1ー1 「日の姉弟」
「うっ、さむ!」
戦時中とは思えない、ドイツの穏やかな通りに、ヒュウッと風が吹いた。頭が冴えて、震えそうな風の冷たさを感じ、少年は目を覚ました。カーテンがパタパタと揺らいでいる。
「窓開けっ放しで寝ちゃったか。こりゃあ和泉に怒られちまうな。」
少年はベッドを出て、窓をバタンと閉めた。
「和泉はまだ寝てるよな?」
自分と反対の壁にあるベッドを見た。そのベッドで寝ている者は、こちらに背を向けながら、スウスウと寝息を立てていた。
次に、壁に掛かっている時計を見る。こつこつと音を立てて動く時計は、朝の5時に針が来ていた。
「少し早いけど、朝食の準備でもするか。」
部屋を出て、隣の居間に入った。
小さなカウンター1つで仕切られた台所で、トントンと野菜を切る。
朝はそんなに贅沢出来ない。今日はサラダと、小さなパンのトーストだった。贅沢出来ないと言っても、戦時中でみんなが飢えている時に、朝食で2皿を揃えられる。これで贅沢じゃないと言うのが、申し訳ないのではないか。と、少年は思いながら、テーブルに朝食を並べる。
調理器具をしまい終え、椅子に座ったところで、後ろの寝室ドアが開いた。
「あ、起きたか。おはよう和泉。」
和泉と言われた少女は、小さな声で「おはよう」と返し、自分も椅子に座った
2人は朝食をとった。少し静か過ぎて、少年は「はあ」とため息をついた。
和泉は大人しく、あまり人と喋るのが好きではない。2人で日本からドイツに留学して1年半経つが、彼はまだ毎日の朝食に物足りなさを感じていた。
「ごめんな、昨日は窓開けっ放しで寝ちゃって。寒かったろう?」
少年は、和泉に話しかけた。
「……………、」
和泉は話しかけられたが、少年の方に目線を向けなかった。
無視かあ、と。彼が思った時、彼女の口が開いた。
「ねえ出久。昨日の夜はどこに行ってたの?」
話を変えて来た。出久は外に出ていた事について聞かれ、いつも通りの返事をした。
「え、ただの散歩だけど?」
「本当に?」
やっと目線が出久に向いた。
「ああ、そうだけど。」
数秒間、こちらをじっと見て来た。そうしてぱっと目を離し、皿を重ねて、すっと静かに立ち上がった。
「そう…………。」
和泉は手を合わせてから、出久に、もう食べ終わったかと聞き、彼が答える前に彼の皿も流しに運んだ。
「朝食ありがとう。出久はその間に、学校に行く支度をしなさい。ついでに私のバッグも玄関の前に置いておいて。」
と言って、皿洗いを始めた。
出久は姉に言われるがままに彼女のバッグを玄関に置いて、玄関の外で待った。
しばらくすると、彼女は玄関のドアを開けて出て来た。
「お待たせ、行きましょう。」
2人は通りを歩き出した。
黒のコートを着ている出久に比べて、和泉は、まるで彼とは真逆の存在のように白いコートを着ていた。
出久はちらりと隣の少女に目をやった。
2人とすれ違う周りの人も思っていた事だが、出久と和泉の2人はよく似ている。似すぎている。まるで1つだった物が2つに別れたように。
双子の姉弟と言っても、2人はあまりにも似ているため、日本でもかなり有名だった。
和泉は前を真っ直ぐ見ている。自分と同じ黒髪で黒い眼。外見からも彼女の淑やかさが見てとれた。
唯一違うのは、背が少し彼の方が高く、若干、体つきが彼女の方が細いという、男女の違いだけだった。
(本当に俺そっくりだな………。)
出久はいつの間にかそんな和泉を見入っていた。
和泉は出久の目線に気づき、彼を見た。
「何、出久?」
出久は和泉が気づくと同時に、目線を逸らした。
「いや、なんでもないさ。」
「そう。着いたわよ。」
「ああ、そうだな。」
2人は通っている医学校の校門を静かにくぐった。
筆者です。結構こっちの方が書きやすいかも・・・。
誤字・脱字がありましたら教えてください。よろしくお願いします!