第二話
教会についた俺たちは、すぐに支部長室へと向かった。
「やあアルベルト君。お疲れ様」
部屋に入ると、筋肉質な強面の男――マッケンゼン支部長――がねぎらいの言葉をかけてきた。
「ありがとうございます、支部長」
俺は恭しく頭を下げる。
「例の魔女は?」
「馬車の中いますよ。もうここの神父に渡しておきました」
そう答えると、支部長は満足そうに頷いた。
「うむ、仕事は完璧にこなせたようだね。私も鼻が高いよ」
そう言うと支部長は、隣にいる副支部長になにやら指示をする。
「わかりました、ではすぐに連れてきます」
そう言って副支部長が部屋を出る。
「さて、本題に入ろうか」
そして支部長は俺たちの方へ向き直り、神妙な顔で話を始めた。
「君、天使は知っているかな?」
……いきなり突拍子もないことを聞いてきた。天使と言えばおとぎ話にでてくる神の使いで天界に住んでいる、らしい。もちろん実物を見たことはない。
「一応、寝物語に聞かされた程度の情報ですけど……」
俺は正直に答えた。
「まあ、そうだろうね。うん、まあ仕方ない。……では別の質問をしよう。君は天使という存在を信じるかね?」
「……それは実際に存在するかどうか、という意味ですか?」
マッケンゼン支部長は黙ってうなずいた。
いや、この人はいきなり何を言っているんだ?てっきり次の任務についての話しかと思えば……。まあこの人がどうでもいいような事を言い出すのは何時ものことではあるんだが、それにしてもこんな事は酒場で話すにしたって馬鹿らしい話しだ。
「特に気にしたこともありませんが……強いて言うなら我々とは関係ない別世界になら、いるのかも知れませんね」
「ふむ、そうか……」
俺の答えに支部長は少し考え込む。
「実はね、今回君には天使を護衛して欲しいのだよ」
――は?
何、え?天使って、何を言っているんだ??
天使の護衛??それは、つまりどういうことだ?
この人はついにおかしくなったのか……?
「驚くのも無理はない、だが天使は本当に存在しているし、今、この教会に来ているんだ」
驚きの余り何の反応もできない俺に対し、支部長は真剣な表情でこちらに話しかけてくる。少なくとも、これは嘘ではないのかも知れない。
「天使を護衛というのは、具体的に何をすればいいのでしょうか」
出来るだけ冷静なふりをして質問する。
「天使と一緒にある物を探して欲しいのだ」
「あるもの、とは?」
支部長は置いてあった珈琲を飲み一息ついた後、又話し始めた。
「天界へと繋がる鍵がこの国に落ちてしまったらしい。君たちには今まで通り魔女狩りを続けつつ、天使と共に国中を回りその鍵を見つけ出して欲しいのだよ」
何となく、理解は出来てきた。要は天使を仲間に加えて今まで通り過ごせばいいのか。それならまあ、余り苦にはならないかも知れないな。
俺は少しだけ安心する。
隣を見ると、ナナが耳を倒してブツブツ何か言っている。
ナナが耳を倒すときは、大体何か考えている時だ。大方、この話に飽きて今日食べるお菓子でも考えているんだろう。
「今まで通り魔女狩りは続けて、問題ないんですか?」
仮にも天使を護衛する立場なのに、そんなことをして良いんだろうか?
「ああ、それは問題ないよ。鍵は魔力を多分に含めている物だ。魔女が群がる格好の餌みたいなものだ。おそらく魔女の手に渡っている。であえるならば、狩りを続けながらの方が効率が良い」
「確かに、それならその通りですね」
俺は納得して頷いた。
「では、この仕事受けてくれるね?」
支部長が強面をさらに強ばらせて聞いてくる。
いやこええよ、そんなんじゃ断れる物も断れないだろうが。大体まず筋肉とスキンヘッドという組み合わせがどう考えても神父ではない、どちらかというとごろつきに近い。そもそも、俺はナナとの楽しい二人旅を邪魔されるのは嫌なんだが……。
などと、心の中で愚痴っては見るが仕事だから仕方ない。上司には逆らえない、勤め人の悲しい定めだ。
「もちろん、お受けしますよ」
俺がそう言うと、支部長途端に笑顔になった。笑顔も怖いけど……。
「そう言ってくれると信じていたよ!デリア君、入ってきた前!」
嬉しそうな支部長が、若干大きな声で副支部長を呼ぶ。
外で待機してたのかよ……。さっきのやりとりはそういうことだったのか。
少しして、支部長室の扉が開いた。
そして副支部長ともう一人別の女性が、支部長室に入ってきた。