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ARia-アリアー  作者:
13/15

13話「エウロパ」

 


 少女は目を疑った。

 痛みと疲労で朦朧とする意識の中、目の前で最も信じられない光景が広がっている。

 横にいる男にいろんな精神的な苦痛を受けてきた。それでも、

『クライシスが助けてくれる』

 そう思えたからこそ、耐えてきた。否、耐えることができた。

「あははははっ!」

 この笑い声を聞くのはいったい何回目だろう。

 現実を受け入れたくない為に無駄な思考が脳裏を過った。

「いや……いやぁああああああああああ」

 クライシスの元へ駆け寄る。

 地面には夥しいほどの血が広がっている。

「クライシス!クライシス!」

 声を必死に掛けても反応すらしない。

 血を止めようとして、出血部位を手で押さえるが無情にも血は出続ける一方だ。

「あははははっ!無駄だよ。そいつの心臓の機能はもはや意味をなさない。後、数分もしたら生命反応は無くなるだろうさ」

 現実を突き付けてくる後ろの男が憎い。

 しかし、構っている暇はない。

 今はなんとかしてクライシスを助けねばならない。

 でも、どうやって…アリアには医療の知識もなければ、例えあったとしても この状況ならどうしようもない。

「誰か……誰か……クライシスを助けて……助けてよぉおおおおおおお」

 少女が最も愛しいと想っている人が死にかけているのに見ていることしかできない。

 いろんな思考が頭を過っておかしくなりそうだ。

『誰でも良い……神様……嫌いなニンジンだって食べます。もう我儘を言わない。クライシスを助けて』

 涙は頬を伝い流れ続ける。

 もう無駄だとわかっていても力いっぱいクライシスの胸に手を当て続ける。

『私なら彼を助けられる』

 突然頭に響く、自分自身の声。決して、自分の思考ではない。それだけはわかった。

「誰……?」

『私は貴女よ。貴女自身。詳しく自己紹介してる暇はないわ。さぁ、言われた通りにして』

 脳内の誰かはクライシスを助ける方法を指示してきた。

 少女はそれだけの行為だけで、クライシスを助けられるのか半信半疑だったが、今は言われた通りにやるしか方法はない。

 少女は自分の親指を口元に持っていくと、血がしっかり出るように皮を噛みちぎった。

 少し痛みが走るもそんなのには構っていられない。

 すぐさま、クライシスの傷口にその指を突っ込んだ。

『お願い………クライシスを助けて…』

 少女は【脳内の誰か】に希望を託し、祈り続けた。



―――――――――――


 遠のいていく意識、最早痛味など感じない。

 寒い、とても寒い。

 全身から血が抜けて行く感覚が続く。

『俺死ぬのか……』

「クライシス!クライシス!」

 微かに聞こえる、アリアの声、霞んで見えるアリアの顔。

 こんな少女一人救えなかった。

 今まで人を護る為に剣を振ってきたつもりだった。

 結局したのはしたくもない命令を遂行してただけ。

 それどころかその行為をローラやガリウスに押し付けた。

 それなのに護れない。

 そんな無力な自分が憎い。

 せめて目の前の少女に

『ありがとう』

と伝えたい。

 アリアと会って一年間、クライシスは精神的に助けとなった。

 だから伝えたい。でも、そんな感謝の言葉すら声に出すことが出来ない。

 声が出ない。

 いつもは簡単に発せられる言葉がを発せられない。

 『ダメか…自業自得なのか……罪なのか……』

 今まで多くの人を殺してきた罪なのかもしれない。

 ならば受け入れよう。

 こんな自分の命で今まで犯してきた罪を償えるのなら喜んで差し出そう。

 目が全く見えなくなった。暗闇だ。

 自分が何処に居たのかさえわからなくなっていく。

「クライシス」

 声が聞こえた。自分の名前を呼ぶ声、それも良く知っている声だった。

「アリア……?」

 暗闇から突然一人の女性が現れた。

 スレンダーな体系をしており、綺麗な青髪で、青眼をしており、アリアよりも背が高い。

 アリアと出会った時と同じような服装をしていた。

 まさしく、先ほどキールに見せられた人物だった。

「そうね。貴方からしたら私は【アリア】ね。私はエウロパ…。アリアシリーズタイプα1よ」

「……俺は死んだのか……?」

「いいえ、貴方は死んでいないわよ。危険な状況だけど、私が今治している最中だもの。ここは言ってみれば貴方の精神の中よ」

 彼女は指をパチンと鳴らした。

 すると、今まで暗闇だったのが嘘のように光が広がり、信じられないほど青くて綺麗な球体の様なものが目の前に広がった。

「これは……?」

「太陽系第三惑星……地球よ。私とキールの故郷であり、私達はそこから来た」

「言ってる意味がわからない……」

「そうね。簡単に言うと、私達はここの大地で生まれたわけじゃないってことよ。ほら、夜に空を見上げると光のようなものが映っているじゃない。それはね。この映像で映っているような球体なものが存在しているの。ここの場所も、私達がグリーゼ581と呼んでいたところも実際はこの様に球体をしているわ」

「…………」

「うーん。いまいちわかってないって顔ね……」

 エウロパはさらに指をパチンと鳴らす。すると夥しい量の情報が次から次へとクライシスの中に入っていく。

 アリアシリーズのこと、地球の歴史、どの様にしてここまで来たのか、そう言った情報がどんどんと入ってくる。

「貴方にだけは知っておいて貰いたかった。だから教えたわ」

「信じられない……こんなこと、信じられるわけがない!」

「信じられなくてもそれが真実よ。私達はね。地球の住人はこの星を調査するために宇宙船でここまで来た。それをサポートするのが私とキールの役目だったの」

 先ほど入ってきた情報から彼女が何を言っているのか、先ほどキールが言っていたことが漸く理解は出来た。

 でも、唐突過ぎてこれが現実なのか夢の中の話なのか混乱してしまう。

「ここに来る道中……問題が起きたの。宇宙船に乗員していた調査員全員……問題が起きて死んでしまったのよ」

 混乱している中でも説明は続いた。

「そこで、私達二人で小型艇を利用し、この星に降り立った。その小型艇の中心部、つまりブリッジルームこそが先ほど居た王の間よ。ここに降り立ってから驚いたわ。地球の人間と同じように進化した地球人に極めて近い存在の生物が存在し、文明を築いていたわけだから」

 パチンとまた指を鳴らす。すると目の前に広がる映像が消え、再び目の前の女性以外には何も存在しない無の空間が広がった。

「私達は人のサポートするようにプログラムされているの。目の前の生物を新しい人間として認識し、全力でサポートしたわ。物理的情報介入によって雨を増やしたり、人々に知恵を貸したり……いろいろとね。そうしてるうちに村だった場所が小国になり、大国になっていった。人々は私達のことを神と崇め、王として私達を受け入れてくれたわ。それから二百年が立った」

 ニコニコしていた彼女の表情が突然悲しみに満ちた表情に変わる。

「でも再び問題が起きた。先ほど教えた通り、私達は血液の中には身体をサポートするナノマシンが存在しているの。そのナノマシンがお互いに情報交換し、自意識を形成して、身体のメンテナンスを行っているの。当初の理論的には不老不死のはずだった。でもね……プログラムにバグが私達を蝕め始めたのよ。そのことに気付いた時には遅かったわ。私は身体の起動プログラムが正常に作動しなくなったの。人間で言う【死亡】ね」

 ナノマシンにはもちろんプログラムの調整はある。

 しかし、修正が追い付かないほどのバグの量で自分達にはどうしようも出来なかったことと、キールがあんな行動を取ったりするのは、プログラムバグによるものだと彼女は語った。

「もう彼は自分が何者すらわかってないのかもしれない。ただ、人をサポートすると言う要項に従って動いているにすぎないの。だから彼を……彼を機能停止【楽に】してあげて欲しい」

 ポロポロと頬に涙を流しつつ、クライシスの手を取った。

 本来なら頼もしく見えるはずの彼女はか弱く見え、男性なら思わず慰めて上げたくなるほどの仕草だ。

 これが人工的に作られたものだと彼には到底思えない。

「こんなこと言うのはおかしいとは思っている……。でも、今は貴方に頼るしかないのよ。お願い……」

「……わかった。俺は元々、王を討つ為にここに来たんだ。拒むことはしない……ただ、近づくことすらできないもにどうやって討てば良い」

 彼は剣を構え突っ込んで行った時を思い出す。

 あの時、『見えない』何かの力でクライシスは吹き飛ばされた。

 今ではどの様なトリックだったのか手に取るようにわかる。

 わかるが、対抗手段がわからない。

 トリックがわかったからこそ、キールには隙が全くない。

 むしろ、いつまた自分が同じ様に胸に風穴開けられてもおかしくはないのだ。

「そこは、大丈夫。私がサポートするから。さっきまではあの子自身が無意識に私を抑えていたから貴方を助けられなかったのよ。だから今回は大丈夫……さて、そろそろ時間ね……」

 クライシスを安心させる為に、彼女は手を強く握り、

「ありがとう……そして、さようなら……」

 突然キスをしてきた。それは儚くて切ないキス。

 キスをされた瞬間、空間が歪み、酷い頭痛に襲われ倒れこむようにして意識を失った。



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