7話「不穏」
クライシスが寮に戻る為にバーンの店から出てから一時間ほど立った。
「さぁ、アリア、そろそろ寝なさい。寝ないと明日が寝不足になるぞ」
「はーい」
閉店した店のテーブルに黙々と何かの絵をかいていたアリアに優しく声を掛けた。
アリアが椅子から立ち上がった刹那、店の扉が急に開き、複数人の男が店の中へと次から次へと入ってきた。
「なんだ、お前達……こんな時間に……店はもう終わったぞ。明日また来てくれ」
「……中央特殊連隊第零八小隊だ」
「中央特殊連隊……軍部の連中がこんな店になんの用だ」
「バーン・ロジャー。王令第百三十二条違反の容疑にかけられている。我々とご同行を願う」
「王令第百三十二条って……何かの間違いだろ」
王令とはこの国の法の中心となる法律だ。
これを違反したものは軍部により拘束されることになっている。
そして、バーンの記憶が確かならこの百三十二条には
【国にとっての重要人物を監禁行為】
について書かれているはずだ。
「ここに何処に重要人物が居るって言うんだ」
「そこの青髪の子だ」
隊長らしき人物がアリアに目線を移してからまた視線を元に戻した。
アリアは怖がりクライシスの後ろへと下がり隠れてバーンの裾を強く握る。
「おいおい、こんな嬢ちゃんがかい?それに、この子は一年前からここに居る子だ。もし、百三十二条に該当する人物だとしてもなんで今さら……」
「……さぁ、ご同行を」
「……答えられんか……しかしな、納得がいかないのにほいほい付いて行くわけにはいかん」
「これは任意同行ではない。命令だ。逆らえば王に逆らうことになるぞ」
しばらく続く無言の睨み合い。
もし、無関係の人間がここにいたら必ず逃げ出したくなるような重い空気が広がる。
「隊長、こんなやつさっさと殺ってしまいましょうよ」
そんな重い空気の中、お面でも被っているのかと錯覚してしまうような狐目のニコニコした満面の笑みを浮かべたクライシスと同じ歳ぐらいの男が前に出てきた。
表情とは裏腹に驚くほど言葉に感情がこもってない。様々な人間を見てきたバーンでさえもぞっとしてしまうような雰囲気を持っていた。
「まぁ、まて、ガリウス」
「わかりました……なんてな」
「なっ……!」
ガリウスと呼ばれた男は隊長の言葉に従うとみせかけた刹那、腰に携帯していた短剣を抜きバーンの喉元を向かって突き刺してきた。
バーンは反射的に突き刺してきた腕を右手で往なした。
「おぉ。やるねぇ」
「ガリウス!どう言うつもりだ!」
「良いじゃないですか。僕は戦いたいんですよ。前の戦争にはいけなかったし」
隊長が止めに入るもガリウスは隊長の命令を全く聴く気が無い。
それどころか、サイドアームズである短剣をしまい、今度はショートソードを抜き構えてきた。
相手は剣を持ちこちらは丸腰ときた。それに、自分一人ならばこの中を突破できるかもしれない。しかも、今は後ろにはアリアがいる。
冷静さは無くさず、突破口を必死に考えながらガリウスを睨みつける。
「それにあんた強いんだろ。なんたってグリード大戦の英雄……最高だ」
「止めろ!命令が聞こえんのか!ガリウス!」
「あー、うるさいなー。要は、この青髪の子を保護すれば良いんでしょ。なら多少の戦闘行為は問題ないですよね」
「またお前は軍法会議を受けたいのか!」
「……はぁ、しかたない。それを言われると仕方ない……あんな罰はもう勘弁願いたいし……命拾いしましたね。お前」
今まで、ニコニコした顔は崩さず感情のこもっていない口調で言っていたのに関わらず、剣を納める時だけは心底つまらない表情をし、溜息を吐き、後ろへと下がった。
どうらや戦闘は回避されたそうだ。
「すまない。うちの部下が失礼なことをした」
「全く勘弁してほしいもんだな」
「ならば同行してください。私は貴方を尊敬していた。だから戦いたくは無いが、同行して貰わなければ私も戦わなければならない」
あの変わった男だけならまだしも、隊長クラスの男と二人を丸腰で相手するほどバーンは馬鹿じゃない。
もはや返事は一つしかなかった。
アリアの頭を優しく撫でてから…
「わかった」
とバーンは言った。