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神様のお使い  作者: 泡沫にゃんこ
第一部
7/52

日常


主婦の朝は早い…



朝5時半に起き、家中の掃除を6時までに済ませる。



主人が起きてくるまでに朝食を用意。



そして主人が起きてくるまでの間休憩となるのである…



「おはようございます拓也さん。いつもありがとうございます」




「いいのよ、居候の身ですので…」




はいどーもー拓也くんです。あれから二週間ほど経ち、ミシェルは学校が始まった。


昼間は一人で暇なのでギルドに遊びに行くかそれ以外はほとんどヴァロア家の専属メイドと化しています。



「相変わらずおいしいですね…」



「ありがたきお言葉」



顔を洗ってきたミシェルと朝食を食べる。今日のメニューはオムレツと野菜スープにパン。ちなみにすべて手作りだ。



天界での修行の時にこういうこともやらされたから大体のことはできる



「ミシェル学校はどう?」



一旦食べる手を止め、ミシェルに訊ねる。なんか親みたいなこと聞いてるな俺…



「そこそこ楽しいですよ」



「それは良かった」



この後も二人で雑談をしながら楽しい朝食タイムは終了していった。




「あ、そうそう。ミシェルにこれあげるよ」



食後のお茶の時間にそう言いポケットから光る何かを取り出し、ミシェルに投げ渡す。



「なんですかこれ、指輪?何か特殊な効果でも?」



見た目は金属製の輪に模様が彫られているシンプルなものだ。



「あー、魔法耐性が100上がる指輪」



「本当ですか…?」



疑いの眼差しを向けるミシェル。適当に誤魔化しておこうとしたがどうやら無理なようだ



やめて!そんなジト目で見られたら興奮する!



一分ほどミシェルにジト目で見られ続けたので…



「ハァ~…、この前天使が来たからさ、万が一のときのためにミシェルの身に危険が及んだ時に俺に連絡が来るようになってる」



俺のほうが折れてそう説明しておく、



「できるだけ外さないでくれ」



この指輪は外していると効果は無い。昨日思い付きで作った割には中々の出来だと思うが…



「分かりました。ありがとうございます!大切にしますね!」



ミシェルはその場で指にはめると、そう言う。うん、かわいい


「じゃあ私はそろそろ時間なので行きますね」



ミシェルは紅茶を飲み終えるとそう言い、近くにあった鞄を手に取り玄関へ向かった。



「ちょっと、忘れ物」



鞄に入れ忘れていたであろうお弁当を渡しに玄関まで小走りで向かい、靴を履いていたミシェルに手渡す。



「あ、すみません」



受け取った弁当を鞄にしまい、立ち上がる。



「じゃあ行ってきますね」



「気をつけるのよ~」



言い終わると同時に玄関のドアが閉まり、家の中が静寂に包まれる。



「さてと……お母さんバージョンでも反応変わらずっと…メモメモ」



上着のポケットからメモ帳とペンを取り出し今さっきの出来事をメモする。




そうです、楽しみの一つでもあるミシェルとの朝の時間をこの二週間いろんな人のバージョンで試してるんです。


なんでかって?



…退屈を紛らわす為に決まってんじゃないですか!



今までお父さん、お爺ちゃん、お婆ちゃん、叔母さん、兄、姉etc…


いろいろ試したがもれなくいつも通りでした。残念




「さてと…洗濯でもしておこうか…」




・・・・・




パンパンっと干したシーツを叩き、丁寧にしわを伸ばしていく。




「今日もいい天気だ~」




空は雲ひとつ無い快晴。この調子なら洗濯物もすぐに乾きそうだ



ちなみにミシェルの下着は洗濯物の中に無い。



まぁ当然だが頑なに自分でやるからって言ってたし…




「さて、今日も暇だ…何をしようか……」




昼ごはんまでには時間があるし…



ギルドでも行くかな~…




「ということでやってきましtッヘブライ!!………なにをするッ!」



ギルドに瞬間移動したとたんまるで俺がここへ来るのが分かっていたかのように、俺の顔に水弾が直撃した。



「ということでってどういう事よ?」



おいこの受付嬢俺の言葉を無視するんだがそこん所受付嬢としてどうなのよ?



「まぁいいや……洗濯物を干し終わったから来ました」



「暇なのね…」



「否定はせんよ」



少し行儀が悪いが、顔を服の袖の部分で拭きながらそう答える。



周りを見るとやはりいつもの様な光景が広がっている。



なんなのこいつら?二週間通ってるけど一日すら違う光景を見れないってミラクルだぞ




「ということで暇な私に仕事をプリーズ」



「そうそう、国王からあんたに手紙が来てるわよ」



リリーはそう言うとカウンターの引き出しの中をガサゴソと漁り、手紙を差し出してきた。



「なになに…?」



封筒の上の部分を破り中から便箋を取り出し、読めるように開く。




……なるほど、帝の集会が今夜九時からあるから王城に来い。ということか…




読み終えた手紙を燃やし、ゴミ箱へ捨てる。



「ちょっと、手紙捨てちゃっていいの?」



「問題ないっす」



「そう、ならいいわ」



ともかく…ようやく予定ができたな、安心。でもそれまで暇だからなにをしよう?

仕事だな…



「今は暇だから適当に仕事をください」



「そうねぇ~、これは?」




Cランク、近くの森での猪二頭の捕獲。



捕獲なんて初めてだな、なんか楽しそう!



「じゃあこれにするぜ!」



「はーい、いってらっしゃーい。気をつけてねー」



リリーはそう言うと自分の仕事へ戻っていってしまった。



気をつけるも何もこの程度のクエストでしくじったりしませんよ…



よし…俺も仕事するか!





・・・・・


時間は過ぎ、時刻は夜の九時少し前。場所は王城


そこには黒いローブを着た人物が城の門へと歩いていた。


言わずもがな拓也である。




「はぁ~…今日もどうせ門番に止められるんだろうな……」



そう予想した拓也は、右手のひらに既にギルドカードを用意していた。



なぜ拓也は毎回門番に止められるのだろうか?…謎である。



歩いているうちに門が見えてきた。門番も3人居る。


そしてただ普通に、そこを通過しようとすると…



「ちょっと止まりなさい!」



やはり門番に止められるのであった…



拓也は慣れた手つきでギルドカードを見せると、平謝りする門番を適当にあしらい、王城の中へと足を進めた。



集合場所になっていた大会議室の扉を開けると、そこには光帝以外が既に円卓に座っている。


そこにはローブを着た人物だけではなく、王らしき人物も居た。



適当に空いている場所に座る。




光帝が居ないところを見るとどうやらまだ回復してないかな?やりすぎた?……いやそんなことは無い!




そう思っていた矢先であった…大会議室の扉が開き、そこから昨日見た白色のローブの人物が現れた。



しっかりとフードを被って……




「よし、始めようか…」



白ローブが座ったのを確認すると王がそう切り出した。




ちょっとまって、何故コイツはローブを被ってる…ちょっと理由は分かるけどデリケートな問題だし…あえて言わないでおいたほうが…



そう考え、発言を自重していると…



「光帝どうした!?なんで今日はフードかぶってんだ?いつもみたいにしとけよ!!」



光帝の隣にいた炎帝が大きな声でそう言うと、光帝のフードを勢い良く捲った。



すると………






そこにはあるべきはずのものが無かった…





見渡す限りの地肌。



そう…つまり髪の毛がすべてなくなっていたのであった…。





「・・・。ガハハハハハハ!!コイツ毛がねーぞ!!!」




それまで比較的静かだった空間は、炎帝のその言葉を境に、大きな笑い声に包まれる。



「~ッちょ!炎帝!なにしてんだよ!!グッジョブ!!」



げらげらと笑いながら雷帝は炎帝にそう言いながらグッドサインを出す



「…ハゲ……プフッ」



ちょ、まって!そんな火に油…いや、ガソリンをぶち込むようなことは止めるんだ闇帝!!



というか帝の中では静かな闇帝がこの調子じゃ他も全滅だな…あ、地帝が腹抑えて倒れた!



急げ!担架を持ってくるんだ!!帝を倒すとは…この空間…中々に危険だ……



それまで『え?』という表情で、何が起こったか分からないようだった光帝は自分の頭付近に手をやるとみるみる内に、顔に憤怒の表情が浮かび始めた




「炎帝~ッ!!貴様ァァァッ!!」



ブチギレた光帝は炎帝の頬に自分の拳を全力で振りかぶる。そしてそれは見事炎帝の頬に直撃した



…が、


「ギャハハハハハハハ!!」



炎帝はただひたすらに笑い続けるだけだった。



どうやら炎帝にダメージは入っていないようですね。化物乙


物理攻撃効かないとかやばいだろ




それとあいつがハゲてるのって多分昨日の決闘でパンチパーマになったからだよな?そうだよな?


まぁあいつから挑んできたわけだし俺は悪くないよね!




というかこれどうすんの!?会議どころじゃないぞ!!


光帝が魔力練り始めてるしそろそろ止めないとやばいことに……



そう思っていたときだった…



「はいはい、そこまで」



それまで一緒になって爆笑していた国王がこの場を納めにきた。


「人はね、年をとるにつれて髪の毛が薄くなるのは必然なんだよ…光帝はちょっとそうなるのが早かっただけじゃないかな?」



非常に穏やかな声でそう言う国王。



年齢は40後半くらいであろうか…立派な髭を携えている。そして金髪である。





それと確かにコイツが言えばなんとなく説得力があるな…


だって王も髪が薄いんだもん!


止めろ。これ以上笑わせないで!!そろそろ腹筋がおかしいことになりそう!


スカスカの金髪って破壊力高いな!



というか光帝の髪がなくなったのは年齢の影響じゃないと思うんだ…だってあいつ俺の次に若いし



「確かに…光帝、スキンヘッドも中々いいと思うぞ?」



国王の言葉を聞いて考え直した炎帝がそう言うがフォローになってないぞ、炎帝。



「ッフン!…もういい…」



光帝はそう言うと、空いてる椅子に座った。



こいつ簡単な奴だな…



「よし…じゃあ始めようか…」



国王は全員の着席を確認するとそう言い、静かな中会議は始まった…



・・・・・



会議終了後、俺は何故か帝の中で一人だけ会議室に残された。



というかさっきの会議は酷かった…静かだったのは最初だけで、炎帝、雷帝は途中から寝てるし地帝はどこからか取り出したケーキを食べてるし…


結局、真剣に話を聞いてたのは、


俺、風帝、闇帝、そして光帝だけだった。



一応重要な話なんだからちゃんと聞こうぜ!!



光帝がちゃんと話聞いてるのは意外だったなぁ…うん。



内容的には業務報告とかばっかだったから俺だけなんか置いてけぼりくらってるみたいだった…何にも話せずに終わっちゃったしね!



「お待たせ~」



そんなことを思い出していると会議室の扉が開かれ、両手に荷物を抱えた王が入ってきた。



…一応王なのにドアを足で開けるってマナー的にオーケーなのか?



「剣帝」


「はい?」



机の上に両手に抱えた荷物を置き、一度伸びをした王は俺に真剣な眼差しを向ける。


王の真剣な態度に少し身構えるが、王からは予想もしていなかった言葉が飛び出した…




「聞いたところによると君はまだ16歳だそうじゃないか、学校に行く気はないかね?…いや、行きなさい」






「……急なお話ですね…」



「うん、一昨日くらいに思いついたからね」



あ、この王駄目なやつだ。


確かに思いつきで行動するのも時には大切だけどね!


でもコイツそんなアホには見えないんだがな…なにか裏がありそうだ…



「青春はいいぞぉ~、僕も若いころは色々ヤンチャしたもんだ…」



何かを懐かしむように架空を見上げ、髭を親指と人差し指でいじる王。


髪が生え揃っていればどれだけかっこよかったことだろうか…


元々ダンディーな顔なのに…もったいない。今度ズラでもプレゼントしようか…




「そうですか…でも俺には帝の仕事があるんですが…」



はっきり言って学校とかめっちゃ行きたい!だって毎日が暇なんだもん!仕方ないね!!


だが、自分の仕事を放棄してそっちを優先するのはちょっと駄目だろう…学生になれば半日くらいは学校に居るわけだし…




「あぁ、その辺は大丈夫。仕事は他の帝に回すから」



「…それって大丈夫なんですか?他の帝からの苦情とか…」



「全然大丈夫。第一帝が動かないといけないようなことは頻繁には起きないしね」



そう言われてみればこの二週間で仕事の依頼は来てなかったな…



「それに剣帝の分の仕事も炎帝なら快く引き受けてくれるだろうし…、彼は動くのが好きだから」



うん、知ってる。だって見るからにアウトドアタイプなんだもん!



学校かー…、昼間一人で居るのも暇だしなー……




「…それじゃあ…行かせてもらっても?」



「うん、OK!」



質問に答える形で王がそう答える。



さっきから思うんだがこの国王色々と軽いよな…

人間としてはいい人なのは分かるんだが王としてはどうなんだろう…




…わっかんねーや!!




「それで?………俺はそこで何をすればいいんです?」



拓也のその言葉に対し、少しだけ驚きを見せる王。怪しく笑うと…




「あちゃー。君には普通に学園生活を楽しんでもらおうと思ってたんだけどねー」



額に手を当て、天を仰ぐ様な姿勢をとる王。髪があr(ry



やっぱり裏があったか…王の楽しんでもらいたいって気持ちは素直に嬉しいが、普通に考えて国の最高戦力を学園に通わせ、平和ボケさせるなんてことはしないだろう。



「まぁ普通に学園生活はエンジョイしますけどね!」



「それでいいよ。何かあったら柔軟に対応してくれれば問題ない」



学園に通えると分かって、テンションが上がってきている拓也。



「というか大事になるような事件なんて滅多に起きないから全然大丈夫!」



「だよね!仕事なんてしるか!!」



そしてこの二人、徐々に意気投合し始めている。



テンションが上がりまくっている拓也は、既に敬語を使うことを忘れているのであった…



「それで?いつから通えば?」



「明日からだよ。あ、そうそう。これ必要なもの一式ね。ちなみに学園名は『エルサイド国立魔法学園』だよ」



王はそう言うと、机の上に置いた大量の荷物を指差しそう言い、恐らく学校の場所が記載されているであろう地図を渡してきた。



明日…だと?今何時だ?



ふと部屋の中にあった時計を見ると、既に11時を回っている。



やばい。これ以上ここに居たら明日寝坊する!



「えっと…時間が時間なんでそろそろ帰りますね、それと色々とありがとうございます」



「うん、構わないよ。未来ある青年はちゃんと青春しなきゃね!」



すまんが俺はあんたよりだいぶ年取ってるんだが…。確かに青春なんて無縁でしたけども!


だって肉体を極限まで痛めつけて、直し、痛めつけの永遠ループだったからな、うん。思い出すだけで辛い…


そんなつい最近まで行われていたことを懐かしんでいると、王からもう一つ声が掛かった。



「それと君なら通うと言うと思って学校には僕の方から推薦しておいたから。明日朝、まず学園長室に向かってね」



「わかりました…あ、」



そこで拓也はあることを思い出し…



「【ゲート】」



自分と王の間の架空に、異空間への門を開いた。



すると、そこから一枚の銀の皿が出てきたかと思うと、雪崩のようにゲートからドレスやら金貨やらが出てくる出てくる。


やがてゲートはそのすべてを吐き出し小さい山を作ると、静かに消えていった。



「…これは一体なんだい?」



目の前で起こった異様な光景に、王は面白いものでも見ているかのような声色で拓也に尋ねる。



「この前偶然見つけた山賊のアジトにあった盗品の数々です」





このような言い回しだと、立ち寄った場所に偶然山族のアジトがあり颯爽と盗品を回収、という風に聞こえるかもしれないが、


事実は土に埋まっていたところを掘り返され、脅され、追いはぎをされ、荷物を取り戻そうと向かった先に盗品があったのでついでに回収した。というなんともかっこ悪い話である。



うん。非常に情けないねほんと…



「ほぉ、これはお手柄だね。褒賞金でも出そうか?」



「いえ、結構です…惨めになるんで……」



「そ、そうか。じゃあこれは僕が責任を持って持ち主に返しておくよ!」



過去のことを思い出しブルーになっている拓也を見て、王は何を悟ったのか…話題を変えることにした。



「それではもう夜遅いのでこれで失礼します…」



「あ、あぁ。それじゃあね…」



王がそう言い終えるのを聞き届け一礼すると、拓也は音も無くその場から居なくなった…



・・・・・



「ただいま~」



小声でそう言いながら玄関のドアを開け、リビングへ向かう。


そこにミシェルの姿は無い。どうやら既に寝ているようだ。



「ふぅ~」



やわらかいソファーに座り込み、一息つく。起きているのは自分だけだからだろう。部屋の中は静寂に包まれている。



「ガクエンカ…オモシロイコトニナッテキタナ!」



いきなり聞き慣れた声が聞こえる。


というかコイツって生き物ってことでいいのかな?普通に喋るし寝るし…



「正直かなり楽しみだぜ!…でもな~」



「ン?ドウシタ?」



嬉しそうな表情から一変。少し困ったような表情をする拓也。



「いやね、お前とかローブって持ち込みOKなのかなって思ってさ~」



「ドウダロウナ…ミシェルニキケ」



「バカ野郎!そんなこと出来るわけ無いだろう!…まぁ駄目だとして、お前…指輪とかになれない?」



仮に持ち込みがアウトだとしてもローブは畳んで鞄に入れておくことができる


が、こいつはそうは行かない。逆に隠してるのが見つかったら色々と面倒だろう。


あとはコイツの能力にかかっている!形状変化の能力を持つお前ならきっと!!



「ムリ」



「ですよねー」



だって武器にしかなれないって言ってたもんね!


それじゃあ手段は一つしかないな…



「それじゃあ…改造するしかないなぁぁぁぁ!!」





「ハ?ナニイッテンダ?…」



コイツに顔は無いが、声が震えているので怯えていることは簡単にわかった



ジョニーの質問を無視し、ゲートから工具諸々を引っ張り出す。



「オイ!シツモンニコタエロ!!」



拓也はそこでゆっくりとジョニーのほうへ振り返ると、不気味な笑みを貼り付けたまま…



「何って…お前を学園へ持って行けるようにするためにちょっといじるだけさ…」



このときジョニーには拓也が自分の天敵のように見えたことだろう…



「大丈夫大丈夫、痛いことはしないから…………多分…」



「イマタブンッテイッタヨナ!?イッタヨナ!?」



「(´、ゝ`)ふっ…」



「ナンダソノカオハ!ヤメロ!ジリジリチカヅクナ!!」




左右の手にバールと金槌をもった拓也が一歩一歩着実に近づいてくる。



近づいてくる拓也のプレッシャーに耐え切れなくなったジョニーは半ばヤケクソになり叫んだ



「ワカッタヨチクショウッ!ヤレバイインダロ!?ヤレバ!?」



そう言ったジョニーはひとりでに空中に浮くとカタカタと振るえ始めた。



少し光ったと思うとそこに剣の姿は無く、床に銀色に輝く指輪が落ちていた。



拓也はそれを拾うとその指輪を光にあて、観察しながら一言




「デザイン性がない。やり直し」



「ナニソレヒドイ」



なんという鬼畜。無理をして指輪になったジョニーに労いの言葉も無くやり直せとの無茶振り。


こんな奴が主になってしまったジョニーは非常に気の毒である。




「いやいや流石に冗談だって。よく頑張ったよ、というかお前結構普通に成れたじゃん。中々やるじゃねぇか!」



武器にしか成れないといっていた割には案外すんなり指輪になったジョニー。


コイツはやればできる子だ。そう確信する拓也であった。



「アァ、ダッテイマノオレノスガタモブキダシナ」



「ん?これはただの指輪じゃないのか?詳しく頼む」



指輪を右手の中指にはめながらそう訊ねる。見た目はただのシルバーリングだ。



「ナントダナ」



「なんと?…」



右手の指輪を観察していた拓也は、あるものを見つけた。



なんだこれ?ここが少し窪んでる…しかもこれ……なるほど…



「ワイヤーガシコンデアリマス」





この装備、非常に中二心が擽られるんですけど。



「へ~、これは中々…」



窪みからワイヤーを引っ張ったり離したりして感覚を確かめる。


スムーズに出入りするし、音もあまりしない。というかほぼ無音。



中々いい仕事をしたな、ジョニー!これは暗殺向きの武器だ。


できればそんなことしたくないですけどね…



「長さはどれくらいだ?」



「ウーン、2、3メートルクライジャナイカ?アワテテツクッタカラヨクワカンナイッスワ。コンヤマタチョウセイシナオシトクゼ」



そしてお前を慌てさせたのは私でしたねすんません。


それと2、3メートルあれば十分なんですが…まぁ本人がやる気出してるし放っておこう。




そこで一つ重要なことを思い出したので、ジョニーに訊ねる。



「この状態でも魔力って流せるのか?」



そう、ジョニーの能力の一つである流した魔力に応じた切れ味上昇。この状態でも使えるならかなり心強い。



「マッタクモンダイナイ」



「そうか、お前って結構優秀な奴なんだな」



「アタリマエダ!」




これは凄い。このワイヤーなら岩とかでも普通にスパッといけるな。


…ただ扱いに注意しないと俺の体がスパッと……。考えるのは止めよう。



褒められて心なしか喜んでいるジョニーをとりあえず無視して、そんな思考を巡らせる。



あとはローブだな…今夜中に何とかしないと…



そのとき、頭の中に小さなノイズのようなものが走る。


『あー、あー、鬼灯君。聞こえておるかな?』



最近気づいたことなんだが、念話をするときって頭の中に小さいノイズのようなものが起こるんだよね。今まで全然気にしてなかった。


まぁどうでもいいことなんですけどね!



『はーい聞こえてますよ~』



眠たいのもあって、大きな欠伸をしながらそう答える。


余談だがじーさんが夜に連絡をよこすのはなにか意図があってのことなんだろうか?



『例の件のことじゃが…見つからんかったわい』



『そっか…』



例の件とは、二週間ほど前に俺のところへ来た天使のことだ。敵側に俺の存在が知られていたということは、信じたくは無いがあの空間に出入りできていた者の中に敵と通じている裏切り者が居るということになる。


そこでこちらからじーさんに連絡をして調べてもらっていたんだが…どうやら分からなかったようだ。



『まぁ結果、鬼灯君の存在は奴らに知られてしまった。じゃが逆に考えればもうこれでコソコソ動く必要は無くなったわけじゃ。これからは好きなようにやってくれて構わんよ』



『おっけ~、こっちの事は俺に任せてくれ』




真剣な声色でそう返し、『では』と話を締めくくり、念話を切ろうとした時、じーさんが聞き捨てならない事を言った。




『あぁ、そういえばセラフィムの奴がその内そちらへ行くかもしれん』



『え?…なんであいつが?』




『本人曰く『もう拓也の事バレちゃったんだから俺たちが行っても問題なくね?』との事じゃ』



『はぁ……来たら顔面にパイぶつけるとだけ伝えておいて…』



あいつは…どうせ向こうが暇だからとかいう理由だろうな…うん絶対そうだわ。



だが久しぶりにあいつに会うのも悪くないな、それにあいつに限って内通者なわけが無いだろう。フラグじゃないよ?


なにしろ長い間あいつのじーさんに対する忠誠心を見てきたわけだからな。これには自信がある。




『わかった、そう伝えておこう。では何か分かったらまた連絡するでな』



『了解』



俺がそう返したのとほぼ同時に念話は切れた。



「さて…今日はもう寝るかな…」



拓也はその後風呂に入り、いつも通り眠りについた。



・・・・・



時間は流れ、翌朝。



「いや~、今日もいい天気だ。」



「…。」



いつものように二人で朝食を食べているミシェルと拓也。


最初は二人きりという状況に緊張していた拓也も、もうずいぶんと慣れたものだ。



「…あの、そろそろ突っ込んでもいいですか?」



「構わんよ」



先程から拓也をジト目で見ていたミシェルが、ようやく口を開く



それにしても拓也のこの口調。非常に腹が立つ。



「…なんで学園の制服着てるんですか?」



「そりゃぁ…俺ってば今日から学生だし?」



予想もしていなかった返答に、若干驚いているミシェル。



「え?…ちょっと状況が飲み込めないんですけど…」



「実はかくかくしかじかであってですね」



「いや、訳が分かりません」



ミシェルに突っ込まれるってのも中々新鮮だな。このジト目で見られるのが堪りまsゲフンゲフン!。ハイ、自重します。


というかやはりかくかくしかじかでは伝わらなかったか…。物語の説明を簡単にする魔法の呪文はどうやら使用不可のようだ。残念



「まぁ簡単に話すと王に学校行って来いって言われてね、それで現在に至るという訳です」



昨夜の王との会話を、簡略化してミシェルに話す。


王は何か意図があって俺を学園へ通わせることにしたらしいが、

恐らく学園内の警備の強化といったところだろう。


国立の学園となると貴族とか居そうだもんね。



「制服から見て私と同じ学校ですね」



「え!本当!?……確かにデザインが似ている…」



俺が来ている制服はシンプルな茶色のブレザーなのだが、確かにミシェルの制服と共通する部分があるような気がする…



ハッ!ということはまさか!!



「これから同じ学園ですね。フフ、楽しみです」



ふわっとやさしく笑い口元を覆うミシェル。


ジト目もいいがこっちも中々……良い!!



その時だった、玄関が軽く二回ノックされる。



「あら?こんな時間に誰でしょう?」



席を立ったミシェルは俺の視界から消え、玄関のほうへ向かっていった。



これはまさか学園ラブコメ的な!?これは俺にもいよいよ春が!?王様ありがとう。この御恩は一生忘れません。


といっておきながら三日後には忘れてるんですけどね、鳥頭ですねわかります。




「キャアアアアアアアアアアアアアアア!!!」


突然のことだった…。


俺の思考を遮るようにして悲鳴と爆発音が当たり一面に響き渡る



!?なんだなんだ!?玄関のほうからミシェルの悲鳴!?と爆発音!?一体何がどうなってやがるんだ!?




拓也は考える間もなく光速で玄関へ向かった。


するとそこには…。



「よぉ拓也。遊びに来たぜ!」



俺の存在に気づいたソイツは顔だけをこちらに向け、笑顔で片手を挙げる。


その刹那……既にダメージを負っている彼の顔面にさらに甘いクリームの追い打ちが掛けられる。




「なんだお前かよ、それで?何で全身丸焦げで地面に突っ伏してんだ?」



「ドアが開くと同時にレーザーで焼かれました」



「それは災難だったな。だが羽を畳んでいないお前が悪い」



この男の背中に付いている六枚三対の羽。


そう、コイツは熾天使セラフィムである。


それにしても顔面に付着したクリームを舌だけで全て綺麗に舐め取ったコイツはやはり異常なのだろう。


「あ~ミシェル、コイツは俺の知り合いだから大丈夫だよ」




未だ臨戦態勢を解かないミシェルに簡単にそう説明する。


いきなりレーザーで焼くのは少し頂けない、だが、まぁ二週間前に危ない目に会ったわけだし当然の反応だよね。




「そうなんですか…あの……すみません大丈夫ですか?」



「大丈夫だ、問題ない」



キリッとした表情でそう言うセラフィム、イケメンなのが余計に腹が立つ。


スクっと軽やかに立ち上がると、奴の肌、服。全てが元通りに直っている。流石は熾天使と言った所か…。




「で?お前は遊びに来たと言ったな?悪いが俺は忙しい、帰れ」



ニコニコ笑っていたセラフィムの顔が一気に絶望を受けたようなものに変わる。



「なんで!?なんでなん!?お前いつもニートしてるって聞いてたんだけど!?」



ちょ、誰からそんなこと聞いた!?じーさんか!?そうだな、間違いない。


何?俺って二十四時間じーさんに監視されてんの!?俺にプライバシーというものは無いのか!?


それと俺はちゃんとギルドに行って働いているのでニートじゃないです。



「今までは確かに暇だったけど今日から俺学園行かなくちゃだからぁ!」



俺のその言葉を聞いたセラフィムは膝を折り、四つん這いの体勢になる。



「そりゃぁねぇよ、あんまりだよ、お前が暇してるって聞いたから仕事投げ出して来たのに…」



「いや仕事しろよ」





何やってんだこのクソ天使!中々の一大事が起きてる最中仕事を放り出すとは…

これは俺が直々に天界へ連行するしかないのか?こいつを止められそうなの神以外に俺しかいなさそうだし…



「さて…それじゃあ天界へ戻ろうか」



「ヒッ!…やめろ!!離せ!!」



俺がニッコリ笑い、そう言いながら肩に手を置くとほぼ同時に


地上に舞い降りたタイプの天使から救いの言葉が掛けられる。



「あの…事情は分かりませんが、拓也さんのお知り合いならとりあえず私たちが帰ってくるまでこの家に居てもらってはどうでしょうか?」



みるみる内にセラフィムの顔が笑顔になっていくのが分かる。


さっきも思ったんだがなんで天使って美男美女ばっかなん?俺が見たことのある天使は少ないけどさ…二週間前に来た天使だって中々のイケメンだったんだが?

神はもっと平等に(主に顔面)作るべきだと思う。



「…ええんか?ホンマにええんか!?」



半分泣いているセラフィムがミシェルの手をとる。


黙れこのエセ関西弁め!というかなんでお前いきなり関西弁なんだよ!?謎すぎるわチクショウ!



あとミシェルの手に縋って泣くのやめろ!羨ましいじゃねぇかこの野郎!今すぐそこかわr…ゲフンゲフン、引いてるから!ミシェルちょっと引いてるから!!



「ちょ、ちょっと離してください!……?、あれ?あの人はどこに?」



「多分遥か上空にいるんじゃないかなぁ?」



えぇ、あまりにも羨ましかったので上空に空間魔法でテレポートさせてもらいました。


朝からあんなテンションで来るほうが悪いんだよ!!



それと空間魔法って便利だな~、敵すらも移動させられるんだもの。



「…それって大丈夫なんですか?」



魔法の偉大さに関心していたところにミシェルが不安そうに尋ねてくる。


だが正直言って心配なんて必要ない。



「大丈夫だって、多分数分したら勝手に降ってくるから」



「ただいま!!」



「早いな!おい!」



「そりゃぁお前、加速しながら落ちてきたからな!」



ものの数秒で戻ってきやがったこいつ!やはりこんな奴でもむちゃくちゃ強いんだよなぁ、天界の未来が非常に心配である。



「じゃあもう一回行っとくか?」



「ノーセンキュー」





おっと、そろそろ時間がヤバイな



「というのは冗談で、俺たちは時間が無いからもう学園へ行く。ミシェルの言葉に甘えてとりあえず俺たちが帰ってくるまでおとなしくしてなさい。OK?」



「我が命に代えても」



ぶっちゃけコイツがおとなしくしているわけが無いが、学園について来られるよりはマシだろう。

というかこの世界に天使はいるのかな?



「えっと…じゃあそろそろ行きましょうか」



「おっけ~い、じゃあ行って来るから本当におとなしくしてろよ?」



「俺ってそんなに信頼されてないの!?ねぇ!?」



ここで構っていると余計な時間がかかるので、無言でドアを閉め鍵を掛ける。



「いや~すまんな、知り合いがいきなり押しかけて来ちゃって」



ミシェルに鍵を渡しながら謝る。



「いえ、いいですよ。拓也さんの知り合いなら変な人じゃないと思いますし」



これはミシェルの俺への信頼が厚いということと捉えてもいいんですかね?



それと奴は十分に変な奴…というか変態である。


一緒に女性の天使について語り合ったこともある、つまり私と同業者ということですね。


だがラファエルたんのパンツを盗もうとしたときは流石に止めましたがね…


その後ラファエルの無言の圧力を受けて土下座するセラフィムを見た…とガブリエルから聞いた。


階級的に見てもセラフィムの方が上なのに部下にでも土下座できる事は評価に値するんだが、その理由がなんとも情けない…



「どうかしました?」



思い出に浸っており、反応が無かった拓也の顔を覗き込むように見上げるミシェル。


ちょっとドキッとしたのは言うまでもないだろう。



「あーうん…悪い奴ではないよ。学園まではどれくらい掛かるの?」



変な人というのは否定できないので話題を変える。


今まで散々暇だったのに王国内を探索してなかったことが悔やまれる。



今度休みの日にでもやっておこう。





「そうですね~…20分くらいでしょうか?」



結構時間かかるな~…いっその事飛んでいこうか?……いやいや、空間移動したほうが早いよな…


でも、初日だし今日は歩いていこうかな…。



「そっか~、いや~楽しみですな」



「同じクラスになれるといいですね」



そう言いながら微笑みかけてくるミシェル。


だいぶ耐性は付いてきたが、やはりチェリーボーイ拓也さんには厳しいものがあるな!



「ミシェルがいたら安心だな、テストとか…」



「見せませんよ?」



「なん…だと?」



・・・・・



「いや、でもね…赤点とかまずいじゃん?」



「じゃあこうしましょう。勉強は教えますから後は自分で何とかしてください」



「そんな殺生な…」



学園までそんなやり取りをしていたこの二人。



「それはそうと…もう着きましたよ?」



「あ、本当だ。じゃあ俺は学園長室に向かうからまた後でね~」



そう言うと、拓也は手をヒラヒラと振りながら、一人で建物の方へ歩いて行く。



「あの…そっち闘技場ですよ?」



おっと、これは恥ずかしい。この学園の地理情報なんてまったく無いのにカッコつけるんじゃなかった…。



「…い、いや~知ってるよ~。じゃあ今度こそ、また後でね~」



気持ち悪いニヤケ顔を作り、ミシェルに振り向く。



今度は闘技場と言われた建物とは真逆にある建物へと向って行った。




「……あの…そっちは体育館……」



「………ミシェル…。学園長室の場所教えて…」



「こっちです…」



流石に恥ずかしさがピークに達したので、おとなしくミシェルに場所を聞くことにした拓也。




というか何で学園内に闘技場があるの!?教師公認の暴力大会でもあるんですか!?



……なんか本当にありそうで怖い



この世界の人間はそういうの好きそうだからな、ロイドさんと言い光帝と言い…

何かにつけて決闘を申し込んでくるような人たちばっかりだったし…ミシェルもちょくちょく攻撃的だし…








「はい、着きましたよ」



目の前には『学園長室』と書かれた板が掛けられている何の変哲も無い木のドアがある


どうやら目的の場所に到着したようだ。



「ありがと、じゃあ今度こそまた後で~」



ヒラヒラと手を振り、小走りで去っていくミシェルを見送る。



目の前のドアに向き直り、『コンコン』と軽く二回ノックをする。



「どうぞ」



「失礼します」



中にいる人物から入室の許可が出たのでゆっくりドアを開け、中に入る。


するとそこにはもうすぐ初老に入るであろう男性が椅子に座っていた。



「ようこそ、君が鬼灯拓也君だね?話は国王の方から聞いているよ」



う~ん。何の変哲も無い学園長だ…


なんか、こうもっとインパクトが欲しいんだが…筋肉ダルマとか見たいな感じで…



そう思ってしまうのは俺のいた環境がおかしかったからなのか?そうだとしたら原因は主にセラフィムにあるな。


やっぱり普通が一番なのかもしれない




「今日からお世話になります。よろしくお願いします」




とりあえず軽く会釈しながら挨拶を済ます。



学園長が普通の良い人そうでよかった…



「さて、早速だけど君には1年Sクラスに入ってもらう。Sクラスはこの国の要人の子供。つまり貴族の息子、娘がおる。何か問題が起こったときは君に働いてもらうことになる。頼んだよ?剣帝」


穏やかに微笑みながらサラッと俺の正体を暴露する学園長。



「お任せください」


無駄に格好をつけてそう返す。



やっぱり学園長は知ってたか…でもこの人頭良さそうだし別にいいか



「あ、質問いいですか?」



「構わんよ」



「Sクラスには要人の子供達がいると言ってましたが、他のクラスはどうなっているんです?」



「うちの学園では下からD、C、B、A、Sクラスとあってな?筆記と実技の得点が優秀な者のほうがより上位のクラスへ入れるという形になっているんだ」



なるほど、実力によってクラス分けされてるということか。


だが貴族の奴らが皆が皆優秀なわけがあるのか?…



俺の考えが間違っているのか…または大人の事情でそうなっているか…




まぁ自分の目で見て確かめればいいか!






「では私は君のクラスの担任を呼んでくる。ここで待っていてくれ」



学園長はそういい残すと席を立ち、どこへ続くのか分からないドアを開けて部屋から出て行った。




「ジョニーよ、奴の戦闘力はどれくらいだ?」



「ゴジュウサンマンデス」



ちょっとまて、


こいつはなんで日本のサブカルチャーを知ってるんだ?



「ソリャアオマエノシコウハヨメマスカラ」



え、なに?こいついつの間にそんなパワーアップしてんの?聞いてないんですけど



「イッテナカッタッケ?」



初耳だぞこの野郎!!




だがいちいち言葉にしなくてもいいってのは助かる能力なので、こちらももう言葉は発さないようにする。



こいつの声が周りには聞こえてないなら俺一人で喋ってるように見えるもんね…


そんな怪しい奴になりたくは無い。




「チナミニキオクモヨメルヨ!ヤッタネ!」




もう止めてくれ…俺にプライバシーは無いのか…。




なるほど、こいつが宇宙最強(笑)のことを知っていたのも俺の記憶を見たからか…。色々と反則だな…



「トイッテモ、オレガコノノウリョクヲハツドウスルニハオマエニフレテイルヒツヨウガアル」



そうか、まぁ便利なのはわかった。



この能力があれば戦闘中も意思疎通ができて便利だろう。




「おまたせしたね」




そんなやり取りをしている間に、学園長が一人の人物を連れて部屋に戻ってきた。



「こちらが君の担任のテリー先生だ」



「よろしく!クラスに仲間が増えて先生嬉しいよ!」



真っ白な歯をキラッと輝かせながら微笑みかけてくる俺の担任といわれた人物。


短い金髪に青い目。そしてなにより…




「でかいっすね…」



ゆうに2メートルは超えているであろう身長、俺の手足より3倍ほど太い四肢。バットをフルスイングしてもびくともしなさそうな丸太のようなボディー。


どうやら俺は格ゲーの世界に迷い込んでしまったようだ…


ハハハ、よく言われるよ!」



俺の肩をバシバシ叩きながrというか痛い!痛いって!!



何故だろう…テリー先生から炎帝に近しいものを感じる…



「さあ!教室へ行こう!ついておいで!」



「あ、ちょっと待ってください」



そういうが早いか、テリー先生は学園長室のドアを開けて駆け足で出て行ってしまった。



「すまんな、悪い人ではないんだけどね。それじゃあ君も教室へ向かってくれ」



「わかりました、失礼します」



軽く一礼して部屋を出る、



学園長室を出ると、なんとテリー先生が待っていた。



てっきり先に行ったと思ってたぜ…



「よし!それじゃあ教室へ行くよ!」



そう言うとまた駆け出すテリー。


どうでもいいことだがこの人の担当は体育系だわ、絶対そうだわ…



とりあえず後ろについていくことにする。



というか2メートル超えの巨体が廊下を走っているせいか、心なしか地面が揺れているんだが…



「君は国王推薦の生徒だそうだね!優秀な子がクラスに来てくれて先生鼻が高いよ!」



「はぁ、そうですか。」



どうしよう、この人のテンションが高すぎてついて行けない



それとこの人は俺の正体を知らないみたいだな…ということは学園長だけしか知らないということか…?



そうこうしているうちに、走っていたこともあってか1年Sクラスの教室前に到着した。




「僕が先に入って君を呼ぶから、僕が呼んだら入って自己紹介してくれ。」



何故かここで小声になるテリー。恐らく中にいるほかの生徒に気づかれないためにやっているんだろう…


だけどあんたの存在感が大きすぎて皆気づいてるよ!気づいて!テリー!



「オーイエー」



グッドサインを出しながらそう返事をする。



それを確認してから歯を光らせて笑うと、テリーは教室へと入っていった。



…ちょっとした好奇心で中の様子を覗く



…………テリーがでか過ぎて他の奴らが色あせて見える…




「なんと今日は新しいお友達が来ている!入って!」



テリーに呼ばれるままにドアを開け、教室の中へ入る。



クラスの人間の視線が全て俺へ向く。


人に見つめられるのには慣れてないんだよ!止めてくれ!




なんとか教卓の前まで歩き、生徒達のほうへ向き直る。



するとそこには見慣れた銀髪の美少女もいた。

間違いない。ミシェルだ。



よかった…本当によかった……。



「ハハハ!どうした?緊張してるのか?」



ずっと黙り込んでしまっていたので、金髪の大男に背中をバンバン叩かれる。


痛い…



「えっと、鬼灯拓也です。よろしくお願いします」



…何故俺はこんなに緊張しているんだ?同い年の奴しかいないのに…



挨拶を終わらせるとちらほら『よろしく~』や拍手が起こる。


どうやらそこそこ歓迎はされているようだ。




「じゃあ~…あそこに座ってくれ!」



テリーはそう言うと、窓側最後列を指差した。



これはラッキー!!あそこは太古の昔から学園物の主人公が座る席ッ!これで俺も!!!





……ただしイケメンに限る…か……



いやね、知ってるよ?だってフツメンだもん…可も無く不可も無くって奴だもん。




ただしブサメンではない!!断じて!!断じてッ!!!




そんなことを考えながら席へ向かう。



これはッ!素晴らしい日当たり!!なるほど、幾多の主人公が寝る理由がついに判明した!




席に座りくつろいでいると、テリーがまた面倒になりそうなことを離し始めた。




「なんとだな!拓也君は国王推薦でこの学園に来たんだぞ!!すごいだろ!!」



いや、あんたが自慢することじゃないだろうテリーよ…



周りからは、え?こんな奴が?という眼差しを向けられる。




やめて!そんな目で見ないでぇぇぇぇぇ!!!


はいキモイですねさーせん。




するとここで朝のショートホームルームの終わりを告げるチャイムが鳴り響く。



「おっと、それじゃあ他に聞きたいことがある人は本人に直接聞きに行くように!!」




それだけ言い残すとテリーは教室から出て行った。




出て行くときにグッドサインと口ぱくで『ファイト!』と残していったのになんかイラッとした。




・・・・・


時間は過ぎて、一限目の終了後の休み時間。



例によって俺は、クラスメイトからの質問攻めに合っていた。



「ねえねえ、君って国王推薦なんだって!?どうして!?」



「魔力量と属性教えてよ!」



「え、えっと…」



クラスメイトとの友好関係を深めるのには絶好の機会なのだが、


俺がこの世界に来る前から持っているスキル…『コミュ障』が邪魔をしているのであった。



「身長は!?体重は!?」



おいちょっとまて!コイツは初対面の人間に何を聞こうとしてるんだよ!?



そんなような感じで教室全体が騒がしくなってきた時だった。



「またこのクラスに平民が増えたのか…この学園も堕ちたものだな、Sクラスに平民を入れるとは…」



クラス内の空気が一気に氷点下まで下がる。


その状況を作り出した張本人は、俺から少し離れた席に座っていた。



白色の髪の毛にそこそこ整った顔。まぁとどのつまりイケメンの部類の人間だった。



コイツの発言からするとコイツは貴族のようだ。



それと誰も何も言わないところを見るとこいつが相当の実力者かそれとも自分達より階級が上の貴族なのか…両方か…


または話しかけたくも無い、と思われているほど嫌われているか…




そう思考を巡らせていると、俺の目の前に今度は別の人物が現れた。



「彼はああいう奴なんだ。気にしないほうが良いよ」



奴には聞こえない程度の音量で俺にそういう青髪の人物。



そしていわずもがなコイツもイケメン…



今度じーさんにあったら顔面を作る時の基準を聞いてみよう…




「あぁ、別に気にしてないよ」



若干キョドってしまったがなんとか返事をすることができた。



「僕はアルス=クランバニア。よろしく」



ニコッと笑いかけながら自己紹介をするアルスと名乗った人物。



差し出された右手を握り返し



「俺は鬼灯拓也。こちらこそよろしく」



こちらも名乗る。まぁさっきの自己紹介聞いてれば分かると思うけどね。



ともかく学園でやっと一人友達?ができた…よかった……





おっと…?他のクラスメイトがズルズル教室から出て……どこへ向かってるんだ?



「僕達も行こうか。…拓也って呼んでいいかな?」



「構わんよ。じゃあ俺もアルスと呼ぶことにしよう。それでこれは一体どこへ向かってるんだ?」




「一年生は今日は闘技場で魔武器の製作と使い魔召喚があるからね。一年生の中でも一大イベントだよ?」




「なるほど…」



魔武器…は前説明したか…


使い魔…ガブリエルに教えてもらったな…召喚した者の素質に応じたモンスター?的なのが出てくるとかなんとか…


あんま詳しく覚えてないや!




「それじゃあ僕達も行こう!」



アルスもやはり楽しみなのか、心なしかテンションが上がっているような気がする。




二人は仲良く手をつないで闘技場へ向かっていった。



ごめん嘘ついた。あと私はホモじゃないです。




・・・・・



「はーい!じゃあ皆座ってー!!」



前のほうでテリーが叫んでいるのが聞こえる。




適当な場所に腰を下ろし、


俺ジョニー持ってるのに魔武器いらなくね?

とか

使い魔で気に食わない奴がきたらセラフィムを使い魔にしよう。



などくだらないことを考えながら諸注意を聞き流す。


そんなこと聞かなくてもガブリエルにこっぴり教え込まれたから大丈夫!



そしていよいよ使い魔召喚が始まった。



前方のほうから歓喜の声などが聞こえてくる。


そりゃあ一生のパートナーだもんな。いや、夫婦とかいう意味じゃなくてね。バトル的な意味で。



そしていよいよ俺の番が回ってきた。


ここで俺はあることに気づく。





ここでドラゴンとか派手なの召喚したらやばくない!?


さっきから見てる感じだと他の奴らはゴブリンとかなんかよく分からん魔物とか良い奴でもグリフォンとかだったから…



ええい!成るように成れッ!!



「いざッ!南無三ッッ!!」


掛け声と共に、地面に描かれている魔法陣に魔力を流す。



一瞬辺りが眩い閃光に包まれる。その出来事に闘技場にいた奴らがざわつき始め、こっちを見ている。



これは…やっちまったか?……



恐る恐る目を開けると…そこには予想外な人物?たちがいた。




10人の小人?妖精?


とにかく20センチほどの大きさの妖精のような奴らを召喚したようだ。


え…なんかこいつらめっちゃこっち見てるんですけど…



とりあえず次の人の邪魔にならないように移動しよう。



「こっちにお願いしまーす……」



なんで敬語になってんだ俺…



こいつらついてきてるんだが後ろでなんかコソコソ話をしてるのが聞こえる…


あとやっぱり視線を感じる…




闘技場の壁まで移動し、壁にもたれ掛かって向き直る。



改めてみるとこいつらなんかちょこちょこ動いててめっちゃぷりてぃ~だな



「えっと…俺は鬼灯拓也。君達を召喚した者だ。君達のことを教えてもらってもいいかな?」



とりあえず自分から名乗り、相手のことを聞いてみる。



すると全体的に赤い奴が口を開いた。



「…………俺達は『属性神』ここにいつ奴ら皆。俺達を全員呼び出すとは…お前は何者だ?」



え~……え~…。


属性神とはまた大物が来たな…



説明しよう!


属性神とは、かつて現在の10属性を確立するために戦った各属性の神たちのことである!!


神とは言ってもじーさんのような神ではない!


属性の精霊が神格化されたようなものだ!


つまり精霊の最終形態のようなものである!!



とガブリエルから教えてもらったような…



まぁ俺の敵対してる神たちとは関係は無い、ということは恐らく間違いないだろう。



「『こういうものです』」



軽く殺気をのせ、そう言葉を放つ。



赤い属性神の表情が一瞬強張る。



「なるほど、只者じゃないって事は分かったぜ」



よかった、ちゃんと伝わったようだ。



「俺は火の属性神『イフリート』お前とは仲良くやれそうだぜ!よろしくな!」



「こちらこそよろしく頼むぜ」



なんか良い奴そうでよかった…。火属性の奴って基本的にいい奴多いと思うのは俺だけじゃないとおもうんだ




「お前らも挨拶しとけよ!」



俺の手を離すと、イフリートは後ろに居るほかの奴らにそう言った。



最初は顔を見合わせあっているだけだったが、ポツリポツリと自己紹介を始めた。



「僕は風の属性神『ジン』特技は……風を操る事くらいかな…」



「私は水の属性神『クラーケン』好きなものは甘いもの!よろしくね!」



「私は土の属性神『ベヒモス』静かなところが好きだからあまり戦場には呼ばないでくれ」



「おれっちは雷の属性神『トール』得意なことは雷を落とすことだぜ!」



最初に自己紹介をしてくれたこの4人。こいつらは自然属性の属性神のようだ。


それとベヒモスよ…、それは職務怠慢ではないのか?…まぁ別に良いか、呼び出したらちゃんと働かせよう。


あと水の属性神のクラーケン。女の子なのになんか可哀想だな…



「私は光の属性神『ウィスパー』嫌いなものは闇だ」



「私は闇の属性神『シェイド』嫌いなものは光だ」




なるほど、さてはこいつら相当仲悪いな!?



色は違うにしてもはたから見たらまったく同じ形状の燕尾服を着てるくせに…


…燕尾服もミニチュアサイズでやっぱりかわいいな~



「空間の属性神『ゼロ』だ、よろしく頼む」



「破壊の属性神『ミュル』。よろしく」




…この二人はなんかクールだな…確かにミニチュアサイズでもイケメンですけれども…




今気づいたんだが、属性神たちはみんな各自の属性をモチーフにしたような格好をしている。


たとえばジンなら羽衣のようなものを着て髪色は緑色だし、

クラーケンなら踊り子のようなセクシーな服を着て水色の髪…


細かいところまで気を使ってるのかな?それとも元々なのか……私気になります!!



とまぁそんなことはどうでも良いんですけれどね!格好とか別に本人達の自由だし







「そうか、改めて…鬼灯拓也だ。今日からお前らの主になる。絶対的な王だ。敬意を払いたまえ」



「絶対ヤダ!」



「嫌よ」



「無理じゃ」



「お断りだぜ!」



「…嫌です」




え、えぇ~。軽いジョークのつもりだったんだが自然の属性神が物凄い反発して来るんだが…


俺に足りないものはカリスマと顔面のようですね



「…とまぁおふざけはここまでにして、ぶっちゃけお前らって何ができるの?」



「そりゃあ…戦うんですけれども」



イフリートがそう答えてくれる。



このままのかわいらしい格好で、戦える!とか言われてもなぁ……


やらせるこっちの気が引けるといいますか…



…というかこのままでも戦えるんだな、そこに驚きだよ




「でも流石にこの姿のままじゃ…そうだな………Aランク辺りが限界だな…」



Aランクか…それって普通に強くない?


こいつサラッと言ったがこの学園の一年生徒の平均以上に強いというわけですか。



「そこでだ」



「ほぉ、なるほどな。そんな隠された能力を持っているとは…拓也さん驚きっすわ」



「まだ何も言ってないだろうがッ!」



よく分からないボケをした拓也の顔面に、イフリートの炎を纏った拳がめり込む。



そこそこ痛い。



「なるほど…Aランクが限界って言うのも分かるな…」



「おぉ!兄ちゃん頑丈だな!俺もやって良いか!?」



「やめて!ブサメンになっちゃうじゃないのッ!!」



「ちぇー」



なんなのこいつら!?召喚した主を殴るのが流行ってるのか?



一瞬全身に青白い雷を走らせ、ノリノリで殴りかかろうとしてきたトールを止める。


すんなりやめてくれるあたり素直なようだ。




「イフリート、続けてくれ」



「おぅ、まず一つ。俺たちに魔力を流し、俺たちを全盛期の姿まで戻して戦わせる方法だ」




まぁこれは予想通りだったな…。


精霊は飲食を必要としないが、代わりに魔力を吸収して生きている。


それは大気を漂う魔力を吸収していると聞いたことがある。



こいつらが今こんな姿になっているのも魔力が足りていないからだろう。










「一つ目はってことは他にもあるんだろ?」



「あぁ、二つ目は俺たちの力をお前が使う方法だ」



ん?どういうことだ?



「ちょっと詳しく頼む」



「まぁ簡単言うと俺たちと融合するって事だな。ここに居る奴らは皆何らかの形でお前と融合することができる」



なに?融合?英語で言うとフュージョンですね。ってそんなことは今関係ない。



「なになに?お前らの力+俺の力って事?」



「そういう事だな。そして俺たちとの融合が深まれば深まるほどお前の姿は俺たちに近づいていく」



え?なに?おれお人形さんになっちゃうの?とは言いませんよ、また殴られるので。



コイツが言いたいのは全盛期のほうの姿に近づいて行くという事だろう



「で?シンクロ率が100%になるとどうなるの?」



「俺たちの力を100%使えるようになる」



こいつら思ったより凄い使い魔だったようだ。


そんなことよりシンクロ率という言葉が通じたことに俺は驚いている。



「その場合、俺の力も100%使えるのか?」



「お前の体だろ?問題なく使えると思うぜ」



「なるほど…大体は把握した。改めてよろしく頼む」




属性神たち全員と握手をして回る。素直に応じてくれるあたりいい奴らだ。



…周りを見回す。大体の生徒は既に召喚を済ませたようだ。それぞれの使い魔とコミュニケーションをとっている。


どうしよう。ここがふれあい自由の動物園に見えてきた……。



ふと、召喚陣のほうへ目をやると、ミシェルが召喚の準備を始めているのが目に入った。




素質から言えばまず間違いなくこの中でNo.1のはミシェルだろう。


俺は壮絶な修行によって今の力を手に入れているが、ミシェルは元々力を持っている。


すなわち俺より素質はある。というわけだ。



そういえば何で俺にもコイツらみたいな強い奴が出てきたんだろうか?


もしや!俺にも素質があるんじゃッ!?



そうだったら嬉しいよね!






おっと、そんなこと考えてる間に準備が完了したようだ。



魔方陣から眩い光が溢れ出す。



やがて、光が収まると……空中に人一人が入れるような白い塊のようなものが現れた。



なんだあれ?……よく見るとあれは……羽毛?真っ白な羽毛のようだ…



ということはあれは羽のある生き物……。しかも結構でかい。人一人覆えてしまえるほどの羽を持った生き物……




…ちょっとまて。なんか心当たりがあるんだが……



白い翼…あの人を覆っているようなフォルム…まさかッッ!!!




その瞬間。白い塊から『バッサァッ!」という音が聞こえたと思うと、中に居たであろう人物が姿を現した。



辺りに真っ白な羽毛が少量降り注ぐ。




それは目を瞑ったままゆっくり降りてくる。



少し上を向き、両手は僅かに広げられている。


その姿はどこか神々しさを感じさせ、周りの観衆もそれのあまりの美しさに見入ってしまうのであった。



そしてそれは地面に降り立った。



六枚三対の羽の金髪イケメン。



そう。皆さんご存知、熾天使セラフィムである。




ミシェルよ…もはやドンマイとしか言いようがない。



なんでコイツが出できたんだ?



やはりミシェルの素質が彼を呼んでしまったんだろう…




「こ、これは……熾天使セラフィムだとッ!?」



あぁ、やっぱコイツこっちではそういう扱いなのね…。


先生が驚いている。どうやらかなり高いランクの使い魔のようだ…




それにしてもコイツ…体勢が変わってない。まるで周囲の状況など意に介していないようだ。




?少しづつ手が上へ上がって…胸の高さで止まった……一体なにをするつもりだ?




次の瞬間、セラフィムは目をカッと開くと、



「ハッッ!!!!」



両手をパーンと打ちつけた。



あまりの意味不明な行動に周囲の観衆は唖然としている。



そして、彼はゆっくりと手の平と手の平を離した。



そこには……


































紛れもない女物のおパンティーが存在していた。



「…何持ってるんだ?アイツ…」



「あれって………」




奴のあまりの奇行により、周りの観衆がザワザワと騒ぎ出す。



そりゃそうだ、一体何を練成するかと思ったらまさかパンティーとはな……


恐れ入ったぜ。




「ってそんなこと考えてる場合じゃねぇッ!!」



あのままあれがパンティーだということに気づかれたら召喚したミシェルに……



あれを…どこに飛ばせば良いんだ!?チクショウわからん!!



「しょうがない……(『テレポート』)」



空間魔法を発動。奴が持っていたパンツを俺の鞄の中に飛ばす。



とりあえずはこれで大丈夫か…焦ったぜ

危うく色々と問題になるところだった……。



額に伝う汗を手でぬぐい一息つく。しかしまだ事態は収拾へ向かってはいなかった…




「なん…だと?……バカなッ!確かに創り上げた筈だ!!魅惑の布はいずこへ!?カムバァァァァックッ!!!」



セラフィム発狂。



首をありえない速さで回し、あたりをくまなく見る。




やべぇよやべぇよ……ああなったアイツは手の付けようが無いほどめんどくさいんだよ……

こんなときにラファエルがいてくれたらどんなに助かったことだろうk………ヤヴァイ…アイツめっちゃこっち見てんじゃん…




「貴様か…、許さん…貴様の行った蛮行…万死に値するッ!!」



謎の覇気発しながら拓也との距離を縮める。



恐らく俺がやったと判断したのだろう。


そんなことよりヤバイ。コイツを早くどうにかしないと…



…だが俺はここに一生徒として居るわけだし大きな力は使えない……。



そんなことを考えている間にも変態紳士は確実に近づいている。



ええい!仕方ないッ!


一応国王推薦ってことになってるし少しくらいなら大丈夫だろッ!多分ッ!!




確かここでの俺の設定は、雷属性と風属性持ち。魔力量は53万。よし!多分これで行けるッ!!



発動するのは雷の中級魔法。


威力を引き上げるために奴の足元に魔方陣を設置…完了。


頼む!奴を止めてくれ!!



「【ライジングストライク】ッ!!」



上空が一瞬光ったかと思うが早いか、変態の脳天に一本の稲妻が直撃した。



この魔法は文字通り落雷を起こす魔法。


一応電気ショックで意識を刈り取ることを狙ったんだが…一体どうなる…





動かない変態紳士。



果たして効いているのか…?


中級魔法とはいえ、魔力を53万ぎりぎりまで込めたから少しは効いてるはず……



「…わ………」



「わ?」



なにやら喋ろうとっしているようだ。



「わが生涯に…一片の悔い…な……し」



ドサッと地面に倒れる変態紳士。どうやら暴走は収まったようだ。やれやれ…、



それにしてもさっきまでパンツを求めて暴れてたくせに一片の悔い無しとはどういうことだ?


そしてコイツはこんなにもネタに走るのだろうか?

………ちょっと共感できちゃう自分がいる…



まぁコイツのことだから空気読んで気絶した振りしてるんだろうな。


それなら最初から空気読めって!危うく焦ってオーバーキルするところだったわ!



「お、おい…大丈夫なのか?…」



一部始終を見ていた召喚術の先生がセラフィムに駆け寄り、靴の先でつんつんし始めた。



おい先生よ……そんな汚物のように扱わないでやってくれ…そいつ一応天界の重鎮なんだから…。



「君も怪我はしてないか!?」



「あ、はい。なんともないっす」



「そうか…もうあんな危ないことはしちゃ駄目だぞ!?」



「……すみません」



先生は安否確認を済ませると、軽く注意して魔方陣のほうへ戻っていった。


あれって一応正当防衛だと思うのですが……



「拓也さんッ!大丈夫ですかッ!?」



入れ替わるように駆け寄ってくるミシェル。そういえば学園では初めて話すな…


それよりも自分の使い魔の心配をしてやってくれ…さっきからあまりにも不憫だ…



「問題ない(キリッ)。それより結構注目集めちゃったし…とりあえず移動しよう」



一連の騒動のせいでだいぶ目立ってしまった。未だにこっち見てるやつも多数いる。



「そ、そうですね」



セラフィムの服の襟を掴んで引きずりながら、属性神たちを待機させていた場所へ戻る。


後に続いてミシェルもついてくる。




どうでもいいことだが、この状態でも気絶した振りを続けるこいつの役者魂には驚きだ。



「お~お帰り、っと…そいつらは?」



先程までいた場所に戻ると、イフリートがそう俺を迎える。



「あぁ、俺の友人と…よっと、その使い魔だ」



手に持っていた荷物(羽根付き)を雑に地面に投げ捨てながらそう返す。



「ん?もしかしてお前セラフィムか?」



「あー!本当だ!」



「久しいな…」



荷物(羽根付き)の容姿を確認するし、それが熾天使セラフィムだということを確認したイフリート、クラーケン、シェイド。



「あー、なんか聞き覚えのある声だと思ったらお前らだったか。しばらく見ないうちにだいぶかわいらしくなったじゃん。どうしたの?イメチェンってやつですか?」



あぁ、こいつら知り合いなのね。知らんかったわ。



「ちげーよ、俺たちにも色々事情があるんだよ!」



事情って言うのは恐らく空気中に存在する魔力が少なくなっているということだろう。


魔法は使用後、空気中に魔力が飛散する。その魔力が空気中に残留するというわけだ。


そして精霊ってのはそういう魔力を食って生きている。それの繰り返しで魔力濃度のバランスが保たれているというわけだ。


こいつら属性神が全盛期の時代はあちらこちらでドンパチやってたようだから、まぁエネルギー補給には困らなかったんだろう。


しかし現在この世界では、昔のように物騒ではなくなった。よく分からんがどっかの大国同士が戦争してるくらいだろう。



昔に比べれば空気中の魔力濃度は少ないんだろう。だからこいつらは今、こんな姿になっている。というわけだ。


……でもかわいいからいいんですけどね。




「まぁ大体は予想できる、ドンマイ」



どうやらセラフィムも知っているようだ。



というかナチュラルに復活してるあたり、さっきの攻撃は全然効いていなかったようだな。残念




「ところでお前人間に召喚されたのか?しかもまだこんな青臭いガキに?確かに素質はあるようだが…。熾天使様も堕ちたもんだなぁ」



小馬鹿にするように冗談を言うイフリート。



視界の端でミシェルがちょっとムスッとしたのを俺の目は見逃さなかった。可愛い。



「おいおい、それを言えばお前らも同じだろ?まぁ早速こいつが人間かどうかは既に怪しいレベルだがな」



「失礼だな、まだ人間やめた覚えは無いぞ」




いや、多分ね。


一応種族は人間だと思いますし…多分ね



「あ、あの…やっぱりこれって私の使い魔なんですか?」



「これとは失礼だな、俺はセラフィム。天使だ」




既に物扱いされ始めるセラフィム。こんなんでも天界の重鎮なんだから驚きである



「あれ?ちょっとまてよ……お前ら一人足りなくないか?イスラフェルはどこだ?」



「あ……確かに俺たちが全員呼ばれてるのにアイツだけ居ないのはおかしいな」




一人足りない?属性神のことかな?


ちゃんとここに全員……


……………音の属性神が居ない……


そもそも俺は全員呼び出したのか?呼び出してないという可能性も…




「あ、いたいた。おーい何やってんだよ、早くこっち来い」



何かを発見したイフリートが闘技場の壁へ向かってそこに居るであろう何かに呼びかける。




すると、物陰からなにやら桜色の髪がチラッと覗いた。


続けて白い肌が見え始め、髪と同じ色の瞳が見えたところで動きは止まった。



恐らくあの子は音の属性神だろう。なぜこっちへこないのだろうか?



「トールよ、あの子はなんで俺たちに近づこうとしないんだい?」



イフリートばかりと喋るのも面白くないので相手を変え、トールに話しかけてみる。



「アイツは結構最近属性神になったんだ!で、なんか知らんけど俺たちにもあまり近づかないんだぜ!」



ほぉ、…よくわかんないんだぜ!



「ウィスパー、説明してくれ」



トールではちょっと意味が分からなかったのでまた相手を変え、ウィスパーに質問する。



「彼女は私達より後に属性神になりました。まぁ先輩のなかで後輩一人だけ、という状況は居辛いですからね。うまく溶け込めないのでしょう」



「ありがとう。とてもわかりやすかった」



「いえいえ」



ところでとってもどうでもいいことなんだが、ウィスパーとシェイド。こいつら二人ともシルクハット、燕尾服に仮面っておんなじ服装しるんだけどなんでなんだろう……



違うところといえば、ウィスパーは白、シェイドは黒、と色が違うだけだし…


1Pカラーと2Pカラーみたいで面白いな……





そんなことを考えている間も、事態は一向に動かない。



なら話は簡単だ。こっちから向かっていけば良い。



「やあ、僕は武田正也。君のオーナーだ、よろしく」



イスラフェルと呼ばれた人物に右手を伸ばす。



「え…えっと、………鬼灯拓也さんじゃ…ないんですか?」



「あら、聞こえてたのか。そう、俺は鬼灯拓也。好きなものはパンツ。趣味はパンツ収集だ。よろしく」



自分でやっておいてなんだが、意味が分からんな。うん

セラフィムのせいで下ネタがおもわずでてしまったよ。初対面の女の子?なのに…



「……あの…よろしくお願いします」



その場で深くお辞儀をしながらそう挨拶するイスラフェル。


ちなみに下ネタを完全にスルーされたのは気にしてない。してないよ?



「挨拶はこの辺にしといて、あいつらのとこに戻るか」



「え…あ、……はい」



あからさまに表情が曇る。なんか俺がいじめてるみたいで心が痛むぜ!



「どうした?あいつらのこと嫌いとか?」



微笑みかけながら訊ねる。これがイケメンなら需要あるのだろうが………



ざんね~ん!!俺はフツメンでしたぁぁぁッ!!



「!!いえ!そういうことじゃなくて……なんだか私があそこに居ると雰囲気がギクシャクするというか…」



慌てふためきながら必死に説明するイスラフェル。



「あーそれは多分あいつらが良い奴ら過ぎるんだよ」



「え?……どういうことですか?」



まったく訳が分からないといった表情で見つめてくる。


まぁあいつらも不器用なんだよなぁ…



「ウィスパーに聞いたんだけど結構最近属性神になったんだって?」



「…はい」



「多分新人をあいつらなりに歓迎したかったんだと思うぜ。そして慣れないことをする。色々うまく行かずに現在に至る…というわけですわ。イフリートとトールは元気が有り余ってるし特にやらかしそうだしな」



向こうで騒いでるイフリートとトールを見ながら苦笑いする拓也。



「ウィスパーとシェイドなんて仮面かぶってて何考えてんのかわからんし、ゼロとミュルなんてクールすぎて常に怒ってるんじゃないかって俺も思う。まぁ…あれだ。お前の考えすぎだ」




じっと拓也の話を聞き入っていたイスラフェルだが、話が終わる頃には目に涙が滲んでいた。



「そう…ですよね。思い返せば嫌なことされたり言われたりしたことなんて一度もないです……」


話しながらイスラフェルの目から涙がポツポツ、と落ちていた。


ちょ、ちょ、ちょッまって!泣かないで!俺が悪者みたいじゃない!!



「それを……私は勝手に……。




私謝ってきます!!」




涙を手で拭うと、他の属性神たちの元へ走っていってしまった。




さすが俺、事件解決!ボーナス100ポイント!!


いや~やっぱり仲間間のいざこざは取り除くに越したことは無いな。スッキリした。



向こうではなにやら賑やかにトークが弾んでいるようだ。うまくいったようでよかった…



さて、しばらくあっちは放っておいて…アルスのところへいってみようかな…


何を召喚したのか気になる。




そう考えた俺は、闘技場の中を歩き回り、目的の人物を探し始めた。




・・・・・




や、やっと見つけた……



何だよここは、やっぱり動物園じゃないの?それに勝手に能力を使わせるな!!危うく感電死するところだったぞチクショウ!!



目的の人物は、なにやら黒い獣と戯れている。とりあえず話しかけてみよう。



「おっす、この子がアルスの使い魔?」



後ろから声を掛け、近づく。


アルスはこちらに気がついたようだ。振り向き、俺に笑いかけた。



「うん、紹介するよ。『ダークパンサー』」



すると俺に向かい一吼え、警戒の意味ではなく挨拶のつもりだろう。



ダークパンサー…見た感じ闇属性の使い魔のようだ



「それって名前?種族名?」



「種族名に決まってるじゃないか、名前を元から持ってる使い魔なんてそう居ないよ。今考えてるんだ、この子の名前」



「そ、そうだよな!」



やはり俺やミシェルの場合が異例なようだ。普通は名前は召喚してから自分でつけるらしい。




「で?もう名前は決めたのか?」



「あぁ、『バロン』よろしくしてやってくれ」



また一吼え、挨拶のようだ。



「拓也はどんな使い魔が出てきたんだい?」



おっと、正直に答えるわけには行かないな…



許せアルス…。



「妖精10点セットでしたわー」



「なにそれ?」



「いや、10人の妖精っぽいのが俺の使い魔だ」



見た目はそんな感じだし多分ごまかせるだろう。



「へぇ~どこに居るの?見てみたいな」



俺の使い魔を見たいと言い出すアルス。


ぱっと見ばれるようなことは無いと思うけど……

まぁいいか。



「あそこだ」




壁際のカラフルななにかの集まりを指差す。



しばらく離れていたが、特に問題は無いようだ。よかった




無言で歩き出すアルス。



後ろを追うようにして付いていく。




どうでもいいことだが、この世界の勉強案外簡単だった。歴史、魔法についてはガブリエルに教えてもらってたから余裕だし、数学とかは元々得意なのもあって同じく余裕。


科学はまだ発達していないようで、理数の教科は向こうのように難しくない。



…これは…学年一位いけるんじゃね?……



「この子たちが拓也の使い魔?」



っと、既に着いていたようだ。




アルスは属性神たちを見ながらニコニコしている。



「この子たち?なめた口を聞くな、ヒヨっ子め」



ちょっとストォォォップ!!



シェイドさん何言ってんの!?空気読んで!!




「うるさいな闇、根暗は黙ってろ」



ちょっとウィスパーなに煽ってんの!?ヤメテエエエエエエエエエエ!!



「なんだと光、私と一線交えるつもりか?」



「望むところだ」



「ちょっと待ったああああああああああああああああああああ!!!」



「「なんでしょうか?」」



あぁ、俺には敬語なんですね分かります。



と、そんなこと言ってる場合じゃない。



「マスターとして命ずる。おとなしくしてなさい」



ここは俺のマスターとしての権力をフルに使い、阻止することにしよう。



「「…仰せのままに」」



こいつらが本当に仲悪いのか気になるな…



だってさっきから息ぴったりなんだもの…



「すまない、馬鹿にしたつもりは無いんだ」



一連のやり取りを終えたところに、アルスが謝罪する。



「こいつらちょっとおかしい奴らだから気にせんでええよ」



「なんだと!?」



その場を繋ぐために適当なことを言うと、すかさず俺の頬に拳を叩きつけるトール。



やっぱりおかしいわこいつ。



「ハハ、そうみたいだね」



やめとけアルス。次はお前に矛先が向くぜ!




…そういえばさっきからミシェルの姿が見えないんだが…



「おい変態、ミシェルはどこ行った?」



やや空気と化していた隣の六枚羽の変態に問う。



「あぁ、魔武器製作用の魔石取りに行ったぞ」



変態なのは否定しないんですね。


既にコイツは手の施しようが無いほど変態拗らせちゃってるからな、いまさら驚くことでもないな




それよりも魔武器……









ぶっちゃけジョニーが居るから要らないんですけどね!


だってコイツ有能すぎるんだもん



『ホ~、ウレシイコトイッテクレルジャナイノ』



うぉッ!ビックリした。


そういえばコイツ俺の思考読み取れるんだったな…



というかなんでオネエ口調なんだよキモイから黙ってろ。



『エ~、ダッテヒマナンダモ~ン』


まだなんか喋ってるが、いちいち絡むのもめんどくさいのでスルーの方向で




「あ、拓也さん戻ってたんですか」



ここで登場。My家主ミシェルたんである。隣には、多分ミシェルの友達であろう赤髪ショートの女の子も一緒だ。




両手には大きさは不ぞろいのなにやら黒い石を持っている。


恐らくこれが魔武器製作に使う魔石というやつだろう。



「へ~これがミシェルの彼氏か…」



赤髪は顎に親指と人差し指を添え、俺の頭のてっぺんからつま先までじっくり観察する。


コイツはおてんばっ子だな、俺のシックスセンスがそう言っている。



「なぜ分かった!?さてはエスパーだなッ!!」



「いや違います!友達です!!」



ハイテンションにはハイテンションで返そうと思い、大げさに驚き軽く叫ぶと、物凄い勢いで否定された。







「アハハ!君おもしろーい!」



ミシェルと俺とのやり取りを見て、腹を抱えて笑いだす赤髪。


とりあえず名前が分からないので名乗って欲しい。



「あー、自己紹介がまだだったね!私はジェシカ=ミルシー。気軽にジェシカって呼んでね!」



俺の心を読んだのではないかというほどのタイミングで自己紹介をしたジェシカという人物。



もう一度容姿を確認してみよう。


赤い髪のショート、髪質は柔らかそうだ。


まだ少し幼いが、整った顔立ち。


身長は155くらいだろうか、ミシェルが160くらいだから小さく感じる。


スリムな体系。


胸は………そんなもの無かった…。



「俺は鬼灯拓也、俺のことも気軽に拓也と呼んでくれ」



右手をガシッとつかまれぶんぶん上下に振り回される。多分握手なんだろう。



「よろしくね!えっと~そこの青い人は?」



青い人と呼ばれ、視線を向けられたアルス。



「僕はアルス=クランバニア。僕もアルスでいいよ」



「え!?クランバニアってあの大貴族の!?」



ジェシカの表情が驚愕に変わる。


アルスって貴族だったんだ、知らんかったな




大貴族…と言われたアルスは少し表情を暗くしながら俯いた。



「たしかに僕は貴族だけど普通に接してくれたほうが嬉しいな、友達とは対等な関係で居たいんだ」



暗い表情のままそう語るアルス。



だが次の瞬間、ジェシカはそんな空気をぶち壊すような一言を放った。



「え?私は別に貴族だからって態度かえるつもりは無いよ!よろしくね!アルス!」



傍から見れば失礼な奴と写るだろう。しかし……



「え…あ、あぁ、よろしく!ジェシカ!」



少々動揺したアルスだったが、すぐに満面の笑みに変った。




出会って数時間しか経っていない俺だが、アルスが心から喜んでいるのが分かる。



多分これまで、貴族だから……貴族なのに……とか言われながら育ってきたんだろう。


向こうで数々のラノベ、ネット小説を見てた俺ならわかるぜ!!


そしていつの間にか少し離れた場所にいる使い魔集団。


恐らく空気を読んでくれたのだろう。無駄に気の利く奴ばかりだぜ



「さって!じゃあ早速魔武器をつっくろ~う!」



ジェシカは元気よく右拳を宙に向かって突き上げると、アルスに魔石を渡す。



俺もミシェルから一つ魔石を受け取った。



後は魔力を流すだけであら不思議、あっという間に特殊能力の付いた武器の完成というわけだ。


なんという3分クッキング!鍛冶屋なんていらないですね!!



「じゃあさん、にー、いち、で行くよ!」



どうやら掛け声をつけるらしい。何の意味があるのかさっぱり分からないが



「さん!」



ちょっと待てよ、俺の魔力測定の時あの水晶がモッツァレラしたってことは……



「にー!」



この石も同じく溶けるんじゃ………



「いち!」



ええぃままよ!成るようにナレェェイッ!!



全員で同時に魔石に魔力を流し込む。


ちなみに色々と面倒になってきたので俺も全力で魔力を流している。




「うおおおおおおおおお目が焼けるうううううう!!!」




すると、他の三人の魔石はやや眩しい程度に発光しているのに対し、俺の魔石だけが尋常じゃないほどの光を放っていた。




何これ、手の中でなにか動いてる!気持ち悪い!!



手の中で、不恰好であったはずの石の形が、徐々に、しかし確実に変わっていっているのが分かる。



しばらくすると、変形が終わり光も収まった。




そして俺の手の中には、銀色に輝く片眼鏡一つ。



他の三人、ミシェルにはじーさんが持ってるような杖、ジェシカは小型のナイフのようなもの、アルスは槍が握られていた。



ちょっとまって、なんで俺だけ武器じゃないん?



この片眼鏡で何をしろと?まぁ装備するんでしょうね



「よっし!次は能力を見てみよう!」



あ、そうだった。魔武器って魔力流せば能力とかが分かるんでしたね。すっかり忘れてましたわ




それぞれ、自分の魔武器に魔力を流し始める。


俺もやるか…



「…………、ふむふむ、なるほど…ッ!?」



何だこの能力…ヤバすぎるだろ…。



「ん?どうしたんだ拓也?」



俺の表情の変化に気がついたアルスは俺にそう訊ねる。



「いや、この魔武器の能力なんだが…」



「どんな能力なんだ?」



「これは見た目通り片眼鏡のようだ、どちらかの目に装着することで能力が使用可能になる。

その能力が、


要約すると物体、又は魔法の構成などを解析することができる」



「確かに凄いですが、拓也さんが驚く程でも無いような気がしますけど」



俺の正体を知るミシェルがご尤もなことを言ってくれる。




解析、つまり魔法だったら発動した魔法の細かい属性、有効射程距離など細かいことでもこれを通して知ることができる

物体だったらその物体が何でできているか、どのような配列で繋がっているかなどを原子レベルまで見通すことなんて容易いだろう。



ここまで聞けばサポート用の物のように聞こえると思う。


だが、この片眼鏡の本質は…………



「俺が驚いたのはもう一つの能力のほうだ」



「もう一つの能力?」



「あぁ、さっきの能力で解析した情報を元に今度はその構成を解除する式…解除式を作ってくれるんだ…。たとえば……」



近くにあった手のひらサイズの石を広い、左の手に持つ。


そして銀の片眼鏡を左目に装着した。



その様子を他の三人は黙って見ている。



「…解析……」



魔武器を通して頭の中に石の構成についての情報が流れて込んで来た。


そしていよいよ次の段階へ移動する。



…来た……。


空いている右の手のひらの前に、解除式作り上げる。


見た目は魔法を使う際の魔方陣と大差ない。



ここまで時間にしては一瞬の出来事だ。



「いくぞ……解除」



右手のひらに展開した解除式を左手に持った石に近づける。



そして、石は解除式に触れた途端、触れたところから物質の最小単位まで構成を分解され、消えていった。


「嘘ッ!?なくなっちゃった!?」



パッと見では確かにそういう認識もしかたが無いだろう。



「厳密に言えば無くなった訳じゃない、”石”を作るための物質の構成を解除したんだ。だからまだ石を構成していた物質はこの辺りに漂っている」



先程、この世界は科学はそんなに進んでいないと言った。


故に原子や分子と言っても何のことかさっぱり分からないだろう。ので適当な言葉に変えて説明することにした。




「よく分かりませんが、その魔武器を使えば魔法や物の仕組み見ることができておまけにその対象をバラバラにすることができる…ということですか?」



今までの俺の言動からミシェルが鋭い推察を述べる。要点をちゃんと抑えてありアルスとジェシカも納得したようだ。




「認識は間違ってない。おおよそそんな感じだ」




この魔武器がどこまで解析、解除ができるのかは知らんが、これの能力的に考えると……




人間も解析から解除できてしまうということになる……



そんなことはしたくないな…そうやって使う機会が無ければ良いんだが…





「なんかよく分からないけど凄いね!」



「そういうジェシカはどんな魔武器なんだ?」



そう訊ねると、ジェシカは右手に持っていた小型のナイフを天高く掲げた。



「私の魔武器の能力は動体視力のアップ!まぁ魔力流さないと使えないけどね!」



ナイフらしい能力だな…、

剣術においてこの手の武器は、刃の部分の面積が小さいから相手が同じような武器で無い限り、受け止めることは自分にとって色々と不利な状況を作り出すことになる。



小型の武器はとにかく相手の攻撃を避けるなりいなすなりして動き回ることが重要だ。


そして攻撃の面では、とにかく手数を意識して、相手の隙を突くような立ち回りが求められる。




そしてジェシカの魔武器の能力、動体視力のアップ。やはり相性がいい…


うまく使いこなせば、相手にとっては相当鬱陶しいだろう。





「ほぉ~中々凄いのが出たな、アルスは?」



「僕のは槍のようだね。能力は…傷口を濡らし続けるだってさ」



うは、テラ血友病。


少しの傷でも受けたら血が止まらないってことですね。鬼畜ですわ。



能力がエグすぎて洒落にならない。



「ほ、ほぅ。それってお前の意思で解除できたりする?」



「あぁ、もちろんできるよ」



「そりゃあよかった…」



これで解除できないとかだったら、並の人間なら死んじゃいますからね!



「ミシェルはどう?」



「…私の魔武器は見た通り杖です」



杖を摩ったり握ったりしていたミシェルが、魔武器の杖を俺たちに見えるようにする。



「能力は魔法の威力、精度、発動速度を1.5倍。消費魔力の減少が主な能力です」



「これはまた……流石全員Sクラスなだけはあるな」



やっぱりこいつらも相当強いのだろう。魔武器の能力が比例している。



将来の帝候補になるのかもしれないな…




ここで授業終了の合図のチャイムが鳴る。



残りは普通の教科か…適当に済ませよう。



・・・・・





学園が終わり、今はミシェルと一緒に帰宅している。



「そういえば拓也もこっちなんだねー!どこに住んでるの?」



「え、いや……その辺?かな」



「えー!その辺ってどこなの?」



おっと、言い忘れたがジェシカも一緒だ。


なぜジェシカがいるのかって?なにやら途中まで帰宅路が同じのようだ。


ちなみに朝ジェシカが居なかった理由は寝坊したとのことらしい


まぁコイツらしいわな…




「っと…私はここでバイバイだね!じゃあまた明日ー!」



右手を千切れるのではないか?と疑うような速さで左右に振る。


元気なのは大変よろしい。



まぁそんな感じでジェシカに見送られ、再び帰路につく俺とミシェル。



最近では女の子と二人きりになっても大丈夫なくらい耐性が付いてきた。


それもミシェルと生活しているおかげだろう。



黙って歩くのも辛いので適当に話題を振ってみることにする。



「まさかミシェルがセラフィムを呼び出すとはな、ちょっと驚いたぜ」



そういえばあいつらなんかいつの間にかいなくなってないか?

別に帰れとか言ってないしその辺は自由なのか…



「セラフィムさんって凄い人なんですか?よく分からないんですけど…」



「凄いもなにもアイツは神の次に偉い奴だぜ?あんなんだけど」



「……そうですか、でもなんで私がそんな使い魔を呼べたんでしょうか?」



ミシェルのポテンシャルなら十分呼べる使い魔だからな…まぁ妥当ってとこだろう。


むしろ神とか来なくてよかったくらいだ。



「隠れたる才能って奴じゃないか?」



頭に思い浮かんだことをニヤケながら適当に呟く。



「いえ、私はそんな!」



何故か赤面するミシェル。夕焼けも相まって顔全体が赤く見えたその表情は少し恥ずかしげだった。



「そ、そういえばいつも着てるローブはどこにあるんですか?それにジョニーさんもいませんし」



話題を変える為に自分から話を切り出したミシェル。まだほんのり顔は赤い。



「ジョニーはこの指輪にして持ち歩いてる「ハァ~イ」んでローブは……」



律儀に指輪に向かって手を振るミシェル。可愛い。



えっと…ローブは確か……



鞄のチャックを開けてガサゴソと漁る。



「お、あったあった」



なにか布らしきものを手が掴んだのでそれを引っ張り出す


取り出したローブをミシェルに見えるように前に出す。




「いや~術式で形状を変えようと思ってたんだけど……間に合わなくて………さ…」




そこでミシェルの目がどんどん冷やかになっていくのを感じる。



ふとローブまで視線を落とすと、そこにはローブ以外の布も存在していた。


どうやら一緒に引っ張り出してしまったらしい。




淡いピンクのパンツ。



急激に口の中が乾燥していく、


それと同時に俺の脳がありとあらゆる言い訳を考え出し、それに対するミシェルの返答を想定、


とどのつまりこの状況を乗り切る為の最善の一言をひねり出そうと尽力していた。



そして数十万のシュミュレートの中から俺の非常に優秀な脳が導き出した答えッ…それは…



「ハンカチと間違えて持ってきちった!☆」



可愛らしく舌を出しウィンクしながら、軽く握った拳で頭をコツンと叩く。


俗に言うてへぺろというやつだ。



冷やかな目線が絶対零度に変わる。



あぁ、知ってたよ。こうなる事ぐらい。


というかこれが最善と判断した俺の脳ってやっぱりポンコツですわ。




しばらくの間沈黙が続く。その間もポーズを崩さないのは何らかの意地からである。



だが、その沈黙もミシェルの叫びによって打ち破られた。



「というかそれって私のじゃないですかッ!!」



oh…なんというお宝……



ということはアイツ練成したんじゃなくて盗んだのかよ!何してるんだ…おとなしくしてろってあれほど……



言い訳しないとやばそうだ。というかさっき言い訳する必要なんて無かったよな…だって俺悪いことしてないじゃん!



「ち、違うんだミシェル…これには深海よりも深い理由があってですね」



しまった、とっさに言い訳をしてしまった…



「もういいです…かえってから詳しく聞かせてもらいます」


「ファッ!!?」



そう言いながら、異空間から魔武器の杖を取り出すミシェル。


あれですか!?無に還るとかそう意味ですよね!?シャレになってないわコンチクショーッ!!


クソ!これもほとんどあいつのせいだ……セラフィムの奴…帰ったら挽肉にしてやる…




次の瞬間、辺りに響き渡る断末魔。




あぁ、ラファエルたん。今そっちに逝くから…待ってて……



・・・・・




三日後…



「さて、やるか……いくぞ」


「おう!」



現在の時刻は午前五時、一刻も早く融合というのをマスターしたくて、今日はトールに付き合ってもらっている。



ちなみに三日前、あの帰宅中に起きた事件は、ミシェルが信じてくれて帰宅してからセラフィムが挽肉になることで解決した。


多少杖で殴打されたが我々にとってそれはむしろご褒bゲフンゲフン。




パンツ?


没収されたに決まってんだろ!!クソ!!



「よし!いくぜ!集中しろよ!!」



目の前でバチン!と音をたて、トールの姿は雷に変わり俺に吸収された。




「第一段階完了…」



『よし拓也!このままどんどんいくぜ!!』



自分の内からトールの声が聞こえる。ジョニーと同じような感覚だ。



「…おう」



うまく感覚が掴めない、額に汗が滲む。



集中しながらそう呟き開いた拓也の目は、普段の黒色と違い、透き通るようなエメラルドグリーンだった。




更に集中し、トールとの融合のシンクロ率を高めていく。



『いい感じだぜ!その調子だ!!』



「……」



もっとだ、もっと……




『おッ!キタか!?』



拓也の体の周りに、青白く細い電気が走り始める。



それとほぼ同時にいつもの黒髪が頭皮の方から緑を含んだ白へ変わっていった。



『あと少しだぜ!集中切らすなよ!」



「……フッ!!」



その瞬間、拓也の体からバヂッ!バヂバヂッ!!と物凄い音をたてながら、四方八方への放電が始まる



やがてそれは収まった。



『やったぜ!これが俺と完全に融合した状態だ!』



「へぇ…悪くない。というかむしろ最高だぜ!」




融合を完全に終わらせた拓也の姿、それは属性神としてのトールの姿に限りなく近いものになっていた。



普段より長くなり、緑を含んだ白色の逆立った髪、


透き通ったエメラルドグリーンの目、


目と同じような色の鱗のような生地と白色の毛の荒々しい作りのベスト。腹筋とか丸見えである。

某狩ゲーのジン○ウガ装備の配色を思い浮かべて欲しい。


ベストと同じような配色のレギンス。



総合してみると中にかっこいい。







両手のひらを開いたり閉じたりする。


その度に、肘辺りまで伸びた手甲からギュッと子気味良い音がする。

というか体が自然に放電しちゃう!ちゃんとコントロールしないと!



まだ完璧にはコントロール出来ていないのか、拓也の体表を青白い電気が這うように走っている。



そして一番変わった特徴と言うと……



「お前って尻尾生えてたんだな」


『カッコいいだろ!』



そう、人間には無いはずの尻尾が尾てい骨のあたりから生えているのだ。



尻尾と言っても悪魔の尻尾のような細いものではない、

そこそこ太く、先端に近づくにつれ少しずつ細くなっている。




これって案外思い通りに動くんだな…自分の手足みたいで気持ち悪い……




「さて、なったのはいいんだが特にすることが無いな…」



その時だった、遥か上空に米粒ほどの大きさの人影が視界に入る。



目を凝らすとそれが何かが分かった。



ヤツだ…



「ちょうど良い、実験台になってもらおう」



足に力を込め、……一気に地面を踏み、遥か上空の標的へ向かって飛ぶ


拓也が飛び上がった後の地面には小規模なクレーターが出来上がっていた。



瞬く間に標的まで接近した拓也は、右手を引き力を込める


引いた右手からは激しく放電し、青白く発光している。



そして自分の拳が届く範囲に標的が来た。


右手を引き絞り、標的の顔へ目掛け打ち込む。



「ッ!?ちょッまって!!」



「っち…外したか……」



横へ大きくスライドすることでそれを回避した標的、セラフィム。


その顔には純粋な恐怖が映っている




すごいぜ…なんという力だ、今は使ってないがこれに+α自分の力も使えるなんて正真正銘のチートですね!





それよりもなんだ?さっきからこの感覚……、


まるで周りが味方しているような感覚。何でもできるようになった感じというか…



なんとなく、ただなんとなく右手を天に掲げ…地に向かい振り下ろす。


その刹那、遥か上空が激しく光ったと思うと、遥か上空から落ちてきた稲妻がセラフィムに直撃した。



「うっほ!何だこれ!!気分は雷神だぜ!!」



『俺は…というより俺たちは自分の属性に力を貸してもらえるんだぜ!!すごいだろ!!』



「あぁ、すごいぜ」



しかも今の攻撃、自分の魔力は一切使わなかった。


つまり属性神達にとってこういう攻撃は通常攻撃というわけですね。

なにそれ強い。




ウェルダンを通り越して丸こげになったセラフィムは、飛ぶ力を失い地面へ向かって真っ逆さまに落ちていっている。



よし、追い討ちをしよう。



「ウオオオオォォォォ!!いっくぜえええぇぇぇぇッ!!」



叫びながら自分の周りへ放電を開始する。


見た目はもう既に青白い球体である。



「発射ッ!!」



その掛け声と共に、空中でもあるのに関わらず拓也の体は一瞬にして”消えた”


否、消えたのではない。


正確にはセラフィムに向かい、自分を光速で射出したのだ。



皆さんはレールガンというものをご存知だろうか?


某ビリビリ中学生が使うあれである。


あれは物体を電磁誘導の力により加速、射出するものだ。


まぁ簡単に説明すると物体をありえないくらい速く加速させちゃうとんでも技術なのだ!




拓也君は今回、自分を弾丸として発射したのだ!


彼は特別な訓練を受けているので平気だが、普通の人がやると一瞬で体がスプラッタなことになっちゃうので良い子の皆は絶対真似しないでね!



あとこれやるなら機材がたりねーよksとか思っちゃった人。


(これはファンタジーなので魔力で何でも片付いちゃうんです)




「ドッセェェェェェェイッ!!」



光速に乗った拓也の渾身のショルダータックル。



セラフィムは更に加速し、家より少しはなれた林の中へ墜落していった。



「いってぇ…いきなりなんだよ!俺が何をしたって言うんだ!!」



「すまんな、実験台になってもらって。あとお前への日ごろの恨みを返しただけです。はい」



落ちた場所へ降り立つとそこそこダメージを受けたセラフィムの姿があった。


そしてやはりそこにもクレーターが出来上がっている。それも中々の大きさである。



「実験台を承諾したわけじゃないんだが…まぁいいか」



いいのかよ!


心の中でつっこむ拓也であった。



「っと、今日はちゃんと用事があって来たわけだが…知りたいかぁ?」



「私、気になります!」



よく分からない一連のやり取りを終えると、拓也とセラフィム顔に真剣な表情が宿る。



「お前も気づいてると思うが奴らもそろそろ動き出すはずだ、よりいっそう警戒を強めてくれ」


一言一言紡ぎだされる言葉が、俺がこの世界に来た理由を更に明確にする。


忘れていたわけではないが何もないとやはり平和ボケしてしまう。適度な緊張は必要だな。



「あぁ、安心しろ。ミシェルを狙う奴らは俺が全身全霊をもって返り討ちにしてやる」



「ハハ、心強いな。まぁ万が一手が足りなくなった時は俺も加勢するぜ。彼女の使い魔としてな。大船に乗ったつもりでいなさ~い」



セラフィムの冗談でその場の緊張が少し解ける









が、本当の恐怖はここからだった。


林の外から何者かがこちらへ向かってきている。


そして俺たちの前で立ち止まると、深いため息をついた。



「はぁ~…朝からうるさいと思ったらやっぱり………何してるんですか二人とも…」



My家主&セラフィムのマスターであるミシェルたん登場



途端に体が固まり、動けなくなる


三日前のあの事件で俺もセラフィムもこっぴどく絞られ、ミシェルの恐ろしさの片鱗を見ている。



ミシェルって怒らせるとめっちゃ怖いのよ!?知ってた?




とりあえず流れるような動作で正座に入る俺とセラフィム。



随分と慣れたものだ。




「それで?こんな朝早くから騒音撒き散らして何やってたんですか?」



「コイツがパンツ盗んだんで制裁を下してました」



「ファッ!?」



目を見開き口をパクパクさせるセラフィム。



すまんな、俺だって命が惜しいんだよ。許せ。


人生…時には嘘だって必要なんだ……



嘘をついた自分に若干の嫌悪と共に保身で自分自身にも言い訳をつく。



このままいけば前科持ちのセラフィムが……


そんなことを考えていた時だった。



「どうして分かった!?」



やつは腰の辺りから一枚の布切れを取り出す


それは大人の魅力を感じる黒レースのパンツだった。



「わーおセクシー」



「だろ?厳重な警備を掻い潜ってやっと手に入れたラファエルのパンツだ。やはりお前には分かったか…」



「なに!?ラファエルたんのパンツだと!?」



ガタッと立ち上がり、一度はその魅惑の柔布へ手を伸ばすが、ラファエルの顔が頭によぎり動きが止まる。



「欲しいッ!欲しい…が、セラフィムよ…俺は…俺はラファエルたんを傷つけるようなことはッ!!」



右の手をグッと握り締めなんとも言えない表情をする拓也。



そろそろこの二人はすぐ傍にミシェルがいることを思い出したほうが良いと思う。



「フッ…甘いな拓也よ…俺たちはどんな者に対しても平等に変態でなければならない。それが紳士としての礼儀ではないのか?」



やれやれ、とため息を吐きまったくもって分かりたくもないとんでも理論をぶちまけたセラフィム。


ここまで来るとむしろ清清しい。



「さぁ、これをてにとr」



言い終える前にセラフィムの顔がぶれる。


そして次の瞬間には顔が地面に埋まっていた。



セラフィムを一瞬にして戦闘不能に追い込んだ人物、


それは拓也も良く知っている人物だった。



「……ラ、ラファエルたん!!」



「お久しぶりです。拓也さん」



大天使ラファエル参上。




それにしても見事なアイアンクローだった。


そして容赦が無い今の攻撃、ということは間違いなくこれはラファエルたんのパンツ!!


ハッ!いかんいかん、平常心。



「ガハッ…なんでラファエルがここに!?」



地面から復帰したセラフィムが驚きの表情でラファエルに尋ねる



「そんなのセラフィムさんが私の下着を盗んだからに決まってるじゃないですか」



顔は笑っているが目はまったく笑っていないラファエルがセラフィムに近づき、延髄に手刀を打ち込む。



※遊びでも危険なので良い子の皆は絶対真似しないでね!



その一撃で綺麗に意識とグッバイしたセラフィム。


ラファエルはセラフィムの襟首を掴む。



「私はまだ仕事があるのでこれで失礼します。また機会があればお会いするでしょう。では」



そう言い残し、近くの茂みに消えて言った二人。



この流れるような作業、流石手馴れてやがるぜ…まさに仕事人というべき速さ…俺も気をつけよう。



「さて、俺たちも帰るか!」



「何言ってるんですか?私の話はまだ終わってないですよ?」



「ひゃ、ひゃい!」



思わず変な声が出る。



ここにもヤバイのがいた。ラファエルとは違う……その顔に浮かぶのは笑顔ではなく無表情。


そして汚物を見るような目




どうやら今日もただでは済まされないようです…


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