第零話
R18版に加筆修正した趣味全開の物をノクターンに掲載予定です。
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どうして、どうしてこうなってしまったの……?
私は完璧だった、完璧に振る舞えていたはずだったのに!!
雨の降る暗い夜道を、私は懸命に走っていた。
振り返れば姿の見える距離から、もう二人ぶんの足音が聞こえてくる。
本当はすぐにでも立ち止まって足を休めたい、そんな衝動が私の中で駆け巡る。だけど、そんなことは許されない。
そんなことをしてしまったら明日にはただ魔力を産み続けるだけの家畜に成り下がってしまうから……。
逃げ切らないと、逃げ切ってもっともっと、神に報いなければいけないのだから!!!
私達魔女は常に命の危機がある。だからこういうときの為にいくつもの秘密の通路がある。そこまで逃げ切れれば私は生き残る事が出来る。
……あった!
目の前に猫の看板が見えた、あれは私達黒猫の魔女の象徴だ。
路地を曲がり、私達魔女にしか見えない魔法がかかった扉の中へと入る。
この扉は絶対に魔女以外には見ることが出来ない。後は暫く休んで仲間が来るのを待とう……。
私は目の前にある小さな椅子に座り、ホッと息をついた。
体中泥と雨で汚れたにおいがして、とても良いにおいとは言えない。きっと仲間達が来たら笑われてしまうだろう。
鬱陶しい姉さんの事だ、これ幸いに風呂に誘ってきたりするかも知れない。
そんなことを考えていると、不意に頬に水が垂れてきている事に気づいた。視界もかなり悪くなっている。
ああ、涙だ……。生き残った事への安堵からだろうか、私は気づいた時には泣いていた……。
恥ずかしいなぁ、こんなの姉さんに見られたらホント、どうなっちゃうんだろう。けど、楽しみだな。早く姉さんに会いたいな……。
顔の涙を拭いながら生き残った喜びに耽っていると、後ろの扉が開く音が聞こえ二人分の足音が聞こえた。
……二つ?
私は、最悪な考えが頭に浮かんだ。
そんなことはあり得ない、あり得てはいけない。
恐怖を噛みしめながら、ありったけの勇気を振り絞り後ろを向いた。
「こんにちは」
黒装束の死神が、悲しげな表情で私に向かって声をかける。
「なん、で?どうして、ここが……?」
かろうじて掠れた声で私はそう訪ねる。
「すまない、だが許して欲しい。君にあるのは降伏か、死か、それ以外には無い」
男は私の質問には答えない。代わりに、手に持った鎌を私の首にかけながら究極の二択を突きつける。
なんて自分勝手な連中なのだろう。傲慢で卑劣で、許しがたい。
きっと彼らも又、私達魔女に思っているであろう恨み言が頭に浮かぶ。
今までの行いが頭の中に浮かんでくる……。
家族や仲間との思い出や、人間を殺したときの記憶。それら全てが私の頭の中を駆け巡る。
だけど、最後に浮かんできたのは、そのどれでも無いたった四文字の言葉だった。
「……生きたい」
私がそう呟くと、男は安堵したようにほほえんだ。
「……わかった」
その言葉が聞こえたのと同時に、私の意識は暗闇へと消えていった……。