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神様のお使い  作者: 泡沫にゃんこ
第一部
15/52

日常と非日常は案外区別がつかない

「……ミシェル…」



時刻は朝の8時ちょっと過ぎ。


ミシェルにとってはいつものように、拓也にとっては一週間ぶり。


通学路を歩いていた時だった。


ジェシカの家の付近を通り過ぎた所で拓也がおもむろに口を開き、ミシェルの名を呼ぶ。



「なんですか?」



「昨日は…その……ありがとな」



「………急にどうしたんですか?」



拓也らしからぬちょっと照れたような表情に、ミシェルは思わず何か妙な物でも見るような眼差しを向けた。


彼はそう言うと恥ずかしそうに頭をかきながら、ミシェルに目を合わせる。




「ミシェルの一喝が無かったら俺多分まだ立ち直れてなかったと思う。


本当に感謝してるんだ。ありがとう」



「い、いえ…!別に私はそれだけしかしてませんし………。


それよりもう大丈夫なんですか?その……精神状態とか」



「一晩じっくり考えたんだけど、やっぱり俺の中では命を奪うことは罪だ。こんなモノも結局人間が考えた概念なのかもしれないけど、多分この考えはこれからも揺るがない。


でも俺はそれを背負って生きていくって決めた。贖罪なんて綺麗な物じゃない。



ていうか贖罪なんて自己満足だよね。自分が勝手にやらかした罪を今度は勝手に善行積んではい償ってます。おかしくない?」



「途中から話が変わってますよ」



「あ、…すまんな」




ミシェルに指摘されることによってようやく拓也の熱弁が止まる。


久しぶりのその感覚に、ミシェルも2割増しで微笑んでいる。




「えっと…そうだそうだ。


んでさっき言った通り俺は命を奪う事は罪だと思ってる。殺された方からしてみれば今後の全てを奪われる訳だからな。


だが敵対する神を殺すことに関しては殺すという罪と同時にミシェルを生かすという正義。


あいつらにとっては自分たち弱き神の地位を脅かすミシェルを殺すことは正義なんだ。


難しいよな~」



沢山喋って疲れたのか、最後の語尾を伸ばしながら欠伸をした拓也。


唐突にそんなこと言い始めた拓也に少しの不安を感じたミシェル。


拓也の顔を覗き見るが、そこにはいつもと何らぬ拓也のフツメン。



「俺はきっとこれからも護るために殺し続ける。そしてそれは多分神だけじゃない。


俺の大切な人たちの命を脅かす者はすべて排除する」



「その中に私は入っていますか?」



「当たり前だろ、最優先に入ってるさ」



冗談めかしてそう微笑むミシェルに、拓也も微笑んでそう言い返す。


話している間も絶え間なく足を進め、遂に学園が見えてきた。



だんだんと人通りが増え、周りにも学園の生徒が数名いる。



拓也はミシェルにほんの少し近づき、声量を落としてミシェルに語る。



「そのために俺は俺の正義を突き通す。何が何でもだ。


奴らの中で俺がどんなに凶悪な悪魔に見えようが構わない。

憎まれようが恨まれようが……俺は全部背負って生きていく。


きっと俺は罪で押し潰されるより大切な存在を失う方がきっと辛い。だから俺はそう決めた。



……悪いな、急にシリアスな話なんてして」



言い切った後、ミシェルが隣で興味深そうに自分の目を食い入ることに見ていることに気が付いたのか、拓也は軽くそう謝罪する。


しばらくリアクションを起こさなかったミシェル。


いつものように優しく微笑むと、ゆっくりと言葉を紡いだ



「私は拓也さんが悪魔になんて見えません。こんなにやさしい人が悪魔なんてわけがありません。


というか一晩中こんなこと考えてたんですか?」



「俺は案外繊細なんだ。デリケートなんだよ」



優しい表情から一点、呆れ笑いをしながらミシェルがそう言う。


拓也は彼女のちょっとした毒舌にまいったといった表情だ。



「それに…」



ミシェルはそう小さく言い、少しばかり頬を赤く染めると拓也には目を合わせずに前を向きながら口を開く。



「そんなに大きいこと拓也さんが一人で背負うことありません。私でよければ手伝わせてください」



拓也が独りぼっちで彼が言う罪に押しつぶされないよう。


ミシェルは彼の精神的な負担を少しでも減らしてあげようとそう提案したのだった。




「…いいのか?別に俺は…………いや、やっぱり頼むわ」



最初はミシェルを気遣いそんなことを言いかけた拓也。


しかし、度々ミシェルに助けられ、更には彼女自身がそれを望んでいることに気が付き、途中で言葉を止め、そう言い直した。



「じゃあとりあえず俺の士気を上げるためにあるものを献上してもらおう」



「嫌です」



「…………ッち」



唐突にそんなことを言い始める拓也。


しかしミシェルは真顔でキッパリと断る。拓也は不満そうに舌打ちを漏らした。



ーパンツを献上してもらおうと思ったのに……ー



口には出さず、一人そう考えていた拓也。


やはりミシェルの勘は当たっていたようだ。



その後も他愛無い会話を続けながら、学園へ入り、教室へ入る。



「あ~!たっくんだ!ひっさしぶり~!」



入って席に着くやいなや元気よく拓也へ近づく赤髪。ジェシカ。



それにつられるようにいつもの顔ぶれが拓也の周りに集まった。



「まったく何にも言わずにどこ行ってたの~?暇だったよ!?」



「あら、随分と見ませんでしたが一体何をしてましたの?」



「なにその俺を弄り倒して遊ぼうっていう魂胆が見え見えな顔……ほんと怖いわぁ」



一週間ぶりのこの感覚に笑みを漏らす拓也。



「まったく…不在の間に仕事が入ったらどうするつもりでしたの?」



「どうだった?友人には会えたのかな?」


「もちろん、土産もあるぜ~」


「え~!やったぁ~!」



手に持っていた紙袋を机の上に置き直し、それぞれに紙で個別に包装された土産を一人一人に手渡した。



「ちょ、ちょっと「いや~それにしても久しぶりに向こうに行ったぜ。やっぱりあの大自然の中で暮らすってのは楽しそうだ」」



次の瞬間拓也の後頭部が何者かに殴打される。


拓也は頭を机に強くぶつけ、ピクリともしない。



「さっきから何故私を無視するのですかッ!」



拓也の背後で涙目でそう喚くように言った金髪の少女。ちなみに今日は只のストレートヘア。


王女メル。



拓也は机に突っ伏したまま気持ち悪い笑い声をあげると首だけを捻ってメルに顔を向ける。



「あ、居たの?全然気づかなかった。相変わらず薄いね」





「あなたは…ッ!いつもそうやって私をッ!!」



「はいはい、落ち着けちゃんとお前の分もあるから」



「そう言う意味じゃないですわッ!!」



やれやれと言った表情で紙袋からメルの分を取り出した拓也。


そんな拓也の態度にメルは更に熱くなって食いつく。



「え?要らないの?」



「…そ、それは………欲しいですわ」



「やっぱコイツ面白いわ」



「ああぁもうッ!!」



珍しく拓也が弄る方に回る事があるのがこのメルとの会話の中だ。


ニヤニヤと笑う拓也に、涙目で歯を食いしばるメル。


それを見て大笑いのジェシカ。と言うかジェシカは基本的に何を見ても大笑いしかしない。



拓也はメルに土産を手渡す。



「それでそれで!?なにか土産話は!?」



「あぁ、それは僕も聞きたい」



「クックック……それでは話してやろう……と思ったが特に話すことも無いわ」



それもそうだ。


拓也が姿を消していたのは友人に会いに行っていたからという訳ではない。ただどこかに引きこもっていただけなのだから。



だからそう適当にはぐらかした。




「ミシェルちゃんも心配してたんだよ~?何でなにも言っておかなかったのさ~」



ニヤニヤし、ミシェルを横目で見ながらジェシカがそう言う。


ミシェルはもう慣れたといった表情だが、やはりまだ頬は赤くなるようだ。



「あぁ、言っておけばよかった…マジで。まさか思いっきり平手打ちされるとは思ってなかったわ……」



「!あれは………」



「アッハッハッ!ミシェルちゃんひっど~い!」




こうしていつもの様な日常が始まって行く。





・・・・・



学園内に、授業の終わりを告げるチャイムが鳴り響く。



「あぁ……もうダメ、お腹空いた~」



「もう三限も終わりましたしあと少しですよ。我慢してください」



「だって朝ご飯食べてないんだもん」



「…知りませんよ」



わざわざ机にまで来てそうぼやくジェシカを苦笑いであしらうミシェル。


彼女もジェシカがただ喋りに来ているということを分かっているので邪険にはしないのだ。



ーほう…ジェシカは朝ご飯を食べないのか…ー



いつもの様な会話を繰り広げる2人。一方隣に座る拓也は寝たふりをしながら会話を傍受しているのだった。



「拓也、盗み聞きは良くないね」



「うぉッ!…なんだアルスか…ビックリさせんな」



ー…ていうかなんでこいつ俺が盗み聞きしてるってわかったの?なに?エスパーなの?-



「ハハハ、何で分かったのかって顔だね」



「…コイツぁヤベェ……アルスさんエスパーすぎて怖い」



「まぁそんなことより君にお客さんだよ」



そう言いながら、教室の入口の方をチラッと見た。


そんな彼の行動に、拓也は少しばかりの意外さを感じながらを発言する。



「は?…いや俺この学園にお前ら以外の友人とかいないんだが?」



「そんなこと知ってるよ、でも実際君に来てる人がいるんだ」



「ちょくちょく俺に毒舌だよねアルス君。そういうとこ尊敬するわ~」



「褒められたととっておくよ」



ーというか呼んでるって誰だよ…ドア付近に誰も居ないし。ー



内心めんどくさいなぁと思いながらも、しぶしぶ席を立ち、アルスに指示された方のドアへ向かった。



しかし廊下には、休み時間ということで人が結構出歩いており、誰が自分よ呼んだ人物か分からない。


声もかけて来ないため、なお判別ができない。



「……戻ろう」



肩透かしを食らったような気分になりながら、教室に戻ろうとしたその時。



「あっ!もしかしてこの人じゃない?」



踵を返しかけていた拓也が振り返ると、そこに居たのは…



「君が鬼灯君?」



「ていうか結構地味~」



ー…なんだこのいかにも『高校デビューしちゃいました~☆(はぁと)』を体現した奴らは……


というか初対面の相手に地味とか失礼極まりないな…ー



「え~、そうだけど何か用?」



「その対応冷た~い!」


「ホントそうだね~!」



めんどくさそうに対応する拓也をからかう様にそう言う1年の女子生徒2名。


ー…って今俺がドライな対応なのはお前らが俺の苦手なタイプだからなんだが……ー



そう。拓也はこのようなタイプが結構苦手なのである。


同じようなタイプでもジェシカはちゃんと礼儀をわきまえているが、このように初対面の相手でも容赦なく相手をバカにするような輩が苦手なのだ。



「そうそう、用事思い出した!なんかあっしの友達にアンタと友達になりたいって子が居るのね!」



「へ~」



笑顔は保ちながらも、 心の中で早く帰ってくんねぇかなと思いながら適当に相槌を打つ。



「その子と友達になってあげてよ!その子結構可愛いからさ!」



ー…ほぅ…悪くない……ー



やはりこの男かなり単純である。



無言で立ち尽くす拓也に、もう一人が詰め寄り口を開く。



「あたし達Aクラスに居るから気が向いたら足運んでみてよ!」


「っていうか来なかったらあっしたちが連れてくから!」



いよいよ喋らなくなってきた拓也。


そこに救世主のように授業開始の合図のチャイムが鳴り響いた。


周りをよく見れば廊下は既に人通りはほぼ無い。



「…早く戻った方がいいよ、授業が始まる」



「そーだね!じゃあまたあとで~!」



拓也はそう言い、二人が背を向けたのを確認すると、教室へ戻った。



ー…なんかしらんが厄介なのに絡まれた……ー



・・・・・



放課後。


学園での日程が終了し、席から立ち上がり鞄を手に取る拓也。


隣の席のミシェルもそれに合わせて立ち上がった。



そこに赤髪の元気っ娘、ジェシカが駈けてくる。



「帰ろ~!」



元気よくそう言うジェシカ。適当に相槌を打ちながらミシェルは立ち上がるが、拓也はため息をついてめんどくさそうに口を開く。



「…すまん、先に帰ってくれ……」



「あれ~?用事?」



「いや…なんて言いますか……後方ドアでアンブッシュしてる2人組にどうやらどこかへ連行されるようで…」



そう言う拓也、ジェシカとミシェルは必然的に視線がそちらへ向く。


後方ドアには拓也が午前に会話した2人組が壁にもたれ掛りながら待っているのが見える。



次の瞬間ジェシカの口角が不気味に吊り上がった。



「へぇ~…たっくんも隅におけないねぇ……両手に華ってやつ?」



からかう様にそう言った。



「ハハハ、生まれてこの方片手にも華なんて持ったことねぇよ」



「…なんかゴメン…」



「謝るな…惨めになる………」



無機質な声でそう言った拓也に、素直に謝るジェシカ。


そんな彼女の素直さを内心で讃頌しながら踵を返し待っている二人の所へ向かった。



「へぇ~、鬼灯君あの二人のどっちかと付き合ってるの?いつも一緒に居るし」



ー…え?なに?俺っていつもこいつらに観察されてたの?全然気づかなかったわ…ー



「二人とは友人だ」



とりあえず変な噂が出回るのも良くないので否定する拓也。


そのまま二人が先導する後をつけて行く。



階段を降り、靴に履き替え、中庭の方へ歩いてゆく。


女子生徒二人は他愛もない会話をしながら拓也に話を振ったりする。


拓也は拓也で適当に返しながら目的地に到着した。




そこは中庭の休憩所。


外枠の内側に円形のベンチが取り付けられ、中央にテーブルがある。



まず拓也の視線が向いたのはベンチに座る少女。


背後からなので表情は分からないが、髪型は茶髪のセミロングだ。



「セリー!連れてきたよ~!」



その声に反応して振り向くセリーと呼ばれた少女。



「は……は、はぁはじめましゅて!」



「…………は、初めまして」




いきなり舌を噛んで悶えている目の前の少女に驚きたじろきながらそう返した拓也。


その一瞬の間に、女子生徒二人はいつの間にか姿を消していた。



「と、とりあえず座ってください!」



口に手を当てて自分の対面の席へ拓也を招くセリー。


拓也は誘われるがままそこへ座った。



「………」



「(…?…??)」



お互いが黙り込み、拓也は何故呼ばれたのかが分からずに頭の仲が疑問符で埋め尽くされる。



「ご趣味はッ!?」



「待て待て、なんだそのお見合いみたいな質問は」



彼女のその場違いな質問の仕方に思わずツッコんでしまった拓也。


内心少々の後悔をしていると、目の前のセリーは意外な物を見るような目で拓也を見始めた。



「なに?そんな目で見ても飴ちゃんくらいしかやらんぞ」



そう言いながら鞄から大量の飴を取り出し、セリーへ手渡す拓也。


傍から見ればただの大阪のおばちゃんである。



拓也の一連の行動をじっと見ていたセリー。いい加減拓也も何らかのリアクションを欲しがっていたその時だった。


唐突にセリーが笑い出した。



ー…何この子情緒不安定なの?ヤダ怖い…ー



そんな失礼なことを考えている拓也。



「す…ッすみません!いきなり笑い出して……」



「大丈夫大丈夫、それより丁寧語なんて使わなくていいぜ~。堅苦しいしから」



「…そ、そうですか…じゃあそう…するね?」



ー…何この子小動物みたい…ー



「知ってると思うが俺は鬼灯拓也。悪いけど俺はアンタと初対面だし、とりあえず名前教えて貰ってもいい?」



先程の女子生徒とのやり取りで彼女の名前は分かっていたが、やはり彼なりの礼儀というものがあるのだろう。


拓也はそう質問し、深々とベンチに座りなおした。



「あ、そう言えば名乗ってなかったね…


私はセリー。セリー=ランス。よろしくね」



拓也の中で何か引っかかるものがある。


それは…そう。彼女の名前。



「鬼灯君って面白いね。さっきはなんだか怖かったんだけど…」



ー……ランス?どこかで聞いたファミリーネームだな…


それにこの茶髪……あれ?………それにファーストネームの方の響きがどこかで聞いたような……ー



拓也の中で、情報のパズルが徐々に埋まって行き、そして、それは瞬く間にほぼ完成へと近づいた。



そして拓也は最後のピースのカギを口に出し、尋ねる。



「つ、つかぬ事をお伺いしますがもしかして妹とか居たりします?」



「妹はいないね…でもお姉ちゃんならいるよ」



いきなり青くなり、変な汗を掻き始めた拓也。


そんな彼の態度の変化に、少々怖がりながら、セリーはそう返した。



「………お姉さんの名前って聞いてもいいかな?」



「リリーです」



「そんな……そんなことが……………」



「も、もしかしてお姉ちゃんと知り合いだった?」



ー……いや…ありえない……あの幼女とこの小動物系女子が姉妹!?


ありえない…いや、あってはならないッ!というかあいつは突然変異でも起こしてんの!?


…待てッ!待て俺ッ!!もしかしたら偶然!そう!偶然同姓同名ということもあるかもしれない!-



天才的な拓也の脳が導き出したその結論。しかしほぼその考えは現実逃避である。


これ以上考えても仕方がない。そう考えた拓也は、やむなく本人に確認することにした。




「リリーさんって……もしかして……ほんっとうにもしかしてだけど外見って………幼女?


それでギルドで受付嬢だったり…?」



「や…やっぱりお知り合いなんですね!」



そう終止符を打つセリー。やはり拓也の知るリリーと彼女の姉は同一人物だったようだ。



ー…あぁ神よ、なぜ姉妹なのにもかかわらず彼女らはここまで対極な性格をしているのでしょう…








おい答えろじーさん…ー



「まぁ知り合いというか……良きライバル…的な?」


「ら、ライバル…?」


「…目があったらとりあえず戦闘開始…的な?」


「そ、それってどんな関係なの?」



ー…ヤバい…最近ギルド行ってないし今度行ったら前回の右足切断目的トラップより悪質なのが待ってそうだ…ー



彼女もそろそろ、ギルドに行く度致命傷を与えられる拓也の気持ちにもなってあげて欲しいものだ





「俺は仲が悪いとは思っていないな~……まぁあいつがどう思ってるかなんて知らんがね」



「…鬼灯君みたいな人ってお姉ちゃんは嫌いじゃないと思うよ」



ー嫌われてないなら何故行く度に俺は死ぬ思いをするのだろうか……


なるほどな、アイツなりの照れ隠しという奴か!納得。-



勝手に自己完結し、今度更に煽ることを心に誓った拓也。


不意に立ち上がり、近くの茂みへ向けて足を運ぶ。



その様子を不思議そうに見つめるセリー。


拓也はそんな視線を背に受けながら、歩み寄った茂みを少し手でかき分け、後ろを覗いた。



「さて……何してんのお前ら」



「あ、アハハ~ばれちゃったか~」



「これは……なんというか…」



そこに居たのはジェシカとミシェル。


きっと拓也とセリーの会話を盗み聞きしていたのだろう。



ー…ジェシカはともかくミシェルまで……なにやってんだ…ー



「あのなぁ……………まぁいいか」



「やったー許された!折角盗み聞きしてたのに面白い話じゃなかったねミシェル~」



めんどくさそうに頭をかく拓也に向かって、ジェシカがそうはしゃぐ。



「最早清々しいな…それではミシェルさん。言い訳をどうぞ」



「…ごめんなさい」



「素晴らしい。どこかの赤髪のおバカと違って素直に謝罪するその態度。賞賛に値します」



「たっくんごめんね!」



「はい許した」



流れ作業のようなスムーズに進んでゆく会話に一人置き去りにされたセリー。


どうすればいいのか分からない彼女はとりあえず小動物のようにプルプルと震えていた。


そんな彼女に、ミシェルが珍しく自分から話しかける。



「私はミシェル。ミシェル=ヴァロアです。盗み聞きをしていてすみません。聞いて居た所によるとリリーさんの妹なんですね、お姉さんにはいつもお世話になってます」



微笑みながらそう名乗り、自ら握手を求めるミシェル。


セリーは戸惑いながらもそれに応じた。







「フレンドリーなミシェルとか珍しいな、いつもなら顔面にレーザーぶっ放してるはずなのに」



「…そのことはいい加減忘れてください……」



「はいは~い!私ジェシカ!ジェシカ=ミルシーだよ~!気軽にジェシカって呼んでね!」



二人の会話を遮る様にジェシカが自己紹介をする。


ジェシカも勢いよくセリーと握手し、満面の笑顔を彼女へ向けた



セリーが唐突に拓也に話しかける。



「鬼灯君は友達が沢山居るんだね」



「いっぱいも居ねぇな…学園の友達を数えたら片手で足りるぜ~」



「でもいい友達だね、ちょっと羨ましいな」



「…」



拓也はその時、彼女がほんの一瞬だけ零した悲しそうな表情を見逃いしてはいなかった。



・・・・・



あの後ミシェルとジェシカも交えた談笑していた。


日もそろそろ落ち始めるということで解散し、拓也は現在いつものように下校中である。



その中でミシェルとジェシカの2人がいつもの様な他愛もない会話をしながら前を行く。


考え事をしているかのような面持ちで後ろに続く拓也が、唐突に口を開く。



「悪いミシェル。明日も一人で帰っててくれるか?」



「別にいいですけど……何か用事ですか?」



ジェシカにはわからないが、そのとき拓也ははっきりとわかった。


何か用事と聞くミシェル。その言葉の真意は、隠し事をしてないかと言う意味で言っていると。



「ちょっと調べたいことがある」



その場ではそれだけいい、ミシェルには目で合図しておく。


ジェシカはジェシカでニヤニヤし始め、ミシェルを肘で突き始めた。



「ミシェルちゃん……これは浮気ってやつだよ!女の勘がそう言ってるよ!」



「………面白い冗談ですね」



「ヤダ―ミシェルちゃんったら~。じゃあまた明日ね~!」



立ち止まって手を振ってくるジェシカに、二人は手を振り替えし、離れて行く。



「それで説明してくれるんですか?」



ジェシカが見えなくなってきたところで、ミシェルがそう口を開いた。


拓也は頭の回転は止めずに、前を見たまま返答をする。



「…まだ確定したわけじゃないから不確かなことは言えん。でも助けが必要になったら助けてもらってもいいか?」



「……分かりました」



ー…とりあえず今夜あたり王に会いに行くか……ー



・・・・・



「それで鬼灯君を始めてみたのは魔闘大会なんだ~」



「なるほど、この私の圧倒的な強さに見入ってしまったようだね」



「うんそうなの!すっごい強いなぁって思った」



「あ、ゴメン…今のはツッコんでくれないと恥ずかしい…」




昨日と同じように、同じ場所で今日もセリーと話している拓也。


ジェシカとミシェルには先に変えてもらい、拓也が昨日睨んだ事が正しいのか。


それを知るために情報を集めているのだ。



「それで話してみたいって思ったんだ~」



意外なことに、セリーは慣れた相手にだと結構フレンドリーに話を振ってくるようだ。


拓也は思考を止めず、適当に頷き相槌を打つ



「おっとすまない、ちょっと用事があるから今日はこれで失礼するわ」



「そっか…、じゃあまた明日」



微笑みながら手を振るセリー。


拓也はベンチから立ち上がり、校舎の影へと姿を消した。



しかし拓也はその影から立ち去らず、自らの気配を完璧に殺し、壁に張り付くようにして身を隠した。



ー…素人が俺の探知能力から逃れるなんて無理なんだよ!-



内心で滑稽だと言わんばかりに大笑いしている拓也。


それに呼ばれたかのように影から二人の生とが姿を現した。



「セリー!どうだった?今日こそ行けた!?」



「あっしらがお膳立てしてるんだし大丈夫だよね?結構楽しそうに話してたし!」



何やら楽しそうにそう尋ねる二人組の女子生徒。


そう、拓也を連行した二人だ



「えっと…その……まだ。………それにできればお友達になりたい…だけ…だし」



セリーは最後には消え入りそうな声でそう言い、俯いた



するとどうしたことだろう。先程まで笑顔だった二人は顔を明らかにしかめた



「ちょっと…それはないわ……アンタが鬼灯が気になるって言うから連れてきてあげたのに…」



あっしさんがそう悪態をつき、あからさまに嫌な態度をとり始めた。


連れの生徒も同じようにふるまう



「そうだよ、さっさと告りなよ。セリー可愛いしきっと大丈夫だって」



ー…セリーのあの感じからして…恐らくあの二人とはそこまで親しくはない…


それならば出て行って援護してやりたいが……駄目だな


今当事者二人が揃えばセリーちゃん多分パニックになるし、あいつらが無理矢理そういう方向に持って行かないとも限らない…ー






とりあえず待ちだな。そう内心で続けた拓也は、自身が言った通りそのまま気配を消して見守る。



が、それ以上は特に会話も無く終わった。


二人が立ち去った後も、セリーはベンチに座りながら俯いていた。


そのまま情報整理のために帰宅しようとした拓也だが、彼女のそんな辛そうな背を少しの間眺めると…



「ヤバい忘れ物した~」



「あ、………鬼灯君…」



そんな取って付けたような理由を言いながら、セリーの座るベンチの対面へ行き、何かを拾う動作をした。



この手段は拓也にしては珍しく合理的ではない方法だ。いま彼女のもとへ行ったところで出来ることなど何もない。


それなのにあえてこの手段を選んだ理由には、やはり彼の人間性がかかわってくるのだろう。



「鬼灯君………」



「ん~?」



セリーに見えないように、ゲートから取り出したダンベルを鞄の中へしまい、鞄を閉める手に視線を落としながら返事をした。



「私…鬼灯君が好き……」



刹那、拓也の動きが止まる。



しかし止まったのは動作のみ。


思考は止まってはいなかった。



ー…最悪の状況だ……こうなることは可能性に含まれてたはずなのに何故わざわざ戻って来ちまったんだ………クソ…。


ってそんなこと考えてる場合じゃない…打開策を……-



この状況を抜け出す案を模索し始めた拓也。


硬直し、俯いたままのセリーは、その場からピクリとも動こうとはしなかった。



「……悪いな、さっき実は盗み聞きしてた。すまない」



「…」



「セリー。アンタは俺と友達になりたい。それであってる?」



「…………うん」



「まぁだいたい話の流れは読めたけど…詳しく聞かせてもらっていい?言える範囲でいいからさ」




拓也のそのお願いに、ゆっくりと頷いたセリー。


申し訳無さそうにポツリポツリと話して行く。


拓也は真剣に、その言葉の中に含まれる情報を全て絞り出すべく彼女の話に聞き入っていた。



セリーが話した内容は、大まかにまとめるとこうだ。



・魔闘大会の決勝、拓也対メイヴィス戦を見に来ていたセリー。そこで隣の席だったあの二人組に話しかけられ、少し仲良くなる。


・勝利した拓也。セリーは彼を見ながら『かっこいいなぁ』的なことを言ってしまう


・隣でそれを聞いていた2人。後は彼女の気の弱い性格も相まってあれよあれよの内に現在に至った



「ごめんね…私がはっきりと断らなかったせいで……」



「確かにそうだな。でも今謝ってくれたし許す」



「え、…そんな簡単に…」



あっけからんに許すといった拓也。


彼としては彼女のその謝罪に、裏が無く、心の底から謝罪していることが分かったので許したのだ。


これが表面上の謝罪ならば結果はまた違っていたのだろう。



「一番とばっちりくらってる俺が許すって言ってるんだからいいの。大人しく許されておけ」



ビシッと指を指し、上から目線で半笑いの拓也。


そしてセリーの顔にようやく笑顔が戻る。



「………鬼灯君ってこういう時も変わんないよね」



「そう、俺は俺だ。


ということでセリーはどうしたい?」



「あの…どうしたいって…」



拓也の質問に対して、よくわからないのか疑問符を浮かべるセリー。


拓也は人差し指を立て、不気味に微笑む。



「選択肢としては大きく2つ。


一つあの二人組との交友を深める。


この場合俺との交友は恐らく無くなると言ってもいい」



「ど、どうして?」



「簡単さ、あの手の連中は友達がある男に振られた~。となるとそれの報復でその男はきっと後ろ指さされまくるだろう、酷い場合イジメ。美しい仲間意識ですねー。


そしてそんな俺に向こうのコミュニティのセリーちゃんが関われば…わかるよな?」



「あ!わかった」



「それは良かった」




拓也はそのまま人差し指に続き、中指も伸ばす。



「そして二つ目。あいつらとの関係を断って俺たちと友人になる。


さっき俺と友達になりたいって言ってくれたが、この場合あの二人との交友は無くなる」



「二つ目がいい!」



拓也がそう言い切るか言い切らないか。


すぐさまセリーはそう答えた。



「即答かいな…。よし決まりだ。とりあえず告白したよ~とあいつらに伝えてきな」



「?…どうして?そんなことしたら鬼灯君が後ろ指さされるんじゃ…」



「なぁに、これは俺個人の仕返し……ちょっと人の恋路に足を突っ込みすぎるとどうなるのか身をもって知ってもらおうと思って……悪いがちょっと利用させてもらうぜ…セリーちゃん」



物凄くダークな笑みを浮かべ、セリーですら軽く引くほどに口角を釣り上げている拓也。


セリはー言葉にならない声を喉の奥に押し込めたまま頷いた。



・・・・・



「酷いッ!靴の中に五寸釘が!」



次の日の帰り際。


拓也が自分の靴の中から、先の尖った鉄製の釘を取り出し、吹きだすのを堪えながらミシェルとジェシカに見せた。



ー…ヤッベェ…こんなのどうやったら足の裏に刺さるんだよ…。


って見てる見てる…バレバレダヨー。ー



背後に感じる視線。間違いなくあっしさんのものだ。



またもや吹きだしかける拓也。


しかしミシェルの眉間にしわが寄ったことで、そちらへと集中する。



「……誰ですかね…こんなくだらないことをするのは」



「ん~、まぁ一…二人しかいないだろ。事情は話した通り、後は俺の復讐が完了したらセリーちゃんをこちら側へ迎え入れる。その時は頼むぞ二人とも」



拓也は靴から取り出した五寸釘で外れかけていた学年プレートを打ち付け直しながら、二人にだけ聞こえる様にそう言った。



「分かってますけど……大丈夫ですか?これってイジメですよね?」



「心配するなミシェル。俺はイジメられても興奮するタイプだから問題ない。いや、むしろありがたい」



「何言ってるんですか…」



口では拓也に悪態をついているミシェルだが、いつもの様なキレがない。


彼女なりに心配しているのだろう。





~翌日~



「教科書類が無い…だと?」



拓也は自分の机の前で両膝を着いた。


隣の席のミシェルは、表情は読みにくいが、明らかに怒りをあらわにした顔をしている。



「……どうするんですか?」



しかし妙な薄ら笑いを張り付けている拓也。


そんな彼にミシェルがそう尋ねる。



「まぁ既に捨てた場所なんて分かってるんですけどね!」



拓也は楽しそうにそう言い残すと教室を後にする。



足を運ぶ先は食堂と隣にある倉庫の間にできた狭い路地のような場所。



「さてさて私の教科書は……おや?どうやら先客が居たようだ…」



何かを感じ取った拓也は、倉庫の壁に身を隠す。


そのまま、首だけをそっと壁から出し、先の様子を覗き見た。



「おやおや、穏やかじゃありませんねぇ……」



拓也の視線の先には男子生徒が4人。


そのうちの3人は体格も良く、どことなくやんちゃ雰囲気をまとっている。


そしてその3人に囲まれている一人の男子生徒。


体格は一般的だが、ビクビクして怯えたようなその立ち振る舞いからか、拓也の瞳には実物よりだいぶ小さく映った。



「おら、とっとと出せ」



「そうだぞ~、まだ死にたくないだろ?」



「………」



「ッう゛!…ハァ…ハァ……」



二人が男子生徒の自由を奪い、淡々とそう言いつけた。


しかしこれに首を横に振った男子生徒。


すると残りの一人が無言で彼の鳩尾に拳をねじ込んだ。



ー…うわぁ…痛そう…ー



そんな呑気なことを考えながら、拓也は路地へと足を踏み出す。


当然気づかれ、今暴力を振るったデカい生徒が拓也へ振り向いた。



「………誰だお前?」



威圧するように拓也にそう言うデカい生徒。しかし拓也はそれに見向きもせずに、するりとそのまま通り過ぎた。


残りの2人も善良そうな男子生徒を投げ捨て、拓也へと振り返る。


しかしこの二人もまた、するりと通り抜ける。



「あ、あったあった。これだ」



そしてある地点で足を止めると、そこに落ちていた何かを拾い集め始める。



「こ~ら、もう勝手にどっかいっちゃダメだぞ?」



全てを拾い上げたらしく、立ち上がる拓也。


振り返ったことで拾っていたものが明らかになった。




そう、教科書である。



そのまま来た道を引き返えそうとした拓也。



しかし今度は3人同時に道を塞ぐ。



それをすり抜けようと考えた拓也だが、3人のがたいがあまりに良い生か隙間があまりになく、めんどくさくなり諦めた。



「おい、どこ行くんや」



「…何処って…教室ですけど。ていうか何で俺が止められてるんですかね?」



「そんなもんお前が見たからに決まってんだろ」



-…なんだこいつらめんどくせぇ…ー



早く教室に戻らないとホームルームが始まってしまう。


そう考え、いっそのこと強行突破をしようと思った拓也。


しかし、そんなことをして変に目を付けられても困るという結論に至り、その案は廃止する。



「おいどうすんだ?コイツもやっちまうか~?」



隣に居るもう一人がそう言うが、先程善良そうな生徒を殴った男が首を横に振り、そう発言した男の肩に手を置いた。



「止めておこう。そんなことより俺たちは君にお願いしたい、今ここで見たことを誰にも言わないでほしい」



その発言の仕方に、拓也はニヤリと笑みを浮かべた。


ー…口では下から言っている癖に随分と是非を問わないような言い方だこと……


にしてもコイツが3人の中でいろんな意味で一番厄介かも…ー



そこまで聞いて、拓也はおどける様に手をヒラヒラと振りながら口を開く。



「ただ教科書拾いに来ただけだけど、見ちゃったしなぁ……


俺は弱い者いじめも嫌いだし、理不尽な暴力なんて大嫌いだ。




という訳でその要求は呑めんな」



「…そうか、残念だ」



それだけ言うと、その男は拳を握り込む。



…しかしそれに対して棒立ちの拓也。


その時拓也の目はその男を見てはいなかった。



「テメェが早く出さないから面倒なことになっただろうが!死ねッ!」



「ヒィッ!」



隣の男。先程拓也に話しかけていた人物が、いきなり拓也の斜め後ろに居る男子生徒に前蹴りを放った。


突然のその攻撃に、小さく縮こまる様に身を固めた善良そうな生徒。



「ッうぉッ!?」



しかしその男の攻撃は彼には届かなかった。



「やれやれ、血の気多すぎだよ、高血圧じゃない?塩分控えた方がいいよ?」



攻撃を私用とした男の足を拓也が掴んでいたのだ。


拓也は足を握っている手を軽く捻る



「ッ!?」



すると面白いように男が空中で一回転し、身体の前面から地面に叩きつけられた。





「………ッチ」


「おぉっと」



仲間がやられたのを見て、拳を握っていた男が拓也へ向かってその拳を思い切り突き出す。


が、拓也はそれすらも片手で軽く受け止めた。



「危ないねぇ…」



両手で大の男二人の動きを封じた拓也。


3人目が来るかと考え、残った一人に目を合わせる。



「お、おい…コイツもしかして……魔闘大会で優勝したチームの大将じゃないか…?」



態度が急に様変わりし、怯える様にそう仲間に言った男。


仲間も顔を見合わせ、徐々に顔に緊張が浮かび始めた。



「マジかよ……それじゃああのメイヴィスより強いってことか?」



「あぁ…大将戦で倒したみたいだぜ……」



仲間内で話始め、一度全員でふりかえり拓也を見る。


すると話し合いの結果だろうか?



そのまま何も言わずに立ち去っていった。



「ふぅ…とんだ災難だったぜ」



鼻で笑う様にそう言いながら、足を前に出した拓也。


しかしそんな彼に、背後から声がかかる。



「ま、まってよ!」



先程の善良そうな男子生徒だ。


拓也はめんどくさそうに振り返り、表情で『なに?』と訴えかける。



すると、男子生徒は少し迷った後、少し怒るような声色で口を開く



「何で助けたのさ!おかげで………これからはきっといつも以上にイジメられる…」



「はい?… いや別に助けたつもりは微塵もないんだけど……自意識過剰?つーか髪なんて染めてるからイジメられんだよ!」



彼のダークブラウンの髪を指差しながら、なぜか怒ったようにそう言う拓也。


予想外の対応に怯んだ男子生徒。ポカーンとして、黙り込む。



「というか俺は女の子以外は助けません。例え目の前でおぼれていようともそれが野郎なら断じて助けない。


思い上がるでないぞ若造」



「じゃあ……じゃあ人目のつかないこんなところにわざわざ来たのさ……」



男子生徒のその問いに、拓也は手に持った教科書を見せながら発言する



「これ拾いに来ただけ」



なぜこんなところに教科書を拾いに来るのか?


そんな疑問が一瞬男子生徒の脳内に浮かんだ。


それもそうだろう。普通に生活していて、こんなところに教科書なんて置いていかない。



「…?……?」



置いてけぼりの男子生徒に、拓也が仕方なく説明するべく口を開いた。



「似た者同士だな」




拓也のその言葉に含まれていた意味を理解した男子生徒。


恐る恐る口を開く。



「まさか……君もイジメられてるの…?」



拓也は考えるような仕草をしながら、男子生徒の方へ完全に向きなおる。


「あぁ、イジメられている。だがお前と決定的に違うことは相手が女の子たちということだ。


そう、考え方を変えればそう言うプレイという風にもとれる。興奮するよね」



そこまで聞いていた男子生徒。彼の中に新たな疑問が浮かび上がった。



「でもなんで君みたいなスーパースターがイジメられるんだい?


魔闘大会で物凄い活躍して学園の有名人なのにさ」



「あ、やっぱりそういう扱いなの!?ヤバい超照れる……もしかして既にファンクラブとかあったりして……」



そこでようやく彼は悟った。


鬼灯拓也という人物がただの変人ということに…



後ついでに言っておくと拓也のファンクラブなど存在してはいない。

ただの本人の願望と妄想である。



「それで?アンタは見たところ野郎にイジメられてるみたいだな、可哀想に。


俺だったらとっくに伝説のいい男に献上してるけど……アンタは現状で満足?」



特に反応されなかったため、拓也は話題を元に戻し彼にそう尋ねた。


拓也の何か含みのある言い方に、彼は一度喉を鳴らし、力強く答える



「そんなわけ………ないだろ…」


「ですよねー、じゃあ頑張って~」



会話の流れからして何らかの形で助力してくれるのかと思っていた男子生徒。


しかしそんな淡い期待を打ち砕くが如く拓也はその言葉を聞いて、そう言い残してこの場から去ろうと踵を返した。



「……え」



そんな意味不明な拓也の行動に、何の意味も無いそんな音が男子生徒の口から漏れ出した。


そうこうしているうちに、拓也の姿は完全に見えなくなり、彼一人がその場に取り残されるのだった。




・・・・・



そのまま時間は流れ、放課後。


偶然にも拓也に助けられるような形で危機を脱した男子生徒は、机から立ち上がりながら深いため息を吐いた。



「…ハァ~……。どうしよう、このままじゃアイツらになにされるかわかったもんじゃないよ……


それもこれも彼があんな余計なことをするからだ…」



拓也に向けられた理不尽な感情。


あれは拓也が巻き込まれただけなのだが、そんなことを思い出している余裕など今の彼には無かった。



「……どうしよう…もうお金もあまり残ってない…」



またもや深いため息を吐き、机に両手をついてうなだれる。


しかしそんなことをしていてもしょうがない。


机の中の教科書類を入れるため、鞄を開けた。



「……?」



ヒラリと彼の足元に落ちる一枚のはがきのような長方形の厚紙。


こんなもの入っていたっけ?と首を傾げ、とりあえずそれを拾い上げる。


拾った紙の裏表を確認した彼は、裏面に何やら文字が書いてあるのを発見した。



『放課後、屋上にて待つ。


来なかったら明日から貴様の鞄の中をたっぷりのシュークリームで満たす






PS:シュークリームはパイ生地です』



「(うわぁ…なんだこれ)」



それは差出人不明で意味不明なメッセージだった。



・・・・・



「……ミシェル、今日はこの五寸釘何に使おうかな?」



「さぁ…物置小屋の補強にでも使えばどうです?」



「クックック…君にしては中々の案だ」



案の定拓也の靴の中に今日も入っていた五寸釘。


ミシェルを煽る様にそう言うが、ミシェルも流石に慣れてきている。ここで完璧な無視を決めた。


拓也は彼女の対応に、気持ち悪く体を捩って喜んだ後、それをポケットにしまい、物置小屋の補強のをしてもらうために用務員のおじさんに渡すことにした。



ー…ほう…まぁ予想通りかな…ー



その時、一瞬拓也の瞼がいつもより少しだけ大きく開く。


何かに気が付いたのだろうか?とミシェルも察した。



「そういう訳でミシェル今日は先帰っててくれ」



「どういう訳ですか……まぁ理由は聞きませんけど」



「聞いてもいいのよ?」



「遠慮します」





そんなやり取りを何度か続けた後、拓也は踵を返し階段へ向かい足を進めた。


ミシェルはその背を見送り、それと同時に登場したジェシカと共に帰路に着く。


・・・・・



「………遅いなぁ…」



屋上で一人立ち尽くす平凡な男子生徒。


謎の手紙を受け取り、仕方なくここで待っているわけだが、一向に何も起きる気配はない。


ただの悪戯ではないだろうかと考え始めたその時、



不意に屋上の扉が開いた。



「すまんな、明日お前の鞄に詰める用のシュークリームを買いに行ってたらこんな時間になっちゃった」



そこから現れたのは、黒髪黒目の平凡な男子生徒。拓也だった。



「…君だったのか…こんな意味不明な物を俺の鞄に入れたのは」



男子生徒は拓也が入れたであろうメッセージの書かれた紙を拓也に見える様にしながらそう言う。


しかし拓也は首を傾げて素っ頓狂に返答する



「意味不明?理解してるからここに来たんじゃないのか?」


「……もういいよ」



そんな拓也の屁理屈に、諦めたようにそう言った彼は、そのまま拓也に質問をする。



「それで僕に何の用なんだい?わざわざこんなところに呼び出して」



その質問に、拓也は不気味なまでの笑みを張り付け少しの間黙っていると、


しばらくしてから目を合わせ、ようやく口を開く



「アンタが助けてほしそうな顔をしてたから…かな」



含みのある拓也のその言い方。


それに少し馬鹿にされたように感じた男子生徒は、少し顔をしかめて強めの口調で拓也に反論する。



「助けてほしそう?……何で君にそんなことがわかるのさ」



「簡単だ、お前は朝俺の事を変人や奇人、そういった類の人間だと考えていたな?」



疑問形だが、別に何を聞いているわけでもない。


確認の意で使われたその言葉が図星だった彼は頷きもせずただ何故わかったのだろう?と立ち尽くす


拓也はそれを肯定と取り、話を続ける。



「お前の鞄の中に入っていたメッセージ。


あんなものを一般的な思考回路をもってるやつが書くわけがない。そんなことは一般的な思考回路を持ってるお前にはすぐ分かるだろう。


そして次はきっと自分と接点のある中で変人奇人の類の人物を探す」





つらつらとそう述べる拓也。


その言葉は、確かに自身がしたものと同じ思考だった。


驚きの余り声が出ず、口をパクパクさせ金魚のようになっている男子生徒。



「そして恐らく一番最初に頭に浮かんだのは最も最近あった変人。つまり俺だな。


そしてアンタは考えた。


わざわざ呼び出すってことは……もしかしたら助けてくれるんじゃ~?


おまけに俺は強い。それはお前も知ってるはずだ。んでアイツを伸すくらい出来そうと思った。


つまりアンタは俺が助けてくれるかもという淡い希望を頼りにここに来た。違う?」




一言一句違わず、彼が考えていたことは今、拓也に全て言い当てられた。


呼吸が止まったかのような錯覚に陥り、自らの浅ましさと狡さに羞恥を感じ、歯を食いしばる男子生徒。



そんな中、目の前でウザったい笑みを浮かべる拓也は、ボソリと呟く。



「まぁそれも仕事だしいいんだけどね」



「……仕事…?それってどういう意味…」



「こっちの話だ気にすんな」



口に出したことを少し後悔しながら、男子生徒にそう言い返し誤魔化す拓也。


歩みだし、彼の目の前で立ち止まる。



「そう言えば名乗ってなかったな、俺は鬼灯拓也。アンタは?」



彼は恐らく自分の名を知っているだろう。しかしこれは拓也なりの礼儀。自らの名を名乗り、相手にもそう尋ねる。


そんな突拍子もない拓也の行動に、一瞬戸惑った男子生徒。



「び、ビリー!僕はビリー=ラミルス!」



「そうか、よろしくなビリー」



握手を求める拓也に、快く応じたビリー。


挨拶もそこそこに、拓也は更に続ける。





「ビリー、お前が望むのならば手を貸すが…どうする?」



「……情けないことは分かってる………でも僕一人じゃ力不足だよね……」



悔しそうに俯き、そう呟くビリー。



「…助けてください…お願いします」



拓也に頭を下げてそう言った。


ビリーの一連の行動を見守っていた拓也。ニヤリと口角を釣り上げると、ビリーの肩に手を置いた。



「頭なんて下げるな、俺に敬意など必要ない。


ただその心意気は評価する。だが勘違いするな、俺が出来るのはサポートだけだ、どんな手段を使うにしろアイツらと真っ向からやり合うのはお前だ。それだけは肝に銘じておけ」



「…わかってるさ。やってやる……」



「その調子その調子」



肩をポンポンと叩き、屋上の端まで歩き、そこで腰を下ろした拓也。


手招きでビリーにこちらへ来るよう促す。


それを察したビリーは拓也の元へ行き腰を下ろす。



「さて、どうする?お前はアイツらをどうしてやりたい?」



「どうしてやりたいって…………仕返ししてやりたい」



拓也のその質問にそう簡単に答えたビリー。


拓也は少し考えるような仕草をした後、案を出し始める



「今俺が考え付いたのは2つ。まず一つ」



わざわざもったいをつける拓也に、ビリーが身を乗り出して待っている。


しかし拓也の口から放たれた言葉は、なんとも平凡な物だった。



「先生に言いつけちゃおう!」



「…は?」



「おいおい、情けないとか言うなよ?これもれっきとした報復だ」



自分でも何度も考えたその手段。


ビリーは拍子抜けた感じに気が抜けた。



それを見た拓也は、慌ててフォローに入る。



「まってまって、それは方法の一つに過ぎない。もう一つあるんだからね!」



「…その方法って何だい?」



気持ち悪くオネエ言葉でそう言う拓也を完全無視し、そう尋ねるビリー


拓也も一旦切り替え、楽しそうな笑みを浮かべ直した。


まるでさっきの案など前座にすぎないようなもったいの付け方に、またもやビリーは身を乗り出す。



拓也も十分間を開けて、個人的に満足したのだろう。


ゆっくりと口を開く。



「因果応報だ」


・・・・・



「よし、じゃあ行けるな。いいか?ここからはお前次第、俺が手伝ってやれるのはここまでだ」



「あ、…あぁ!付け焼刃だけどこれも僕の武器だ!やってみせるよ!」



翌日の放課後、食堂の裏で打ち合わせをする拓也とビリー。


ビリーの表情は、覚悟で引き締まっておりいい顔をしている。



ー…よし、手筈は整った…。さぁ一体どうなるかねぇ…ー



背中を叩き、グッドサインでビリーを送り出した拓也は、そんなことを考えながら、傍観するべく気配を消し、空へ飛びあがった。



ー……確認…ー



そこであることを確認した後、可視出来ない結界を半径15メートルほどのドーム状に張る。


この結界は物理攻撃を遮断するような類のモノではない。


これは内部で起こった魔力反応、振動、挙句には結界の外から見た場合のみ、術者が特定したモノを見えなくする。


そのような結界である。



「クックック…我ながら素晴らしい…」



拓也がそう呟くと同時に遂にビリーの復讐が始まった。



・・・・・


「わざわざこんなところに呼び出して何の用だ?」



大柄な男子生徒が食堂と倉庫の間の路地に入るやいなや、ビリーを威圧するようにそう切り出した。


思わず少したじろいだビリーだったが、距離がまだ少し空いている事もあってなんとか持ち直す。



「…これから…今まで君たちが僕にやってきたことに対する報復をする」



声は震えているが、確かにビリーはそう言い切った。



それに対し、大柄な男の一人…一番最初に口を開いた男がこめかみにピキリと青筋を浮かべる。



「死にてぇのか?」



「……死にたくないよ、だから抗うんだ」



「テメェ…もういい…ぶっ殺すッ!」



今まで明らかに自分より劣る存在で、冴えなくて、自分たちの言うことに嫌がりながらも忠実だったビリーが反抗してきたことに遂に耐えきられなくなったのだろう。


男はそう叫び自らを鼓舞すると、ビリーに向かって突っ込んだ。


狭い路地、ビリーの背後は壁。退路は無し。



一気に縮まるビリーと男の距離。



次の瞬間、ビリーの姿が男の視界から見て上方向へ移動する。


それに伴い、強い浮遊感が男の体に襲い掛かった。





…彼が選んだ方法、それは因果応報のほうだった。



「…ってぇ……」



拓也たちが事前に準備していた落とし穴に見事にはまった男は、尻から思い切り落とし穴に落下した。


大よそ3,4メートルくらいだろうか?


立ち上がった男はジャンプしながら手を思い切り伸ばすが、手は全く届いていない。



予想外すぎる弱者の反撃に、目を丸くして驚愕の表情で固まるのこっされた二人、


ビリーは間隙開けず、隣に立てかけてあった木材を勢いよく蹴り飛ばす。


それに伴って、木材や結構な大きさの石などが音を立てて落とし穴にはまった男の上に降り注いだ。



「次ッ!!」



立てかけていた木材の後ろに隠してあった鉄製のパイプを手に取り、駆け出すビリー。



「ッヤァ!」



『お前の腕力じゃアイツらを本気でぶん殴っても殺せないから安心してフルスイングしろ』



ビリーの脳内で再生される昨日拓也とした作戦会議の会話。


疾走する勢いのまま、2人のうち、前のほうに居た男の頭部を、拓也の言葉通り鉄パイプで思い切り振り抜いた。


鈍い音と共に糸の切れた操り人形のように地面へ前のめりに倒れこむ男。


これで二人を無力化した。



「よし……作戦通り」



喜んだのも束の間、次の瞬間ビリーの腹部を強烈な衝撃が襲った。



『うまく行けばこれで二人を無力化できる。

だがこの作戦がうまく行ったとしても恐らく…最後の一人とは一対一。ここからは頼れるのは自分だけだ』



「(あぁ……そういえば彼はそう言ってたな…)」



思わず切り離されそうになる意識を何とか繋ぎ止め、歯を食いしばったビリー。


うまく行き過ぎて、拓也が言っていたことをうっかり忘れていた自分を自虐的に笑いながら前を見据える。





「…………お前が…まさかこんなことをするとはな」



ビリーの腹部を抉るように放った拳を開いたり閉じたりしながら、そう声をかけた最後の一人。



ビリーは思わず膝を地に着きかけた。


拓也が最も警戒しろといっていた、3人の中でも比較的落ち着いた人格者のように見える男。


ガムシャラに目の前の敵を排除していたビリー、もちろん一々顔など把握してなど居なかった。


そしてよりによって最後に残ったのがこの男。



「…覚悟は出来てるんだろうな?」



「ヒィッ…」



拳をクラッキングしながら近づく男に、思わず腰が引けたビリー。


彼の血走った目は明らかにいつもとは違っている。


思わず彼の顔から目線が外せなくなったビリーは、体が次第に硬直して行くのを妙に冷静に感じ取っていた。



「(結局いつもと変わらないじゃないか……きっと俺はこのままコイツにボコボコにされて………それで……今回の件も含めてきっと殺される……)」



スローモーションになる視界。流れる景色全てが鮮明に見える。


最早諦めかけたビリー。


次の瞬間心の折れかけた彼の視界の端、路地の入り口にある人物が映った。





その人物は黒髪で、黒い瞳を持ち、口元に妙な薄ら笑いを貼り付け、壁にもたれかかり腕を組んで、首だけを横へ向け彼を見る。


その瞳は、彼の姿をしっかりと見据え、ビリーに何かを問いただす。



『お前の覚悟はその程度か?』



カラカラに乾いた喉。精神的に追い込まれたビリーには、彼がそう言っているように聞こえるのだった。



今自分自身と戦うビリー。昨日出会ったばかりのその男。一見いつもと変わらないように見えたビリーだが、その瞳のなんとも言えない真剣さを感じ取る。




「……変わらないなら…………」




鉄パイプを投げ捨て、眼前の男を見据え両の拳を思い切り握り締める。



一度俯き、随分と早くなった心臓の音を聞くビリー。そうしていると自然に心が落ち着き、次第に心拍も落ち着く。



そしてもう一度顔を上げた。



「変わらないなら」



「ッ!」



その鋭い眼光。男は思わずたじろく。



眼前の敵を睨み付けるビリー。



そして遂に、その静かに闘志に火をつけた



「自分で変えるしかない」



・・・・・



頬を擽るナニカ。


そんな外部からの刺激。しかしまるで重りでも付けられてるかのように身体は思うように動いてくれない


目を開くのすら億劫で、少しのオレンジと大部分を占める黒色を瞼の下から眺める。



「…~!?~~~~」



「~、~~~。」



何人かの話し声らしきものが聞こえてくるが、脳はそれを言葉と認識せず、ただの音として捉えた。



顔を風が吹き抜ける。心地よさと共に、鼻の辺りに激痛が走った。



「痛いッ!!」



「あ、起きた」



上半身を勢いよく跳ね上げ、寝ぼけた目を擦る。


まず視界に入ったのは焦げ茶色のナニカ。ピントが合わないことと、鼻に今だ痛みが走ることから、彼は思い切り自分の鼻の辺りを叩いた。



「おいおい、起きて早々殺生はやめてくれよ。あ、よかった死んでない」



拓也は彼の顔に設置していた立派な顎を持った昆虫を拾い上げ、逃がす。



「一体なんなんだい!?」



意味不明な黒髪フツメン。拓也にそう叫び訴えかけるビリー。


立ち上がろうと体に力を入れる。



「ッ!!?」



しかし、次の瞬間体のあちこちに走る痛み。


ここでビリーはようやく自分のやっていたことを思い出した。



「あぁ……そうだ、僕は確か……」



日が沈みかけていることから考えて、結構時間が経っている。


思い出そうとしても、最後の一人に立ち向かったところから記憶がないことに気がついた。



「……僕は…そうか……」



上半身だけ起こしたまま俯き、小さくそう呟くビリー。


これだけの怪我、考えるまでもない。



「負けた…のか……」



「は?いや何言ってんのお前。覚えてないの?」



拓也のその言い回しに、ビリーは思わず食いついた。



「えッ!?…もしかして…もしかしてッ!」



「いや勝ってもねぇぞ。引き分け。相打ちだ」



「引き…分け………」



小さく一人噛み締めるように俯き、そう呟くビリー。


決して喜べる結果ではないのだろう。



「…僕が……僕が………………やってやったぞ!」



あれだけの強大な敵に対して相打ちに持ち込んだのだ。


彼にしては上出来すぎる戦果だった。



ビリーは噛み締めるように拳を握った





「さて、お前が気づかないから回りの奴らが放置プレイされてるわけだが」



ニヤケ顔をしながらそう言う拓也。


その言葉通り周りを見渡してみれば、数人の生徒が彼に視線を送っていた。



赤髪ショートヘアーの常時笑顔の少女。


黒がかった青髪の比較的長身のイケメン。


明るめな茶髪。どこか小動物を思わせる立ち振る舞いの少女。


綺麗な銀髪で蒼眼のかなりの美少女。




ビリーはそこであることに気がついて声を荒げた。



「す、すごい!アンタ以外に魔闘大会のメンバーが二人も居る!」



「……………ちょっと待ってあげて……ちゃんとよく見て…」



そういう拓也の言葉に従い、辺りを見回すビリー。しかし他に誰も見つからない。


その時だった。



「ヒック……グズ……」



背後から女性のすすり泣く声が聞こえてきた。


慌てて体を捻り、背後へ向く。するとそこには存在感なく一人の少女が泣きながら立っていた。



長い金髪をポニーテールにし、その存在感とは裏腹に随分と成長している二つの魅惑の果実。



いままで気がつかなかったことに妙な罪悪感を感じていたころ、拓也がようやく口を開く。



「やっぱ凄いなステルス王女。自己主張してんのはおっ○いだけですわ~」



「う、うるさいですわ!というかなんです!?セクハラで訴えますわよ!?」



その発言でミシェルがゴミムシを見る目で見ていることに気がついていない拓也。


気がついていないのでダメージはない。だが気づいたところで逆にHPを回復する。


それが拓也だ。



「ということでコイツはハイメルシューラルム=エム=エルサイド。まぁ気軽に駄犬どでも呼ぶといい」



「あなたは私をなんだと思っているのですか!私は王女なのですよ!?無礼だと思わないのですかこの無作法者!」



「おぉこれは失礼、では王女様の身に危険が及ばぬよう、今宵は私があなたの寝室を護衛しましょう。


もちろんベッドのすぐ隣に立って護衛するから何があっても安心で御座いますー」



更なるセクハラによってミシェルから送られる視線が絶対零度に変わるが、拓也は気がついていない。


逆に(ry



拓也のその発言にまたもや食いつき、ギャンギャン吠えるメル。


拓也は無視して話を続けた。



「お前は俺が手を貸そうとしたとき、自分の事を情けないと自虐していたな。


だが俺はお前の戦いを見て微塵もそうは思わなかった。勇敢だったぞ、ビリー」



素直にほめる拓也に、ビリーはちょっと恥ずかしそうにしながら答える。


「でも倒せなかった…中途半端だよ。それに明日からまたあの生活に逆戻りさ…」



「あぁ、その点は心配いらん。下だと思ってたやつにあれだけやられたんだ。アイツらももう簡単にはお前に手を出さない」



悔しがるような感情が含まれた言葉に、拓也はあっけからんとそう返す。



「だが報復が無いとも言えんな…」


「だよね…」



そこまで発言し、ビリーが俯き加減でそう返したのを確認した拓也は、口角を大きく吊り上げた。


不気味なその顔に、周りが引く。



「だから俺が教師陣にある写真たちと共ににかる~いお手紙を添えて送っといてやった……多分今頃職員会議かなぁ」



ケタケタ不気味な笑い声を上げる拓也の口から放たれた言葉に、思わず顔を上げ、なにがなんだかわからないといった表情のビリー。


そこで拓也が補足のために口を開く。



「なぁに…ある生徒が弱いもいじめをしているところをフィルムに収めて提出しただけだ。これでアイツらは……クックック、考えただけで…」



拓也のその言葉の中から、彼のやったことがようやく分かったビリー。


嬉しそうに声を荒げる。


「じゃ、じゃあ…」



「いえ~す!君はこれで自由~。後これはアイツらがお前から巻き上げた品々、返しとくよ」



拓也は斜め後ろに立っていたアルスから、大きめの袋を受け取ると、それをビリーへ手渡す。


ビリーが袋を開けて確認すると、中からは今まで巻き上げられたお金などが出てきた。


「…………どうして…」



「ん?」



再び俯くビリー。次第に小刻みに震え始めた。



「どうして………君は他人だった僕に……こんなことまでしてくれるんだい…」



ポツリポツリと、袋に落ちる水滴。


後ろに居るセリーとメルがどうしたものかと挙動不審になり、ミシェルもそれほどではないが、いつもとは違う焦りが感じられる。ジェシカですら空気を呼んで静かになる。


しかしアルスだけは何の変化も無く、先程同様静かなままだった。


ー…流石アルスさんやでぇ…ー



拓也は、内心アルスに恐ろしいものを感じながらもビリーに対しての言葉を紡ぐ。



「止めろ!男の涙なんて気持ち悪いんだよッ!!」



やはりこの男なかなかのクズ野郎である。



しかし次の瞬間、断罪と言わんばかりに拓也の頬に、何者かの拳がめり込んだ。



「あなたは何を言っているのです!!こういう時にかける言葉ではないでしょう!!」



「ッチ…ステルスおっ○いめ…………揉むぞ」



倒れ込んでいた拓也の腹部に食い込む爪先、更なる追い討ちが掛けられた。


拓也はピクリとも動かなくなり、腹部を抑えたままうつ伏せに倒れた。



「鬼灯君ってこんな人なんだよ、私も助けられたの」



こんな人とは、別に拓也を蔑んで言っているのではなく、単純にビリーの質問に対して拓也の代弁なのだろう。


以外にもセリーが前に出て、ビリーにそう言った。



「きっと困っている人を助けるのに理由なんていらないんじゃないかな?」



「流石セリー、話が分かってる」



「随分調子がいいですね、拓也さん」



「拓也だしね、絶対裏があると思うよ」



「流石アルスさん、分かってらっしゃる」



ミシェルとアルスが拓也を罵る中、拓也は面白そうに一笑いすると、重い腰を上げた。



「まぁ理由なんて俺が嫌な思いするのが嫌だからやってるだけだ。目の前でいじめが起こってるなんて胸糞悪い。全ては自己満足よ~」



笑いながらそう言った拓也は、服に付いた汚れを払いながらそう言った。




「まぁ他の理由を探すならば、仕事だからってところかな」



「…仕事……そう言えば確かそんなこと」



屋上で拓也と話した時に、そんなやり取りがあったことを思い出したビリーは、涙でぬれた目を擦りながらそう言った。


まさかといった表情で、ミシェル、ジェシカ、アルス、メルが拓也を一斉に見つめた。


止めようとするがもう遅い。セリーとビリーが疑問符を浮かべる中、拓也は驚愕の真実を口にする。




「俺は帝の一人『剣帝』王からこの学園を護るために使わされた」



今知った真実に、固まるセリーとビリー。



残りの4名はあ~あ。と言った表情である。


その内、メルはすぐさま怒りの顔に切り替えると、拓也へ詰め寄る。



「なに国家機密を簡単にバラしているのです!?バカなのですか!?」



「いや、だって俺が言わなくてもいずれお前が絶対口滑らすだろ。前みたいに」



「そ、それは………それとこれとはまた別の話で……」



以前ジェシカとアルスにバラしたときの話を持ち出して、メルにそう説明した拓也。


メルの勢いが弱まった理由は、以前の負い目のようなものと、確かに自分ならやりかねないと想ったからだ。



「それにセリーはリリーの妹だし…まぁビリーはついでだな」



「ちょ、ちょっと!君が帝だって!?嘘だろ!?」



ー…ついでの所は無視かい…ー



「嘘じゃないよ~。ほれ」



そう言いながら、拓也が異空間への門を開き、そこからシュークリームを取り出して見せた。



今見たものが信じられなかったビリーだが、この王国内で空間魔法を使えるのは彼の知る限り剣帝しかいなかった。


見せられた証拠から信じざるを得ない事実にビリーは目を見開いた。



拓也は取り出したシュークリームをジェシカに手渡し、ヘラヘラと笑っている。



「…ほ、鬼灯君が?……剣帝?」



「リリーから何も聞いてないみたいだな。そう、俺が剣帝だ」



「じゃあ王国最強は…鬼灯君?」



「なんなの?俺っていつから王国最強になったの?ねぇミシェル何で?」



「どうして私に振るんですか……でもまぁ、光帝さん相手にあれだけやりましたからね。仕方ないんじゃないですか?」






「というか仮に俺が王国最強として、それを殴り飛ばしたり魔法で焼いたりするミシェルはなんなの?世界最強なん?」



「そういう時はだいたい拓也さんが悪いときです」



「まぁまぁ!話がどんどんそれて行ってるよたっくん!」



ジェシカが割り込む形で二人の会話が止まり、本題からかけ離れた会話をしていたことに拓也はようやく気が付いた。



「…そういう訳でこのことは内密に。二人ともクラスは違うがこの赤髪がアクティブだからその辺は心配するな、恐らく休み時間の度にやってくる」



「あはは~!まっかせといて~!」



元気よくそう言うジェシカに、セリーが笑って返す。


ビリーは一人だけ置いてけぼりを食らったような気分だった。



「ちょ、ちょっとどういうことだい?何で僕に会いに来るなんてことになるのさ?」



疑問を確かめるべく開かれるビリーの口。


拓也に向けられたその質問だが、ビリーの予想とは反して返事は彼からかえっては来なかった。



「え?友達に会いに行くのに理由なんていらないでしょ!?」



ー…ホント、こういう時にジェシカの社交性の高さは便利だな…ー



そんなことを考えながら、ニヤリと笑みを浮かべる拓也。


ビリーはその言葉を聞いて硬直し、動かなくなる。



「聞いたかビリー、コイツはそういう奴だ」



「もーなにそれ!バカにしてるの~!?」



「ハイハイ、落ち着け」



拓也とジェシカがそんなやり取りを続ける中、ビリーがまたもや小刻みに震えはじめた。



「そんな……僕にこんな良い友達なんて。だいたい劣等生の僕なんかが…実力だってCクラスで下の方だし……」



自虐を始めるビリー。


彼以外にこの場に居る生徒は、王国の最高戦力である帝。他にも魔闘大会に参加する程の実力者が3名に、Sクラスの生徒。それにAクラスの生徒。


確かに彼は優秀と呼べる生徒ではないだろう。それはこの学園の中で言ってしまえば、下の上辺りだ。


だがそれは、この学園の中で定められた枠に当てはめればということ。



彼の呟きを聞いた拓也は、笑みは崩さず、静かに口を開いた。



「ビリー。アンタの価値はこの学園の中で決まるモノなのか?」



簡単だが、ズッシリと重みのあるその言葉にビリーは思わず押し黙った。



「たかが少し勉強が出来ないくらいでなんだ、たかが魔法が使えなかったりするだけで何故そう悲観的になる?


お前は今回知ったはずだ、自分で勝ち取っただろう?


それと同じだ、出来ないのなら出来るようになればいい」



拓也がそう言った。



確かに拓也の言っていることは間違ってなどいない。正論である。


しかしビリーにとってそれは、既に”得ている者”からの綺麗事でしかなかった。



「そんな簡単に言わないでくれよ……僕だって必死にやってるさ…君たちみたいなエリートには分からないよ


…………ッあ!…ご、ごめんそういうつもりじゃ…」



反論したビリーだったが、自分が最低なことをしていることに気が付いた。

今しがた助けてもらった恩人に。そして友人になってくれると言った人達に。



ハッとして謝罪の言葉を並べるビリー。


そんな彼の自虐に対し、この場に居る誰も口を開くことは出来なかった。


ただ一人を除いては



「わかるさ、物凄い劣等感だよな。自分より勉強が出来たりスポーツが出来たりする奴らと一緒に居るってのは」



静まり返ったこの場でただ一人、口を開いたのは…拓也だった。



その顔に笑みこそ浮かんではいるが、その笑みからは嫌味なモノは一切無く、むしろ同じ境遇に立たされたことがあるかのようなその表情にビリーはどことない親近感のようなものを感じた。



拓也は懐かしそうな顔をして語り出す。



「俺も昔はそうだった、同じだった。ビリー。お前の物差しを借りるのならば、俺はこの中の誰より劣っていた。


何か自分に悪いことが起こる度に思うんだよな、『何で俺ばっかり』って。世界を、神を呪って。全てを悲観的に捉えて」




「俺も昔はまったくもってダメだった。俺の場合は特に勉強。


俺って冴えない顔してるし、それも相まってイジメられたりもした。


だけどさ、そんな俺にも手を差し伸べてくれた奴が居たんだよ。ソイツは超優秀な奴でな、何をやらせても完璧にこなす。まさに天才だった」



思い出話をまるで孫にでも話すように楽しそうに話す拓也。


それに聞き入るこの場に居る人物。



拓也はケタケタと少し声を出して笑うと、話の続きを語る。



「だが当時の俺は中々のクズ野郎でな。


その手を差し伸べてきた奴にもどうせ裏があるだろうとかバカなこと考えて、折角の優しさを蔑ろにしようとした。


だけどソイツはかなり強情で、突き放せば突き放すほど妙に俺に構うようになったんだ。友人だからって、いやほんとホモかと疑った時もあったぐらい。


まぁそれからいろいろあって俺もソイツに心を開くようになったんだ。


それからというもの俺はソイツに並べるようにって頑張った。死に物狂いで勉強して、そして遂にソイツと同じ…とは行かなかったが、いつしか俺も周りからの評価は以前と比べ物にならないほど高くなった。


でもなんでだろうな、俺はその頃には他人からの評価なんてどうでもいいと考えてた。




あぁごめん、なんかただの昔話みたいになってたな。


まぁ言いたいことは、結局のところ人の本当の価値なんて誰も知らない。俺だって分からん。そんなモンは神にでも聞いてくれ。


さてビリー。それでもお前が、勝手に決められた枠に囚われ悩むようなら今度は俺が…アイツがやったように気が付かせてやる」



結構長々と喋っていたことがただの昔話ということに気が付いて謝りながらそう結論を言った拓也。


気怠そうに欠伸をして、思い切り伸びる。


彼のその脱力っぷり。いつもなら誰かがツッコむが、今回は誰もそういった動きは見せなかった。



「……拓也君……君はどうして僕にそこまで……」



震える声で、不思議そうに拓也にそう尋ねるビリー。



拓也はその問いにいつもの様な笑みを浮かべながら答えた。



「ビリーは俺の友人だからな」




「お前らはどうなんだ?」


確信した笑みを浮かべながらほかの面々にそう尋ねる拓也。



「私はもう友達だよ~!」



「よろしくお願いします。ビリーさん」



「もちろん、大歓迎さ」



「私もお友達が増えるのは嬉しいですわ」



「また新しい友達ができたぁ~」



ビリーは俯き、静かに涙を落とした。


こんな自分に手を差し伸べてくれる友が出来たことがどうしようもなく嬉しかったのだ。



「…ありがとう……ありが…とう」



感謝の言葉を述べながら、ボロボロと泣くビリー。


そんな彼を以外にもアルスが引っ張って起こした。



「さぁ立てるかい?怪我がひどいからとりあえず保健室にでも行こう」


ビリーの手を自分の首の後ろに回し、肩を貸すような形で立ち上がらせるアルス。


しかし拓也が止めた。



「あぁ大丈夫、俺が治すわ」



手を軽くかざすと、光の治癒魔法【ヒール】を発動させた拓也。


見る見るうちにビリーの傷は塞がり、10秒経つ頃には身体は完全に治っていた。



「わぁ…すごい……」



「もっと褒めていいよ」



「……なんか拓也君って面白いね」



「たっくんはいつもこんな感じだからねぇ~!」



ジェシカがそう言い、場に笑いが生まれ、ようやくシリアスな雰囲気から解放される。


こうしてビリーは掛け替えの無い友と手に入れたのだった。



・・・・・



その日の帰り道。いつもより遅くなったため、既にだいぶ暗くなっている。


ジェシカと別れた拓也とミシェルは、家まであと少しの道のりを歩いていた。


いつもの様な呑気な顔でヘラヘラとしている拓也。そんな彼にミシェルが不意に話しかけた。



「拓也さんは優しいですね、本当に」



「どうした急に…?」



突然のその言葉に思わず戸惑いながらそう返す拓也。


振り向く拓也。暗いため、拓也の表情はミシェルには見えなかったが、彼が疑問符を浮かべているのは、顔が見えなくても分かった。




そう言ったきり何も言わないミシェル。


突如として生まれた無言の空間に、拓也は耐えきれなくなって口を開いた。



「あのー、ミシェルさん?急にどうしたんすか?」



後ろを振り返る拓也。ミシェルとは違い、拓也はこの暗闇の中でもしっかりと見えていた。


ミシェルの尊敬の眼差しが。


何故そんな目を向けられるのかを、拓也はいろいろと考える。



するとそこでミシェルがようやく口を開いた。



「なぜそこまで優しくなれるんですか?」



素直に疑問に思ったミシェルはそんなことを聞くが、拓也はそれを軽く笑い飛ばす。


鞄を掻ける方を変え、首を数回まわし固まった筋を伸ばす。



「言っただろ?ただの自己満足だ」



「自己満足……ですか」



ミシェルは深く考えるように、少し俯きながら拓也の言ったことを復唱する。


悪い印象の強いこの言葉だが、不思議とミシェルはそうは感じなかった



「ふふ、自分のお金を差し上げたのも自己満足ですか?」



笑みを浮かべながらそう言うミシェル。


拓也は歩みは止めずに、しかしミシェルに見えていない為か、顔には焦った表情を浮かべた。



「何のことだ?」



取り澄ましたようにそう言った拓也。


ミシェルはまた上品に笑い、拓也で遊ぶように喋り続ける。



「だって、あの手の人達が人から巻き上げたお金を使わずに持っているわけないじゃないですか。


それに人からお金を取り上げるような人達のお財布にそんな大金が入っているとも思えません」



ミシェルの言っていることは確かに正しい。


あの手の連中は浪費はするが、貯蓄はほぼしない。


だから弱者から奪う。



そこから彼女はビリーに返したという金銭は、拓也のものだったと考えたわけだ。



「………」



「どうしたんですか?」



無言の拓也。ミシェルは久しぶりに、なぜか彼の揚げ足を取ったような気分になった。


無言ということはやはり肯定なのだろう。



「……別にいいだろ、帝として無駄に高い給料もらってるんだ、どう使おうと罰は当たらんだろう」




諦めたようにそう認めた拓也。


知られたくなかった理由は簡単。ただ拓也のものだからと言ってビリーが受け取らなかったらめんどくさい。


そう考えたが故の行動だった。



「やっぱりそうだったんですね~。ふふふ、やっぱり」



「なんだよミシェル…妙に嬉しそうだな…こっちはバレないように色々やったのに……ハァ…」



嬉しそうに笑うミシェルの前方で、溜息を着いて拗ねたようにそう言う拓也。


ミシェルは笑いながらも拓也の機嫌を直すために口を開く。



「でも私、拓也さんのそういうところ好きですよ」



拓也の背後で、優しい笑みを浮かべながらそう言ったミシェル。


しかし彼女は、この言葉は、彼女にとって非常にマズいということを、言ってから気が付いたのだ。



ハッとしたミシェル。しかし遅い。あわあわとしながらどう誤魔化そうかとしているミシェル。



「それは告白かな?いやぁ~僕ちんうれぴー」



しかしその地雷を自ら好んで踏みに行く拓也。流石だ。


その指摘を受けたミシェル。拓也はもちろん仕返しの意味も込めて冗談のつもりだったのだが、ミシェルは見る見るうちに赤くなっていった。



「ち、ちが…ッ!!あぁ、違いますッ!!そう言う意味じゃなくッってえぇ!!」



「………………ほぅ?その好きはlike?それともlove?どっちかな?」



「で、ですからそう言うことじゃなくて!!ちょっとした言葉の間違いというものでッ!!」



「へ~loveですかそうですか。いやぁ嬉しいねぇ」



一瞬ミシェルの取り乱しかたに押し黙った拓也だが、先程の仕返しのためには最適な材料だと判断したのだった。


ニヤニヤとしたウザったい笑みを浮かべながら、これでもかといわんばかりにミシェルを弄り倒して行く。





「ちょっと間違えただけなんですってぇ!ホントなんですよぉ!信じてください!」



「安心しろ、ミシェルが俺の事を愛してくれていることなんて…信じるしかないだろ?」



「信じてってそう意味じゃないんですってばああああもうッ!!」



ー…ヤバい最高に面白い!過去最高じゃないかここまで取り乱すのって!?…


クックック…そうなればもっと弄り倒してやるぜェェェッ!!…ー



顔を真っ赤にしながら拓也を必死に説得するミシェルだが、拓也は最早彼女を弄って遊ぶことしか考えていない。


ミシェルが頭を抱えたりといった、いつもの落ち着き払った感じとは真逆なこの様に、拓也は笑いを必死に堪えながら、妙に紳士的な態度でそう返して彼女の反応を見てはまた笑いを堪えるのだった。



「ごめんな、今まで生殺しだったよな……ほんとにすまねぇミシェル。

でも言ってくれれば俺だって相手したんだぜ?」



「相手ってなんのですかッ!?だッだから本当に違うんですってばぁッ!!そういうのじゃなくて……」



「そういうのじゃない?……あぁ、ミシェルってどういうのが趣味だったっけ?」



笑いをこらえているのだが、もう限界が近いのだろう。


笑っているようないないような微妙な顔で、ゲートを開く拓也。



そこから出てきたのは、荒縄、蝋燭、猿ぐ○わ。


他にも形容してはいけないようなものまで。


ありとあらゆる性癖に合わせたR‐18なグッズが選り取り見取りである。


それと忘れてはいないだろうか?ここは外である。こんな場面衛兵に見られれば、即座に御用となるだろう。



「ごめんな、ミシェルの性癖も知らずに知ったようなこと言って」



最早笑いが隠れていない拓也。


しかしその表情を泣くような演技をして顔を手で覆い、なんとか紳士を続けることに成功する。





「…せ、性癖って///な、何言ってるんですかッ!!そんなことより何故いきなりゲートを開いたんですか!?それになんですかこのゴミの山は!!」



まるでこのグッズたちの存在意義が分からないといった感じで拓也に叫びながら訴えかけるミシェル。


拓也は、彼女の予想外なその反応を見て思わず押し黙ってしまった。



ー…いやまて…まさかな……性癖って意味が分かるんだ…これが分からないはず………ー



拓也は恐る恐る口を開く。



「えっと…あの、ミシェル。これって何かわかる?」



「ハァ…ハァ……、なんですかそれ?……見たことないですけど……祭器か何かですか?」



「…えぇ……………」



ー…確かにこれのもっと大きいやつを祭器にする祭りも日本にはあるけども……


初心すぎるぜミシェル………これやって断罪されてから終わるつもりだったのに……これは予想外……調子が狂った…ー



どうやら拓也はこれを〆にして終わらせるつもりで繰り出した最大級の爆弾だったようだ。


しかしミシェルが分からない以上、それは成立しない。拓也は仕方なくそれを片づけた。



「ゴメン忘れてくれ…」



「な、なんですかそれ!どうせなら教えてくださいよ!」



「断固拒否する」



ー…ただでさえ調子狂ったのにこれの説明するとかどんな羞恥プレイだよ、絶対それだけは避けなくては……ー



スタスタと歩き始める拓也を、ミシェルが慌てて追いかける。


頭に疑問符を浮かべながらついてくる彼女だが、残念。拓也は教えるつもりは全くない。



「あ、あの拓也さ「いやだ!絶対嫌だ!!誰が何と言おうとこれの説明なんてしないからな!」……ハァ…そこまで言うのでしたら…」



子どものように大きな身振り手振りを咥えて拒否をする拓也に、ミシェルは仕方ないといった表情で諦めた。


計画通り。と悪い笑みを浮かべた拓也だが、その顔はミシェルには見えていないのは幸いというべきだろう。


『あ~、あっ~!テストテスト』



その時突然、拓也の脳内にある人物の声が鳴り響く。


拓也にとってその声は馴染み深い物だった。



『やあ鬼灯君、久しぶりじゃの』



『お~、じーさん。久しぶりだな。元気してる?』



『ハハハ、ワシは相変わらずじゃよ、鬼灯君こそどうなんじゃ?』



拓也も思わず笑みを浮かべながらそう脳内で返事をした。



そう、拓也がじーさんの愛称で親しむ創造神である。



『俺の方もボチボチかな、というかセラフィムちゃんと仕事してる?アイツ異様な頻度で俺のとこに現れるんだけど…』



『それなら心配いらんよ、やることはしっかりやってくれておる』



『それならいいや』



「あの拓也さん…なんで黙ってるんですか?」



「ん、あぁすまんミシェル。今ちょっと念話中」



「…念話?」



黙りこくっている拓也が心配になってきたのか、ミシェルがそう声をかける。


無理もないだろう、彼女から見れば、いつもうるさい拓也がいきなり黙り込んでしまったのだから。


軽く謝罪してそう発言する。



すると、じーさんにもその会話は聞こえていたのだろう。



『…?…あぁ、今のが”彼女”じゃな。その子も元気かね?』



『ミシェルですよじーさん。まぁかなり元気ですね。おかげでなんか悪いことすると焼かれます。物理的に』



『ホッホッホ、それは良かった』



『いや全然良くないからね?たまに勘違いで焼かれかけたりするし、最近鈍器使いになりつつあるし…下手したら俺ミンチのような何かになるから………』



ミシェルはとりあえず拓也が取り込み中だということを感じ取り、黙って拓也の後ろをついて行く。



『おや?鬼灯君は彼女が嫌いなのかね?』



まるで相手がどう返答するかが分かっているようなその言い方に、拓也は思わず苦笑を漏らす。



「それは愚問ですね、嫌う理由がまったく見つかんないっすわ」



わざわざ脳内で返さず、ミシェルにも聞こえるように声に出してそう答える拓也。


ミシェルが疑問符を浮かべたのを見て、先程とは違う笑みをその顔に浮かべるのだった。




『それで本来の要件は?用事も無しに念話するほどボケてないだろじーさん』



そう言いながら一笑いする拓也。


するとじーさんは少しの間黙り込み、生まれる数秒の沈黙…そして驚愕の真実をその口から紡いだ。



『内通者が見つかった。権天使アルケーじゃったよ』



『……………それは本当ですか?』



『あぁ、本当じゃ』



先程までの呑気な顔は何処へやら。拓也はいきなり深刻な表情になり、乾いた喉に唾を送り込み潤す。


そして沈黙の後、まだ信じられないという様に聞き返すが、ジーさんから帰ってきたのは、やはり内通者は権天使だという事実だけだった。



『処遇は権天使の位を剥奪、そして堕天させた。流石にこれは鬼灯君にも知らせておかなくてはいけないと思ってのぉ。悲しい事じゃ』



『……俺たちを裏切った理由は……何か言ってた?』



『いや、何も言わんかった。終始俯いて全てを認めよった』



『…そっすか…』



拓也も内通者がいることは知ってはいたが、普段はそんなことを考えてはいなかった。


なにより、自分のために技術や知識を与えてくれた恩人たちを疑いたくなど無かった。


しかし現実は現実。本人が認めた以上、本当に権天使アルケーが敵との内通者だったのだ。



ー…………ホント…辛いなぁ…ー



内心でそう零し、歩きながら俯いた拓也。


いずれこうなることなど、拓也には分かっていた。


敵対しているのなら、いつかは正体が割れたはず。



しかし彼に落ち込んでいる暇など無い。



『分かりました…』



脳内でじーさんにそう返す。


目を閉じて息を思いっきり吸い、思いっきり吐く。


肺の中の空気を全て絞り出すようにしてから3秒ほど息を止め、目を開くと同時に口から空気を取り入れた。




『鬼灯君、落ち込むのは分かるが…』



無言の拓也を気遣っているのか、じーさんがそんな言葉を掛ける。



しかし目を開いた拓也は、既に落ち着いた表情に戻っていた。


拓也はそのまま振り向き、その視界にミシェルをしっかりと収めると、いつも通りの笑みをその顔に浮かべる。



「クックック甘いぜじーさん……その程度、護るべき者を護れないより100万……いや、100兆倍マシだ」



「…?」



声に出してそう言った拓也。


頭に疑問符を浮かべるミシェルの表情を見てもう一度声を上げて笑うと、踵を返して再び歩き始めた。



「な、なんで私の方見て笑ったんですか!?」



「別に~」



「ちょ、ちょっと教えてくださいよ!」



明らかにミシェルを見て笑っていたのだろう。彼女もそれが分かったようで拓也にそう尋ねるが、拓也はニヤけながら質問攻めから逃れるように歩調を少しだけ速める。



『ホッホッホ、それならいいんじゃ。それに楽しくやっているようで何よりじゃわい』



二人の会話を聞いたじーさんがそんなことを言いながら笑っている。



『あぁ、そうだ。俺からも報告なんだがまだ時間いい?』



『構わんよ、何かに気が付いたのかね?』



ちょっとだけ真剣な声色に戻す拓也。


後ろで不満そうな顔でムスッとしているミシェルに機嫌を直してもらうためのささやかな希望の飴を渡してから喋り始める。



『何度か襲撃にあって思ったんだが、アイツらは恐らく表立った対立はしていないが逆に言えば表立って協力もしていない』



『……なるほど確かに…彼女の力を恐れる程臆病な神たちが自分と同じような力を持っている他の神を恐れ干渉しないということかの?』



『相変わらず理解が早くて助かるぜ、それに襲撃の時には必ず神は1人だった。天使は居たが他の神は居なかった。


おまけに俺が…その…一度…ミシェルの傍から離れた時もだそうだった。自分で言うのもあれだがあんな大チャンスを普通1人で来るか?』



『ワシなら確実に仕留めに行くの。セラフィムが近くに居たはずじゃから流石の奴らも、セラフィムは警戒するはずじゃ。


それならやはり神を複数…』



拓也が展開した考えは、確かに納得できるものだった。


じーさんも感心したといった声色で唸る





『そういうことだから、この件をセラフィムたちにも教えておいて欲しい。

それにうまく行けば対立させて同士討ちさせられるかもしれないし』



『わかった。ワシからしっかりと伝えておこう』



『頼んだぜじーさん』



『あぁ、ではまたの』



そう会話をしたきり、じーさんの声は聞こえなくなった。


念話が終了したと判断した拓也は、後ろを振り返る。



そこには先程手渡した飴を口に含んでいるミシェルの姿があった。



「レモン味だ、俺柑橘系好きなんだよね」



「念話?は終わったんですか?」



「うん、じーさんからだった」



拓也はミシェルにそう返し、自分も適当に取り出した飴を口に含む。



ー…ッチ…イチゴ味かいな…ー



フレーバーが自分の好きな柑橘系の物でなかったことに軽く残念そうに内心でそう漏らした。



ミシェルは拓也の発言に首を傾げて飴を舐めたまま口を開く。



「じーさん?…拓也さんのお祖父さんですか?」



「…じーさんは神様、俺の師であり創造神。俺をミシェルのとこに寄こした張本人だな」



ゴメン言ってなかったな~と続けた拓也。


ミシェルは驚きを隠せていない表情に変わり、思わず飴をのどに詰まらせそうになった。



「そ、創造神!?そんな存在とあんなに気さくに!?」



「いや、創造神って言ってもただのじーさんだぞ?いや…初対面の人間の顔面を鈍器でぶん殴る辺りただのじーさんではないか……」



じーさんとの出会いを思い出しながら、拓也は一笑いする。


そしてじーさんに殴られた頬を懐かしそうに摩り、感傷に浸るのだった。





・・・・・



パラ、パラ、と規則的にページを捲る音がリビングに響く。


その音を発している張本人、拓也。


彼の手には『賢者への道2』といったタイトルの本が握られている。


時刻は夜の10時。帰宅した拓也とミシェルはリビングで時間を潰していた。


いつも風呂から上がるとすぐ自室へ向かう拓也だが、何故か今日は珍しくミシェルと一緒にリビングに居る。


それには彼女も気づいており、不規則的に視線を拓也へ送っていた。



「……ふぁ~…もう10時ですね」



眠気からか口を手で隠しながら欠伸をしたミシェル。


何気なくそんなことを発言してみるが、拓也はなんのリアクションも起こさなかった。


ただただ先程と変わらずページを捲り、読書に没頭しているようだ。


ミシェルはそんな彼の邪魔をしては悪いと考え、何も言わずにソファーから立ち上がる。


一度伸びをして固まった体を伸ばし、自室へ向かうために足を踏み出した。



「ミシェル、飴…食べる?」



拓也が不意にそう発言した。視線は本に向けられたままだが、その言葉はミシェルへ向けられている。



「…もう歯を磨いてしまったので……」



「…そうか……それじゃあ紅茶でも淹れようか?」



「え、いや、あの……だからもう歯を磨いたんですが……拓也さんどうしたんですか?なんか変ですよ?」



その会話を繰り広げる間も、拓也はミシェルに視線を合わせようとはせずに、ただそう言葉を紡ぐ。


しかし微妙に会話が成立しておらず、ミシェルは思わず拓也の調子でも悪いのかと考えそう尋ねた。



「……………」



だが拓也はまたもや無言を突き通し始める。


明らかにおかしい拓也にミシェルは少し心配になり、先程座っていたソファーにもう一度座りなおした。




ミシェルも手直にあった小説を手に取り、それを読むフリをしながら拓也に視線を向ける。


いつもと変わらない呑気な顔で本を読む拓也は、その表情を一切変えない。


そのまま時間は流れる。



時計の針の音、本のページを捲る音、その二つの音だけがリビングで静かに流れ、時間が流れた。




それから20分程経った頃だろうか



「ミシェルと居ると落ち着くな」



呑気な顔のままそう言う拓也。いきなり声を掛けられ彼の方を向くミシェル。


先程までは本に視線を向けたまま、その視線を動かさなかった拓也だったが、今度はミシェルに視線を向け優しく微笑んだ。


視線が合うなどいつものことのはずなのに、妙に恥ずかしくなったミシェルは、視線を自ら逸らしながら口を開く。



「…なんですかいきなり」



「いや、そのまんまの意味」



「…そうですか」



素っ気なく対応するミシェルは、こんな憎まれ口のようなことしか言えない自分にちょっとした嫌悪を感じていた。


拓也はいつもながらの彼女のそんな対応に苦笑いでまいったなぁと続け、何故か楽しそうにしている。



「……内通者が判明した」



唐突にそう言った拓也。


ミシェルもは突然のその発言に驚きながらも、彼女なりに話を整理する。



「それが…創造神さんとの話してた内容なんですか…」



「流石ミシェル。察しがいい」



「…」



ケタケタ笑う拓也。


そんな彼を、何故か元気づけなければいけないという謎の使命感にかられたミシェル。

しかし肝心の元気づけるための言葉が浮かんでこなかった。


どういえば正解なのか。そんなことを考えてはいるが、その正解というやつが全く持って頭に浮かんでこない。



「私に…何かお手伝いできることはありませんか?…なんでもいいんです。私も拓也さんの役に立ちたいです」



何を思ったのか、ミシェルは気が付くとそう口走っていた。


彼女のその発言に面喰った顔をする拓也。マズい事を言ったかと慌てるミシェルだったが、その心配は必要なかった。


次の瞬間、声を上げて笑い始める拓也。


心配そうに見つめるミシェルに向けて口を開く。



「ミシェルと居るだけで落ち着くなぁ…ホント」



呑気な顔でそう言う拓也。ソファーに座ったまま思い切り伸びをする。




「……私はぬいぐるみですか」



素直にそう言ってくる拓也。


その発言が少し恥ずかしく感じたミシェルは、若干頬を赤くしながらそう言うのだった。


拓也はソファーから立ち上がり、腰を数回拳で軽くたたき、欠伸をする。



「まぁ別に気にせんでええで~。さて、そろそろ自分の部屋に行くかね。ミシェルも来る?俺の部屋でタノシイコトシヨウヨー」



「丁重にお断りします」



「クックック…それは残念だ」



ニヤけ顔を浮かべ、そうケタケタ笑った後、拓也はリビングを後にする。


ミシェルも一階の灯りを落とした。



ー…ここ数日いろいろあったなぁ…イジメられたりイジメられっこに反逆させたり…極め付けに内通者の発覚。


ホント、最近まともな日々を送ってない気がしてきたぜ…ー



そんなことを考えながら自室のドアノブに手を掛けた拓也。


そこで何かに気が付いたようにニヤリと笑みを浮かべると、独りでに呟いた。



「…この世界に来た時から」



ー…いや…もっと前。天界に呼ばれた時点で……ー



「それからの全てが非日常だったりして…」



バタンとドアを閉め、拓也のそんな日々は続いて行く。


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