表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ARia-アリアー  作者:
8/15

8話「取引」

『クライシス!お前の親父さんが捕まった!』

 翌朝、グレンの大声で目を覚ました。

 自分にとって信じられない言葉でまだ自分が寝ぼけていると思ったほどだ。しかし、すぐ頭を回転させ、扉を開けてからグレンに確認を取ったが寝ぼけてなどいなかった。

「嘘だろ…」

「クライシス、軍部に行け。お前さんの親父が捕まるなんてなんかの間違いだ」

 何かの間違いだとクライシスも思いたいが、一年前の村の虐殺行為をした事件が頭から離れない。例え間違いだとしても今のこの国ではそれが真実となってしまうからだ。

「隊長には俺から言っておくから兎に角今は軍部にいけ」

「あぁ、すまない」

 すぐさまウォール騎士団服を着て最低限の武装だけを携帯する。あまり使いたくないウォール騎士団の特権もここでは役に立つかもしれないと考え、普段は持たない階級章をしっかり持つ。

部屋を飛び出し、外に待機させてある馬に飛び乗ると…

「私も行く…」

 同僚であるローラもクライシスの後ろに飛び乗ってきた。

「な、なんでローラまで来るんだ」

「……バーン様は私が尊敬してた戦士…それにクライシス…私も何か手伝えるかもしれない」

「……任務は?」

「今日は非番」

 無関係な人間を巻き込むのもどうかとクライシスは思ったが今はそんなことを言う時間すら惜しい。

「そうか、なら行くぞ。振り落とされるなよ!」

「誰に言っている!」

 二人を乗せた馬に鞭を打ち、全速力でエンセン城内にある軍部へと向かった。

 城の正門まで到着すると身分証を見せる。馬を門兵に引き渡すとクライシスとローラは軍部へと走った。

 軍部は正門からかなり離れているにも関わらず、軍部まで息も切らさず走りきった。

 軍部の施設入口には二人ほどの門兵が立っており、入ろうとしたところを止められる。

「止まれ。所属と名前を言え」

「ウォール騎士団所属・第十二騎士クライシス・ロジャーだ」

「同じく第十三騎士ローラ・シルバーク」

「ウォール騎士団でしたか。お疲れ様です」

「昨日、バーン・ロジャーと言う人物が捕まったはずだ。そのことで確認を取りたい」

「……少々お待ちください。今聴いてきますので」

 門兵の一人が施設の奥へと消えて行く。

「……確認が取れました。こちらへとどうぞ」

 それから五分ほど待たされ、先ほどの門兵が戻ってきては二人も施設内へと案内される。

 入口付近は豪華に装飾はされていたものの、奥に行くほど質素な廊下へとなっていく。

いくつか部屋があるが、その中の一つに大きめな扉の前へと案内された。

軽くノックすると

「どうぞ」

と返事が返ってくる。

 ゆっくり扉を開ける

 部屋は書類関係や本などが散らかっていた。

「汚い部屋ですまないな。私はどうも部屋の掃除などが苦手でね」

 部屋の中央には書類で散らかっている大き目な机が存在し、そこに一人の男が座っていた。

「私は中央特殊部隊総指揮担当のジャミル・エル・ウォークライ大佐だ」

「ウォール騎士団・第十二騎士クライシス・ロジャーだ」

「同じく第十三騎士ローラ・シルバーク」

 ジャミルと名乗った男は椅子を二つ用意し、座るように指示してきた。

 ジャミルは、体格はいかにも軍人らしい体格をしていたものの、軍人には似つかぬ何処か優しい雰囲気を持っていた。

 二人は椅子に座るとジャミルは一回頷いては口を開く。

「君達の評判は聞いてるよ。こないだの戦争は大変お世話になった」

「……ジャミル大佐…聴きたいことがあります」

「う?あぁ、バーン・ロジャーのことだよね。私も命令が来た時は驚いたものだ。あのバーン殿がねぇ…」

 バーン・ロジャーの逮捕に関する書類らしきものを手に取るとクライシスに手渡してきた。そこにはバーン・ロジャーの罪状などがかかれており、ざっとクライシスは目を通した。

「百三十二条って…何かの間違いだ!重要人物監禁なんてあるはずが……」

「青髪の子だよ。確か…アリアと言ったか。名付け親は君だそうだね」

 書類を目を通し終わった所で否認しようとした瞬間、言葉を遮り笑顔でジャミルは言った。

「アリアだとっ!ふざけんな!確かに孤児の所を俺が拾ったさ。でも、重要人物だとしたらなんで一年も音沙汰がなかったんだ!」

 アリアと言う単語が出た途端にクライシスは椅子から立ち上がりジャミルを睨みつける形で見下ろす。

「いやいや、私に聴かないでくれよ。これは王からの命令でね。だから私にもそれはわからん。全く、最近の王の考えてることはわかんないことだらけだよ」

「王……また王か……もうまっぴらだ!王からの命でどれだけ民衆が苦しんだと思ってるんだ!」

「言葉に気を付けたまえ、クライシス君。君はまさにその王直属のウォール騎士団に所属してるわけだぞ」

「…………」

「まぁ、それは置いておこう。さて、君の父上……すなわちバーン・ロジャーの件は私に任されていてね」

 ジャミルは椅子から立ちあがるとクライシスとローラの周りをゆっくりと歩き始める。

「彼を裁くには私にも大変心苦しい」

「……何が言いたい」

「察しが悪いね」

「つまりは、バーン様を殺すにも生かすにも貴方次第だと……」

 今まで黙っていたローラが震えた声で口を開いた。

「そう言うことだ。ローラ君。賢い女性は嫌いじゃないよ」

「何処まで貴方は人を見下せばっ!」

 いつも冷静なローラからは想像がつかないほどの表情にてジャミルを睨みつける。

 どうやらこの二人は知り合いのようでクライシスにはどの様な関係かは想像も出来ず、ただローラとジャミルの二人を見ることしか出来ないでいた。

「おいおい、人を悪者の様に言って貰っては困る。私はただ取引がしたいだけなんだよ」

「取引……?」

 クライシスが眉をひそめて聴き返した。

「そう取引さ。君が今言った通り、この国は王の度重なる無茶な命令で衰退していっている。このまま行ったら、国自体が持たないことは誰が見ても明白だ」

「…………」

「私はね、国を代表してクーデターをしようと思ってるんだ」

「何を考えてる……」

 ローラは立ちあがるとジャミルの胸元を掴み鬼の形相で睨みつけた。

 その形相をあざ笑うようににっこりと笑う。

「いやはや…ローラ君、私とて、国に尽そうと思い、この道に来た身だよ。何も裏など無い。ただ、本心で『誰かがやらねばならない』と思っただけだ」

「お前がそう思うはずがない!」

「まぁ、信じてくれとは言わない…ただ、君達…特にクライシス君、君は良い同志になると思うがな。なんたって私達と同じくこの国に疑念を持っている。それに断ってくれても構わないよ。断ったらバーン殿がどうなるかわからないけどね」

「き…貴様っ!」

 ローラが腰に着けていた短剣に手を掛ける。それを止めるようにクライシスはローラの手を掴んだ。

「やめろ、ローラ」

「クライシス!止めるな!」

「冷静になれ、いつものローラらしくないぞ。ここは軍部だ。ここでジャミル大佐を刺してもただ捕まるだけだ」

「…っ……」

 収まらない怒りをなんとかローラは納め、強くジャミルを押して引き離せば椅子に座った。

「……ジャミル大佐」

「なんだね?」

「協力したらバーンとアリアは助けてくれるんですね」

「バーン殿の釈放は約束しよう。ただ……」

「ただ……?」

「アリアだけは王に引き渡したみたいでね。私の力としてもどうしようもない……。だからアリアを助け出すなら猶更、王を討つしか方法はない」

 確かにジャミルの言う通りだ。

 軍部に囚われている身だったとしたらそこに乱入して二人を助けようともクライシスは考えてはいたが、王の元に行っているとなるとクライシス一人ではどうしようもない。

 アリアまで助けようとしたら最早この男の提案に乗るしかない。

「勝てるのか……この戦い……」

「私はね。勝てる戦いしかしない主義だ。軍部の過半数は言いくるめた。実行日は2日後…それまで君達はここで拘束させてもらう。罪状はそうだな……私への侮辱行為で良いかね?」

「……信じますよ。その言葉」

「クライシス!こんな男を信じるのか!」

「ローラ、信じるも何も俺には選択肢は無いんだ。俺は師匠とアリアを助けたい。ただ……それだけだ。……ジャミル大佐。ローラは関係ない。参加するのは俺だけじゃないはずだ」

「うーん、彼女も貴重な戦力になると思ったんだがな……わかった。君だけで手を討とうじゃないか」

 ローラは椅子から急に立ち上がると体を震わし、唇を噛みしめながらジャミルに詰め寄る。

「わ、私も協力する!」

「ローラ……?」

「おぉ、私は大歓迎だよ」

「ローラ、本当に良いのか。お前は関係ないじゃないか」

「うるさい。もう決めたことだ。私はお前に着いていく。お前が嫌だって言ってもだ」

「…………」

「それじゃ……話が纏まったところで作戦内容を説明しよう」

ジャミルの作戦説明によると、軍部のはまだクーデターに賛同していない上層部も多く、城の最下層に向かうまで必ず防衛網を張られる。

 そこでジャミル率いる中央特殊連隊は正面突破で防衛網撹乱作戦に移す。

 そこで、一部の軍部の連中しか知らない抜け道を使いクライシス達が率いる別動隊がそこから王室へと攻め入ると言う魂胆だ。

「ちょっと待ってくれ!この作戦だとこの抜け道でも防衛網引かれる可能性が高い。しかも、ヴェルディ隊長だった真っ先に防衛網を張る。少し、ウォール騎士団寮から城まで離れてると言ってもこれじゃ挟み撃ちにあう」

「そこは大丈夫だ。王室への防衛網は必ずこちらへと来る。実はスパイを何人か引き入れてね。隊長格がこちらに防衛するように指示するはずなんだ。もし、挟み撃ちになったとしても君はウォール騎士団ではトップの成績と聴く。それと、ローラ君も私から見て腕っ節は立つ。何名か護衛兵を付けるし、それに私の秘策の助っ人を用意する。性格はあれだが……腕だけはかなり立つ。その部隊ならウォール騎士団が防衛引いても突破出来るはずだ」

 秘策の助っ人ってのがクライシスは引っかかったが目の前の男の余裕な表情を見ていると思わず納得してしまう。

「わかった…俺達は王を討てば良いんだな?」

「そうだ。君達の武器は後で部下に持ってこさせる。それまでは牢で大人しくしといてくれよ」

ジャミルが手を大きく叩くと扉が開き、ジャミルの部下だろう剣兵が何名か入ってくる。

「大佐、どうされましたか」

「うーん。この二人が少し無礼なことを言ったのでね。ちょっと牢まで連行してくれ」

「了解しました」

「さぁ、こい!」

「大佐、約束は守ってくれよ!」

「あぁ、私は約束は守る主義だ。安心したまえ」

 ローラとクライシスは剣兵に抵抗も無く捕まり、部屋から連れ出される所でクライシスはジャミルに大きく叫び、その後、牢屋へと連れて行かれた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ