい」
レリルが申し訳なさそうに謝ると、ナナは少しだけ尻尾を振る。
「……ありがと」
暫くするとナナが掠れた声でそう言った。
「もう大丈夫か?」
俺が出来るだけ優しくそう言うと、ナナは小さく頷いた。
……かわいい、今すぐ籍を入れたい。
なんていう黒い欲望がではじめるが、何とか抑えて立ち上がる。
「ごめんなさい、次からは気をつけますね……」
レリルが目を伏せながら小さな声で謝ってくる。
「仕方ないよ、大丈夫」
反省しているようだし、怒る意味も無いだろう。
レリルの方を見ると、ホッとしているのか若干ため息をついていた。
「さて少々トラブルもあったが挨拶も終わった事だし、もう一つの本題に入るとしようか」
支部長が仕事モードのまじめな声でそう言うと、俺とナナは姿勢を正し支部長の方を見る。




