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神様のお使い  作者: 泡沫にゃんこ
第一部
8/52

罪の意識

理解できる言葉を話す生き物を殺す時…人は何かしら思うモノだろう。

「じゃあまたね。拓也」


青髪のイケメン、アルスがそう言い残し教室を後にする。



編入してからだいぶ日にちが経った。学園生活にも慣れ、今じゃどこにでもいる学生に成り果てている拓也。



「おー、じゃあなー」



教科書類が入った鞄を手に取りこちらも教室を出て靴箱へ向かう。



自分の靴箱から靴を取り出す。



「っさ~、帰ろ帰ろ!!」



ちょうど死角になって見えなかったところからジェシカとミシェルが現れる。


どうやら俺が来るのを待っていてくれたようだ。




二人に置いて行かれそうなので素早く靴を履き二人に並んで歩き出す。




「そういえばさ~、魔武器召喚の時にミシェル『拓也さんが驚く程でも無いような気が~』とか言ってたじゃない?」



「…確かに言いましたね……」



おっとまずい、妙なところに食い付かれてしまった。



少しミシェルの表情が曇る


こちらのアイコンタクトで助けを求めてる。可愛い。




あの発言はミシェルが俺の正体を知っているから不意に言ってしまったんだろう。


さて、どう誤魔化そうか……



「もしかして既にだいぶ親密な関係だったりして~!あ、もしかして今まで私お邪魔だった!?」



「はぁ~…だから何度違うといえば…」



頭を抱えため息をつく。


予想の斜め上を行くジェシカの推測に驚いたが、まったく別のお話でよかった。



「あれれ~?顔が赤いぞミシェルちゃ~ん!」



「ッうるさいです!!」



ミシェルの顔を覗き込み、プププっと笑うとわざとイライラするような言い方でミシェルを煽るジェシカ。


珍しく取り乱して怒るミシェル。




いいぞもっとやれ。





さて、と………



「悪いミシェル、先に帰っててくれ。買っておきたい物がある」



道の分岐点で足を止める。



「え?それなら私も…」



「だめよ~ミシェルちゃん。男の子が一人で買い物したい時って買う物は大体決まってるんだから!」



ミシェルの言葉を遮るようにして割り込んできたジェシカが、怪しい笑いを浮かべ、謎の持論をぶちまけた。





「こういう場合、……ずばりエッチな本ね!?どう!?当たってるでしょ!!」



「何故分かった!?さてはエスパーだな!?」


「ちょっと!エッチな本って///」



って全然違うわ!と言いたいところだがなんかもうめんどくさくなってきたので


グッドサインを残してその場を後にする。


ちなみに最後にミシェルが赤面してたのはとても可愛かった。




二人と別れ、色々な店が沢山連なっている大通りへ出る。


時間が時間なこともあってか、大通りはかなり混雑していた。



歩く、歩く。


ひたすら歩くが人しか見えない。久々に来たがここの人口密度はヤバイと思う。




っと、そんなことより……















次の瞬間、視界には人では無く、遥か彼方まで続いていそうな岩地が映っていた。



その場所には、拓也と…




三人の男しか居なかった。



「どうやらとっくにバレていたようだね」



黒髪の男がそう切り出す。


コイツだけ背中に羽が生えていない。ということは…



「お前が神か、悪いがここで死んでもらう」



「いきなり物騒だなぁ」




拓也が何をしたか皆さんお気づきだろうか?


答えは単純、空間魔法で自分と敵を移動させたのだ。周りに岩しかないここならちょっとは暴れても大丈夫だろうと拓也が判断したからである。




「でも僕達にとっても君はとても邪魔な存在なんだ。邪魔をしないでくれるかな?」



あくまで穏やかにそう言う神だが、そんなことはどうでもいい。


分かることは一つ。




こいつ等は俺達の敵だ。




「お断りだ」



ジョニーを剣の姿に戻す。



「そう…じゃあ交渉決裂だね」




さっきミシェルと分かれて大通りのほうへ向かったが…奴らは俺について来た。



ということはまずはミシェルより邪魔な俺を殺すってところかな…


だがそれは大きな間違いだぜ



ジョニー、聞こえてるか?



『アイヨ、アイボウ』



変形だ、刀になれ。



『ショウチ』



拓也の持つ剣が僅か発光しながら形を変える。


やがてそれは日本刀に変わった。



「手っ取り早く終わらせちゃおうかな」



神がそう言い終る時には、既にそこに標的である拓也の姿は無かった。



「速いね、少ししか見えなかったよ」



神の背後、20メートル程に拓也の姿はあった。



「…今の動きについてこられないならお前に勝ち目は無いぞ」



ニヤリ、と不気味に笑う拓也はそんなことを言う。


果たしてそれは真なのかただの虚言なのか。本人のみぞ知るところである。



「さて、それじゃあ始めようか」



「何を言ってんだ?戦いはもう始まってるぜ」



「へ?」



素っ頓狂な声をあげる神、



「な、何を言ってるのか分からないね。さあ、行け、トーワ」



神にトーワと呼ばれた二人のうち一人の天使、



拓也は、あぁなるほど。と合点の言った顔をする。




「あぁなんだ、俺の太刀筋は見えてなかったのな。





だからそいつは”もう死んでるんだって”」



拓也がトーワと呼ばれた天使を指差しながらそういう。




「(何を言っている。彼はこうしてちゃんと立っている…)」



神は思考をめぐらせるために一度会話を中断する



次の瞬間、ゴト、という音と共に自分の視界の端で地面に何かが転がった。


続けてドサ、と何かが倒れる。




音の発生源の方に慌てて向くと…







……そこには首と胴体が切り離され、血の海に沈むトーワの姿があった。



「トーワッ!!」



「だから言っただろ、そいつは死んでるって」




今、拓也の刀は鞘に収まっている。



ということは今の一瞬の間に抜刀、攻撃、納刀までこなしたという事だ。


そして神はその内の一つも見ることができていなかった。




神に戦慄が走る。この男はヤバイ、と。




「っく!!」



神が手を振るうと、目の前に火、雷、水…様々な種類の魔方陣が浮かび上がる。




流石は神…人間じゃあ比にならない程早い…



…だがそんなのを待ってやるほど俺はやさしく無いぜ!



魔力による身体強化を施した体をバネのように使い加速、


神に向かって一直線に走る。



「やらせるかよッ!!」



だが敵は神一人ではない…


もう一人、天使がいる。



素早く俺に近づくと、右手に持っていた棍棒を俺に向け振るう。



「ッち…」



低く舌打ちし、横へ飛びのく。


というか棍棒って中々エグイ武器を持ってくるな~、お前は鬼か!!


そこへ神の魔法による追撃。こいつら中々いい連携だな…



とりあえず当たりそうなものを剣の形に戻したジョニーで叩き落す。



「掛かったな!」



神がそう叫ぶ。


次の瞬間、俺に当たることなく通り過ぎていった魔法が急旋回。


軌道を変え、俺へと向かってきた。



流石は神…か……



回避を諦め、体を丸めて防御の体制に入る。



直撃。




あたりの砂を巻き上げながらの大爆発。


やっぱりコイツも伊達に神ではないようだ。一発の威力がデカイ。



「やったか!?」



「それは古来から生存フラグと言われていてだね…」



砂の粉塵の中から歩いて出てくる拓也



服はボロボロ…だが、その身体には傷一つ無かった。



「バカなッ!!僕の攻撃が効いてないだと!?」



「そんなこと言われてもなぁ…効かないもんは効かないし…」



頭をボリボリ掻きながらまいったなぁ…という表情をする拓也。


いくら人間とは違うといっても相手が悪すぎる。



「お下がりください、ここは私が引き受けます。一旦お戻りになって報告を」



「しかしそんなことをすればお前が!」



え?なんか始まったんだけど…




俺と神の間に立ち、一旦退却するように促す天使。


だが、そんなことをすれば自分は間違いなく助からないだろう。


彼はそれを分かってやっているのだ。



まったく……これじゃあ俺が悪役みたいじゃねぇか!!





まぁ逃がすわけ無いけどな…



「さっき、見えなかったって言ってたよな…」



「そうだね…情けないことに攻撃はまったく見えなかったよ」



苦笑いしてそういう神。



同時に喋りかけられたことにより、更に俺を警戒しているのが分かる



「もう一回やってやるから次はちゃんと見てるんだぞ」



剣から刀に戻し、腰に構える。



続けて腰を落とし、柄に手を添え抜刀の姿勢にを作り、目の前の敵を見据え…



「【鬼神の剣】《一ノ型》《一式》…」



この剣術は俺が天界で学んだことを基にして作りだした、俺のオリジナルの剣術。


名前の由来は俺の苗字と神のところで学んだということで【鬼神】


断じて中二病とか言うわけではない。



これから繰り出す技は不可避の一撃。


完璧な速さ特化。



「まずいッ!避けるんだ!!」



俺の攻撃態勢を確認し、そう叫ぶ神。



だがもう遅い。



この時に俺の視界に入っている時点で回避は不可能だ。



いくぜ…



「【抜刀一閃】」



そう呟くと同時に大地を踏む。天使まで一足飛び。



そして光をも置き去りにする速度で対象を斬りつけた。



「…」



天使の後方で何事も無かったかのように立っている拓也。ただその手には刀が握られている。


血なんてものついていない。


なぜなら血が付着する暇すらないから……



「が…あぁッ!」



拓也の背後で天使が地面に倒れる。



口から大量の血を吐き出し、その体は上半身と下半身の境目で綺麗に真っ二つになっていた。



「…ひッ!!」



あまりの恐ろしさに腰が砕ける神。



拓也はユラリと振り返ると一瞬で距離を詰めた。



「なんだ?もうギブアップか?」



視界の端で今さっき殺した天使が光の粒子になり消えていくのが見える。



あぁ、こいつらってそんな風に消えていくんだ…


血も肉も骨も……



そしてやっと自覚する。


俺はいま二人の命を奪ったのだ、と。



認めたくは無い…が、認めなくてはいけない。


こいつらの未来は俺がこの手で……





今はそんなことを考えている場合ではない。


目の前の男に刀を突きつける。



「…………」



「い、命だけは…」



拓也の雰囲気に気圧されたのか、命乞いを始める神。




暗く重い感情を押し殺し……




首を目掛け…




刀を振り下ろした。




体中に掛かる鮮血。


地面に転がる首。


力なく地面に伏せる首の無い体。



これの何一つ例外なく自分がやったのだ。



この世界に来る前は普通に学生だった拓也。


長い間修行もした。その中で当然精神を強化するトレーニングもした。


拓也は肉体面でも精神面でも卓越している。


だが、人を殺すなんて初めての事。絶えられるはずが無い。


人を殺す事に耐性が無いのだ。




「…」




刀に付いた血を払い、鞘に収める。



このままで俺はやっていけるのか……


こんな…こんなに戸惑っていて本当にミシェルを守り切れるのか…




神の体が光の粒子になって消え始める。


拓也の体に付着していた血も粒子になって消え始めた。



ポツリ、と顔に水のしずくが落ちる。



「…雨……」



それはまるで今の拓也の心情を表しているようだった。





その間も絶えず光を見続ける。空ヘ向かって行っては…消える。


拓也は光の粒子の最後の一粒が消滅するまでそれを見届た。



・・・・・




緑豊かな場所に建つログハウスのような一軒屋


その中である居候の帰りをリビングで待つ一人の少女がいた



「拓也さん遅いですね……」



掛けてある時計では既に8時を回っている



「何をしてるんでしょうか…」



もしかして、と思い夕方の友人の言葉を思い出す


『エッチな本……本……』


謎のエコーがかかる。



ボフッという擬音が付きそうなレベルで一気に赤面するミシェル


ソファーの上に置いてあるクッションに顔を埋めながら頭を冷やす



「いやいや、拓也さんに限ってそんな事…」



落ち着きを取り戻した頭で考える。



というか自分一人しかいない部屋で喋っている時点で冷静ではないのかも知れない。



「でも拓也さんも男性ですし…」



また顔が徐々に赤くなっていく。



それと皆さん忘れているかもしれないが、セラフィムのあまりのぶっちぎりっぷりに隠れているだけで拓也も十分に変態である。




と、その時玄関から鍵を開ける音が聞こえる。




ミシェルが合鍵を渡している人物は一人しかいない。


ので玄関にいる人物が拓也だと簡単に予想ができたミシェルは、出迎えるために玄関へ向かう。



ドアが開く。



「おかえr…どうしたんですか!?」



ミシェルは思わず目を見張った。


あちらこちら破けボロボロになった服、おまけに雨に濡れたせいでビショビショ。


髪の毛も濡れて垂れているので表情が良く分からない。



体に傷は無いが、ミシェルにはそんな事まで確認している余裕は無かった。



「た、タオルと救急箱!あ、あと裁縫箱も!!」



バタバタと動き出すミシェルを拓也はただボーっと見ていた。


まさに心ここにあらずというような感じだ。



しばらくしてミシェルが両手に色々抱えて戻ってくる。




「なにがあったんですか?」



頭にタオルを被せられ、それをミシェル自身が背伸びしながらゴシゴシと拭き、雨に濡れた髪から水気を拭き取っていく。



上目使い、普段の拓也なら卒中していてもおかいくないダメージなんだろうが、今はそんな事も考えられない。



不意にミシェルと目が合う。



綺麗な蒼眼


「どうかしました?」




途端に歪む視界。







あれ?と思い、目に手をやると手を伝い、地面にこぼれる雫。それは涙だった。



涙は止まることなくポロポロとこぼれ、ミシェルの顔も濡らしていく。



「ッえ!?え、え、えっと…ッ!!!どうしましょう!?一体どうすれば……」



目の前であたふたとするミシェルを見てやっと我に返る。



俺は何してんだ…ミシェルまで不安にさせて…、



自嘲気味に笑い…



「悪い、なんでもないんだ」



風呂場へ足を運ぼうと歩き出す。



「なんでもなくて泣くわけないじゃないですか!」



拓也の様子がいつもと違うことに気づいたミシェルは理由を説明するように促す。



その場で足を止めた拓也は、一瞬困ったような表情をする。



「エ…本……」



「え?」



小さな声で呟く。ミシェルには聞こえてなかったようなのでもう一度言い直す。



「買いたかったエロ本が売切れててショックのあまり放心してたらこんな時間になっちゃった。すまん」



「な…」



訳の分からない理由を説明した拓也。即興の言い訳にしてもこれは無いだろう…


と自分でも思った。



ミシェルはというと、あまりの理由に放心状態である。


今だ!と思いそそくさとその場を後にする拓也




ミシェルがハッと我に返ったのは拓也が風呂場のドアを閉めた後だった。



「エロ本って…。でもそんなはずないですよね……」



落ち着きを取り戻した頭で考える。



ミシェルの知っている拓也はその程度の事であそこまで精神的に病む人間ではない。


むしろそういうことを話のネタにするような人間だ。



それに第一、あのボロボロになった服のことが説明できない。


放心していた、と言っていたのにそれで服がなぜボロボロになるのだろうか?



そこでミシェルの頭に一つの考えが導き出される。



それは拓也がこの世界に来た理由。


神たちと戦ってきたのなら服の事は説明が付く。むしろあの拓也が被弾する状況がミシェルにはそれくらいしか考えられなかった。



でも何故泣いていたのか…



「…本人に聞く………でも話してくれなさそうですし…」



う~ん、と唸り頭を捻る。









・・・・・

~sideミシェル~



「はぁ~……」



机の上に広げられた弁当に手を付けないで、深いため息をつくミシェル。


あの後結局拓也なにも聞けずに時間だけが過ぎて、結局いつも通り学園に来ている。


当の拓也はというと…



「拓也見ろよこれ!お前の故郷から持って来たエロ本!!」



「うわマジかヤベェな!!」



なにやらセラフィムと盛り上がっているようだ。



朝にはいつものように戻ってましたし…


もう何がなんだか……。



「ど~したの?悩み事かにゃ~」



向かいに座っていたジェシカが体を乗り出し人差し指でほっぺをツンツン突く。


振り向くと、そこには元気一杯のジェシカ。



いつも凄く元気ですね…まるで悩み事なんて無いような顔をしてます



一緒にいるとこちらまで元気になりそうな笑顔に、落ち着いてしまったのか、ミシェルはぽつりぽつりと喋り始めた。



「実は…昨日夜に拓也さんが帰ってきたとき…拓也さん……泣いてたんです」



昨日の事を思い出し、そう語る。



だがそれはマズかった。


ジェシカの手から落ちる箸、驚愕に満ちる表情。



「ッハ!しまった!!」



自分の失言に気づき、とっさに口を覆う。


しかしそんな事をしても時既に遅し。



「……え?どういうこと………ッハ!あぁ~なるほど~……」




ジェシカの表情は驚愕からまるで面白いものでも見つけた時のようなものへ変わっていった。



「あんたたち…なんか親しいと思ってたら……そういうことぉ~」



先程までの元気一杯!という笑顔ではなく、ニヤリ、とした笑顔。


ジェシカの性格をよく知っているミシェルは…





この人に知られたら……


もう諦めよう……





質問攻めになることを悟り、諦めた。




「それでそれで!どこまでいったの!?」



「だから拓也さんとはそういう関係じゃないんですって!」



顔を赤らめ机をバンッと叩き講義する。


だがそんなものはジェシカを更に加速させるための燃料でしかない。



「え~、年頃の男女が一つ屋根の下…これはもう過ちが起き放題でしょ!!」



「それには色々と訳がありまして…」



「へ~どんな理由~?」



「そ、それは……」



途端に口篭ってしまう。


拓也には別に口止めされているわけではないが、自分のことをぺらぺらと他人に話されていい気になる人は少ないだろう。



そんなミシェルの苦悩も知らず、ニヤニヤが五割増になったジェシカ。




だめです、秘密とか守れる気がしません……



この後、昼休みが終わるまで、私生活について洗いざらい吐かされたミシェルであった…



・・・・・



~side拓也~



「それで~?拓也く~ん。まだ手は出してないんですか~?」



「どうしてこうなった…」



いつものように帰路につく三人。



何故かジェシカがニコニコじゃなくニヤニヤしてると思ったら、ミシェルとの同居のことがバレていた。



隣のミシェルがなんだかげっそりしていると思ったらそういうことか……



「すみません……うっかりしてました…」



「気にすんな、いつかはバレてたんだし」



虚ろな目で謝罪するミシェルをなだめる。



まぁジェシカと仲がいいならいつかはバレただろうし…


居候の俺が家主を攻める理由もないしね!



「そ~れ~で~?手は出してないんですか~?」



こいつは…そんなこと分かりきってるだろうが!!馬鹿にしてんのか!!そうなのか!?



「あいにく『まだ』なんだ、すまんな…」



前髪を掻き上げ無駄に気取った顔で返す。



「これからもそんなことはありませんって!!」



「なんだって!?」



相変わらずの全否定。最近はなんだか気持ちよくなってきた。






「アハハ~二人とも仲良いよね~」



「まぁそこは否定しませんけど…」



歩きながら会話を続ける二人、



そういえばこの二人はいつから知り合いなんだろう?聞いたこと無かったな…


今度そこはかとなく探りを入れてみよう。うん。



「そういえばミシェルが昨日、拓也が泣いてた…ぐすん、って言ってたんだけど何かあったの?」



「………もういいです」



ジェシカによってだいぶ脚色されているが、それは間違いなく昨日の拓也のことだった。


ミシェルは既に疲れきっている。



「あぁそのことか、欲しかったエロ本が売切れてたんだよねぇ…」



「何それ~!」



腹を抱えて笑うジェシカ、こいつは少し女としての自覚を持ったほうが良いと思う。



そしてもう一つ、拓也が暗い表情をしたのをミシェルは見逃さなかった。



「(やっぱり何かありますね)」



そう確信したミシェル。


昨日は何も聞けなかったが、今日こそは…


そう誓うのであった。




「じゃあ私はここで~、バイバイ!お二人さん!!」



いつもの場所でジェシカと別れる。


相変わらず激しい見送りだ。




「…………………」



「…………………」




やばい、何これ誰か助けて。


セラフィムのやついつもどうでもいい時に出てくるくせになんでこういうときに出てこないんだよ!無能め!!


あと隣から視線を感じる。めっちゃこっち見てる、めっちゃこっち見てるよぉぉぉぉ!


あれか?視姦ってやつか!?……何言ってんだ、俺…、



沈黙を破り、先に切り出したのはミシェル。その第一声、



「昨日の夜、本当は何があったんですか?」



わ~お、ドストレートですね~。



「何って…」



目を合わせる…が、真剣な目に誤魔化しが効かないかも…と思ってしまう。



それに綺麗な蒼眼、昨日の夜を思い出す。いや変な意味じゃないよ?



「…私にも言えませんか?」



更に追い討ちを掛け畳み掛けるミシェル。本人は意識してやってるわけではないのだが、恐ろしい破壊力だ。



「いや、ですからエロh…………」



変わらず真剣な眼で見つめてくるミシェル。



……まぁ良いか…



「…神たちと戦ってきたんだよ」



言い訳も無理だと判断したので諦め正直に話す。


ミシェルに無理な不安を掛けたくないが、このままではミシェルが引き下がってくれないだろう。



ミシェルは、やっぱり…といった表情で顔をしかめる。



「体のほうは大丈夫なんですか?昨日ボロボロで帰ってきてましたし…」



拓也を心配するようにそういうミシェル。



「あーうん、体は別に問題ないんだけどさ…」



それまで絶えず動かしていた足を止め、俯きながら言葉を紡ぐ、



自嘲気味に笑う。ミシェルに心配をさせないために無駄に明るく



「いや~、……恥ずかしいことに人殺すのとか慣れてないんだわ。まぁあれは人じゃなくて神なんだけど……まぁそういうことで昨日はちょっと落ち込んでただけだから…そんな気にすんな」



おどけるように言い切る。



だが、次の瞬間、拓也の予想とは違う反応が返ってくる。



「ダメです!人を殺すことになんて慣れないでくださいッ!!」



ミシェルからの一喝。



カツカツと拓也に歩み寄ると、顔をグイッと近づけ話を続ける。



「優しい拓也さんが人を躊躇無く殺せる人になっちゃうなんて私は絶対嫌ですッ!人を殺すのに慣れてなくてなにがダメなんですか!?」



あまりの剣幕にポカーンとする拓也。


無理も無いだろう。普段大人しいミシェルがここまで感情を露にしているのだから。



まだミシェルのターンは終わらない。



「…いつもみたいに……優しい…まま………」



今度はミシェルが俯いてしまう。



「…ごめんなさい………人を殺したことも無いくせに…分かったようなこと言って」



最後には消え入りそうな声になってしまっていたが、



「…………ありがとな、ミシェルの言う通りだ。人殺しに慣れちゃったら殺人鬼となんら変わりないしな」



拓也の心にはちゃんと届いていた。



フリーズから帰還した拓也がこれまた自嘲気味に笑い、ミシェルの頭に手を置きながらそう言う。





「いや、ちょっと待てよ…」



少しの間考え込むような仕草をする拓也、


また不安になるミシェルだが、そんなことは心配なかった。


なぜなら…



「人殺しじゃなくて神殺しじゃね?何それカッコいい!」



いつも通りの拓也に戻っていたからである。




「………」



無言でツカツカ歩き始めるミシェル



「あぁ、無視なんてヒドイ!!でも感じちゃうぅぅぅ!!」



更に歩く速度が上がる。



小走りで後を追う拓也、彼はまたミシェルに呆れられたと思っているが、



「…よかった………」



ミシェルは拓也に気づかれないようにそっと胸を撫で下ろした。



そして拓也はそのことに気づいてはいない。




・・・・・




「拓也、この本いくらすると思う?」



「Priceless」



「正解。なんたって俺の手作りだからな」



「え?なに…コイツキモイ」



部屋の中で会話する変態二名。



相変わらず会話の内容がぶっ飛んでることについては目を瞑っていただきたい。



「で?いきなり現れてなんの用だ」



「……………」



「特にいないんだな、なら帰れ、今すぐ。そして働け。どうせサボって来たんだろ?」



夜も遅いためさっさと寝てしまいたいのに何でこいつはこんなタイミングで来るんだよ。


それに昼も来たくせに夜まで来るってこいつ実質2~3時間ぐらいしか働いてないんじゃいか?



「拓也…頼む!一晩だけ泊まらせてくれ!!」



「は?」



いきなり顔の前でパンと手を合わせ目を瞑り、頭を下げた



「この通りだ!」



「…まずここに至るまでの流れを教えろ」



「ラファエr」



「もういい分かった。帰れ、そして誠意を込めて謝罪して来い」




今度はなにやらかしたのかと思って聞いてみたらいつもと同じじゃねぇか!いい加減にしろ!!



あまりのくだらなさに自然とため息がこぼれる。


もうなんか悩み事してたのが馬鹿らしいわ…



「後生だ頼むy」



言い切る前に消えるセラフィム。



消えたのではない。天界へ強制送還されたのだ。




…拓也によって。



彼は今頃ラファエルの元で土下座でもしているだろう。



というかあいつなんで堕天しないんだろうな…不思議でしょうがない。




「さて……寝よう」




今日もまたいつものように一日が終わるのであった。




・・・・・


時刻は8時、今日は学園は休みの為いつもより少し遅い朝食である。



「拓也さんッ!!」



「ッひゃい!!」



バンッ!とテーブルに手を付くと拓也に向かって叫ぶミシェル。



あまりにも突然のことで変な声が出てしまった…



「ピクニックに行きましょう!」



「…は?」



あまりにm(ry



どうしたのか…いきなりすぎて怖い……。



あれか、変態を近づけすぎたせいか…あいつに感化されてミシェルの頭の中まで…



…それ以前に俺も変態か、忘れてたぜ!





「なんでまた急に?」



「……たまには遊びに行くのもいいかなって思いまして!」



一瞬黙ったが、すぐに笑顔を作り直しそう言う。



…怪しい、何を企んでるんだ………。


でもなんか指摘するのも悪い気が……



「あ、あぁわかった…支度する」



まぁ別にいっか…なんか悪意は感じないし



「じゃあ早速行きましょう!」



家を出て、門をくぐり、王国の城下街から抜け出る。


ちなみに今回は門番に止められなかった。



そのまま東へ向かう。



それから歩き続ける事数十分。


木が鬱蒼と茂る林のような場所に到着した。



「あれ?ここって…」



そこは拓也にとっては忘れもしない場所…



「そうです、拓也さんと初めて会った場所です」



拓也がこの世界に飛ばされた時に最初に訪れた…というよりは埋められていた林である。



拓也は鼻で大きく空気を吸い込み、口から吐き出す。



「そういえばここでミシェルに会った時はレーザーで焼かれかけたっけ……」



「………それは忘れてください」



思い出すように笑いながら冗談を言う拓也の脇で落ち込むミシェル。



「いきなりレーザー撃たれて殺されかけたのを忘れるのは無理があるな」



いたずらな笑みを浮かべミシェルをいじる。



「どうせ死なないでしょう?」



「せやかて………」



だがそれもミシェルの的確な指摘により形勢逆転。




そんなやり取りを繰り返しながらも歩みは止めない。



どうやらまだ目的地には到着していないようだ。



しばらく歩くと今まで平坦だった道が徐々に上り坂に変わり、なにやら水の音まで聞こえてくる。



本格的にどこへ向かっているのか分からなくなってきた……



「あ、…川がある」



先程からしていた水の音はどうやら川のせせらぎだったようだ。



だがここはまだ目的地じゃないようでミシェルの歩みはまだ止まらない。



それからしばらくしてミシェルの歩みが止まり、木々ばかりが映っていた視界が開ける。


そこは…



「……これはすごいな…」



王都を一望できるほどの高さにある高原だった。



「どうです?私のお気に入りの場所なんですよ」



「いいね!」



足が自然に前に進む。


標高が高いためか、空気も澄み渡り吹き抜ける風が非常に心地よい。


大きく深呼吸しながら前に進む



「まそっぷッ!!」



急に地面を踏んでいる感覚が無くなる。



「あ、前に行き過ぎないでくださいよ?そこ崖になってるので」



「ごめん、そういうの一番最初に教えて!!」



現在進行形で崖の縁にしがみ付いている俺を見ながら微笑むミシェル。



痛い、手に小石の鋭いところが刺さって超痛い。



まぁいつまでもこんな事してるわけにも行かないのでなんとか自力でよじ登り、服に付いた草や土を手でパンパンと叩き落とす。





やれやれ…なんか最近ミシェルが俺の扱い方を心得て来た気がするな…


調子狂うぜ。



頭を掻きながらミシェルの元へ歩き、腰を下ろす。



「私、落ち込んだときにはここに来るんです」



唐突に語り始めたミシェル。その表情はとても優しげだ。



「ほぅ、すると今日は何かあって落ち込んでいると?」



「………………いえ、」



そう言うとこっちを向くミシェル。必然的に目が合う。



「拓也さんにもこの場所を知っておいて欲しかったんです」



「…ほぅ、すると今日は俺が落ち込んでいると思ったと?」



「………………………」



黙り込んでしまった。やっぱりか…と心の中でニヤける。



それを表情に出さないように堪え、



「ミシェルってさ」



「はい?」



「嘘つくの下手だろ」



「…もう!人が折角気を使ってあげたのに!!」



多分俺が殺しをやったことで落ち込んでいると思ったんだろう。


それは昨日解決したと思ったんだが……優しいな…。



ミシェルは若干拗ねたようにそっぽを向いてしまった。



「良いことじゃないか?素直ってことで」



「…そう…ですか?」



すかさずフォローを入れる、



「あ、でも悪く言えば馬鹿正直でもあるな」




だがそれも自分自身から無意味なものへ変えてしまう。


それが拓也クオリティー。



「折角お昼ご飯作って来ましたけど拓也さんにはあげません」



「すまんかった!!」



流れるような動作で土下座に入る拓也。


このプライドを捨てる早さも拓也クオリティーなのだろう。



「でも…嬉しいよ、うん」



「…」



「ミシェル…」



「なんですか?」



「また俺が心折れる時があるかもしれん、そのときはぶん殴ってでも俺を立ち直らせてくれないか?」



我ながら非常に情けない台詞だ。



黙って聞いていたミシェルはクスクスと笑う。



「随分情けないですね。でも分かりました。そのときは何が何でも矯正させてあげます」



「死なない程度にお願い」



その時素晴らしいタイミングで拓也のお腹がぐ~っと鳴る。



「お昼にしましょうか」



微笑むミシェルは持って来ていた何?木で編んだっぽいバッグを開ける。



これなんて言うんだっけ?





あ~、思い出した。バスケットだ。



バスケットから水筒やらなにやら色々取り出すミシェル。


その一つの蓋を開ける。



「サンドイッチを作ってみました」



その中から現れたのは綺麗な二等辺三角形をしたサンドイッチ、非常においしそうである。


思わず見惚れている間に傍に置かれていたコップ。中にはポタージュのようなスープが注がれていた。


水筒が何本もあると思ったらそういうことね。



「じゃあ食べましょうか」



「いただきます」



ニコニコしているミシェルの見守る中、サンドイッチを口に運び一口。



「どうですか?」



期待と不安が入り混じった視線で見つめてくるミシェル。



「うん、おいしい」



「よかった」



ふわりと笑う。


前にも言ったが俺が美少女の料理を食べてまずいって言えるわけ無いですよね。

しかもミシェルの料理は普通においしいし。



もう一口齧り、サンドイッチを一つ完食する。


スープを啜り、またサンドイッチに手を伸ばす。



「そういえばミシェルの料理食べるのって久しぶりだな」



食べる手は休めないままそう話しかける。



「そういえばそうですね……………というか拓也さんが起きるのが早すぎるんですよ!」



一瞬納得しかけたミシェルだったが、何故か食い下がる。



「晩御飯も俺が用意してるんだけど!?まぁ家政婦時代の癖が抜けてないだけなんですけどね!!」



煽るように早口で言い切る。うっ……と言葉をつまらせたミシェル。


そういえばなんか晩御飯作るのいつも俺だったな。慣れって怖いね!



「じゃ、じゃあこれから晩御飯は私が作ります!!」



半ば叫ぶように言い放った。



別にいいのに……


と思った拓也だったが、よく考えてみると、彼女の中の女としてのプライドが許さなかったのか………


…という結論に至るのだった。



「そうか、じゃあ楽しみにしとくぜ!」



まぁ朝ごはんと弁当は変わらず俺が作るつもりですけどね!!




そのまま昼ごはんを食べ終わり、寝転がる。


青臭い草が背中にちくちく刺さる。



お腹が一杯になったことで眠気を催してきた頭で考える。




あの時神が一人に天使が二人…


多分うまくおだてられて俺を殺しに来たんだろう。つまりは様子見。あいつらにとって邪魔な俺の情報を集めようってとこかな…


向こうもその程度の戦力で俺を殺せるなんて思っちゃいないだろう。


ということはあいつら以外にも俺のことを近くで見てたやつが他にもいると考えるべきだ…



というと俺の戦い方も知られたわけか…まぁそこに関してはほぼ手の内は晒してないから別に良い…


問題は俺の弱点が知られたかそうでないか、だな。



次も俺の情報を知るために同じようなことをしてくるか…それとも本気で殺しに来るか、それともいきなりミシェルを殺しに来るか……


いずれにしても柔軟に動けるようにしておかねぇと……



これから先、殺すことに一々躊躇うわけにはいかないなぁ………………………………………………………………………………………………………………………………



・・・・・



「………………さ…た……や……ん」



「拓……ん…………さ…ん」



「拓也さん」



俺を呼ぶ声と、体が左右にゆらゆら揺れる感覚。



ボーっとする頭で状況の認識を急ぐ。



確かさっきまで空は青かったはずだが…今は茜色だな。


そしてこの体がだるい感覚……間違いない。



「ごめんミシェル。俺どのくらい寝てた?」



考え事したまま寝てしまったようだ。



「そうですね……6時間くらいですかね?」



「え!まじで!?」



「えぇ、そりゃもうぐっすりと」



若干怒っているとも拗ねているとも取れる表情と声色。



それもそうだ。話し相手もいない中6時間も待たされたら誰でも怒るわ。



体感時間からして昼ごはんを食べたのは11時頃…


ということは今は……5時………



「すまん!!ついうっかり!!!」



光速で頭を下げる。


よいこのみんな!自分の非はちゃんと認めて謝ることが大切だよ!



「別に良いですよ、私も今起きたところですし」



「おい、俺の謝罪を返せ」






「さぁ、そろそろ暗くなってきましたし帰りましょう」



「ガン無視最高!」



身悶えする拓也を放置して歩き始めるミシェル。



「あ~、ちょっとまって。来た道戻ると結構時間かかるよな」



「?そうですね、帰りは下りですけど同じくらいかかると見ておいたほうが良いと思いますよ」



「うん。めんどい」



拓也はミシェルの手を取ると、崖に向かってスタスタ歩き始める。



「何するつもりですか?」



疑問符を浮かべるミシェルに怪しく笑いかける。



「フリーフォール一名様ごあんな~い」



「え?」



「いってらっしゃいませ~」



自分の置かれている状況を飲み込めずに困惑しているミシェル。だがそれも一瞬のうちだけ。


何が起こったのか瞬時に理解した。



崖に背を向けていたミシェルの肩を、拓也が押したのだ。


ニヤけている拓也。ミシェルはもし生きてたらそのニヤケ面に渾身の一撃を叩き込むことを決意した。




「いやあああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………」



重力という偉大な力に逆らうこともできず地面へと真っ逆さまに落下していく。


科学的には自由落下というんだぜ!




さて、私も後に続きますかね。



ミシェルに続き、両手を広げ崖下へダイブする。


気分はどれだけ高い場所からダイブしても干草があればノーダメージな暗殺集団だ。




「シュタッ!」



石畳の街道の上に着地。



先程までいた高原はかなり離れた場所にある。


タネは簡単、空間魔法で別の場所に繋いだだけだ。


ちなみに飛ばした時に慣性はちゃんと相殺しているのでまったく問題はありません!すごいね!!



「さてさて、ミシェルはどkッぶへ!!なにするだ!!」



突然左頬を襲う重撃。



「それはこっちの台詞ですよ……」



くそぉ……ミシェルの奴ご丁寧に身体強化まで使いやがって……。


下顎もげるかと思った…



「いきなり何するんですか…」



「崖から落とした」



そう発言した途端にミシェルから放たれるプレッシャーが増す。


それと同時に地面が小さく隆起し、野球ボールほどの大きさの土の玉が形成された。



どう見ても土魔法ですね。


おまけに無詠唱、完全に殺る気ですよこの子。まぁおそろしい!



そんなことを考えている間に土の玉は俺のフツメンに着弾し、体ごと後方へ吹き飛ばした。



仰向けに倒れている拓也に悠然と近づくミシェル。


見下ろすように仁王立ちし、魔法の展開を始める。



「さて、と」



「なんですか?遺言でも言っておきますか?」



この期に及んで嘲笑し、ミシェルの怒りをエスカレートさせる。


最早アホとしか言いようが無い。



そして右手を高々と掲げ、グッドサインを作ると一言。



ツァーリ・ボンバ並みの爆弾を投下した。




「今日は…黒だな」



最高に爽やかな笑顔の拓也。その表情にいやらしいものは無く、ただ単純にパンツを見れて幸せ。といっているかのような笑顔だった。



対するミシェルは一瞬何のことか分からず困惑するが、拓也の体勢、自分の体勢、拓也の発言からすぐにその言葉の真意を見出した。


耳の先まで真っ赤に染まるミシェルの顔。拓也はもうおなか一杯である。


そして恐れなかった。



この後自分の身に降りかかる暴力の嵐なんて………



「……………」



「おふッ!!ちょッまtガハァ…!!」



無言で魔法を放ち続けるミシェル。


しかしこの状況すら楽しんでいる拓也。


なぜならこれは自分が得た報酬に対する対価だからだ。これは当然のこと、むしろこの攻撃を受けきらなければそれはただの犯罪。故に拓也は避けようとはしなかった。


※パンツを覗いただけで普通に犯罪です





「ハァ…ハァ…」



やがて、魔力をだいぶ消耗したのか攻撃の手が休まる。



「気が済んだかね?」



服はまったく傷付いてはいないが、拓也の本体のほうがボロ雑巾である。




なぜ服がボロボロになってないのかって?


そりゃあ…あの攻撃の中魔力コーティング続けてたからです。はい。


服が弾け飛んで全裸にでもなったらセカンドステージが始まりかねんからな…



「ハァ…ハァ…、本当はまだやり足りないですけど…まぁ今回は私の不注意もあったのでこれで許しましょう」



顔がまだ赤いが、どうやら許してくれたようだ。



「そうか……よっと、」



華麗な伸膝後転を決めて立ち上がる。反動をつけなくてもこれができる辺りやはり拓也の身体能力は高いのだろう。



「傷も全部治ってますね…相変わらずめちゃくちゃ過ぎますよ……」



呆れた表情でそういうミシェルだがそれも無理ないだろう。



倒れていたときはあちこちに傷があったのにもかかわらず、伸膝後転を決めた時には既に治っていたからだ。



だが今の攻撃も本来なら拓也の体に傷をつけることは不可能。


ならなんでダメージが入ったんだ?って?



それは…まぁお察しください。




「今さら気にすんな、さぁ帰るぞ」



「そうですね」



拓也たちが飛んだ場所は国門に比較的近い場所だったため、数分歩いただけで門が見え始めた。



あ~この門から王国に入るのもまだ2回目なんだよな~。


いつも空間魔法ばっかり使って移動してるからな、俺。


たまには街を歩くってのも風情があって良いかも



「おい!そこの男!止まれ!!」



「はぁ…」



はいはい、分かってましたよ。どうせ出るときには止められなくても入る時には止められるって予想してたよ!それで期待を裏切らないこいつらほんとすげぇわ!!



まぁこんなこともあろうかと帝カードじゃないほうの偽装カードのほうを既に右手に忍ばせてあるんですがね!!





「うむ、確かに確認した。入って良いぞ」



最早恒例と化してきたこのやり取り。拓也はもう慣れつつあった。



「ちょっと王にクレームでも入れようかな……」



「まぁまぁ」



ぶつぶつ文句を垂れる拓也を隣で宥めるミシェル。


先程の怒りはどこへやったのだというほどの切り替えの早さだ。



「はぁ…ミシェル、俺ってそんなに怪しく見えるのか?」



「そうですね…見た目はどこにでも居そうな感じですし特にどうって事はないと思いますよ」




…サラッと毒を吐く辺り流石っすわ。うん、結構傷つくのよ…自覚はあるけど……



「もう日が落ちましたね」



先程まで空は綺麗な夕焼けだったが、今そう言われ見上げると、太陽は既に沈み夜一歩手前程の暗さだった。



よく見るとあちらこちらに星も散らばっている。



「…はぁ~……、だいぶ寒いな」



「くしゅんッ!……確かに寒いですね…」



手のひらを擦り合わせ、寒いな。なんて話を振ったちょうどその時、


ミシェルが両手で口を覆い、くしゃみをする。


その後自分の体を抱きながら手をしきりに動かしていた。



「おいおい、大丈夫か?」



「大丈夫です。それよりちょっと急いで…………へ?」



次の瞬間、いきなり素っ頓狂な声をあげる。


それは拓也の取った行動に対してだ。



「寒いんだろ?着とけ」



自分の着ていたコートをミシェルの肩から掛けたのだ。


まるで本物の紳士が取るような行動をとった拓也は、特に何も考えていなかった。


なぜならそれはただの善意でとった行動だから。



「え、でもこれだと拓也さんが寒いんじゃ…」



「安心しろ。俺が本気出したらブリザードの中全裸で座禅くらい余裕だから」



少しの間ぽけーっとしていたミシェルだったが、やがてやさしく微笑む。



「ふふ、ありがとうございます」



「どういたしまして」



微笑みながらコートの胸の部分を掴み、猫背になるように丸まるミシェルだった。






日が落ちてから数十分程経った。辺りはだいぶ暗い。



「……」



暗い、その単語であることを思い出す



「?なにを深刻な顔してるんですか?」



表情の変化に気づいたミシェルがそう訊ねる。



「ん、あぁ。実は最近行方不明者があちこちで出てるらしいんだ」



最近、というか俺がこの世界に来る前かららしいが、頻繁ではないのだがちょくちょくそういう事件が起きているらしい。



「んでこの事件には一つ特徴があるんだ」



気だるげな態度でめんどくさそうに話す拓也。

なんてったってこの手の事件は非常にめんどくさい匂いがするから……。



「特徴?」



首を傾げるミシェルには視線を向けずに前を向いたまま話す。



「行方不明になるのは毎回ギルド員ってところだ」



「それは単なる偶然では無さそうですね……」



単にギルド員が行方不明になることはまぁあるのだが、それはクエストの最中に限っての話だ。



今回の事件、行方不明になるのはクエストを受注していないギルド員。しかも最終目撃時刻が夜の6~8時。


明らかに不自然だ。故にこれは人攫いと考えるのが妥当だろう。


しかも行方不明になるギルド員のランクはA~SSと比較的高いランクの奴らが攫われている。


これらのことから、犯人の手口として考えられるのは不意打ち・闇討ちだろう。


静かな時間帯の夜に真っ向から挑めば、その戦闘の目撃者が出てくるだろうし………。


でもそれも人目の付かない場所でやっちゃえば解決するな…



あ~駄目駄目。固定観念に捕らわれるのは良くないぞ俺よ。


常に柔軟な判断、対応をするのが俺だろうが!



「まぁということでミシェルも気をつけたほうがいいぞ」




「そうですね、警戒はしておきます」



まぁミシェルなら大丈夫だと思うけど…



おっと、これはフラグだった。


というかこの世界ってフラグを速攻で回収しに来るよね…


この前の神の襲撃もセラフィムの奴が言いに来てすぐの事だったしほんと侮れん……




「そうだ、今日の晩御飯何がいいですか?」



「あ、ほんとに作ってくれるんだ」



「何ですかーもう。私は嘘つきませんよ」



怒ったような表情で視線を逸らすミシェル。



「そうだったな、ミシェルは馬鹿正直だもんな」



「拓也さんはパンの耳がいいんですね、わかりました」



ちょっとした冗談のつもりなんだが、ここまで無表情でそう言われると本当に俺の晩飯はパンの耳になりかねない。



「はいはい、素直なんですよねー」



「ホントむかつきますね」



効果は無い。どうやら今日の私の夕飯はパンの耳のようです。




その後、帰宅までひたすら謝り続け、晩御飯にはミシェルと同じものを出してもらったのはまた別のお話。



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