第一話
魔女
人類の敵にして目下人類最大の脅威。
四年前、俺の師匠を殺した仇。
我らが主神の怨敵、闘争神より受けた加護がそなわり、飛躍的な身体能力の向上と、一人一種の魔法を授けられる。
代償として、別の人格が備わった様な感覚になるほど性格が好戦的、即物的になり、その身に刻印が刻まれる。
決して、許すことの出来ない奴ら。話しが通じる相手など殆ど居ない。おのが力を強くする為だけに幾人もの人間を殺戮する最低の連中。
我らが主神の敵。神の代理人たる神父にとって、こいつらはもはや人として見てはいけない奴らだ。
だけど、どうしてだろう。魔女を倒す度に俺の心は酷く痛む。こいつらにもきっと家族がいて、仲間が居て、恋人がいて……、そんなことを考えてしまうのだ。
考えてはいけない余計な事だとわかっているはずなのに……。
そういえば、師匠も魔女狩りの後はいつも悲しそうな表情をしていた気がする。
「ラルフ、どうしたの?」
馬車に乗りながら物思いに耽っていると、隣に座るナナが心配そうに顔を覗き込んでくる。
「いや、別に何でも無いよ。それよりそろそろ到着するから準備しておけよ」
俺はなるべく平静を装いながらそう答えた。
ナナは怪訝な顔をするが、それ以上聞いてくる事はせず黙々と準備を始めた。
ナナと魔女狩りを始めてからもう二年近くになる。きっと俺が何を考えていたのかもわかっているはずだがあえて口に出すような真似はしてこない。
やっぱり、この子と居るのはすごく楽だ。
「ナナ、後でいつもの甘味屋によっていこうか」
「……うん」
俺がそう言うとナナは耳をピクリとさせた後、素っ気なく頷いた。
内心とても喜んでいるのだろう。
その証拠に彼女のしっぽがぶんぶんと左右に振られている。
二年前のある事件をきっかけに、俺は獣人であるナナと二人で旅を続けている。
ナナの獣人としての能力は魔女狩りにとても役に立つ。まず、夜目がとても利き、耳や鼻がとてもいいので奇襲を受けにくい。さらに、運動能力が非常に高くまず魔女に逃げられる事は無い。そして何よりもとても可愛い。教会も、神父のパートナーに獣人を推奨しようかと検討し始めているほどだ。
数分後、馬車が目的地であるルノアレア教会に到着した。
「準備は出来てるか?」
「出来てる。これラルフの荷物」
そう言って俺の分の荷物を手渡して来た。ホント、よく出来た娘だなこの子は。嫁に欲しい。というか嫁にしよう、うん。
俺は心の中でそう呟きながらナナの頭をわしわしと撫でた。
「……くすぐったい」
ナナが嫌そうな声を上げる。だが、やはり尻尾はぶんぶんと動き回っている。
「ふふふ、体は正直だな」
今度は尻尾を掴む。
「……怒るよ?」
ナナが冷たい声でそう言う。
あ、これホントに怒る奴だ。
俺はナナの怒気を察すると素早く尻尾から手を離し、又頭を撫でる作業に戻った。
今度は満足そうな表情である。
「これは怒らないのか?」
「……知らない」
ナナは顔を赤くしながらそっぽをむいた。