3ー0 「乱雑な狂気」
2093年 5月 4日 10時頃
静かな夜だった。
この静かな夜、1人の学生服の男が古びた橋を渡ろうとしていた。
「はあー………。またやっちまった。」
その男は、がっくりと肩を落としながら歩く。
男の名前は、坂田 利則。私立如月高校に通う2年生だ。
彼は週に2回、小さな骨董品屋でアルバイトをしていた。しかし、店主とのちょっとした衝突で、店を追い出されてしまった。クビである。
「こりゃあ、母ちゃんにキレられるな………。」
彼の不器用で安易な性格は、他人にうっとうしがられる所があった。その為、バイトをクビになったのは今回で3回目となる。
そんな彼は、橋を真ん中辺りまで渡った途端、ふと足を止めた。
「あ……………っ!」
橋の向こう岸に誰かが倒れている。
しかし彼には、倒れているのが誰なのか、一瞬で分かった。
先程、バイト先で彼が言い争った男……そう、骨董品屋の店主だった。
空を見ながら倒れる店主は、ピクリたりとも動く気配が無く、腹わたをぐちゃぐちゃにされて、床に血を流しているのは、遠くからでもよく分かった。
「な……、なんで…………?」
利則の膝が、ガクガクと震え出す。
「ど、どうなってんだよ…………?」
恐怖からか、声も震えてくる。
そんな時、
シャキ
と、ハサミの刃が擦れる音が、利則の背後でなった。
利則は、後ろを振り向かない。いや、全身が痙攣しているせいか、振り向く事すら出来なかった。
シャキ
その音が少しずつ大きくなっていく。次第にその音は、彼の耳元で鳴っていた。
「…………っ!?」
とてつもない悪寒が彼を襲う。
彼は断固として振り向かない。
今度はハサミの音ではなく、若々しい女性の声が聞こえた。
「ね……え…………?」
利則は、その声の女性が隣にいる事に気付いた。彼は横目でその女性を確認した。長い髪で全体の顔は見えなかったが、口が裂けている様に見える………。それだけ彼には見えた。
「…………え?」
利則は、つい言葉を返してしまった。
女は待っていたかの様に裂けた口を吊り上げて言った。
「私……き………れい……………?」
「!!」
その声で彼は我に帰ると、一目散に走り出した。
「うわぁーーーー!!」
彼は後ろを振り返らずに、無我夢中で走った。かなりの速度で走ったが、そう大して息はきれなかった。
「…………………。」
橋に1人残された女は、さらにひきつった笑みを浮かべて佇んでいた。
筆者です。
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