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双藍の箱  作者: ジニー
第三章 「憎悪の裁断」
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3ー2 「屋上で」

出久は自分の通う如月高校の校門に着いた。

「よし、今日も無事到着っと。」

入学したての頃から、どの道も同じ様に見えて、よく道に迷って遅刻する事があった。

それが2週間前までずっと続いていたので、今日は無事に着く事が出来た為、出久は安堵した。



4月の初めの頃

出久は阿嘉音から、大きな紙袋を渡された。

「ほら出久、受け取れ。」

紙袋を受け取ると、意外と重みがあった。

「何だよ、これ?」

「高校関係のものが全て入ってる。明後日から、行って来い。」



これが始まりだった。

最初は出久自身、行きたくないと断固拒否したが、「高校生の噂は侮れないぞ。………という事で、これも情報集めの1つだ。行って来い。」なんて言われたら、何も反論する事が出来ない。

それで、彼は渋々学校に通っている訳だが、今のところ、いい情報は何1つ見つかってはいない。

「本当に行く意味あるのか、これ…………?」

出久は溜息混じりに呟きつつ、2年A組の教室に入り、椅子に座る。出久の席は窓側で、この高校のグラウンドや、学校外の街の様子を一望出来た。

ふと窓の外の運動場を見た時、以前通っていた中学校の事を自然と思い出した。

(懐かしいな………。)

かつて、出久と和泉は実家の近くの、小さな学校に入学した。卒業後、彼の親は、2人を名門の学校に入学させようとした。が、2人はそれを拒み、地元に残ったのだった。

(あの頃は楽しかったな………。あれ?じゃあなんで俺と和泉は、ドイツに留学したんだっけな…………?)

それを思い出そうとしていた時、

「よっ!出久。」

前の席に、誰かが腰を下ろした。

「よう、今日も元気そうだな?藤堂は。」

その正体はすぐに分かった。この学校で、出久の初めてのクラスメイトである、【藤堂とうどう 峰助ほうすけ】だ。

「そういえばお前、昨日の夜中、如月通りの、えーっと……?パチンコ…………店の前に突っ立ってたろ?何やってたんだ?」

出久は覚えたての言葉に苦戦しながら、疑問に思った事を尋ねると、途端に藤堂の顔が真っ青になった。そして、小声で話し始める。

「お、おい!誰にも言うなよ?……実は俺、金に困っててさ。だから、ちょっとだけ………な?」

「何だよ?金に困ってるなら言えば良いのに………。」

藤堂の問題発言に、出久は驚きもせず、バッグを漁り始める。相談事は誰にも漏らさない。藤堂は、出久の、こういう所が気に入っているらしい。

「お?金でも貸してくれるのか!?」

藤堂は出久に期待の顔を向けた。だがそんな期待も淡く、出久はメモ用紙とボールペンを取り出した。

「な、何だよそれ?」

出久はメモ用紙に何かを書き始める。

そしてすぐに、そのメモ用紙を藤堂に渡した。

「ほら。」

「ん?」

藤堂はそれに目を通す。

「電話番号?」

「ああ。」

「どこの?」

「俺の下宿先だよ。ここ、一応探偵事務所もやっててさ…………。俺入れて2人だけだから人手不足なんだよ。」

それを聞いて、藤堂は察した。

「…………まさか、働けと?」

「まあそういう事だな。」

「なんだよ〜。てっきりお前が金貸してくれるんじゃないかって期待しちまったぜ。」

「はあ?なんでお前に貸さなきゃいけないんだよ?それに、どうせお前、返さないだろ?」

「う…………っ!」

そんな話をしていると、

「藤堂君?そんなにひそひそと、なんの話をしているのかしら?」

同じくクラスメイトであり、如月高校生徒会所属の【幹下みきした 真優美まゆみ】がぐいぐいと詰め寄って来た。

「先程、こちらからパチンコという高校生には不適切な単語が聞こえた様な気がしましたが………。東間君は聞こえましたか?」

「ギクッ!………ま、まっさか〜!そんな話はしてないっすよ〜?な、なあ出久?」

「貴方には聞いていません!」

幹下は藤堂を睨みつけた。

「は、ハイ。スミマセン…………。」

藤堂はすぐに縮こまって静かになった。

「おはよう、幹下。」

出久は幹下に挨拶した。それを聞いた幹下は彼女自身の最高の笑顔で微笑み、出久の方を向いた。

「おはようございます。東間君。先程、こちらの方が何か怪しげな事を言っていませんでしたか?」

「別に。金が無いとかなにやらで、こいつにちょうど良いバイト先を教えてやっただけだよ。」

「なるほど、まあ!こんなロクでもない男にバイト先を教えてあげるだなんて、流石は東間君。やはりお優しいですね!」

そのやりとりを見ていた藤堂は、「何だよ?この扱いの差は!?」と言いたくなるのをぐっと堪えていた。

「あ、そうだ。幹下もやるか?探偵事務所でバイト。」

「まさか………彼と同じバイトを?」

「ああ、今は俺だけだし、一気に2人も入れば阿嘉音も喜ぶだろう。」

「出久君もそのバイトをやっているんですか?」

「ああ。そうだけど。」

幹下は腕を組んで考え出した。

ギロリと藤堂を見た後、下を向いて「うーん………」と悩み、再び出久を見た。

「分かりました。東間君がやっているなら、少し私も考えておきます。」

そうしてチャイムが鳴った。

「では授業なので失礼します、東間君。」

「おう、返事はいつでも良いぞ?」

幹下はそれに頷きを返し、藤堂をキリッと睨んだ後、上機嫌で自分の席に戻っていった。

「ったく………。おっかない女だぜ。」

「そうか?………てかそれよりも、パチンコって何だ?」

それからすぐに1限目が始まった。




昼休み。

坂田利則は、校舎の屋上にいた。

「……………。」

坂田は、昨日起きた事を思い返す。

「俺は昨日、店主の親父と言い争って、店を飛び出して、それから、それから………、橋を渡って、そしたら………………うっ!」

その後の、橋で起きた出来事を考えると、自然と吐き気が襲って来た。

喉にこみ上げてきたものを、坂田はぐっと押し戻し、上を向いて、大きく息を吸った。

空には細長い雲が伸びていた。

その穏やかな空を見て、ふーっと息をはいた。

「気のせいだよな?きっと………。」

坂田はもう一度深呼吸した。

だが、

【私……きれ………い……………?】

あの言葉が鮮明に、彼の脳裏によぎる。

それと同時に後ろから、何者かに肩を掴まれた。

「…………っ!!」

反射的に、坂田はバッと振り返った。

「大丈夫か?なんかお前、顔色悪いぞ?」

肩を掴んだのは会った事も話した事も無い男子生徒だった。

「その顔…………。朝、何も食べてないだろ?…………ほら。」

その生徒はビニール袋から、おにぎりを1個出し、坂田に渡す。

坂田は、その生徒の行動に唖然としていた。

それに比べて彼は、坂田の横に移動し、パンを頬張っていた。

「もぐもぐ………、どうした?食べないのか?」

口に含みながら、もごもごとした声で聞く。

「あ……、じゃあ、頂きます……………。」


2人はそれぞれ食べ終わったあと、お互い無言で校庭を眺めていた。

「あ、あのさ。」

坂田が話を切り出した。

「ん?」

「なんで、名前も顔も知らない俺にこのおにぎりを?」

そんな問いに、横の彼はこう答えた。

「いや、ただの気まぐれだけど。」

「気まぐれって…………」

「なんか、考え事してる風だったからさ。それも、自分1人じゃどうしようもならない様な事を。」

「…………え?」

坂田はその答えに反応した。それを彼は笑って、

「なーんて。…………あ、そろそろ戻らないと。」

と、階段の方に向かって歩き出した。

「あっ、ちょっと。」

坂田はそんな出久を呼び止めた。

「お前…………名前は?」

男はそれに足を止め、一度彼の方に振り返ると。また歩き出した。

「出久。東間出久。」

そう言った。

「東間出久か…………。俺は2年C組の坂田利則。」

「そっか。じゃあな、坂田。」

後ろに手を振って、出久は階段を下った。

1人屋上に残された坂田は、再び校庭に目をやった。

「……なんか変な奴だったな…………。」

彼と話した事で、さっきまでモヤモヤしていた心が、何故か不思議と少し晴れた気がした。

筆者です。

双藍の箱は、1話1話を長くしていくつもりです。

誤字・脱字がありましたら教えてください。よろしくお願いします!

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