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双藍の箱  作者: ジニー
第二章 「破滅の眼」
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2ー1 「たった1人を残して」

出久は、自分が殺した13人の顔を頭に浮かべていた。

(俺は人を殺したんだな……?まあでも、元はと言えばあいつらも悪かった。)

出久が殺した人は全て、警察に追われていた、裏社会の人間だった。

(あいつらは死んで当然の事をしたんだ。死んで当然な…………。)

ふと、昔和泉が呟いていた言葉を思い出す。


「この世には、死んで良い人っているのかしらね?」


そう、いる。実際いたんだ。あいつもそれはよく知っていたはずだ。


「もう誰も殺さないで。」


また彼女の言葉を思い出す。

(なんでだ?あんな奴らに生きる資格なんて無いんじゃないのか?あいつだって…………。あれ、和泉?)

彼女の事を考えた直後、出久は、はっと夢から覚める。



「和泉っ!!」

夢から覚めると、少し薄暗い部屋の台で出久は寝ていた。

台から体を起こす。

「あれっ?ここはどこだ?」

自分の見慣れない光景に目を丸くさせる。そして今、自分が何も着ていない事に気付き、近くあった布を腰に巻く。

出久は周りを見回す。

周りには見慣れない器具や本が無造作に転がっており、第1印象は…………汚い。


コツコツ


「!?」

出久は部屋の外から段々と近づく足跡を聞き取った。

彼は本能的に、近くにある武器になりそうな物を探した。

しかし、散らかっているのにも関わらず、武器になりそうな物は1つも見当たらなかった。

その内、ガチャリと扉の音が鳴る。

「ごくり。」

出久は唾を飲み、相手の顔が見える瞬間を待った。


「あっ、起きたか?」

入って来たのは、マグカップを右手、左手に手帳を持つ、女の人だった。

「……………っ!」

出久は言葉を発さずに警戒する。

「ちょっ、そんなに警戒されるとこっちが困るよ、「東間」君。」

自分の名前を口にしたその人は、何故かあまり恐怖感を感じさせず、出久は少し警戒を緩めて話し出す。

「お前、なんで俺の相手の名前を知ってる?お前誰だ?ここはどこなんだ?」

「いきなり質問攻めか。……困ったな〜。どれから話せば良いのか………。」

と、頭を掻く茶髪の女性。

「まあ、とりあえずここじゃ話しづらいから、上で話そうか?」

「ああ、そうしてもらえると助かる。ここはなんだか息が詰まりそうだ。」

はあーと、息をつく出久。

「そりゃあ地下室だからな。地上と比べて空気が薄いんだ。さあ、こっちだ。」

と、彼女は手招きする。

それに従い、出久は彼女について行った。



2人は仕事場のような部屋に入った。

「今コーヒー淹れるから、適当に座っててくれ。」

それを聞いた出久は、部屋の壁に寄っ掛かるようにして、床に座った。

少しすると、女の人がカップを持って、出久に近づいた。

「イスがあるけど、良いのか?」

と言って、彼にコーヒーを渡す。

「床の方が落ち着く。」

「そうか。」

出久は差し出されるコーヒーを受け取った。

女の人は、自分のコーヒーを一口飲んだ。

「自己紹介がまだだった。私は【西行さいぎょう 阿嘉音あかね】。君は東間 出久で良いんだよな、東間君?」

「出久で良い。」

出久は小さく返した。

「そう、分かった出久。じゃあまずはさっきの質問に答えるか………。ここは日本の東京、如月町きさらぎちょうって所だ。」

「日本?」

「ああ、そして今は2093年の2月の2日だ。」

最後に阿嘉音が言った事に耳を疑う。

「は?ちょっと待て。2093年だって?そんなつまらん冗談を…………」

「良いや、本当だ。お前は145年以上の間、ずっと眠っていたんだ。」

彼女は、出久の言葉を遮るように告げた。

「眠ってた?ますます信じられなくなって来たんだが…………?」

「見るか?」

阿嘉音は今朝の新聞紙を出久に投げた。

彼はそれを受け取り、日付を見た。確かに2093年2月2日と記されていた。

「どうなってんだ?」

頭を抱えた。

「眠ってたと言うよりは、冷凍されてたと言った方が正しいか…………。」

「冷凍?」

「お前、昔…………いや、ついさっきか?ドイツ軍に捕まって実験台にされただろう?」

「いや、そんな事は初めて聞いた。さっき、いきなり後ろから殴られたんだからな。」

「それは気の毒…………。で、実験後冷凍室で保存されてたんだが、そこをアメリカ軍が攻めて占領して…………。まあ、それから色々あって、私が【お前達】を引き取ったって訳だ。」

「お前達?それじゃあ………。」

「ああ。もちろん和泉もだ。」

それを聞いて、出久立ち上がった。

「今、いるのか!?」

「上の階にいる。」

それを聞いて、出久は上の階に行こうとしたが、阿嘉音に止められた。

「待て待て。あいつはまだ寝てる。」

「え?」

「まだお前みたいに眠りから覚めてない。」

「いつ起きるんだ?」

「さあな。私には見当もつかん。」

と、阿嘉音は肩をすくめる。

「まあとりあえず、話の続きをしよう。私は表向きは探偵であって、裏は殺し屋をやってる。」

「あんたはあまり殺し屋って顔はしてないけどな。」

「ほう、言ってくれるな。まあ、私の場合はただの殺し屋じゃない。同族殺しって奴だ。」

「同族?」

「そう、私は【魔術師】だからな。」

そんな彼女の言葉に、出久は笑わずにはいられなかった。

「ふっ、魔術師!?何を言うかと思えば、ただのまじない師か。」

それにつられて、可笑しくなったのか阿嘉音も笑った。

「ちょ、失礼な奴だな?これでも私は歴とした魔術師、【マジスター】なんだぞ?」

「そんな事言って誰が信じるんだよ?俺は今149年寝てた事だけで頭が混乱してるんだ。」

出久は、そういう冗談は後にしてくれとばかりに彼女から顔を背ける。しかしその後、彼女の言った言葉で顔を戻す。

「お前の眼。それも元々は魔術に起源するものだぞ?」

阿嘉音のその言葉を聞き、彼は鋭い目つきで振り返る。言い方を変えれば、敵を見るように睨みつけている。

「お前、この眼のこと知ってるのか?」

「ああ、いわゆる【破滅の眼】って奴だ。」

「破滅の眼…………。」

「そうだ。」

ふうーっと一息ついて、阿嘉音は話し出す。

「この世界の全ての物・生命には、【魔力】が流れてると言われていてな。これが一般によく聞く、体力やスタミナ、活力ってやつだ。私達魔術師は、自分自身や、物に流れる魔力を利用して魔術を使う。物がこうやって形を保っていられるのは、魔力の流れる細かな線………いわば管のようなもので、物同士を繋げてるんだ。お前の眼は、その物に流れている線を見る事が出来る。つまり………」

「それを断ち切る事が俺には出来る………?」

「その通り。だがまだその眼は完全に開眼していない。今のお前の力はまだまだ序の口だ。」

「これがまだ?」

「その眼は月と似ていてな。お前は破滅の眼の中でも、【新月】っていう一級品を持ってる。まなこの光が黒く光った時、真の力を発揮する。まあ、お前にはそんな事言っても分からないか……。」

と、阿嘉音は苦笑する。

「その内理解する。」

出久はコーヒーを一気に飲み干す。

「それで、なんで俺を引き取った?」

「それを今から話そうと思ってたんだ。新月の眼を持っている、元殺人鬼のお前にいい仕事がある。この街の厄介者を全員こらしめてもらいたいんだが…………。」

また訳の分からない事を阿嘉音は言った。だが出久は、もういちいち質問するのが面倒臭くなってしまっていたので、即座に質問の答えを返した。

「悪いけど、もう俺、殺しはしないって決めてるんだ。」

「殺せなんてそんな物騒な事は言ってないぞ?話を進めるな。」

阿嘉音は「待て待て」と出久を制止する。

「この探偵事務所は少し特殊でね。普通の用件の他に、少々おかしな事も取り扱ってるんだ。例えば………【怪奇】とか。最近この周辺では、不可解な事が起こっているんだ。新聞などの様に一般に公表はされてないがな…………。」

「へー。そいつはちょっとだけ気になるな。」

「だろう。これからその情報を集めようと思ってる。」

「なんだ。まだ情報はないのか?」

「この事務所はまだ立ち上げたばっかりだから、それらの情報が少なすぎるんだ。だから2ヶ月くらいは仕事無し。どうだ?この時代に慣れる時間もあるし、今からって訳じゃない。」

出久は少し顔をしかめて立ち上がった

「…………悪い、他の奴をあたってくれ。」

「なんと。私はお前なら絶対やると思ったんだけど…………」

「やらない。」

出久は、部屋の隅に置いてある、埃まみれのジャンバーを拾って、それを着た。

「この服借りてくぞ。」

「どこに行くんだ?」

「外を見てくる。」

そう出久が言うと、ちょっと待てと阿嘉音が言って、袋を出久に投げ渡した。出久は袋をじーっと見る。

「なんだこれ?」

「金だ。今の時代お金を持って歩かないと終わるぞ。」

「そうか、悪いな。」

「いつでも戻ってきて良いぞ。」

「ああ、和泉が起きたら教えてくれ。」

出久は阿嘉音の顔を見ずに手を振り、家を出た。

「もう俺をいざこざに巻き込まないでくれ。」

そう1人つぶやき、住宅街を越えて大きな道に出た。

筆者です。内容の濃さが今作は違うような気が・・・って、まさかそんな訳ないですよ。ちゃんとあっちもあっちでもう1つの方も投稿していきます!

誤字・脱字がありましたら教えてください。よろしくお願いします!

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