表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ARia-アリアー  作者:
4/15

4話「アリア」


 ウォール騎士団の寮から町に向かう道。

 周りは真っ暗で月明かりだけが照らしている。

 そんな中をクライシスは一人で歩いていた。

 歩いている最中、今日の作戦で聞いた村人の悲鳴が頭から離れない。

 今まで、罪の無い人間を殺めた場面を見たこと、自分が殺めたことはあったがここまで大規模な非戦闘員への虐殺行為は初めてだ。

 寮に帰ってからクライシスのことを心配したのかローラが水の入ったコップを無言で差し出してそれからまた離れていった。

 グレンは、

『この道に残りたかったら早く慣れるこった。ふぁー、ねむてぇ、俺はひと眠りつくわ。お疲れさん』

と別れ際にいつもの様な陽気な声で言っては自分の部屋に戻って行った。

 何故、あの二人は簡単に割り切れてしまうのかがクライシスにはわからなかった。いや、わかっている、自分が精神力が足りないことぐらい。しかし、罪の無い人を殺める行為だけは慣れたくはない。

 それに慣れた時は自分が人間で無くなる時だと、クライシスは思っているからだ。

 それにあのガノン将軍が国家反逆罪だったことも頭から離れない。なりゆきで入団を進められたとはいえ、ウォール騎士団に入団を決めたのはガノン将軍の武勇伝をバーンからいろいろ聞いていたからだ。

 実際、入団式の時に会えて、将軍からエンブレムを受け取った時は心躍る気持ちになったほどだ。

 そんなクライシスだからこそ、今回の件で、裏切られた気持ちに似たような感情に心を締め付けられる。

 頭から離れない考え事をひたすら考えて答えを求めていると、いつの間にかいつも来るのが日課となっている飲み屋の前に着いた。

 昨日より、扉を開けるのが辛い、しかし、今は一人になりたくはない。

 店の中からはいつもの様に客の笑い声などが聞こえてきている。

「……入るか」

店に入ることを心に決め扉に手を掛けようとした瞬間…

「………」

 扉が開いた。

 開けた相手は昨日出会った少女だった。

 少女は昨日とは違って服がこの町では極普通な衣装を着ていて、ストールを羽織っている。

 そして、見とれてしまうような青い長い髪、青眼…。

「え、えーと……」

どう声を掛けて良いかわからず、困っていると少女は笑顔で

「おかえり!」

としっかりと言った。

 昨日の様子からするとこの国の言葉は喋れないと思っていたクライシスはかなり驚いた。

「え、えーと…た、ただいま」

 少女は店の中へと戻って行く。

 クライシスもそれに続くように店の中へと入っていた。

「いらっしゃい。お?おぉ、クライシスか」

 お客にビールを届けていたバーンがクライシスに気づき近寄ってきた。

「どうだった?今日の任務は」

「………」

「その様子だと良く無かったみたいだな…まぁ、良い。とりあえず飯でも食べてけ」

 バーンの聴きなれたいつもの口調が今のクライシスには心地が良かった。

店の隅っこにあるテーブルの席がクライシスの特等席であり、今日も例外は無くそこに座った。

「ほい、水だ」

「あぁ、ありがとう師匠」

 水を受け取り、改めて店の中を見渡していると、先ほど出迎えてくれた少女がクライシスの対面の席に座ってきた。

「ところで、師匠……」

「う?どうした」

「この子、言葉話せたんだな」

「あぁ、俺も驚いたさ、店においてある本を読み始めて、夕方からはお客の会話を興味津々に聞き始めたと思ったら、いきなり話はじめた。どうしたんだと聞いたら学んだって言ってな……もっともまだ簡単な言葉しか理解できないみたいだけどな」

 昨日の何か言葉みたいなのを喋っていたので、決して声が出せないわけじゃないとクライシスは思ってはいたが、そんな短時間で言葉など覚えられるのだろうか。

 しかし、現に話せたのだからそれが現実なのだろうとクライシスは受け止める。

「大した暗記力と、ヒアリング力だな…、それで服は?」

「服は従業員の女の子がな、お古で良ければってことでくれたんだ。どうだ?似合っているだろ」

「あ、あの……」

クライシスとバーンが話し込んでいる所に少女が話にいきなり入ってきた。

 クライシスとバーンは驚きつつも少女の顔を見る。

「昨日はありがとう」

 礼儀正しくきっちりとお辞儀をした少女。

「い、いや、助けたと言うか、成行きの上で助けた形になったからお礼は言うことはないって」

「そうだ、そうだ。こいつもたまには人助けせにゃいかんから気にせんで良いぞ」

「師匠は黙っていてくれ」

「……」

 少女は首を傾げてクライシスとバーンのやり取りを見てはにっこりと笑った。

「えーと、それで、何故あそこに君は居たんだ」

クライシスは聞きたいことは山ほどあったが、なるべく簡単な言葉で一つずつ質問をしていったが

『わからない』

『思い出せない』

の答えしか返ってはこず、少女の反応を見る限りでは嘘を言っている様にはクライシスには見えなかった。

「まぁ、思い出せないのなら仕方ないな。思い出すまでゆっくりここに居ればいいさ」

 バーンは二人分のスパゲティを持ってきては二人の前に置く。昨日はミートソースだったが、今日はクリームソースだ。

「良いのか?師匠」

「良いも何もこんな少女を追い出すわけにはいかんし、部屋はお前さんが暮らしていた部屋が余っているしな。そこを使えば良い。それに、従業員からお嬢ちゃん評判が良いんだ」

「まぁ、師匠が言うなら有難いけど」

「ありがとうございます。『ししょー』」

「その師匠ってのは止めてくれないか。バーンって呼んで欲しい」

「はい、バーン」

「おう、それで良い……そういえば、名前も思い出せないとなると呼ぶ時不便だな。名前をつけてやらないと。クライシス、お前が付けてやったらどうだ」

「俺が……?」

 いきなり名前の話を振られたので内心焦りながらも少女を少し観察する。少女は自分の名前を決められるのが嬉しいのか喜んだ表情をしていた。

 そして観察の結果、やはり特徴的な綺麗な青髪に目が言ってしまう。

 その青髪を見て出てきた名前が…

「アリア……」

だった。

「アリアか。良い名前だな。クライシス。伝説の女神アリアから取ったわけか」

「まぁな」

 この国エンセン王国には一つの伝説が残っている。その伝説は昔、雨などがまったく降らず、川や池は枯れてしまい、農作物が育たなく、深刻な飲み水や食料問題になったことがあった。

 その時に何処からか綺麗な青髪である『アリア』と名乗った女性が現れると、雨を降せ、地下に水脈も見つけこの国の危機を救ったと言う。

 以来「アリアの涙」と言う伝説としてこの国で語り続けられている。

「アリア」

その名前を聞いたアリアは首を傾げて何かを考えていた。

「君の名前だよ。わかるか。名前」

「アリア……私の名前、名前!」

 アリアは名前を付けてもらったのがよほど嬉しかったのか椅子から立ち上がり、自分の名前を確認するかの様に何回もアリアと笑顔で呟いた。

「気に入ってくれたようだな」

バーンはクライシスの頭に手を置くと髪をくしゃくしゃにするように頭を撫でた。

「……師匠、やめろって恥ずかしい」

 しばらくしてクライシスとアリアはスパゲティを食べ終わった。その後、アリアは自分に与えられた寝どころへと戻って行った。

「……」

 三人で居る間は忘れていたあの戦場で起きた出来事を思い出してきて憂鬱な気持ちがよみがえってくる。思い出したくもない村人の悲鳴。それがクライシスの胸を締め付ける。

「さて、クライシス、今日はいったい何があった」

ワインの入ったグラスを飲みながらバーンは聞いてきた。

「…………」

「クライシス…あまり自分を追い込むな。追い込んだって良いことなんかないぞ」

「わかってる」

「いいや、わかってないな。お前は確かに強い……だけど、『人に頼る』強さを持ってない。だからもっと人に頼れ」

「…………」

「はぁ……まぁ、言いたくなかったら別に良い。軍の任務だ。言いたくても言えないこともあるだろう」

 クライシスは今回の件を言おうか迷っていた。本当は言いたい。しかし、喉まで出掛った言葉を呑み込んだ。言ったところでどうなると言うんだ。師匠に迷惑をかけるだけじゃないのかと、そんな思考が頭から離れない。

「今日は飲め。クライシス」

 バーンから差し出されたワインをクライシスは今日のことを……この憂鬱な思いを忘れる為に一気に飲み干した。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ