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神様のお使い  作者: 泡沫にゃんこ
第一部
6/52

集会


翌朝、鳥の鳴き声とともに目が覚める。


「ん~ッあー。よく寝た」


そう言いながら思いっきり背伸びをする。時刻は五時半、外はすでに少し明るい。


昨日はあれからめちゃくちゃ大変だった。なんか俺を気遣い部屋を出て行こうとするミシェルを必死に説得したりして……、結局ジョニーがミシェルに喋りかけるまで俺への誤解は解かれなかった。


「オウ、オキタカ。オハヨウ」


「あぁ、おはよう。ところで昨日のことについて謝罪しろ」


「スマンカッタ」


「許した」


愛犬、もとい愛剣のジョニーに昨日の出来事について謝罪させつつベッドから降り、服を着替える。


「静かだな…、」


どうやらミシェルはまだ起きていないようだ。


だって五時半とか老人の起きる時間じゃん、しょうがないよね。


一部の仕事のかたにはすみません


俺?今が旬の高校生さ!


え?100兆歳超えてるだろって?……、見た目は高校生だし!ピッチピチだし!


少し年齢を気にするオバハンのようなことを考えながら着替えを終わらせ、ジョニーと部屋から出る。


やはり明け方は少し冷えるな、


寒さを感じながら廊下を歩き、階段を下り、リビングへ向かう。


ちなみにミシェルに気を使って足音は消している。


「ミシェルが起きてくるまで暇だな…、この時間じゃギルドもやってないだろうし……」


起きてきたはいいものの、特にすることが無いことに気づく。


一瞬ギルドカードを取りに行こうかとも考えたが、今の時間帯はギルドもやっていないと考え思いとどまる。


「そういえば俺、こっちに来てから修行してないな…」


実戦はしたが本気で体を動かすことはしていない。


いずれある神との戦いのためにも体を鈍らせる訳にはいかないな…。


よし!体を動かそう。


「まず何からやろうか?初日だから軽く素振りでいいかな」


そう呟きながらジョニーを掴んで外へ出る。




ドアを開けると、ひんやりした空気が家の中へ流れ込んできた。


「お~寒ッ!ごっつ寒いっすわ」


そう言いつつ家の中の温度が下がらないように、足早に外に出てドアをすぐに閉める。


春っていっても結構冷えるね、特に明け方。


ミシェルの家に招かれてなかったら凍死してたかもね…。今度お礼しなくちゃな…、


「さて、では始めますかね…、」



・・・・・



~sideミシェル~


外からなにやら音風を斬るような不思議な音が、眠っているミシェルの鼓膜を揺らす…彼女は眠そうに眼を擦りながら上体を起こした。


「ぅん…、なんでしょう?この音は?」


時計の針は6時をさしている。外は既にだいぶ明るい。


昨日の夜の出来事の影響でミシェルはまだ寝足りないのか目を擦っている。


それよりミシェルは先ほどから聞こえている音の発生源を探した


音は一定のリズムで聞こえてくる。どうやら音は庭から聞こえてきているようだ。


その思考にたどり着き、庭の方向にある窓まで歩く。カーテンを開け、庭にあるはずの音の発生源を探す。そこにいたのは…


「あれは…、拓也さん?」


昨日知り合った自分と同じくらいの少年であることに気づいた。


「素振りをしているんでしょうか?朝から凄いですね」


あの圧倒的な強さもこの地道な努力あってのものなんでしょうね。


ミシェルは昨日の出来事を思い出しながらそう思う。


確かに拓也の強さは長い時間の努力の結晶のようなものだ。まぁ寿命に関しては神が関わっているが…、


「私ももっと強くならなくちゃいけませんね!」


拓也の姿を見て自分もあの人のようになりたい。そう思うミシェルだった。



・・・・・


~side拓也~


「ふぅ…、そろそろ戻ろうかな、」


あれから40分ほど時間が過ぎた。


40分間特に何も考えずに素振りしていたからか時間が過ぎるのが早く感じられる。


「ちょっと汗かいちゃったな、シャワーでも浴びるか…」


そう言いつつ家へ歩き始める。


気づけば外は既に明るい。どうやら今日の天気は晴れのようだ。


「オマエ、ナカナカノツカイテダナ」


さっきまで静かだったジョニーが喋りかけてくる。


「ん?だって俺だし、」


「イヤ、リユウニナッテナイゾ…、ソレヨリオマエナンテイウンダ?」


あぁそうでしたね、俺こいつに名前教えてなかった。


「俺は鬼灯拓也だ、拓也さんと呼べ」


「ワカッタ、ヨロシクナタクヤ」


今おもったんだがこいつサラッと失礼なとこあるよね?


「まぁいいや、好きなように呼ぶがいい…」


ジョニーにすら馬鹿にされるという現実に少し落ち込みながら家の中へ入る。


家に入るとミシェルがキッチンでなにやら料理をしていた。


「あ、おはようございます拓也さん」


どうやらこちらに気づいたようだ


「おはよう、ちょっとシャワー使ってもいいかな?」


「はい、どうぞ使ってください」


ミシェルはニコッと微笑みながら俺のシャワーの使用を許可した。


いや~マジ天使っすわ、朝から癒しをいただいてこれで俺は今日も1日頑張れます!


余談だが癒しって大切だよね?生きる上で。


だって俺、修行時代もラファエルたんがいなかったら絶対投げ出してたもん。

この世界での俺の癒しはミシェルたんだな!…………、はい、キモイですねすみません。


脱衣所に行き、服を脱いでシャワーを浴びる。頑張った汗を流すのはいつになっても心地いい。


シャワーを浴び終わると俺はあることに気づいた。


「服が…、無い!」


そうだった、俺服全然もってないんだった。


今度買いに行かなくちゃな~、


「まぁ今回は仕方ないよね『創造』」


ミシェルの前に全裸で出て行くわけにもいかないので創造の能力で服を作り出す。


創り出した服を身に纏い、リビングへ向かう。


「あ、拓也さん、朝ごはんちょうど出来ましたよ」


リビングに着くとミシェルはシャワーから戻った俺に気がつきそう声をかけた。




ダイニングテーブルの上には、ベーコンエッグ、サラダ、パン、スープが丁寧に二人分用意されていた。


というかミシェルって料理も出来るんだ、


可愛くて強くて家事も出来る。……、


ハイスペックすぎワロタ


「え?俺の分も用意してくれたの?」


「えぇもちろんです!でもおいしいかわかりませんよ?」


おいしくないわけが無い。だって女の子にご飯作ってもらったんだよ?仮においしくなくても満面の笑みで食べきる自信が俺にはある!


「冷めてしまう前に食べましょうか」


そういいながらミシェルは椅子を引き座る。


俺もそれに続いて椅子に座る


「じゃあいただきます!」


それからミシェルと一緒に朝ごはんを食べ始めた。




・・・・・



「ごちそうさまでした。おいしかったよ」


「ふふ、ありがとうございます」


ミシェルはそう言い、微笑みながら食器を片付け始める。


ちなみにご飯は普通においしかった。


「ミシェルって何でもできるんだな」


俺は自分の使った食器を洗いながらそう言った


「そんなことないですよ?私にだって苦手なことくらいあります」


少し苦笑いしながら食器棚に食器をしまっている


えー?どんなことが苦手なの?


とは聞かない。デリカシーの無いやつとは思われたくないから!


「そうなんだ、そういえばミシェルって今日は何するの?」


「うーん?まだ学校は始まりませんし…、今日もギルドに行きます」


「そっか、じゃあ俺も一緒に行っていい?ギルドカードとか取りに行きたいし」


「わかりました。では後で一緒に行きましょうか」




・・・・・



現在の時刻は午前9時。


ミシェルと二人でギルドに向かっている


「結構立派な国なんだな」


昨日の帰りは周りが暗くてよく見えなかったが、


じーさんの言ってた通り中世ヨーロッパのような街並みなんだな。なんか本当にファンタジーの世界に入り込んだ気分だぜ


「エルサイド王国は歴史のある大国ですからね」


「そうなんだ」


ミシェルが豆知識を教えてくれる。


というか美少女と二人で街を歩くとかリア充じゃね?


……、悲しくなるよねこんな妄想、



俺がブルーな気持ちになっている間にどうやら目的の場所に着いたようだ。


見上げると、そこそこ立派な建物に、


『漆黒の終焉』


そう大きく書かれた看板が取り付けられていた。


ロイドさんはなんでこんなギルド名にしたんだろ?見た感じ中二ではなさそうなんだけど最近は隠れ中二とか流行ってるからな、どうなんだろ?


そんなことを考えつつ、ギルドの中へ入っていく。


中には、昨日と同じような光景が広がっていた……。


酔っ払いのおっさん達…


トランプやってる危なそうな奴ら…


「なんなの?このギルド、なんで朝から酔っ払いがいるの!?」


朝から酒とか…、セルフで肝臓リンチとかよくやりますわ…


「あいつらはいつもあんなんだからほっといていいわよー」


声がした方へ振り向くとカウンターに突っ伏してだらだらしてるリリーがいた。


「そうなんだ、というかどうしたの?」


「あぁ、私朝弱いのよねー」


なるほど、それはおそらくあなたがまだ子供だからです。


そんなことを言ってはまた殺されかけるので言わない。


「へー、あと俺のギルドカードできてる?」


「あー、出来てるわよー」


リリーはそう言い、カウンターの引き出しを開け、ギルドカードを2枚取り出した。


「はい、こっちの黒いのが帝のカードでこっちの青いのが普通のランクAのカードねー」


なんか帝カード、黒光りしててカッコイイが…


なんかゴキブリに見える



まぁそんなことは置いといて


「ありがと、」


リリーにお礼を言うのが先だ。


「仕事だからいいのよー」


礼を言われた本人は特に気にすることも無く、片手をひらひらと振りながらカウンターに突っ伏している。


うん。仕事してるんだけど…、もっとやる気出せよ!!


ここにシューゾがいたら大変だっただろうね。


「あ!そうそう、今日の午後8時から王城で剣帝の就任歓迎パーティーやるらしいからちゃんと行きなさいよ」


え?なんですかそれ?聞いてないんですけど。あぁ今聞いたのか…。


それにしてもパーティーなんて…、生まれてこの方参加した事なんてありません!


「それって俺は絶対参加なんですか?」


「あんたが主役なんだから当然でしょ?」


パーティーなんてやったら俺はおそらく何かをやらかすだろう。


公の場で恥をかくなら参加しなければいいと思ったのだがどうやらそれは無理なようだ。


「そっかー、ミシェル行く?」


「えぇ、私も今聞きましたけど多分行くと思います」


ミシェルが行くんならいいや、俺も行こう。


「それから結構お偉いさん方も来ると思うから失礼のないようにねー。それとこの情報はまだ私たちにしか伝えられてないからあんまり言わないようにねー」


どうしよう…、失礼なことしか出来ないと思う。


「あー、パーティーって事はスーツ用意しなくちゃなー」


「その必要は無いよ、拓也君」


いつから聞いていたのか、


ギルドの奥の方からここのギルドマスターのロイドさんが出てきた。


「おはようございますマスター」


「あぁ、おはよう」


ロイドさんが出てきたことによってやる気が出たのか、リリーはいきなりキリッとして出来る受付嬢を演じ始めた。


だが…、


「リリー君、眠いならまだ寝ていなさい」


ロイドさんにはばれていたようで……、


おいちょっとまて!業務時間だろ!?仕事しろよ!!


ロイドさんはリリーに甘いのか?


まぁいいや


「スーツがいらないってどういうことですか?パーティーなら正装で言った方がいい気がしますけど」


本題を聞く


「帝は暗殺などから身を護る為に正体を隠す必要があるからね。正体を明かしていいのは王族と自分が信頼している人間だ」




「つまり正体がばれないような格好で行けばいいんですね?」


「そうだね。ローブとかでいいんじゃないかな?他の帝たちも大体ローブだし」


なるほど、それなら準備する必要はないな。


これで用事が一つ減ったぞ!そして何にもすることがない!


どうしようこれからずっとギルドにいるのも暇だからなー。


「わかりました、ロイドさんも参加するんですか?」


「あぁ、僕もリリー君も招かれているよ」


「そうですか…、」


どうしよう、本格的にやることがない。クエストでも行って来ようかな?


「ミシェルはこれからなにする?」


「え~っと、なにか手頃なクエストにでも行こうと思ってます」


「暇だから一緒に行ってもいいかな?」


内心かなりどきどきしながらそう聞く。


だって女の子と一緒に出かける(仕事)なんて初めてだからしょうがないね。


「別にいいですよ?じゃあクエスト選んできますね」


ミシェルはそういうと、カウンターの方へ向かった。


やることが0から1に増えたよ、やったね!


「ということでクエスト行ってきます」


「そうか、ちゃんとパーティーに間に合うようにしてね」


「わかってます」


ミシェルとクエストに行くって事はミシェルの実力が見られるって事だな。魔法攻撃型だから魔法を駆使して戦うと思うんだけどちょっとたのしみだな…。


そんな思考をめぐらせているとクエストを選び終わったミシェルが戻ってきた。


「これなんてどうでしょう?『ハーピーの群れの討伐』」


ハーピーを知らない人もいると思うので説明しておこう。


この世界で言うハーピーは人間の顔をしているいわば人面鳥である。


肉食で主に牛や豚なのど家畜を襲うが人間が食料を積んだ荷馬車を襲うこともある。


一匹でのランクはD~Cとそこまで高くはないが群れで行動するため非常に厄介。


「ランクは……、S?なんでこんなに高いんだ?」


「それが大量発生したらしいんですよね…、それで馬車が襲われているらしいです」


「今回のクエストはそいつ等をどうにかすればいいと…」


「そうですね」


ハーピーは基本3~10程の群れで行動するはずなんだがSランクって事は相当な数がいると見たほうがいいな、

それにこのままにして置いたら一般市民の生活に支障が出かねない


「わかった。それにしよう」



ちょうど試してみたかった魔法もあるし、


ローブのフードを被り、ギルドカードをリリーに渡してクエスト参加の登録をする。周りは大騒ぎしているので誰もこっちを見ていないから正体は大丈夫だと思う……多分


「じゃあいこうか。場所はどこ?」


ミシェルに今回のミッションの場所を尋ねる


「えっと…、ここからかなり離れた岩山の近くの林道です」


「それは俺が昨日いった岩山?」


それなら既に地形は把握してるからすぐに行ける。


「いいえ、もっと遠くの岩山です」


なんだ違うのか…、まぁ場所さえ聞けば行けるしね。


今度地図買っていろんな場所覚えておこう。


「ロイドさん、地図見せてくれませんか?」


「あぁいいよ」


ロイドさんはそう言うとカウンターの後ろの棚から地図を取り出して広げた


「ミシェル、場所は?」


そう聞くとミシェルは地図の上を指で辿りながら、今回行く場所を探し始めた。


「ありました。ここです」


指差された場所を見ると、昨日行った岩山よりかなり離れている


「遠いな~、まぁ移転すればいっか」


こんなときの移転だしね。俺一人だったら瞬間移動でもいいけどミシェルも移転使えるんだからそっちでいいよね


ほんと便利な魔法ですわ


「あの、私は移転できません…」


ミシェルが何故か申し訳なさそうにそう言った。


「そうか、なるほど…」


俺はミシェルが移転が出来ない理由を考え、ある一つの結論にたどり着いた。


確か移転は距離が遠くなればなるほど消費魔力が多くなるのだ。


もしそこまで移転できても、戦闘に使う余力を残しておかなければいけないため遠い所までクエストで行く場合は大体馬を使う。


はい。ここまでガブリエルさんに教えてもらったことね


「じゃあ俺が連れて行くよ」


「いいですか?魔力は」


「別にいいよ、実質無限みたいなもんだし。それに瞬間移動使えばいいしね」


加減して魔力量10億とか帝も真っ青なチートぶりだからな、


というか俺の本来の魔力量ってどれぐらいあるんだろう?




「じゃあそこに向かうから、つかまってて」


そう指示を出すと、ミシェルは俺の手をしっかり握ってきた。


一瞬ドキッとしたが、なるべく雑念は消して魔法に集中する


「では行ってきます」


ロイドさんとリリーにそう告げ、魔法を発動させた。



・・・・・・




「もう離してもいいよ」


目的の場所に到着したので、ミシェルにそう声をかける。


「で?ハーピーはどこにいるんだ?」


かなりの大きい群れがいると思ったんだが、あたりを見回してもそれらしきものはいない


「あの…、拓也さん。多分あれだと……」


ミシェルが指を指した方を見るとそこにはとても気持ち悪い光景が広がっていた。




本来緑色であるはずの木の葉が何故かすべて茶色いのだ。


同じような気が何本もあり、目測でだいたい30本ほど同じような気があった。


「え、何あれキモイ…」


よく見ると、茶色い部分、すべて木にハーピーが止まっているのだ。


一本の木に大体30匹程とまっている。


「約900匹か、骨が折れるな…」


ハーピー達はまだこちらの存在に気づいていないようだ


しかし、いずれ気づかれるだろうだったら…


「ミシェル、先制攻撃お願い」


こちらから先に攻撃したほうが有利だ。


「え、…わかりました」


一瞬戸惑ったミシェルだったが、先制攻撃を引き受け魔力を練り始めた。


「【スターダストレーザー】」


呪文を唱えると、ミシェルの目の前に複数の魔方陣が出現し、そこから前方の木に向かって複数、光属性のレーザーが放たれる。


レーザーは着弾すると一瞬で木もろともハーピーを木一本分丸々焼き尽くした。


「すっげぇな…」


まるで火の七日間だぜ、


だが今の攻撃でこちらの存在に気づかれた。ハーピーたちが一斉に木から羽ばたく。


「さて…、俺も働きますか」


ここで昨日作った新魔法を使ってみよう!



実戦で使うのは初めてなので少し集中する。手に魔力を集中させ、向かって来ているハーピーに向ける。


「フッ!」


魔法を発動するとハーピーは一瞬にして”氷漬けになった”





向かってきた勢いのまま、氷は地面に激突。


中身もろともバラバラに砕ける


「成功したぞ!」


この魔法は俺が思いついた魔法。


きっかけは、なんで氷魔法ないん?って思ったからだ


だがこの世界に氷属性なんてものは存在しない。この魔法は厳密に言うと水魔法で、水魔法を魔力で操作し、温度を下げることで氷になる形状変換を応用したものだ。


さっきの魔法は敵の周辺に水蒸気を集め、魔力を流し、形状変化させて氷漬けにするものだ。ちなみにまだ名前はない。


リリーにならってアイスロックにでもするか。


「ぶっつけで成功するとは流石俺だな」


さて、使えることはわかったしどんどん行こうか!


ミシェルはどうだろう?


ふとそう思い、ミシェルのほうへ振り向くと、そこでは惨劇が繰り広げられていた。


「【ウィンドケージ】【ホーリーブラスト】」



風の魔法で気流を操作し、ハーピーを一点に集め、巨大な光属性のレーザーで焼き払う。そんな作業が繰り広げられていた。



やめてあげて!ハーピーから飛行能力とったら何が残るってんだよ!


そんなことはお構いなしにミシェルは次々とハーピーを倒していく。


「後500ってとこかな~」


ミシェルの大活躍によってだいぶ楽にクエストが終わりそうだ。


だがハーピーも馬鹿ではない。なるべく固まらないように全方位から攻撃を始めた。


どうやらその作戦は成功だったようで、ミシェルは全方位からの攻撃に対応するためにかなり忙しそうだ。


人間はずっと集中してはいられない。よほどの達人でもない限り。そう、俺みたいな奴じゃなきゃいずれ隙が出来てしまう。


「ッく!」


案の定、ミシェルは一瞬隙を見せてしまった。


その瞬間ハーピー達が全方位から同時に攻撃を仕掛ける!



あれはちょっと厳しいかな…?


そう思い魔法を発動させようと手を前に向ける……だが、魔法を発動しなかった。なぜなら…



「必要ないみたいだな」


「『ロックドーム』」


ミシェルは自分を中心に地面をすばやく隆起させ、半円状の土のドームを作り出し、ハーピー達の攻撃を防いだ。


だがそれだけではなかった。


さらに外側からもう一つドームを作り、そのドームはハーピー達を閉じ込める。


今俺から見ると、でかいドームが一つあるように見える。




すると、外側のドームが『ゴゴゴゴ』と、地響きを起こしながらどんどん小さくなっていった。


中からは、『メキッ』『パキッ』と非常にグロテスクな音が聞こえている。



圧殺とかグロテスクだなおい!



そんなことを考えているとドームの収縮が止まる。中からミシェルが出てきた。


「危なかったですね…」


うん、強いとは思ってたけどここまで強いとは…。予想外だった。



ドームはまだ残っているが壊したくない。だって壊したら……、表現したくないね…



「ミシェル強いんだね…」


「え、拓也さんに比べたらまだまだですよ」


ミシェルはニコッと笑いながらそういうが、いまいち表情に元気がない。おそらく魔力の消費が激しいのだろう。あと集中力も。


「というかあのホーリーレーザーだっけ?消費魔力凄すぎない?」


見た目の派手さと、直撃したハーピーのウェルダンな焼き加減からそう思ったんだが…、


「そうですね、あの攻撃範囲と出力ですからね」


やっぱりか、おそらくそれの使いすぎで魔力一気に消費したんだな。ミシェルでも疲弊するくらいだから一般人が使ったら一発で魔力切れかな、


「魔力量あとどれくらい残ってる?」


「あと50万程ですかね…多分」


「そっか、じゃあ後は俺がやっておこうか?」


俺がそう提案するとミシェルは少し考える動作を見せ…


「………いいえ、大丈夫です」


「おっけー」


そう答えた。



さって、こっからは俺も働きますかね!だってまだ討伐数1だぜ?


何とかミシェルの負担を減らしながら倒していこう。



ミシェルの攻撃を見て、少し向かってくることを躊躇していたハーピーだったが、俺たちの会話が終わるころには体勢を立て直して攻撃を再開した。


「【アイスロック】」


空を黒く埋め尽くさんと飛び回っていたハーピー達を一瞬でキラキラと輝く氷の塊に変える。



「氷!?なんですか拓也さん!その魔法は!」


「これ?俺が作った」





「そんなことどうやって!?」


「まぁ水魔法の派生ってところかな?」


ミシェルには目を向けず、会話の最中も攻撃を仕掛けてくるハーピー達を氷漬けにしながらそう答える。


確かミシェルって水属性もってるよな?それなら…


「よければ使い方教えようか?たしか水も使えるよね?」


そう提案すると…


「いいんですか!?そんなこと教えて!」


何故か驚かれた。



「え、なんで?教えちゃだめなの?」


折角新しいこと発見したんだから共有したほうがいいと思うんだけどな…、あ、悪用する奴は別ね!


「いえ、教えてもらえるなら教えて欲しいですけど…、いいんですか?オリジナルの魔法なのに…」


拓也が作り出したこの氷魔法は、普通に考えて大発見なのだ。この世界の魔法に少なからず影響を与えることはおそらく間違いないだろう。だが、そんな魔法を作った本人は…


「別にいいよ、帰ってからでいい?」


あまり気にしていないようだった。


「え、えぇ。では帰ってからで…」


少し…いやかなり動揺したミシェルだったが、今やることを思い出し魔力を練り始める。


「よし、さっさと終わらせようか、『ファイヤーボール』」


拓也は氷魔法に加え、火属性の魔法も撃ち始めた。


それによってハーピー達は燃えたり凍ったり忙しそうだ。


「『ライトニングボール』」


拓也に続いてミシェルも攻撃を再開した。


少ない消費魔力ですむ魔法を1体づつ正確に当てながらハーピー達の数をどんどん減らしていった




それから10分後…。




「これで最後です」


その声とともに、逃げ惑う最後のハーピーは光球に焼かれた。



「やっと終わったな、これでクエスト完了でいいのか?」


前にも説明したがハーピーは本来こんな大規模な群れは作らない筈なんだが、けっこう骨が折れる仕事だったぜ


「はい、これで終わりです」


最後の1体を倒したミシェルが体についた汚れを叩き落としながらそう言った。


「そっか、ミシェル魔力は大丈夫?」


途中から節約してたけど結構消費してたと思うので少し心配だ。


「少し使いすぎましたけど平気ですよ」


「それならいいや、ギルドに戻ろうか」





ミシェルの手をとり、瞬間移動を発動させる。ちなみに移転を使わないのは何故かというと、発動までに時間がかかるからだ。


魔法を発動させると、先ほどまで見ていた景色から一瞬でギルド内の景色に移り変わる


余談だが、この魔法は発動からのタイムロスがないので戦闘でも使うことが出来るのでとても便利だ。だが中々高度なのでマスターするまでに時間がかかる


「ただいま~」


カウンターに座って紅茶らしきものを飲んでいるリリーを見つけ、帰ってきたことを伝える。


「あら、早かったわね」


どうやらリリーもこちらに気づいたようだ。


ミシェルがリリーの元へ行き、クエスト完了の受付をする


そういえばリリーも水属性使えたよな?


昨日の事件は鮮明に覚えている。


「そうだリリー、新しい水魔法作ったんだけどミシェルに教えるからリリーも一緒にどう?」


「え!?魔法を作った!?」


ガタッ!と椅子から立ち上がる


だが、周りがうるさすぎるので誰もこちらに気づかない


「え、まぁ俺ですし…」


謎のドヤ顔でそう言う。ウザイね!


「はぁ~、なんでそんな簡単に作れちゃうのよ…」


リリーの発言から察するに、魔法を作るのはどうやら難しいようだ。

頭を抱えるリリー


「いや、そんなこと言われても…」


なんか適当に思いつきで作れちゃったんだし


「で?そんなの私に教えちゃってもいいの?」


ミシェル同様、リリーもそんな反応をする。


「全然いいよ!」


はっきり言ってそんなことどうだっていい。悪用さえしない人だったら問題ないし俺が使ってたらいずればれるだろうしね。


「それじゃあ教えてもらおうかしら」


そういえばリリーがだらだらしてないな。目が覚めたんだろうか



・・・・・



「えっとね、手順を簡単に説明すると…」


俺たちは今、俺がロイドさんと戦った地下闘技場に来ている


「まず水魔法で水蒸気を作り出す」


片手を何もない空中に向けて水蒸気を発生させる。簡単な魔法なので無詠唱でオーケーだ。


「そしたらなるべく一点に集める。飽和状態にすればいいよ。このときに一点に集めすぎないように注意が必要だ」


魔力で操作しながら水蒸気を集める。なぜ一点に集めすぎないようにするかというと簡単に言えば水に戻っちゃうからだ。ぶっちゃけ別にそれでも問題ないのだが、何もないところから氷を出現させたほうがかっこいいじゃん?



「それで…」


発生させた水蒸気に魔力を流しながら…


「一気に形状変化させる」


すると、バキバキバキッ!っと音を立てながら闘技場の中心付近に一メートル四方の巨大な氷が出来上がった。


二人は目を丸くしている。


「こんな感じかな?注意することは作り出す氷の何十~何百倍の水蒸気を作っておくこと。後は形状変化させるときに水蒸気を早く動かさないと密度の低い氷しか作れないから気をつけてね」


だが、密度の低い氷も使えないこともない。たとえば敵の表面だけ凍らせて体温を奪い、動きを鈍化させたり探せば結構あると思う。しかし今は教える必要はないだろう


ミシェルとリリーはまだ固まっている。


あ、リリーが動き出した。


リリーは氷の所まで歩いていき、ペタペタと氷を触り始める。


すると一言…


「すごい!ほんとに氷だわ!」


当たり前だ!

なに?マジックかなんかだと思われてたの!?失礼だな、


「一応魔法だから水属性が使えるなら誰でも使えると思うよ」


でかい氷を作り出したせいか、心なしか寒くなってきた気がする。まぁ俺が作ったんですがね…


一人そんな思考をしているとミシェルとリリーは既に練習を始めていた。


特にすることがなくなってきたな、暇だ。あと寒い。


俺が腕を摩っているとリリーから声がかかった。



「ねぇ、形状変化ってどうやるの?」


「あぁ、それは詠唱と同じでイメージを固めるんだよ」


突然だが、ここで魔法と詠唱の関係ついての説明をしよう


魔法とはイメージを固め、魔力を動力として使用するものである

詠唱とは、その魔法のイメージを組み上げるためにある。

イメージが確立していないと威力が落ちたり不発に終わってしまう

魔法のイメージは魔法の級が上がるごとに比例して難しくなっていくので最上級魔法などを使用する際には、大体の人が詠唱をおこなう。


だが例外もいる。


詠唱破棄、これは詠唱を行わずに魔法名だけを言い魔法を使用ということだ。詠唱破棄を行うには、頭の中で一瞬で魔法のイメージを組み上げなければいけないので非常に難しい。

又、これより難しい無詠唱というものがある。これは魔法名すら言わずに無言で魔法を使用するというものだ。実戦ではかなり有効なものだが、使えるようになるには時間がかかる。


ざっと説明するとこんな感じだ。




「そんなこと言われても簡単じゃないわよ…」


リリーはそう言いながらも言われた通りに練習を再開する


どうやらさっきから氷を作ろうとすると水になってしまっているようだ。イメージとは言っても非常に難しいのである。


そういえば俺も最初は苦労したな、魔法使うのに。セラフィムに「イメージだよイメージ!!そんなことも出来んのかお前は!」とか言われながら火で炙られたっけ…。まぁ使えるようになったときに仕返しで魔法で不意打ちしてやりましたけども。懐かしいなぁ…

そもそも魔法に無縁な世界にいたのにいきなり出来るほうがおかしいって絶対。


昔のことを思い出しながら、ふとミシェルの様子を伺う。


なんかすっごい集中してる…。例えると、話しかけたら「邪魔しないで」って感じでツンとされる気がする。なんか新鮮でいいかも…


ミシェルは目を硬く閉じ、手を前に向け魔力を操作している。


「……、!!」


パキパキッ、っと音をたてながら、形状変化が始まる


へ~、やっぱり上手いな魔力操作。初見でここまで出来るとは思ってなかった。


初めてやってるのにコツを掴み始めている。才能とは恐ろしいものだ。


そんな思考をめぐらせている間に、ミシェルの前に5センチ四方氷の塊が出来上がった。


「ハァ、ハァ…まだこれが限界ですね…」


先ほどのクエストのせいもあるのか、中々に疲れているようだ。


「いや、初めてでそれだけ出来れば凄いと思うぞ」


これは偽りのない本心だ。やり方を教えただけで出来るようになる奴なんてざらにはいない。ここでミシェルが強いということを再認識させられたな。


「えー!凄い!!どうやったの?教えて!!」


「え、コツといわれても…」


自分より先に出来るようになったミシェルにリリーが少し悔しそうにしながらコツを聞いている。ミシェルは少し困った顔をしながら何とか説明しようとしている。


…リリーをこうやって見てるとお姉さんに甘える妹みたいだな、不思議。


だがそんなことを言っては、また殺されかねないので自重しておこう





さて………、やることがない。どうしようか、


………。


あ、そうだ。俺服持ってなかったんだ。買いにいってこようかな?でもミシェルたちをどうしよう。


そう思い二人のほうを見る


二人は…、既に自分の世界に入り込んでる。どうやら放っておいても大丈夫そうだ。


だが一応声をかけておこう。


「ミシェル、悪いんだけど俺服買いに行って来るからリリーの面倒見ててくれる?」


「あ、はい。いいですよ」


俺がそう頼むとミシェルは快く引き受けてくれた。


そして服を買いに行くため街のどの辺りに行こうか考えていたときだった…


「待ちなさい、なに?私を子ども扱い?」


肩に手を置かれる。


何かと振り向くとそこには、ニッコリと張りぼての笑顔を貼り付け、世紀末覇者のようなオーラーを纏ったリリーがいた。


「いやー、だってロリじゃん?」


とりあえず何か言わないとと焦っていた拓也はどうやら地雷に触れてしまったようだ。リリーからなにやらブチッっと何かが切れる音がする。


「へーそっか、何か言い残すことは?」


いまだに笑顔のリリーはゆっくりと俺のほうへ歩いてくる。手を軽く振り魔法を発動させた。周りを見渡すと水弾が俺を取り囲むようにして漂っている。どうやら逃げ場はない。


冷や汗だらだらの拓也はもう謝っても無駄ということを瞬時に悟った。そして触れた地雷をさらに踏み抜く。


「やっぱりロリは最高だぜ!」


謎のスマイルとグットサイン。はい、最高にむかつきますね



というかやばくない?顔は笑ってるけど目が笑ってないっていうね。これは詰んだ。GAMEOVERだぜ!



「死ね!」


リリーのその言葉と共に、浮遊していた水弾が一斉に拓也に向かって放ち、闘技場全体に水しぶきが飛び散った。


「イヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」




水弾がすべて着弾した後、水しぶきが晴れてきてその標的になったものが倒れている。それはズタボロのぼろ雑巾のようになっていた。



・・・・・



「いや~、危なかったぜ~」


俺こと拓也は、着弾の瞬間、瞬間移動を使い街の中まで逃げてきていた。


「身代わりにクマの人形を置いてきたからな。…ヤバイ、帰りたくない」


そう、拓也の代わりにボロ雑巾のようになっていたのはただの人形だったのだ。



リリー激おこだろうなー。なんかお土産でも買って機嫌を直してもらうことにしよう。



拓也が今歩いている場所は、王国の中でも中々大きい通りだ。中々ひとが多く、なにやら高級そうなお店も結構出ている。拓也はその中で、服屋を探していた。


「あ、ここなんかよさそうだなー」


人ごみに流されて歩く中で普通の庶民が愛用しそうな服屋が目に入る。


人と人の間を縫うように歩きながら店の前までなんとか歩く。



「とりあえずここで普段着を揃えとこうかな」



・・・・・



「結構買っちゃったな…重い」


ハイ、買い物シーンは飛ばしました。だって野郎が服を選んでる場面なんてなにもおもしろくないでしょ?


「【ゲート】」


目立たないように空間魔法を発動させ、開いた異空間の中に買ったものを放り込む。これで両手がフリーになった。こんなに人が多いのに大荷物とか邪魔だもんね。



「さーて、結構時間潰せたけどまだ時間があるな…、今のうちにリリーへの供物でも買っとk…」


一人でリリーにどうやって許してらおうか考えていると、おっさんが若いチャラチャラした奴ら三人ほどに裏路地に連れて行かれるのが目に入った。


「なんだあれ?カツアゲかな?」



・・・・・



エルサイド王国大通りの裏路地にて…



「ね~おっちゃん、俺ら今月金欠で大変なんだわー。というわけでお金ちょーだい」


「くれないとちょっと痛い目にあってもらうよ~?」


中年くらいの男性が若い連中三人ほどに裏路地に連れてこられ、お金を出すように求められていた。

俗に言うカツアゲ、又は親父狩りという奴であろうか?それにしてもこのおっさん、とんだ災難である。


「あ…あの、えっと……」


おっさんはなんか言いたそうだが、場の空気に呑まれ何も言うことができない。


「なに?早くお金ちょーだい」


三人のうち、リーダー格の男が手を出し、持っているお金を出すように催促する。


だが、おっさんは持っていた鞄を強く握り締め、キリッとした表情に変わり…


「これは犯罪だぞ!こんなことして恥ずかしくないのか!!」


そう若者達を一喝した。


「あ゛?んな事知ってんだよ、いいからはよ金だせや!」


「何こいつ?自分の置かれてる状況わかってないの?」


どうやらこのような奴らに正論を唱えたところで逆ギレされるのは、やはりどの世界でも共通のようだ。


だがおっさんも怒鳴られても怯むことなく言い返す


「このお金は大切な物なんだ!渡すわけにはいかん!!」


勇敢なのは結構だが、それは状況によってはとても面倒なことになることがある。


「もーいいや。こいつボコっちゃおーぜー【バーンナックル】」


「空気読めなかったテメーが悪いんだかんな?」


今がまさにそれだ。


おっさんの言葉を皮切りに、リーダー格の男が拳に炎を纏わせる魔法を発動した。


このまま行けばおっさんは間違いなくリンチされるだろう。


そのとき裏路地に入ってくる人影があった。


「こんな昼間から親父狩りとは…、情けないね~」



どこにでもいそうなフツメン。拓也だ



・・・・・・



はーい、街中で楽しくショッピングしてたら親父狩りの現場を発見しちゃった拓也君だよ!



「あ゛?なんだお前、ガキはすっこんでろよ」


リーダー格の男が拓也の存在に気づき、威圧するように低い声でそう言った



え?なにこれ超怖いんですけど。やっぱ俺ってヘタレなのか?うん多分そうだな!前の山賊のときもそうだったし。もっとちゃんとしないとなー



「何それ!手燃えてるよ!!熱くないの!?熱いよね!?お医者さん呼ぼうか!?」


うん、ちょっとふざけすぎた。いくらなめられないようにだからといってもね…これはちょっと……


「あ゛?なめてんのか?殺すぞ!」


ほーら、完全にあいつのターゲットが俺に切り替わったよ。やったね!いや、全然よくない!


だがもうやってしまったんだ。やるなら徹底的にやったほうがいいと思う…だから!


「あ゛?って言ってれば誰でもビビルと思うなよ?チンピラ風情が」


最高にウザイ顔をしながら言い放った。なんかもう達成感があるね!


「殺す…」


なんか怖いことを言っているがまぁいいだろう。こっちには”秘策”があるからな



そんなことを考えニヤニヤしながら棒立ちしていると、DQNその1が地面を蹴り、俺に接近した


その勢いのまま【バーンナックル】を展開した右手で殴りかかってくる…が、あえて避けずに直撃する


「ブヘッ!」


変な声を出しながらわざとぶっ飛び、地面で三回ほどバウンドしたあと、壁にめり込む。


「なんだ、こいつカスじゃねーかよ!」


「ガキが調子こくからこーなるんだよ」


三人組が無残にもやられた(嘘)俺を見ながら、嘲笑を浴びせる


奴らは拓也の表情が見えていないらしい……拓也はなぜか笑っていた。


「君達これで恐喝罪、傷害罪を犯してしまったね」


先ほどの大ダメージは嘘のように…まぁ嘘なんだが、拓也は普通に立ち上がり、体についた汚れを払っていた。


「それがどうしたよ?」


DQNその1はまだニヤニヤしている


最後に拓也はもう一度ニヤリと笑うと…


「じゃあ後はお願いしますね」


自分達がいた所からちょうど死角になっていた場所の窪みに向けてそう言った


そこから出てきたのは…


「あぁ、後は任せておきたまえ」


街中なのに鎧を着込んで、剣を腰にさしている


王国の騎士だった





その姿を確認した瞬間、DQNたちの表情が一気に凍る。



ウハッ!ざまぁ!やったね、街の害悪が一つ減ったよ!


「てめぇ!クソッ!」


なにやら悪態をついているがまったく気にしない。だって俺何も悪くないもの。


これでこいつ等はこの騎士に捕まって罰金、又は豚箱行きだ。


「では君達を恐喝、障害の罪で現行犯逮捕する」


奴らは苦虫を噛み潰したような表情で俺を睨んでくるが、俺はそれを最高の笑顔とグットサインで返してやる。



このまま後は任せて立ち去ろうかと考えていた時だった…


「ッ!?」


三人が一斉にこちらへ走ってきた。ここは裏路地、逃げる場所は俺たちが立ち塞がってる場所を通る他無い。ちょっと、この騎士ビックリしちゃってんじゃん。


どうやら強行突破しようとしてるな?そんなことさせん!


「オッラ!ドケェェェ!!」


おや?こっちにも一人突っ込んできたぞ。


「いやあぁ…」


怖がった振りをして壁にもたれ掛かるようにして道を開ける。

ラッキ-!。奴はそう思ったことだろう。だが俺がそんな奴を逃がすわけが無い。

奴が通り過ぎる直前に足を前に出す。


「へ?」


そんなマヌケな声と共に、DQNは地面と熱いキスを交わした。


「おー口から血が出てるね、足元には気をつけなよ?」


……あれ?返事が無い。どうしたんだ?


よく見ると白目を?いている。


マジか、こいつ気絶してる!この程度で気絶とか…、駄目だ腹筋が。というか白目?いて口から血とか完全にゾンビだ、うんキモイ。


とりあえず起きて逃げ出さないようにDQNの上に正座をする。


もう二人はどうしたかなと思い、周りを見るとどうやら二人とも捕まったようだ。今手錠をかけられている。無様だな、カワイソウ。まぁまったくかわいそうなんて思いませんがね。だってあいつらが悪いんだし。


「ご協力感謝します。それと手錠をかけたいのでどいてもらえます?」


「あぁすみません」


DQNの上から下りるように言われたので素直に言うことを聞く。だって捕まりたくないもん


俺がどくと、騎士さんは慣れた手つきで手錠をかけた。そして三人の手錠をロープで結ぶ


なんか大きい犬みたいだな、全然可愛くないけど。というか一匹気絶してるし。それに俺は猫派だし…


一人でどうでもいいことを考えていると背後から声がかかった




「あのぅ…ありがとうございました」


振り向くとそこにはカツアゲにあっていたおっさんがいた。


「あぁ別にどうってことないですよ」


顔を殴られたが全然大丈夫、だって傷の一つもついてないんだもの。俺の体身体強化しなくてもこの強度ってマジキチだな。


「じゃあ俺はこれで」


このままここにいるとめんどくさい事になりそうなのでそう言い立ち去ろうとする、が


「まってください!」


案の定おっさんに呼び止められる。


うわーめんどくさい事に…とか思いながらも無視するのも気が引けたのでとりあえず振り向く


「これ!」


おっさんはそう言うと俺に銀貨を差し出してきた。


「私にはこれ位しか…」


「いや、いりませんよ。完全に俺が勝手にやったわけですし」


この件は俺の勝手な善意でやったわけだしね。


それと結構時間くっちゃったから早くリリーへの供物を買わなきゃ俺が供物になりかねない。本当にシャレにならん


「ちょっと急いでるのでこれで失礼しますね」


そう言って無理やり会話を終わらせると走って大通りに戻る。


おっさんの声はもう聞こえない。



人ごみに流されながら人形店や、とりあえずリリーが喜びそうな物が売ってる店を探す。


あれ?リリーって何が好きだっけ?俺しらねーや


「まぁ適当に人形あたりを買っていきますかね」


こうして拓也の生存をかけた供物選びが始まった


・・・・・



時は流れて午後6時頃、


拓也はギルドの前に戻ってきていた。


正直言って戻ってきたくなかったが、いずれリリーとは会うので早いうちに解決しておいたほうがいいだろう。


「よし…行くか」


腹を括り、ギルドの扉を開ける。


中には未だ酒を浴びるように飲んでる奴らがいる。



というかこいつらなんで一日中飲んでんの!?よく体壊さないな、そこは尊敬するよ。まぁほぼ駄目なおとなですけどね!


リリーがいつもいるカウンターの方を向く。だがリリーの姿は見られない。どうやらまだ地下闘技場にいるようだ。



まだやってるんだろうか?だとしたら凄いな、俺が出て行ってから結構時間経ってるし。



心の中でリリーを称えながら地下へ向かう階段を下りる。下について、闘技場への扉を開けた。

中にはやはりミシェルとリリーが二人とも居た。

二人とも拓也の存在に気づいていないようで、まだ自分のことに集中している。



どうしよう…スッゴク声かけづらい。だがまぁ、やるしかないよね!


「ただいま…」


…返事がないどうやら気づいていないようだ。


しょうがないので歩いて近づく。


ある程度近づいたところで、もう一度声をかけようと口を開いた


「カハッ!」


その時、俺の腹に普通の石程の大きさの氷の塊が俺の腹部へめり込んだ。



なんだ!?痛い。凄く痛い


あ、そこの君こんな攻撃効かないと思った?残念!ギャグパートでの仲間からの攻撃は防げないんだよ!!


「なん…だと?」


腹を押さえながら膝から崩れ落ちる。

そこへ、悪魔の表情を貼り付けたリリーが歩いてきた


「やっと帰ってきたわね、まってたわよ?」


普段の俺ならこんなこと言われたら普通に嬉しいんだろうが、今は状況が状況なので嫌な汗しか出てこない。

あとロリだからまるで娘に言われてるかのような錯覚が…


「言い残すことは?」


俺はこのとき悟った


「(あ、これ助からない奴だ)」


おそらく弁解など無駄だろう。したところで焼け石に水だ。俺が買ってきたものが気に入られる保障などどこにもない

もうこうなったら落ち着こう。冷静に周りを観察しよう



周りに水弾を展開して俺を方位する。所々氷もあるところと最初の一撃を見ると、どうやら氷魔法を使えるようになったらしい。



へー、教えた側としては嬉しいですね。だが今その教え子が俺を殺そうとしてるんだが…




さて…逃げられないとわかった今、いったいどうするべきだろうか?


いや、逃げるのは簡単だが逃げてたらいつまで経っても繰り返しちゃうしね。


「フフ…好きにするがいい」


そう言い、この世のすべてに絶望したような顔をする。理由は簡単。許してくれるかもという淡い希望を抱いていたからだ。


しかし現実とは非常である。


「あら、そう。いさぎいいわね」


一切の慈悲も持たない声色で俺を絶望のどん底へ突き落とす。なにそれ酷い!

まぁ私が悪いんですがね!それにほぼ諦めてたし…


リリーはその言葉と共に、右腕を軽く振る。それを合図に回りに浮遊していた水弾、氷弾が一斉に俺に向かってきた。もう逃げ場輪ない


「スンマッセンシタアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」


着弾の瞬間、拓也の断末魔が闘技場じゅうに響き渡った…。




・・・・・



目が覚めてくる。


……どうやら俺はベッドに寝かされているようだ。


「知らない天井だな…」


はい、言ってみたかっただけですすみません。

この台詞一回は言ってみたいよね!



「体は大丈夫ですか?」


俺が起きたのに気づいたのか、ミシェルが声をかけてくる。


「大丈夫だよ。それよりまた迷惑かけたみたいだな、ごめん」


「気にしなくていいですよ」


おそらく俺の看病をしてくれていたのだろう。なんという天使だ!本当にミシェルには頭が上がらない。


「それよりここどこ?」


ギルドの中というのはわかるが、初めて見る場所なのでとりあえず聞いておく。


「ギルドの中の医務室よ」


どこから出てきたのか、いや、小さすぎて見えなかっただけか…リリーが俺の質問に答えた。


今本当にどこにいるかわかんなかった。ちょっとビックリしちゃったじゃないかまったく!


「運んでくれたのか、ありがとなミシェル」


おそらく溺死(死んでない)した俺をここまで運んで、+手当てまでしてくれたのはおそらくミシェルだろう。とりあえずお礼を言っておく。


するとミシェルが何故か苦笑いをする。


あれ?俺なんかへんなこと言った?


「あの…ここまで拓也さんを運んだのはリリーさんで…」


なんだと!?

自分でやっておいて自分で運んで手当てとかどういう事だよ!


まぁ助けてもらったことには変わりないのでありますから…




「ありがとなー、リリー」


ちゃんとお礼を言っておく


挨拶と謝罪はちゃんとできないと立派な大人にはなれないぞ!!いいね!?


「別にいいわよ、私がやったんだし。闘技場に一人残しとくわけにもいかないでしょ?」


リリーは素直にお礼を言われたことで少し赤くなりながらそっぽを向きながらそう言った



私は放置プレイも許容範囲n…、いや、この話はやめておこう。


幼女のツンデレとか誰得だよ……、大きなお友達向けですねわかります


「重くなかった?」


俺は一応男だから結構重いはずだ。その俺を小柄なリリーが運ぶのはちょっと無理がある気がするんだが…


「大丈夫よ、ウォーターロックかけてから運んだから」


「何それヒドイ」


おい!それ俺じゃなきゃ死んじゃうからね!?意識ないのにさらに追い討ちをかけるとは…こいつできる!


「まぁいいや…あ、それと……」


あることを思い出したのでゲートを開きその中を探る。目的のものを見つけたので引っ張り出し、リリーに渡しす。


「何?これ」


「お土産。お前に捧げる供物にしようかと思ってたやつ」


まぁ渡す前に溺死させられたのでただのお土産になってしまったが…


「供物ってなによ…」


ぶつぶつといいながら渡された紙箱を開ける。


その中身を確認した瞬間、リリーの表情が少しだけ明るくなった。


「ケーキじゃない」



そうですケーキです。きっかけは暇つぶしに街中でおば様と立ち話をしていたら、このケーキがおいしいという話になり、もしかしたらリリーが甘いもの好きかもって思ってかなり並んで買ってきたものだ。

ちなみに帰りが遅くなったのも並んでいたせいである。


「なんか大通りにできた新しいケーキ屋がおいしいって教えてもらって買ってきたんだ。かなり並ばされたよ…」


元々、並ぶことがあまり好きではない俺は昼の出来事を思い出し、少し憂鬱になる。


「もしかして…それって『アリストス』って名前の洋菓子店じゃなかった!?」


少し考えるような動作を見せた後、そう聞いてくる。


「……確かそんな名前だったな」


昼の出来事のことを思い出しながら答える


俺がそう言うと、リリーが俺に凄い剣幕で迫ってくる


「どうやって買ったの!?この店かなりおいしくて値段もそこそこだからめちゃくちゃ並んでるはずよ私だって行った事ないのに!?」


いや、知らんがな!




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「いいの!?これ貰っちゃって!?」


「いや、リリーの供物用に買って来たんだからいいよ…」


この喜び様…、先に出していればもしかしたら許してもらえたかもしれないな…


まぁそんなこと考えたことで後の祭りなんですけどね…。


「というかリリーってケーキ好きだったんだな」


「当たり前じゃない!私だって女よ」



意外…ではないが、やはり女性は甘いものがすきなんだろう。リリーに至っては女性の中の分類の幼女に入る気がするが、そんなことを言っては折角戻ってきた機嫌がまたカオスになりかねない。


「まぁ喜んでくれてよかったよ」


これでハズレな物を渡していたら、俺はさらに追い討ちを食らっていただろう。

ちなみにクマのぬいぐるみと迷いました。


「えぇ、後でおいしく頂くわ」


リリーはそう言うと、部屋を出て行ってしまった。


「凄い喜び様だな…」


「そうですね…」


感情を隠さないところを見るとやはり純粋な子供にしか見えない!


「ところでミシェルは甘いもの好き?」


「えぇ、結構好きですよ」


よかった。やはり女性が甘いものを好きなのは世界を通して同じのようだ。


「それならよかった」


架空に手を伸ばしゲートを開く。その中から先程と同じ紙箱を取り出した。


「はい、これミシェルの分」


そうです、私ミシェルの分も買って置いたんです。


「え、いいんですか?私は別に怒ってませんよ?」


いや、ミシェルが怒ったとこも見てみたい気もするけど別にそういう意味で買ってきたわけではない。


「折角並んだんだしついでに買ってきたんだ。それに世話になってるしな」


居候させてもらってるわけだし、この位しておくのは当然だろう。


「では家に帰ってから頂きますね」


ミシェルはにっこりと微笑んでお礼を言う。


ミシェルもやっぱり甘いもの好きなんだな。喜んでくれて嬉しいよ


「あ、俺の就任パーティーって何時からだっけ?」


すっかり忘れていた。今日の夜ということは知っているが…、生憎正確な時間は聞いていない。


「確か…7時半ぐらいからだと…」


ということは残り時間は後どれくらいだ?


「ミシェル……今何時?」


「………7時……です」


後30分か、間に合うかな?とりあえず家に戻ろう。


「ミシェル、一度家に戻るか?」


「そうしましょう」






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ミシェルの手をとり、瞬間移動を発動させる。


目の前の景色が一瞬にして変わり、気がつけば家の前にいた。


「とりあえずすぐに着替えて王城に向かおうか」


それから各自急いで準備を始めた。




_____________________________



現在7時20分。俺はリビングのソファーに座っている。


「そういえば俺、特に準備することもなかったなー」


ロイドさん、ローブでいいと言われていたのをすっかり忘れていた。

一度部屋に戻った後、服を着替えてローブを羽織るという僅か5分で終わる実に簡単な作業でした、はい。


だが、まだミシェルが準備中だ。しょうがないよね。女の子だもの


おそらく着替えに時間がかかっているのだろう。大変そうだね



そして俺は、基本的な礼儀作法を思い出している。何故かって?少しでもやらかすことのない様にだ。

まぁ向こうの世界と同じとは限りませんがね。


それともここは発想の転換で、できるだけ誰とも話さなければいいんじゃないのか?

……これだ!俺天才!!

それに帝という地位の人間は正体を他人には明かさない!よし!いけるぞ!!


そんな素晴らしい思考を巡らせていると誰かが階段を物凄い勢いで降りてくる音が聞こえた、ミシェルだろう。


「すみません!久しぶりに着たので時間がかかっちゃいました!」


声の主はミシェルだ。いったん思考を止め、ミシェルを見上げる。そこには…


「どうですか…?」


そこには、紫と黒のシンプルかつ、上品なドレスを着こなしたミシェルが少し照れながら俺にドレスを披露するミシェルの姿があった。


うん、かわいい。元が良いのもあってめっちゃにあっている。

そして少し赤くなってるのがなお良し!!


「お、おぅ。似合ってると思うぞ?」


「ありがとうございます!」

あまりに似合っていたため少しおかしな返答をしてしまったが問題ないだろう。

ミシェルは俺に褒められたことが嬉しいのか、ニコニコ笑っている。


それより時間がヤバイ。後5分位しかない


「じゃあ行こうか…」


立ち上がり、フードを被る。隣に立てかけておいたジョニーを腰に挿せば準備完了だ


ミシェルの手をとり瞬間移動を発動。先程と同じように視界が一瞬で変わる。気づけば既に王城の門の前だ。



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「よし、ミシェル先に行ってて」


握っていた手を離し、ミシェルにそう告げる。


「え?なんでですか?」


だがミシェルは門の方へ向かわず俺に尋ねてきた。


何故かって?そんなの簡単だ


「だってミシェルといたら身バレしちゃうかもじゃん?」


「あぁ、そうですね」


もしミシェルを知る誰かがこのパーティーに招待されていて、剣帝とミシェルが一緒にいるところを見たとしよう。

そうすると剣帝の正体がミシェルの知り合いで絞り込まれてしまうわけだ。そんなリスクは避けたいのでミシェルには先に行ってもらう。


「じゃあ俺も後で向かうから…」


「わかりました。では会場で」


小走りで門の方へ向かうミシェルを見送る。あたりは既に暗い。だって夜の7時だもんね。当たり前ですよね、はい


「オマエ、ミシェルニミトレテタダロ」


「おぉ、お前かびっくりしたなぁもう!」


いきなりジョニーが喋りかけてきたので危うく条件反射で緊急回避するところだったぜ。


「そうだな、綺麗だったし」


周りの人はこちらに見向きもしない。どうやら朝の約束はちゃんと守っているようだ。

でも周りから見れば俺は独り言で綺麗だったとか言ってるキチガイにしか見えてないんだろうけどね!


「セイシュンダネ~」


「だまれ、剣に青春とか言われたくないわ!というかそろそろ行くぞ」


まだ何か言ってるジョニーを無視しながら足を門へ進める。しばらくするとジョニーは諦めたのか、静かになった。


「誰だ貴様!止まれ!!」


王城の中へ入ろうとしたら何故か門番に止められる。



なんなの!?俺ってそんな怪しいかな!?


「……」


とりあえず何も喋らないでおく。


「身分を証明できるものを出せ!」


門番の一人が俺にそう要求した。

後ろの三人は俺に剣やら槍やらを向け、何故か臨戦態勢だ。


ここまで行くと悲しいよね…


「……」


無言のままギルドカードを見せる。

すると…、一瞬にして門番の顔色が変わった。


「~ッ!!剣帝様でしたか!そうとは知らず失礼いたしました!」


「…いや、この位じゃないとね。門番だし。それより通っても良いかな?」


ちょっとテンションの下がっていた俺は、少し低い声でそう言う。


多分だけどこの王国の門番はローブ着てる奴に厳しいような気がする!


「はい!どうぞお通りください!」







「ありがとう…」


俺が門番に止められるのはどうやら仕様のようだ


とりあえずお礼を言って、門をくぐり、王城のパーティー会場へ向かう。


…あれ?パーティー会場ってどこだ?



「…これは……、迷った」


ただでさえ時間がないというのに…、


「あ、よく見たら案内あるじゃん」


看板に『剣帝就任パーティ会場→』って書いてあった。いっけね、みおとしてたぜ!



さあ急げ急げー!


_____________________________



「うわ…結構人いるな…」


パーティー会場に入った俺がまず驚いたのは人がかなりいるということだ。


おそらく貴族や、たくさんのギルドの実力者などが集まっているんだろう。


そして……


「いったい俺はどうすればいいんだ?」


来てみたはいいものの、こんなパーティーなんて人生で初めてなためどうすれば良いか全然わからん



そうして悩んでいる俺に声がかかった。


「剣帝様ですね?お待ちしておりました」


声がしたほうを向くと、いかにも執事って人が丁寧にお辞儀をしている。ちなみにイケメン。憎たらしい!


「そうですが、俺はいったいどうすれば?」


この人聞けばなんかわかるだろ。と思いそう訊ねる。


「他の帝様たちと合流されてはいかがでしょう?」


このパーティにやっぱ他の帝たちも参加してんだな。それならそっちに行って挨拶しとくか…同僚だしね。


「案内してもらっていいですか?」


「かしこまりました」


そう言い、執事のような人は歩き出した。



凄いね、さすが執事。一挙一動に気品があるというか…、まぁ俺にはそんなもんわかんないですけど


「あちらにいらっしゃる方々です」


そうこうしているうちにどうやら到着したようだ。


…なにあれ?皆ローブ着てるんだけど、怪しすぎるっていうね!

もしかしたらあいつら全員門番に止められてたりして…

しかもなんか一人ひとり色違うし…、多分得意属性の色か…。


「ありがとう…」


とりあえず案内してくれた執事にお礼を言い、帝たちの集団へ向かう。


おっと、赤ローブが俺に気づいたようだ。なんかめっちゃ手を振ってる。


「おぉ遅かったな!お前が剣帝か?」




あ、この人良い人そう。バカっぽいけど…。


「すみません。ちょっといろいろあって…」


謝りながら集団の中へ入る。結構いるな…。俺以外で7人か…。


「ガハハ!気にすんなっての!それと敬語なんか使うな!もう俺たちは同僚なんだからな!!」


そう言いながら赤ローブは俺の背中をバンバン叩く。やっぱコイツ良い奴だ。バカっぽいけど…。


炎帝の見た目は大柄の男ってだけだな。


「そうか、俺は剣帝だ。よろしく」


右手を差し出し握手を求める。


「俺は炎帝。よろしくな!」


それに炎帝と名乗った男は快く握り返してくれた。これはいい職場だな、超ホワイト。


「他の皆さんもよろしくお願いします」


軽く会釈しながら、他の帝たちに挨拶をする。


「私は水帝。そいつの言った通り敬語なんて良いわよ、他の皆も気にしないわよね~?」


水帝は他の帝たちに同意を求めるように呼びかけた。すると…、


「あぁ、俺は構わないぜ!」


「ワシも構わんよ」


「だってもう同僚だもんね~」


「…同意」


上から、雷帝、風帝、地帝、闇帝だ。他の帝たちは口々に同意する。



ただ一人を除いては…、


「僕は嫌だね、こんな新入りのガキに舐めた態度をとられるのは癪に障る」


さっきまではいなかった白いローブを纏った男がこちらへ歩いてくる。どうやら俺と同じ遅刻組みのようだ。そして何故かそいつはフードを被っていない。


「遅かったな、光帝」


炎帝がげっ!とした表情をした後に挨拶をする。



というか俺をガキ扱いか、俺はお前より圧倒的に年上なんだが…、言っても信用してもらえなさそうだ。


少し奴のことが気になったので隣にいる炎帝に耳打ちする。


「(あいつは誰なんだ?)」


「(あいつは光帝、とりあえず強いんだが性格がちょっとな…)」


へー、そうなんだ。それともう一つ気になったことがあるのでこれは本人に尋ねよう。


「光帝さんはなんでフード被らないんですか?」


とりあえず敬語を使って喋る。ここで喧嘩とかしたくないもんね


「僕は強いからね、僕の命を狙う奴なんていないだろう。仮にいたとしても返り討ちにできる力が僕にはある」



・・・・これは酷い、理由があまりにも自分の力を過信してるって感じだな。こいつ頭沸いてんじゃないの?


そうですか…」


いじったら色々面白そうだが初対面でやるのもまずいと思うので自重しておく。


「なんだその反応は、新入りの分際で…叩きのめしてやろうか?」


うわ…何コイツ、沸点低いなぁ。



そんなことを考えていると光帝から魔力が少しだけ流れ出していることに気づいた。


何コイツ!?ここで魔法使うつもりか!?バカなの?死ぬの?


俺としてもここで魔法を使わせて面倒なことになるのは避けたい。そう思い適当になだめようかと思ったとき


「やめときなさい、あんたじゃ瞬殺されるわよ?」


思わぬ援護が入った。


ちょっとまって水帝さん、そんなこと言ったらめんどくさいことになr…


「僕がこんなガキに負けると言うのか!?」


なんでこうなるんだよ…、だがここで俺が口を挟んでも余計話がこじれるだけだ、結果を見届けることにしよう。


「剣帝はあのロイドを難なく倒す程強いのよ?どう考えてもあんたに勝てるわけないじゃない」


「だがッ!………それなら」


光帝は少し考えるような動作を見せた後、何かをひらめいたような表情に変わり、俺に向かってとんでもないことを口にした。


「おい新入り、俺と決闘しろ」


「はい?」


おっと、思わず変な声が出ちゃった。


何コイツ?俺と戦うつもりか?さっきの話聞いて無謀だとは思わんのかね?

こいつ倒すのなんて一瞬だろうな…


「はぁ………、いいんじゃない?一回痛い目見とけば」


水帝はもはや諦めたような表情で手をひらひらとふった。


おい水帝よ、少し諦めるのが早いんじゃないのかい?


「いいな!俺も見てみたい!!」


おい炎帝、お前はそんな図体で子供のように無邪気にはしゃぐな!


そんな二人の意見に賛同して、他の帝たちも「見たい」と口をそろえて言い始めた。

風帝のじーさんに至っては「王様に野外闘技場の使用許可取ってくる」と言ってどこかへ行ってしまった。



何故だ、何故俺はいつもこうなるんだ…、まぁそんなこと言っててもしょうがないよね。ここで嫌と言ってももう逃げられないだろう。やるならさっさと終わらせちゃおう、うん…


「で?光帝さん、本当にやるんですか?」


「後で泣くなよ…僕は先に行っている」


水帝にバカにされたのが悔しかったのか腹が立ったのか、光帝はじーさんがまだ戻ってきていないと言うのに先に闘技場へ向かっていってしまった。




というか何でこの世界の奴らはこんなにも決闘したがるん?わけわかめ過ぎてやばい。


「王様に許可とってきたぞ」


風帝のじーさんが戻ってきてそう言った。


これでもう逃げられない。決闘をすることは決まってしまったわけだ。


「ハハッ!楽しみだなぁオイ!」


炎帝がなにやら楽しそうに騒ぎながら酒を物凄い勢いで呷り始めた。



急性アル中とか大丈夫かな…?まぁ本人があんなんだし多分ほっといても大丈夫だよね


「あんた、程々にしときなさいよ?」


そこですかさず炎帝に注意する水帝、この人はお姉さんタイプの人だ、絶対。


他の帝たちは何をしてるのか、と思い後ろを振り向くと、そこには…



黙々とスイーツを頬張る地帝に、その隣で優雅にワインを飲む闇帝。雷帝はもう姿が見えない……もしかしてあそこで肉塊にかぶりついてるのがそうか?……そうだった。


同僚が非常に面倒なことに巻き込まれていると言うのになんて自由な人たちだ…。


こんな奴らだけで一国落せるとかやばいよな。マジ世紀末


俺が少し頭痛に悩まされているところに、風帝が思い出したように喋りだした


「あぁ忘れとった、剣帝と光帝の決闘は公開してやるそうじゃ」


「あぁ、そうですか…」


俺はもう動揺したりしない。なぜなら、いまさら騒いだところでどうにもならないから…

というかおなか空いたから早く終わらせたい


それよりあの光帝とやら…どうやっていたぶってやろうか?


剣帝って名前だからとりあえず剣技を中心にして…あとは魔法を少々。ウヘヘ、楽しみになってきたぜ!


そんな思考を巡らせていると、音魔法によるパーティー会場全体に響き渡るアナウンスがかかった。


『えー、野外闘技場にて、剣帝対光帝の決闘が急遽行われることになりました。興味のある方はどうぞ足をお運びください』


これは大事になってしまった。ギャラリーを無駄に増やさないで!!

それに…帝同士がぶつかったら周にいる人が危ないと思うんだが…


俺は剣技中心だからかまわんが、奴がキレて魔法をぶっ放さないかが心配だ。

まぁそうなったら空間魔法で何とかするか…



・・・・・


はーい、現在王城、野外闘技場に来ています。


そうそう、ここに向かう途中にミシェルと目が合って、何やってるんですか…って目で見られた…。



帝同士の決闘と言うこともあり、観客席は沢山の人で賑わっている。他の帝たちもいるし、よく探すとミシェルも居た。それになんと王様っぽい人まで来ている。


普段から人前に出ることなんてないし…なんか貴族とか偉い人ばっかだからから緊張してきたな…。


観客席を見回し、一人で少しでも自分を落ち着かせようと平常心を保っていると、審判から俺たちに声がかかった。


「ルールは使い魔禁止、後は好きにやっちゃってください」


おい!この審判適当だな!まぁいいんですけど…


「じゃあこれが爆発したらスタートです」


そう言い、上空に火属性の魔法を打ち上げ、そそくさと審判席へ走っていった。


だってこんなとこにいつまでもいたら危ないもんね、帝同士だし。速攻で消し炭になっちゃうよ!


そんなことを考えている間に上空で魔法が音をたてて爆発した。



光帝は、一瞬で高密度の魔力を練り上げると、両手のひらを前に突き出し、


「【ライトニングボール】!」


無我に叫びながら大量の光弾を放った。おそらくミシェルのものより高威力だろう。それに数も多い。



発射された光弾は俺の視界を埋め尽くす勢いで迫ってくる。



「行くぜジョニー!」


「アイヨ!」


ジョニーを抜く、まだ魔力は流さない。

だってこいつ多分魔力流さなくてもそこらへんのいい剣より圧倒的に切れ味がいいと思うんだもの。それはドラゴンの解体で実証された!(描写はしてないです)



目の前まで迫っていた光弾を自分に当たる軌道で飛んでくるものだけを確実に切り落としていく。


この程度か?


そう思っていはいけない。なぜならこれは恐らくただの目くらまし、本命は…


「よっと!」


横に移動して後ろからのレーザーを回避する。ちなみにレーザーの軌道が頭だったのは偶然だろうか?


…いや、意図的にやったとしか思えない!


「ちッ!」


攻撃を回避された光帝は、低く舌打ちをして一度攻撃の手を休めた。




「貴様、中々やるな…」


そして戦闘中だというのに呑気に話し始めた。


完全に舐められてますね、はい。


「そんなに悠長に話してていいんですか?」


一旦剣を下ろし、話し合いに応じる姿勢になる。


「僕は強いからね、問題ないさ」


…こいつ来るとこまで来ちゃってるな、過信もいいところだぞ。


光帝は鼻で笑っている。それによく見るとコイツイケメンである。ちなみに白髪


「そうですか……、でも実戦なら今あなた一回死にましたよ?」


だが光帝はこの言葉を聞いたとき戦慄した。



……なぜなら声の発生源が後ろだったからだ。

さらに右肩に視線を落とすと、白銀に輝く剣が首筋に立てられていることに気づいた。


「何ッ!?」


一瞬にして回避行動をとり、拓也から距離を置く。

このやり取りの間で、光帝は冷や汗が止まらない。それと同時に今、剣帝が倒そうと思えば、自分が倒されていたということに気づき、苦渋の表情を浮かべる。



ウハ、めっちゃビビッてやがる!ざまぁ!!



その一方でテンションがMAXに突入する拓也であった…。


「あなたが見てたのは光魔法で作った幻影だよ」


ここでネタばらし。

原理は簡単。光の屈折などを利用して幻影を作り出していただけだ。後は後ろに回るという簡単な作業です。

まぁ魔法自体はけっこう難しいんだけどね


無言で魔力を練り直す光帝、俯いてて表情が見えないのが非常に残念だ。多分悔しがってるんだろうけど…


そして光帝が次の魔法を発動した。


「【フラッシュ】」


視界が光に埋め尽くされる。


この魔法は攻撃力はないが、目くらましに使われることが多い。



まぁ…見えてるんですけどね!!


光った瞬間、奴の魔武器と思われるレイピアを呼び出し、俺から見て右方向から突っ込んでくる。


俺まで後10メートルというところで鞘から抜き、俺の心臓を目掛けて刺剣を突き出した。



さっきもそうだったけど何でコイツは俺を殺そうとしてるの?そんなにヒドイ事した覚えはないんだが…本当に、



拓也には見えていると言うことも知らずに、勝利を確信した薄ら笑いを浮かべる光帝。


だがそんな攻撃拓也が当たってくれるはずも無く、軽くいなされ、脳天にジョニーの柄が食い込んだ。

地面に沈み込みそうになる光帝に追い討ちをかけるようにしてかかと落としを打ち込む。




奴の顔は地面に埋まった…



「その程度で強いだと?勘違いも甚だしいな」


足元に倒れている光帝を見下ろし、起き上がるのを待つ。白かった髪は、土で汚れて所々茶色になっている。



…結構派手にやったけど気絶とかしてないよね?


あ、プルプル震えてる。どうやら意識ははっきりしてるみたい!よかった!



「ほら、起きてるんだろ?立てよ」


そう言った直後、光帝は倒れたままの体勢から俺に手を向け、レーザーを放つ。


だがそんなものは拓也には当たらない。

簡単にかわされてしまう。


「貴様ァッ!!」


光帝は起き上がると同時にレイピアを突き出し、拓也に接近戦を挑む。



コイツ剣帝に接近戦挑むとか駄目だろ、冷静さを欠いてる証拠だぜ!




激しく剣と剣がぶつかり合うが、素人目に見ても明らかに拓也の方が押しているように見える。


それを裏ずけるかのように、光帝の体には切り傷が増えていった。

時々剣術に混ざって魔法も放つが、拓也にはまったく当たらない。それどころか接近戦で魔法という無駄な動きをしたため、余計に自分が追い込まれる結果となってしまう。


接近戦では不利!

ようやくそう判断した光帝は、一旦バックステップを踏み、剣帝と距離を置いた。




「ハァ…ハァ……」


肩で息をしている光帝に向け、一言放つ


「今ので二回目、今、俺がバックステップの時に詰めてたら死んでるぞ」


余裕のナメプ!これは腹が立つ!というか立たないほうがおかしい。

だが俺が今言ったことは本当だ。バックステップするなら下がりながら魔法撃つとかもっと工夫しろよな!



その言葉に光帝は怒りでプルプルしながら魔力を練り始める。


「ハァ…ハァ…、貴様…なめやがって!【ホーリーレーザー】ッ!!」


昼にミシェルが使ったのと同じ魔法だ。だがこっちのほうが威力は高い。


このまま避けると観客席がまずそうだ。なので俺も魔法を使うことにしよう。


「【ゲート】」


そう呟き、向かってきているレーザーに手を向け、自分の目の前に異空間への門を開く。

当然のごとくレーザーは飲み込まれてしまった。


「なんだと!?」


光帝は、自分の魔法が完全に無効化されたことに驚いているようだ。


だが俺の攻撃フェイズは終了していない!



もう一つのゲートを開く場所は……



「ッ!!?」







奴の頭上だ








魔法の中では最速の光属性。


それがいきなり頭上から降ってくるのだ。回避できるはずも無い


まるで衛星軌道上から放たれたようなレーザーは光帝を飲み込み、砂を巻き上げた



視界が元に戻ってくる


そこには着ていたローブがすべて焼け落ち、下に着ていたであろう服まで所々焼けてなくなってしまった光帝が膝をついていた。



ちなみに股間はブロックされているので全年齢対象だと思う…多分


「もう許さんッ!」


そう吼えた光帝は、気がつけば既に俺の目の前にいた。なにやら光帝の背後で轟音が鳴り響いている。


「ぅおッ…」


ちょっと驚いてしまった。だってさっきまでこんな早くなかったんだもん!


とりあえず突き出してきたレイピアをいなし、応戦する


しばらく接近戦をすると、今度は近づいたときと同じように一瞬で後方へ移動した




身体強化か?いや、さっきも身体強化はしてたがここまで早くは無かったぞ?


「ふんッ!驚いたか!これが僕の魔武器の能力だ」


あぁ、そういうことね。そういえばガブリエルがそんなこと言ってたっけ…忘れてた


説明しよう!

魔武器にはそれぞれ固有の能力があり、使い方次第では戦闘を有利に運ぶことができるのだ!


「見たところ自分を光速まで加速させるってところか…」


「何故わかった!?」


「おしえなーい!」


口角を不気味に吊り上げ、ニヤリと笑う。目とか見えてないから余計に怖い。



ちなみに俺が気づいた理由は、あいつの後ろで轟音が鳴ったからだ、あれは恐らくソニックブームだろう。それに空間移動できるなら普通背後にまわる


あとあいつが光帝だから。


「まぁいいさ、この能力を使った僕は無敵だ!僕を侮辱したことを後悔するといい!」


いったい何を後悔しろというのかいまいちわからんのだが……

この出過ぎた鼻をへし折るのが楽しみになってきた



これなら攻められると考えた光帝は魔武器の能力をフルに使い出した。一度攻撃しては下がり、の繰り返し。なんだかつまらなくなってきたな…


それに決定的な弱点も見つかった。それは…


「グッ!!」


またもや俺の目の前に現れた光帝に、蹴りのカウンターをいれる。すると自分から当たりに来たかのように綺麗に後ろにぶっ飛んで行き、地面を数回バウンドした後壁にぶつかり止った



…コイツ………、光速をコントロールできてないな!!



そうと分かればもう何も考える必要は無い!


「フンッ!!」


体勢を立て直してまたもや突っ込んできて目の前にいた光帝に、サッカーボールキックのカウンターをお腹当たりに蹴りこむ。


「う゛」


光帝は情けない声をあげて、上空へ打ち上げられた。



これはチャンス!奴は蓄積されたダメージで動けない…はず!!

とりあえず遠距離攻撃で追い討ちをしておこう。



魔力を練る、ここまでは普通の魔法と同じ。


だが次の瞬間、地面に拓也を囲むようにして、複数の赤い魔方陣が浮かび上がった。

いや、正確には拓也が魔力で書き上げたのだが、それがあまりにも高速だったので浮かび上がったように見えただけである。


「【ファイヤーボール】」


拓也が魔法名を呟くと、書き上げた魔方陣から光帝が使用した同系統の魔法とは比にならないほどの数の火の玉がそれぞれの魔方陣から放たれる



余談だが、魔法は魔方陣を使用したほうが威力、精度共に向上させることができる。

しかし、相当の使い手でないと発動している間は魔方陣を書いた場所から遠く離れることはできないため使い所が難しい。魔力の操作が上手くないと、離れると魔方陣自体が崩壊してしまう。

だから大体は後衛の魔法ブッパ部隊が使うことが多い。




放たれた火の玉は、光帝へと向かっていく。


魔法の威力自体はそこまで強くは無いのだが、いかんせん数が多すぎる。光帝がピンピンしていたとしても回避はほぼ不可能だろう。そう思うほどの圧倒的弾幕の濃さだ。


それに現在の光帝はボッコボコにされており、意識はあるがほとんど動けない状態だ。


少しは回避行動をとってはいるが、その体には着々と傷が増えていく…


「くッ……」


苦しそうな声を漏らす光帝。


威力は弱くとも当たればそれは確実にダメージになる。


「さて…そろそろ止めを刺しときましょうかね」


このままファイヤーボールで削りきってしまうのもいいが、やはり最後は派手に決めたいよね!





一旦ファイヤーボールを止める。


下から掛かる力がなくなったため、それまで上空で揉みくちゃにされていた光帝は力なく地面に向かって落下し始めた。



拓也は光帝が地面とぶつかったのを確認すると、ゆっくりと口を開いた。


「光帝、朗報だ。次の一撃で終わらせてやる。もう苦しむ必要は無いよ!やったね!」


そんな拓也の言葉を聞いた光帝は、何とか立ち上がろうともがいている。それに拓也に気づかれないように、光属性での治癒を始めた。




まぁ気づかないわけ無いんですけどね…。

さて、とりあえず観客に被害が出ないように結界を張ってと…よし、準備完了!奴が治る前に止めを刺す!



地面を蹴り、上空へ飛ぶ。


ある程度飛んだところで浮遊し、魔力を練り上げる。



ヤバイ攻撃が来る。そう直感的に判断した光帝は治癒の速度を速める…が、もう遅い。


この時点で地面にいる光帝は、俺の攻撃は回避できないだろう。



両手を地面のほうへ向け、練り上げた魔力をすべて手のひらに集中させ、魔法を放つ準備を完了させる。



「じゃあいきますよ…【エクスプロージョン】」


魔法名を唱えた拓也の手のひらから、真っ赤に燃え盛るバスケットボール程の火球が勢いよく放たれた。


その着弾点はもちろん光帝。


必死で逃げようとしているが体がまだ完全に治っていないようで、足を引きずりながら少しづつ移動はしているが、この魔法の攻撃範囲はむちゃくちゃ広い。その程度ではまちがいなく逃げ切れない。



そして…逃げる光帝の背に火球は着弾した。



瞬間、あたりを包む轟音と熱風。


拓也のいる上空50メートル程の所にも、爆発で発生した火の触手と熱風がとどいている。


地面は爆発の影響で大きく土を巻き上げ、所々溶岩と化しておりもう何がなんだか分からない。



そして、その攻撃をモロに食らった光帝は果たして生きているのか!?

いや、生きてくれてないと困るんだけど…、この程度で死なないよね!多分!




しばらく上空で待っているんだが溶岩が中々もとに戻らないので闘技場全体に水をまき、地面を固める。


やばい、水蒸気とか考えてなかった。霧と熱で大変なことになってる。

まぁ地面は固まったし別にいいよね!



地面は固まったようだが、視界が悪い。悪いと言うか何も見えない。

自分がやったんだがこれじゃあ下が見えんな…


「【ウインド】」


風を起こすだけの簡単な魔法を発動し、闘技場全体の水蒸気?霧?……多分霧だったはず…を払う。すると、地面の様子がはっきりと分かってきた…。



地面は、溶岩をいきなり固めたせいで所々凸凹している。


そしてその中に…



上半身だけ地面から出し、天を仰ぐ様な体勢で絶命している光帝がいた。

※注意;死んでません



なにあれキモイ


白目むいてるし頭パンチパーマだし。日本昔話に出てきそうな鬼みたいな顔してる


白髪のパンチパーマとか斬新だなオイ!



「これは…俺の勝ちでいいのか?」


なんか審判がボケーっとしてるし…早く終わらせて欲しいんだが…お腹がすいたお


「審判、俺の勝ちでいいですか?」


いつまで経っても審判が出てこないので、自分から申し出る。


「え、ぁあはい。ちょっとまってくださいね」


そう言うと審判は光帝の元へ駆けて行き、いつからか手にしていたライトで光帝の瞳孔のチェックのようなことをし始めた。



ちょっと待て。あいつ死亡確認しに行ったぞ!確かに死んでるように見えるけど殺してないから!俺は無実だから!!



「生きてまーす。この勝負剣帝の勝ちでーす」



そんなことを危惧していると、審判の確認が終わったようで勝者の名前が発表された。



というか生きてますってなんだよ!殺したら負けなのか!?




………案外そうかも知れない。気をつけよう…



それと光帝がピクリとも動かない、ヤバイ。



だが貴様は俺を怒らせた。よって治療は無し!!



と言いながらも最低限の治癒魔法をかけてあげるあたりが拓也さんだぜ!





治癒魔法かけたと言っても、とりあえず死なないようにしておいただけだがら光帝動かない。


「おーい光帝、そろそろ起きろよー!」



「……。」



返事がない、ただの屍のようだ。



流石にまだ意識が戻らないな、だってどう見たってオーバーキルですもの。少々のやり過ぎ感があるぜ!



「う゛……」




あ、起きた!やったね生きてたよ!



というかさすが帝…、あれだけやられても回復が早いっすわ!

こいつらだけで一国落とせるってのも確かに納得ですわ。だってこんな奴らが俺を除いて7人だぜ?並みの軍隊が勝てるわけ無いですねハイ。



光帝は既に大丈夫そうだし…、



会場で飯でも食ってよ!



空腹が限界に達していた俺は、まだ地面に埋まっている光帝を放っておき闘技場を後にする…


闘技場を出て、城の中に入るための道を進み始める。



それより込める魔力調節しないと危ないな…、かなり加減したのに闘技場全体溶岩化だもんな~。


いつもの様に使ったら王国もろともふっとばしかねん、



…魔力制御の装備品でも作るかなぁ~?でもすぐに外せるようにしとかないと奇襲とか対応できないからデザインも考えとこう


次はどうやって作るかだが……。




そうだ!ドレインドラゴンの素材で作れないか?あいつ魔力食うしなんか使えんじゃね!?俺天才!!




それとすぐに外せるって言ったら…、なんだろう?


指輪か腕輪とかが無難かな~?



仮に指輪で作るとして能力はどうしようか?





などなど、素晴らしい思考を巡らせながら食料を求めて歩き続ける。



ここで想像してごらん


人通りの少く、薄暗い場所を黒ローブの男がニヤニヤ笑いながら歩いてるんだぜ?怪しすぎるっていうね!

元の世界でやったら余裕で通報されるレベルです




気がつけば既に会場まで戻ってきていた。



考えるのは後だな、とりあえずなんか食べよう!!




そう思い、料理が盛ってある大皿に近づき皿に乗っているものを見た。



そこには形容するのも恐ろしいものが鎮座していた。




「…え?……………え?」



拓也の口から2度の戸惑いの声が上がる。





”それ”は一応揚げ物の部類なのだろうか?



こんがり揚げられ、狐色の衣が周りを包み込んでいる。


ここまでは普通においしそうなのだが…、問題は別にある




「なぜに人型…?」



そう、”それ”は人の形をしていた。そして大皿の上に横たわっている。


まさに死体のように…



他のテーブルを見ると、やはり同じものが置かれている。しかも一つひとつポーズが違う。




何だよこれ!キモすぎるだろ!

というかこれ食えるのか!?まちがえてシェフが油の中に落ちたのが気づかれずに出てきたとかじゃないよね!?

俺に人食の趣味はないぞ!




「あの…これなんですか?…」



流石に空腹とはいえ、この正体不明な物体Xを口に運ぶ勇気は無かったため近くにいたメイドさんを呼び止める



「こちらはバン・フリックと言う料理でございます。様々な食材を混ぜ合わせ、成形し揚げたものです」



そう説明すると、忙しいのかメイドさんは自分の仕事に戻っていってしまった…。




……うん。とりあえず食べれることはわかった


だけど……。




これどうやって食べればいいんだよぉぉぉ!!!


あれか!横にあるナイフで切り分けて食べろってか!?そんな残酷なこと俺にはできねぇよぉぉぉぉぉ!!



ただ恐怖心の裏で、これに対する好奇心が生まれ始めてしまっている。もはや無視して他の物を食べることはできない。



震える右手でナイフを取り、バン・フリックと呼ばれた料理の足首辺りを切断しにかかる


なるべく手元を見ないようにし、一気にストンとナイフを落とすと簡単に切ることができた。



切断したそれを自分の皿にのせ、恐る恐る口に運び一口。




あれ、おいしい。

見た目はかなりあれだが、味は申し分ない。コロッケに近いのだがそれとは比較にならないほどおいしい。おいしいんだが……




「食べるのが辛いよぉぉ……」



半泣きになりながらも、おいしすぎるので箸が止まらない。


周りから見たら相当キモイことだろう。





せっかくおいしいのにこの形にする必要はあったのか?いや、そんなことは無いだろう。


そもそもなんで人型にしたんだよ!?責任者呼んでこい!!




「どうした剣帝!うますぎて涙が出てきたか!」



一人で色々考えていると炎帝から声が掛かった。



闘技場から戻ってきたようだ。他の帝たちの姿もちらほら見える。



「いや…確かにうまいんだが形が悪趣味だなと思って…」



適当に返しながらも食べる手は止めない。だってお腹空いてるんだもん、仕方ないね!



「ガハハッ!確かに俺も初めて見たときはビビッたからなぁ!」



炎帝は盛大に大笑いすると、ナイフなど使わずに物体Xの首を手でもぎ取り一口で平らげてしまった。



炎帝…お前って奴は……。



「それにしても剣帝!お前強いな!!光帝の奴を一方的にやっちまうとは、恐れ入ったぜ!!」



「だって単純なんだもの、攻撃が。なんか才能だけでここまで来たって感じだったし」



本当に強い奴は肉体面でもそうだが精神面でも卓越している奴のことを言うと俺は思っている。


戦闘中にブチギレて攻撃が単調になるなんてアホとしか言いようが無い。そんなことしてたら命がいくつあっても足りん。



光帝は才能はあるんだが…なんていうか……プライドが高すぎるんだよ。



「あいつは最近帝になったばっかりだしな…帝の中では一番若いはずだ。まだ未熟なのしかたない…」



少し考えるような姿勢を見せた炎帝は、う~んと唸りながらそう言った。



見た感じ20くらいだったか?もうちょっと若くも見えたが、俺のほうが若いと思う。絶対


というかバカそうな炎帝にもこういう所があるのに素直に驚いたぜ!



「まぁなんだ…今回お前に完膚なきまでに叩きのめされたんだ、悔い改めて自分を磨きなおせばあいつはまだまだ強くなると思うぜ」



炎帝はこのように真面目に話し合うのに慣れていないのか、フードの上から頭を掻きながら話を終わらせてしまった。



「それより折角のパーティーなんだ!剣帝!お前も飲め飲め!!」



「いや、俺未成年なんでお酒はちょっと…」



「そう言うなよ!ほら!!」



炎帝はどこからか持ってきた酒樽からぶどう酒を豪快に汲むと、満面の笑みで俺に差し出した。




おい待て。そんなに飲んだら急逝アル中で死ぬは!!



「えっと…あれなんで、俺酒とか飲めないんで」



「まぁそう言うなって!うまいから!!」



いや知らねぇよ!それはお前の感想だろ!



そんなこんなで結局受け取ってしまった俺は、これ以上ここに居るのは危険と判断し、とりあえず炎帝から離れることにした。



「それよりこれ…どうしよう…」



受け取ったはいいが…俺は飲めないんだよなぁ…。


他の帝の人たちにでもプレゼントしてこようか?

飲んでくれそうなのは…


風帝か雷帝辺りかな?



風帝は姿が見えないから…雷帝だな、そこで肉を頬張ってるし。



「雷帝、お肉のお供にぶどう酒とかどうよ?」



声を掻けながら雷帝に近づく。すると雷帝はこちらに気づいたようで首だけをこちらに向けた。



「ん?あぁ、サンキュー。飲むからそこに置いといてくれ」



「あざっす!」



案外早くに解決したな…やったね!


指示された通り隣のテーブルにぶどう酒を置き、その場を後にする。




さって…俺もパーティーを楽しみますかね!!





拓也は人ごみの中に紛れていった…



・・・・・




パーティーも終わり、ミシェルと家に戻ってきた。




ちなみに俺は今、玄関の前で突っ伏している。


なんでかって?





「おえぇ…ぎもぢわるい……」



あの後結局炎帝につかまり、死ぬほど飲まされたんです。ハイ

周りにいた奴らははやし立てるばかりで助けてくれなかったよ…非情だ



ちなみに家に入らないのは、吐いたりして家の中を汚さないようにという私なりの優しさです



くっそ…あの野郎、高校生に酒飲ませやがって…、俺じゃなかったら死んでるぞ!!


軽く酒樽一つは飲んだからな…向こうの世界だったら世界的記録になるよね…絶対



炎帝に至っては回りに酒樽が散乱してたから相当飲んでるだろう。あいつの胃の中は異空間なんだろうか?

だって物理学的にも明らかにおかしいだろ!?



あ…眠気が……このまま寝てしまおうか?




そう思っていたときだった、俺の右肩が何者かにトントンと軽く叩かれる…まぁ誰かぐらい分かるんですけどね



「あの…大丈夫ですか?お水もってきましたよ」



おっとぉ?ここでミシェルがコップと水差しを持っての登場です!



「ありがと…」



差し出されたコップを受け取り、入っていた水を一気に飲み干す。


酒の飲みすぎで火照っていた体が冷水によって冷まされていくのが分かる。



ミシェルは無言で水をコップに注ぐ。



「いや~助かったよ……炎帝の奴…むちゃくちゃやりやがって…」



「災難でしたね…」



「まったくだぜ!」



苦笑いのミシェルに相槌を打ちながら水を飲む。。



「今日も楽しかったですね!」



「そうだな~結構楽しかったな」



俺はリリーにフルボッコにされたり門番にいじめられたり光帝と戦わせられたり炎帝に酒飲まされたりと散々だったが、こんな生活この世界にいなければできなかっただろう。


だからあえて楽しかったと言っておく。



「さて、そろそろ家に入りましょうか。風邪ひいちゃいます」



体調も戻ってきたし、そろそろ家に入っても大丈夫だろう。




膝に手を置き、立ち上がろうと力を入れる。


まだ酔いは覚めていないようで少しふらふらする。



明日二日酔いとかならないといいけど…


多分無理だよね…



家のドアを開けようと、ミシェルがドアノブに手を伸ばした時だった。



「(!!ッ)」



「えッ!?」



ミシェルの手をとり一瞬にして自分の後ろへ隠す。体調も元通りに直し、ジョニーの柄を握り臨戦態勢をとる。



「誰だ…」



何も無い茂みに向かって低く威圧するような声でそう言い、微量の殺気を放つ。


反応は無い。



姿は見えないが確実にそこに居る。気配が確かにあるのだ



「た…拓也さん!?どうしたんですか!?」



「ミシェル…そこから動くな…」




拓也の聞いたことも無いような真剣な声色に、ミシェルは一度だけ頷くとそれ以上は何も詮索しようとはしなかった。



「もう一度聞く……『誰だ』…」



今度は、手加減など一切無い本気の殺気をそこにいるはずの”誰か”に飛ばす




すると…、何も無い空間から一人の男が現れた。



「そんなにピリピリすんなよ、今日は戦うために来たわけじゃねえから」



やれやれ、と頭に手を置き拓也を小馬鹿にするような態度をとっているこの男……


人間にはある筈の無い羽が、背中に一組生えている。



「天使か…なんの用だ…」



質問をしている間も殺気は止めない。


そんな拓也に奴は大きなため息をつくと…



「だーかーらー、殺気を飛ばすなって」


ニヤニヤ笑いながらこれまた小馬鹿にするようにそう言う。



「なんの用だ…」


天使は今度は諦めたようにため息をつく、そして喋りだした…



「俺たちの神からの伝言だ。『これ以上この件に関われば容赦なく殺す』だとよ、確かに伝えたぞ」



これを聞き終えた拓也は僅かに口角を吊り上げ



「…そうか、わざわざ忠告をありがとう。では俺からもお前の神に伝えておいてくれ…『ヘタレな神に殺されるほどやわじゃない』ってな」



これを聞いた天使は少し表情を曇らせた。



「お前、神をナメてんじゃねぇぞ?」



「安心しろ、俺がヘタレだと言ったのはお前らの神みたいに人間にビビるような神のことだから」




天使を煽り続ける拓也、それに機嫌を悪くした天使は唾をペッっと吐き捨て拳を握り締めながらなんともいえない表情をしている



「人間風情が…調子に乗りやがって」



そう言い返すが、奴はこちらを攻撃してくる気配は無い。


どうやら本当に戦うつもりは無いのだろう



「その人間にビビって冷や汗流してるのはどこのどいつだろうな」



「なんだとッ!?」



辺りが暗くて奴の顔は良く見えないが、拓也には鮮明に見えていた。



「それだけじゃない。心臓麻痺起こしそうなほど脈打ってるな、殺気止めた方がいいか?」



殺気とは、相手の本能を直接攻撃する威圧のようなものだ。自分の実力が威力に大きく影響するので殺気が強ければ強いほど放った奴も強いと分かる。

だが自分より弱い相手にしか効かないので注意が必要だ。


拓也の場合、神に匹敵する力を持っているため殺気も必然的に強くなっている。



「くッ……」



ただ恐ろしい殺気を浴びせられただけではなく、自分の身体の状態まで見抜かれた天使は、



「…まぁ今日はこれだけだ。じゃあな」




現れた時と同じように消えていってしまった。恐らく天界に帰っていったんだろう。





「ふ~ビックリした…」



だっていきなり現れるんだもん、そりゃあビックリするよね。


……それより何で俺の存在が奴らにバレているんだ?極秘の筈じゃなかったのか?


もしかして俺が暴れすぎたから……それは無いな、そんなに目立つようなことしてないもんね!…多分


ということはあの中に内通者がいたってことになるな…


ともかくじーさんに連絡しておこう…




その考えに行き着き、回れ右をしてドアのほうを向くと…



「ミシェル?」



そこには小刻みに震えるミシェルの姿があった。



あ、俺の殺気のせいか。ミシェルは近くにいたから仕方ないよな…



「ごめん、大丈夫か?」




「…今の……なんだったんですか?」



少し落ち着いてきたミシェルが俺に尋ねた。まだ震えていて顔も若干青い。




「なんか拓也さんの雰囲気が変わって…怖くなって…」




「俺の殺気。」



これはこっちで使うのはやめたほうがいいな…


間接的に受けたミシェルがこの状態なんだから本気で使ったら死人が出る。




「……とりあえず家に入りましょう。詳しく聞かせてください」



少し間をおいてミシェルがそう切り出した。



詳しくっていったい何を聞かれるんだろうか…?




・・・・・




今俺はミシェルと向かい合う形で座っている。


ミシェルも落ち着きを取り戻し、既にいつものように戻って一安心だ。



「何から話せばよいやら…」



恐らくこれから質問攻めに会うであろう拓也は少し身構える。


ミシェルは紅茶を一口飲むと話し始めた



「さっき感じたあの感覚はなんだったんですか?」



「あれは殺気、相手の本能を直接攻撃する威圧みたいなもんだ。あの時は奴に向けて放ったんだが……近くにいたミシェルにも少し受けてたみたいだ…ごめんね」



「じゃあ次です…」



なんかミシェルがはじめてあった時みたいに淡々と喋ってる、怖い。怒らせたかな……


やっべ!普段優しい人ほど怒らせると怖いって言うからな!




「あの男は誰だったんですか?」



はい、あなたの命を狙うタイプの天使です。



なんて言えないぞ、ミシェルには悪いけどちょっと誤魔化しておくか…



「天使だ、俺の仲間じゃないほうのな…」




ミシェルは拓也に、神や天使の存在を口頭で説明されただけであって自分の目で見るのはこれが始めてになるだろう。



ミシェルはそのような存在が本当に居るという事を知り、どうやらかなり驚いているようだ。表情に出てる…




重要なところははぐらかしたが、あながち間違っていない答えだよね、うん。




「その天使が何をしに来たんですか?」



「う~ん、今日は俺に忠告しに来たみたいだ。これ以上この件に関われば殺すって」



少なくとも”今日”はそうだろう。これからはミシェルもそうだが、俺が狙われることもあるかも知れないが…まぁ大丈夫だろう。



「それって大丈夫なんですか!?」



物騒な単語が出たことによって少し声を荒げるミシェル、



というか一番大丈夫じゃ無いのはミシェルなんだが…俺が守ればいいんだ。



「大丈夫だ心配ない、さっきも言ったが人間を恐れて殺そうとする神に負ける程やわじゃない」





「ですけど…万が一ってことがあるかもしれませんし…」



困ったような顔をするミシェル、



「大丈夫だ、それに最初に会ったとき言ったよな?俺には守るべき人間が居るって」



「神の力をもった人間のことですか?」



「そうそう」



まぁミシェルのことなんだがまだ言わなくてもいいだろう。



「そいつを守るのが俺の仕事だ、死ぬのは御免だが最悪神たちも道連れにするからこの世界の安全は保障するよ」



「でもそうなると拓也さんが……」



心配してくれるのは嬉しいが、俺だって死にたくは無い。



「言っただろ?それは最後の手段だ。俺だって自分から死のうとは思わないから」



テーブルに置いてある紅茶の入ったカップをもち一口、喋って乾燥していたのどを潤す。




正直な話、弱い神でも一応神は神だ。


一度に全員来られたら流石に俺でも厳しいだろう。


個々で来てくれるならありがたいことこの上ないんだがな~


だがそんなことはまず無いだろうな…俺ももっと強くなって俺以外の戦力も探しとくか……




そんな思考を巡らせながらもう一口紅茶を飲む。



そこでミシェルから質問が投げかけられた。



「拓也さんって……どれくらい強いんですか?」



「そうだな~」



確か能力なしでじーさんと普通に戦っていられるから…


いや、本気で相手されていたとは限らないな…



「創造神より弱いくらい…だと思うよ、多分ね」



実際じーさんが本気で相手をしていたかは知らんが多分その位だと思う。

ちなみに創造神はすべての面においてパラメーターが100%を突破するというマジキチな存在です。



「創造神?一番偉い神様のことですか?」



「そうだよ、見た目はじーさんだけどね」



ちなみに初対面の相手の顔面を杖で殴るというお茶目な一面もあるよ!



「いろいろと規格外ですね……」



「まぁ色々大変だったけどね…」



アホみたいに長い年月をかけて修行したからなぁ…




「他になにか聞いておきたいことはあるか?」



「今のところ特には無いですね…、それとさっきはすみませんでした…」



何故か申し訳なさそうにするミシェル、謝られるようなことされた覚えは無いんだが…



「心が落ち着いてなかったのと、自分が何も出来なかったのが悔しくて…少し口がきつくなってしまいました……」



え、わざわざそんなことまで謝るのか…中々に良い人間性を持っているな!



「いや~全然気にしなくていいよ、俺の殺気のせいでもあるし…」



あと何もできないのが普通なんだけどね、天使は一番弱いものでも人間の世界最強を上回る存在ですから。



「それと拓也さん…あの天使?いつから居たんですか?」



「俺がミシェルの手を引いたじゃん?あの時現れた」



「そうなんですか…全然気づきませんでした…」



だからそれが当たり前なんだって!!



「大丈夫だって、俺だって昔は天使にボコボコにされてたから!」



主にセラフィムに。なんかあいつは俺をボロ雑巾にするのを楽しんでた様な気がするんだが…



「それに人間は努力次第で神をも超える力を手に入れられるんだぜ?ってじっちゃんが言ってた!」



謎のグッドサインと共にそう言う拓也



まぁそんな力を手に入れるには寿命を超越するという神の強力が必要不可欠になるわけだが…



「そうですよね!私も拓也さんみたいになれるように頑張ります!」



拓也の励ましによっていつもの調子に戻ったミシェル。



「俺も教えられることは教えるから一緒に頑張ろう」



「はい!それと今日拓也さんが買ってきてくれたケーキ、一緒に食べませんか?」



「あ、食べるー」



こんな感じで今日も一日が終わっていくのであった……


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