第九話
満月のおかげで昨日よりも少し明るいオルーノの街を、俺は一人で歩いていた。
細かく別れた路地の一つを曲がると、前から短髪で茶髪の一人の女性が歩いてくる。
……エリーだ。
「奇遇ですね、エリーさん」
俺はさも偶然あったかの様に声をかける。
本当は他の自警団メンバーにエリーの今日のパトロールコースを聞いたんだがな。
「……こんばんは~ラルフさん。魔女の目星はつきましたか?」
エリーは少しの沈黙の後、すぐに昨日と同じ調子で話しかけてくる。
「いやー、なかなか難しいですね。まだまだかかりそうです」
俺は頭を掻きながら申し訳なさそうに謝る。
「そうですか、まあ仕方ないですね……。神父さんが居れば取りあえず事件は起こらないでしょうし、時間はまだまだありますよ!」
エリーが俺を元気づけてくれる。
明るくて優しい女の子だな、と改めて実感する。
「ありがとうございます、そう言ってただけると助かります。……ところで、そろそろパトロールも終了ですか?」
もう深夜だ。流石にもう飲んだくれている人も少ないだろう。
「そうですね~そろそろ終わりに使用かなって、思ってますよ」
よし、予想通り。
「そうですか!ならよかったらこれから少し話しませんか?」
エリーは一瞬顔をこわばらせるが、すぐにいつもの笑顔に戻る。
「それってナンパですか?」
エリーが首を傾げる。
「いやですか?」
俺がそう言うと、エリーは首をふる。
「そんなこと無いですよ!じゃあ、どこ行きましょうか」
「近くの酒場なんてどうですか?」
俺は改めて調べておいた酒場を提案する。
あそこなら静かで雰囲気もいいし、落ち着いて話すにはちょうど良いだろう。
「いいですね、そうしましょうか」
エリーはそう言って俺の隣に立つ。
「手、つないでも良いですか?」
上目遣いでそう言われ、思わず心臓が早くなる。
いかんいかん、俺にはナナやレリルがいるんだ……!
「いいですよ」
俺は笑顔でそう答える。
いや、違うんだ。これはその……あれだ!ここで断ると雰囲気が悪くなってこれからのことに支障が出るから仕方なくだな……。
って、俺はだれに言い訳してるんだ。今は集中しなければ。
「嬉しい、ありがとうございます!」
エリーは、本当に嬉しそうに俺に笑顔を振りまいてくる。
そして俺の手を握り、顔を耳元まで近づけてくる。
なんだか良いにおいがするが、気のせいだろうか。
「二人だけの秘密ですね」
俺の心はノックダウン寸前だった……。
次回から遂にクライマックスです。
ので、今回は短めですね。