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オキュパイド・アース 作者:振木岳人

第1部 「棘の道」

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■プロローグ ~国営放送より抜粋~



 近代史研究家のイーサン・ヴィシー氏は、あの時代においての彼の存在を、こう語ってくれた

ーー彼はまさに英雄。兵士たちにとっても、民衆にとっても、ヒーローでした。出自について取りざたされた時期もありましたが、その異論すら軽く蹴散らすかの如く、華々しい戦果を上げて行ったのです。まさに、人類の救世主であったと言えますーー

 昨今では、専門家からプロパガンダの可能性も指摘され、未だに議論の絶えない話題ではあるのだが、当時、参謀部作戦課の責任者ニーナ・フライシャー准将の副官を務めていた、アラン・タイラーjr元中尉は、彼の存在は虚構ではなかったと主張する一人である。

ーー第二次南極攻略作戦、そしてフォールダウン作戦以降、彼無しでの作戦立案はあり得ませんでした。地図を使っての机上演習では、大隊規模の海兵隊や、亜宇宙戦術空母などの駒と並んで、間違いなく彼の名前が付いた駒がありました。つまり彼は、その存在だけで、一つの打撃部隊としての価値を、見出されていた訳です。軍が生み出したプロパガンダアイドルではありません、秘匿事項が多く、謎に包まれた存在ではありましたが、彼は真の意味で英雄だったのですーー

 戦時中、度重なる敗北と、組織の再編成で、民衆には厭戦気運が高まっていました。その中で、劇的な勝利と共に、彼の存在が民衆の知れ渡るところとなれば、風向きが百八十度変わると言っても、過言ではないでしょう。
空母フィン・マックールの衛生兵、マルティナ・ロドチェンコのご子息、ケンジ氏は、英雄誕生後の街の様子を、何度も母から聞かされたと言います。

ーー彼の部隊が乗った特務艦が寄港しようものなら、先に寄港していた艦隊のクルーたちが、一目見ようと総出で港に出て、兵隊たちで港は埋め尽くされたそうです。そうすると、騒然とする港の異変に勘付いたのか、今度は民衆が彼を見ようと、港に大挙して押し寄せ、街を上げての大混乱だったそうです。たまたま母は運が良かったのか、彼との記念撮影に成功したそうで、ふふふっ……父には内緒で、写真を大事に保管していたそうですーー

 だが一方では、栄光に包まれた彼の、闇の部分を指摘する者がいる。もちろん、彼自身の心の闇ではなく、周囲の彼に対する英雄願望が、多大な負担を与えていたと言うのだ。
今回、デイリー中京の社会部に在籍し、長くに渡って彼を見詰めて来た元記者、堂上誠一郎氏のコメントを取る事が出来た。
堂上氏は、大戦終結を機に記者を退き、その後は世捨て人の様に、外界との交流を絶って来た人物である。
核心に触れる様な、細かいコメントは引き出せなかったが、彼について語ってくれた事は、史実の補完と言う意味では、大きな前進とも言えよう。

ーーあいつは…神だったよ。上手く行けばチヤホヤされて、上手く行かなければ疫病神扱い。だから、あいつは本当の意味で神だった、無理矢理神にされちまったんだ……。それでもあいつは、そんな周囲の期待に応えようと、命懸けで頑張ってたよ、それこそ、死ぬ間際まで笑顔でな。……あいつは殺されたんだ、人類の大義名分と、巨大な依存心に、ぺちゃんこにされたんだよーー

 急に涙をこぼし始め、押し黙ったまま、家の中へと消えてしまった堂上氏。核心に迫るコメントを取る事は出来ませんでしたが、別れ際、我々撮影スタッフに、彼の写真を手渡してくれました。
生前の彼を写した、最後の一枚だと、氏は説明しながら、「この笑顔が、本物の笑顔だと思うか?」とだけ我々に言って、車に乗り込み、立ち去ってしまいました。

同じ部隊らしき兵士たちと一緒に並び、笑顔の彼が写っています。
まだ、大人になるには程遠い、あどけない顔、屈託の無い笑顔。
彼の澄み切ったその黒い瞳に、あの戦争はどう映っていたのでしょうか。


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