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双藍の箱  作者: ジニー
第三章 「憎悪の裁断」
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3ー8 「母との思い出」

ピンポーン

「ごめんくださーい!」

春の心地の良い朝、如月高校生徒会長の幹下 真優美は、「西行」という表札のついた家を訪ねていた。彼女はここに住む、東間 出久という男子生徒が昨日学校にいなかった為、彼の事を(あくまで)生徒会長としての立場上気にしていたのであった。

「はいはい、どうも…………。」

中から出て来たのは阿嘉音だった。

「君は、一昨日の………?」

「おはようございます、幹下です。東間君いますか?」

「ああいるぞ。………そうだ。今朝ご飯だから、一緒にどうだ?」

「朝ご飯はもう済ませてあるので、私は結構です。」

「そうか。まあ、お茶でも飲んで行ってくれ。ほら。」

「し、失礼します!」



阿嘉音に連れられて真優美がリビングに行くと、居るはずのない男がいた。

「あ、会長さんも来たんすねっ!」

そこには、他人の家の朝食を貪る藤堂 峰介がいた。

「なんで貴方がここにいるんですか………?」

「そりゃあ、ダチだからっすよ?そういう会長こそなんで来たんすか?」

「えっ!?」

峰介の言葉を聞いた真優美は、肩を上げて顔を赤くさせた。

「そ、それは〜…………まあ、生徒会長として!?一生徒である東間君の体調を心配して来ただけですから!?それだけですからっ!!」

「いや、そんなに顔を赤くさせて怒鳴らなくてもいいでしょうが………っ!!怖いっすよ……!?」

「あと、ここに来た理由はもう1つあります!」

そう言うと、真優美は阿嘉音の方を見る。

「なんだなんだ。次は私かぁ?」

阿嘉音は真優美から一歩後ずさり両手を上げた。

「西行さん。私もここで働かせて下さい。」

「え?」

「あの、この間見た映像の事………。まだ完璧に信じた訳では無いんですけど、でも、善良な人達を助けているという事実は理解したので。私もその手伝いが出来ればな〜………と……………。」

真優美の言葉を聞いた阿嘉音は静かに頷くと、ゆっくりと真優美の肩に手を置いていった。

「じゃあ、早速最初の仕事だ。上で寝てる出久を起こして来てくれないか?」

「え!?い、いいんですかっ!?」

「当然だ。これからよろしく頼むぞ、真優美。」

「は、はい………!ありがとうございます!」

真優美は笑顔で頭を下げると、元気良く階段を上った。

上に行くと、出久の寝てる部屋のドアをノックした。

「東間君、起きて下さい!朝ですよ!」

しばらくしても何の返事も返って来ないために、数秒待っていると、「中入っていいぞー!」という阿嘉音の声が下から聞こえて来た。

「え、中………ですか……………!?」

真優美は戸惑った。1人の女子生徒が、同級生の男子の部屋に入るのは如何なものなのかと………。

しかし、学校に遅れるわけにはいかないため、真優美は思い切って中に入った。

「し、失礼します…………。」

部屋の中は至ってシンプルで、家具は殆どなく、あるのは敷布団とベッドだけで、出久は未だに敷布団で眠っていた。

何故ベッドがあるのに床で寝ているのか。気になった真優美はベッドの方を見た。

「………え…………?」

するとそこに、まるで生きていないかの様に、毛布を被って静かに寝ている者の姿があった。



「…………間君…………、……………東間君………………、起きて下さい。」

出久は、誰かが自分の体を揺すっているのに気づいて目を覚ました。それからすぐに起き上がり、近くでしゃがんでいる者に目を向けた。

「真優美…………?何でここに?」

「やっと起きましたか。貴方、昨日学校を休んだでしょう?心配だから来てみたんですよ。」

「そっか…………。そういえば昨日休んだかも。」

「休んだかもって…………。まあ、元気そうで良かったです。…………じゃあ、私、下で待っているので、早く着替えて降りて来て下さいね?」

真優美はそういうと立ち上がり、部屋を後にした。

出久は、しばらくしてから気怠そうに立ち上がると、部屋のカーテンを開け、ベッドで眠る和泉の顔を見る。

「おはよう、和泉。」

 彼はそう囁いて、部屋から出た。




登校中、前で口喧嘩をする真優美と峰介の後ろで、出久と利則は昨日の話をしていた。

「今日の朝飯はこれまでの礼だ。」

「別にいらねーよ、礼なんて。………まあでも、味は悪くなかった。」

「それは何より。………なあ、1つ気になることがあるんだけどさ……?」

「何だ?」

「……俺の母さんって、確か自分に恨みのあるあの3人組を狙ってたんだろ?なのになんで質屋のおっさんが殺されたんだ?」

利則の問いに対して、出久は「ふぅ」と一息つくと、声のトーンを抑えて返答した。

「………あれが死徒って奴の正体だよ。」

「死徒………。」

「ブラッドオーブっていうのはな、欲望とか嫉妬とか……いわゆる、人の負の感情で生まれるもんなんだ。それは次第に、自分の元々持っていた目的を成し遂げるだけじゃ物足りなくなって、標的の範囲を広げていく。そして最終的には、無差別に人を襲う化け物になっちまうんだ。まあ、お前の母親の例でいくと、「あの3人を殺す」っていう目的から、「自分に関係のある者を殺す」みたいなものに変わっていったんだろうさ。」

「じゃ、じゃあ、質屋のおっさんは母ちゃんと何かしら関係があったって事か?」

「……さあ………?」

「さあって………っ!」

「そんなん俺は知らねーよ。無差別に殺されたのかもしれないし、関係があったのかもしれないしな。そこら辺は、もう、探っていったらキリないぞ?」

「そうか…………。」

「そうそう。」

出久は適当に何回も頷いた。

「…………あのさ、もう1つ聞いていいか?」

「ん?」

「今回の事で、あいつら死徒って言うのがとんでもない化け物って事は分かった。でもお前も、とれた腕をくっつけて直したり、走りや跳躍が人並み外れてたり、……お前は、一体何者なんだ………?」

利則の問いに前の2人も気になったのか、立ち止まって振り返る。

「俺か?そんなの………別になんだっていいだろ?」

「そんなのって………」

「ならさぁ。俺があいつらと同じ死徒だって言ったらどうするよ?」

出久は隣にいる利則を横目で見つめた。

「いや、別に俺は………何もしないけど………。」

利則の呟きに合わせて、前の2人もコクリと頷いた。

 「だろ?」

出久は3人を抜かした所で、何かを思い出して立ち止まった。

「じゃあ、死徒であるにしろないにしろ、もし俺が生きてる誰かを殺すような事があったらさ………。」

「……あったら………なんだよ?」

「その時はしっかり、俺を殺してくれよ?」

「「「………………っ!?」」」

 出久の言葉に、3人は驚き、目をパチクリさせ、同時にため息を吐いた。

 「はぁ……。なんか、お前が言うと、嘘には聞こえねーなぁ………。」

 「ですね………。」

 「まったくだ……。」

 「………えーっと…………?」

 今度は、その3人の様子を見た出久が目を瞬かせた。

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